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火曜コラム

CD-ROMによるキャッシュを夢見る (98/01/06)

 お正月は実家に帰ったという人も多いだろう。実は私もその一人であった。実家に帰ると、もちろん専用線はなく、それどころかISDNですらない。そうなると、普段は気づかない不都合を感じるわけで、そして「こうならばいいのに」という夢や希望を考える。今回は、そうしたお正月に感じた不満と夢をお話しよう。


あなたはインターネット派?CD-ROM派?

 ご存知のない方がほとんどだと思うが、実は私はシェアウェアの作者でもある。といっても、2年以上バージョンアップはしていないし、対応している環境も旧型のMicrosoft Wordだけであるから、現在利用価値があるのはごく少数の方だけである。

 ともあれ、このソフトを収録していただいてるおかげで、毎年ベクター社のPackシリーズが送られている。非常にありがたいことだ。だが、日常どのようにしてオンラインソフトウェアを入手しているかというと、実はインターネット上から入手することがほとんどなのだ。「それはインプレスがインターネットに太いバックボーンで繋がっているからですよ」と言われそうだが、それだけではない。

 もちろん、会社にいるときは太いバックボーンを活かして、高速に入手可能である。しかし、自宅や出張先でも実はやはりインターネットから入手するのだ。それは、モデムと電話さえあればどこでも入手可能だからである。昔は出張先には必要なソフトウェアのCD-ROMを持っていったりしていた。しかし、だいたい必要となるソフトは持っていったCD-ROMの中には無いというマーフィーの法則どおりになり慌てるケースが多かった。今はインターネットのおかげで、電話代さえ払えれば何でも入手可能なのだ。

 そして、何よりも「最新のバージョンを入手する」ためにインターネットを使ってしまうことが多い。実は、よく調べてみるとPackシリーズのCD-ROMに入っているものが最新版で無駄に電話代使うこともあるのだが、古いバージョンをインストールしてしまう可能性を考えれば多少の無駄は仕方ないかとあきらめている。


キャッシュとしてのCD-ROM

 と納得していたのだが、正月に実家に帰りダウンロードのために数時間電話を占有するに至って(もちろん実家は一回線の単なるアナログ電話である)、少し考えが変わった。上記のような「何でもインターネット経由で入手する」というのは、インターネットリソースの無駄遣いではないのか?という疑問が湧いたのである。

 しかし、だからといって、まずCD-ROMの中の検索ソフトを立ちあげて検索し、同時にインターネットを検索し両方を比較して最新のものを入手するというのは、怠け者の私にはとても無理である。

 そこで、思い付いたのが「インターネットでソフトを検索しても、ファイルを実際にダウンロードするときには自動的にCD-ROMの中身と比較して、適切な方を提案してくれるシステム」というものだ。つまり、CD-ROMの中身はインターネット上のWeb/FTPサーバーのミラーと考えるのだ。ユーザーがインターネットにアクセスしたときに、Webブラウザーなどが、アクセスするプログラムファイルやHTMLファイルの新旧を比較し、CD-ROM上のものが最新であればそちらを利用するし、もしCD-ROM上のものが古くなっていたらインターネット上からデータを入手するのである。よく見てみると、現在のPackシリーズにはそれに相当する機能が存在している。

 ただし、これはCD-ROM上のHTMLをブラウズして、その中の掲載ソフトの最新版がインターネット上にあるかどうかを検出する機能だ。これでも十分実用的なのだが、CD-ROM上のコンテンツとインターネット上のコンテンツを意識する必要はまだのこる。読者からはインターネット上のコンテンツをブラウズしているようにしか見えないのだが、自動的に新旧を比較してCD-ROM上のデータで済むものはそちらを使うようになればさらに便利だ。

 CGIによる検索などがあっても、コンテンツまでCGIで生成されていないなら有効に働くことになる。CGIを呼び出すフォーム自体は通常固定ファイルだからCD-ROM上のものでも問題無い。CGIを動かして結果を入手すること自体はインターネットを経由するが、その検索結果などの先にあるソフトファイルやHTMLファイルが固定のURLであればCD-ROM上のものを利用することができる。もちろん、CD-ROMにない最新の検索結果はインターネットから入手すればよい。

 この挙動は、ちょうどWebブラウザーのキャッシュの挙動と似ている。ただ異なるのは、通常のキャッシュがインターネット経由で来たデータをローカルに貯えるのに対して、CD-ROMを使ってローカルにデータを貯えるので、キャッシュのためのネットワークへの負担がまったくないということである。


初夢は夢か

 ここまで考えたところではたと思い至った。こうしてCD-ROMがキャッシュとして有効に働くのは何もオンラインソフトウェアのサイトだけではない。普通のWebにも有効である。たとえば、WatchのWebサーバーの全データをキャッシュ用にCD-ROM化して配布するなどということも考えられるだろう。

 インターネットでも、Webブラウザーやプロキシーサーバーのキャッシュや、「Web巡回ソフト」などが存在する。しかし、これらは収集の時間や手間がかかる割に収集できる量はたかが知れている。また、これらは「以前アクセスした情報」や「いつもアクセスする情報」が対象であるから、ユーザーは「最新の情報」が欲しくなって、結局インターネットにアクセスし直すことになってしまう。

 逆に、CD-ROMをWebのキャッシュとして使った場合、「いつもアクセスする情報」を得る場合には最新情報のあるインターネットにアクセスすることが多いだろう。そして、もし更新されていない情報であれば(このような情報はアクセス頻度も少ないだろう)、CD-ROMから読み込むのである。

 このキャッシュ用CD-ROMは、Webをそのまま焼くだけなので、週刊程度の頻度でも発行できるかもしれない。さらに、CD-ROMを添付している雑誌も数多いのだから、そうしたものを媒体としてキャッシュデータを頒布することも可能だろう。もちろん、こうしたシステムが有効に働くためには標準化が必要であるし、なによりWebブラウザー側の対応が必要だ。また、数多くのキャッシュ用CD-ROMをどのように管理するかという問題もある。しかし、これらが解決されるなら多くのインターネット上のデータについて有効な手段ではないだろうか?

 私が正月に夢見た程度のシステムであるから、きっとどこかの研究室か企業で類似のシステムが研究中ではないかと予想している。このアイデア自体が普及するかどうかは別にして、まだまだインターネットは不完全なシステムであり、もっと便利にする方法は無数にあると思う。なにも、最新技術は米国だけからやってくるわけでもないだろう。是非、日本からこうした新しい試みが出てくることを今年は望みたいと思う。

[編集長 山下:ken@impress.co.jp]


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