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広告モデルでの運用は可能か (97/12/16)
友人から「おまえのコラムは終わったのか?」とメールが突然来た。どうやら、ライターの中村正三郎氏のページにそういう(風に読める)ことが書いてあったらしい。いえいえ、終わっていません。ただ、段取りの悪さでここのところ書けない日が続いていただけです。ネタは仕込んでいたんです。ただ書けないだけで(どう書いても言い訳だ!)。
今回のこのコラムも、アスキーがAIFの中止を発表した段階で準備していたのだが、完成する前に今度はその「広告によるプロバイダー運営」のモデルを提供していたハイパーネットが倒れてしまった。この状況下で、安易に書くと「広告は儲かりません」といった予定調和的な結論になってしまうので、テーマを変更するということも考えたのだが、あえてこのテーマについて検討してみたい。
そこで、あらかじめお断りしておくが、「広告モデルで成功している企業」もあるのである。何よりも、我々ウォッチ自身が広告モデルで成功しようと考えているのである。ただ、成功のために乗り越えるべき関門がどの程度あるかという事は理解しておくべきだということなのだ。我々も、以下に書く関門を突破するつもりである。読者の中で広告モデルでの事業を考えている皆さんも是非突破してもらいたい。
さて、今回検討するにあたり、AIFのようなプロバイダーモデルではなく、読者の皆さんにとっても関心が高いと予想される、Webコンテンツを広告モデルで運営するケースを考えることにする(プロバイダーモデルは分からないというのが本音ではある)。
2年間Webの運営をやっての結論は「インターネットでマスコミをやるには結構お金がかかる」ということだ。確かに、個人がプロバイダー内でホームページを開くのはコストが低い。しかし、弊社のように6Mの回線を引くとなると、通信コストは数百万/月に膨れ上がる。さらに現在のように回線が午前9時から翌日の午前1時過ぎまで埋まりきってしまうような状況では、当然読者からも苦情が来るし、その前に回線を太くする必要があるため、先行投資型で回線を増強しなければいけない。しかし、回線の増強は10%刻みで行なうという訳にもいかず(多くの場合一つ上の回線は、倍の大きさにしかない)、これが結構つらいのである。
ハウジング(プロバイダー内にサーバーを設置し、専用線を会社まで引くより安く太い回線でつないでもらうサービス)を利用したコスト削減も行なっているが、それでもコンテンツの人気が高くなれば高くなるだけコストが掛かることに変わりはない。先日ざっと現在の弊社の通信コストを計算したところ、1ページビュー約0.13円であった。
他にもサーバーそのものの代金、人件費、原稿料、システム開発費など必要な経費はまだまだある。サーバーの代金やシステム開発費などは初期投資とも考えられるが、人件費や原稿料はランニングコストであるからきちんと考えておくべきだ。ただ、これらのコストはメディアによって大きく変わるだろう。ちなみにウォッチシリーズもメディアによって大きく異なるのだが、最低でも月々数百万単位で必要である。
さて、では広告の単価はどうなっているだろうか? 先日ある広告代理店の資料を見る機会があったが、だいたい1ページビューあたり約2円~6円である。ならば通信コストの約15倍~40倍。人件費など他のコストも簡単に賄えそうな気になってしまう。
しかし、それはあくまでも「全部のページビューが売れて、なおかつ広告代金が全部入ってきた場合」の話である。この平成大不況のご時勢に全部売れるなどそんな都合のよいことがある訳はない。もし、1割しか売れなければ途端に通信コストも賄えるかどうかとなってしまうのである。
しかも、この比率には一般の「出版と広告」の関係からすると常識に反している事実があるのだ。それは、「人気のあるコンテンツであればあるほど、広告が売れる比率は下がる可能性がある」ということなのだ。
雑誌の広告の場合、人気のある雑誌であればあるほど広告は入ってくる。なぜなら、広告の表示回数は雑誌の部数であり、同じ広告を打つのなら部数が多い雑誌に打った方が「一部当たりの単価」が下がるからだ。
しかし、Web広告の場合通常ページビュー単価という方式を取る。これは、ページのアクセス数を切り売りして、「広告を××回表示するので、○○円払ってください」というシステムだ。広告主から見れば、そのWebが人気であろうとなかろうと「見る人の数は変わらない」し「ビュー当たりの単価も変わらない」のである。また、期間料金で最低ページビュー保証という方法もある。この場合は人気サイトの方が一見単価が安くなるように思えるが、実は広告主が集まれば、N分の一になって行くわけで、結局は最低ページビュー保証のページビューでの単価に近づくことになる。
つまり、コンテンツの人気と広告の集まり具合の相関関係がWeb広告の場合弱いのだ。これを考えると、人気があればあるほど、売れないページビューが増える可能性が大きくなる。
さらに広告の場合考えなければいけないのが、「広告を集めるコスト」である。もちろん、黙って座っていても広告の申し込みが殺到するという可能性がないわけではないが、それは希なケースであろう。
そもそもWeb広告の歴史は浅く、どのような広告主でも共通の認識があるわけではない。さすがにインターネットという単語を知らない人は少数派だろうが、では実際どのような広告が効果があり、どのような額が妥当かといった線を引ける人は少ないのが現実だ。そうなれば、「広告営業」と呼ばれる人たちが広告主に対して、プレゼンテーションをしたり、あるいは企画を持ち込んだりして広告を出してもらい、さらに、広告方法のコンサルティングを通して広告主の目的に添った広告にして再度の依頼がくるように仕向けなければいけない。
この作業、実はとても大変なのである。弊社では、グループ内にこうしたことを専業でやるチームがあるのだが、現在の人数ではメール広告を処理するのがやっとで、Web広告にはなかなか手が回ってないというのが現実だ。ましてや、個人やこうした営業チームを持たない企業では、広告収入が入る前にこうした手間で運営が不可能になるだろう。
こうしたことを、まとめてやってくれるのがいわゆる「広告代理店」と呼ばれる会社である。だが、こうした人たちを使うとなればそこにコストがまたかさむのだ。1ページビュー2円~6円だったとしても、その何割かは手数料として消えることになるだろう。さらに問題なのは、こうした「手間のかかる部分のアウトソーシング」である以上、ある程度以上のアクセス数があるサイトでなければ手間ばかりで利益がでない。このため、結局こうした「広告代理店」が動いてくれるのは大手のサイト中心ということになる。
まとめると、
「アクセス数だけかせげば、後は広告で何とかなる」
という考えは捨てた方がよいということになるだろう。上記の考察からいえる、広告 でコンテンツを運営するためのコツは次のようなことである。
とくに1は重要だ。たとえば、プロファイルが不明な読者を100万人もっているより、明確な性格付けが可能な読者を10万人もっている方が広告主は広告を出しやすい。「うちのWebにくる『デジカメに興味を持つ読者』に御社の商品の広告を出してみませんか」のように提案できるからである。また、3、4からいえる事は、アクセス数がそこそこのサイトなら、不特定多数の広告主からの出稿を待つより、単独のスポンサーによる運営を目指す方が効率がよいということだ。ただ、この場合でも1の条件である「魅力的な読者」が確保されていることが前提になるだろう。
不況になるとまず最初に切られるのが「広告費」である。これを考えると現在の日本の経済状態で「広告運営」することはある意味至難の業ともいえる。だが、Webによる情報発信自体には、従来のメディアの限界を超えるものがあると信じている。この逆境下を生き抜けば、本物のメディアとなるのではないだろうか。ぜひ、私たちを含めてインターネット業界全体で乗り切りたいものである。
[編集長 山下:ken@impress.co.jp]