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火曜コラム

IDナンバーディスプレイと匿名性 (98/02/17)

 ここ1、2週間胃がむかつく。これに風邪も併発して気分も食欲も最低となり、ついにお休みを頂いた。健康なときに休むのならいろいろ楽しいこともできるのだが、なにせ病気で休むとなるとテレビを見るぐらいしか楽しみはない。

 胃をさすりながらぼんやりとテレビを見ていると、まったく違う番組で「IDナンバーディスプレイ」の話題を同時に取り上げていた。このサービス、スタートする前はあまり注目されなかったが、トラブル続きで今になって注目を集めているという「評判の悪い」サービスである。番組の中でも、タレントさんの「役に立たないのでは?」といった趣旨の発言に対して慌ててアナウンサーが訂正を入れるなど混乱が見られた。だが、私は基本的にこのサービスについて賛成であるし役に立つと思っている。


「通話ごと非通知」「回線ごと非通知」とは

 どちらの番組でも話題になっていたのが、電話の加入者に事前に確認されたハガキの用語である。これは、アナログ回線でもISDN回線の人でも既にハガキがきているはずで、「通話ごと非通知」と「回線ごと非通知」の選択と「IDナンバーディスプレイ」サービスを利用するかどうかを確認するものだった。

 しかしこの、「通話ごと非通知」と「回線ごと非通知」という用語がくせもので、はっきりいって私もしっかりとパンフレットを読んでようやく分かったほどだ。少しだけ分かりやすくいうと次のようになる。

 しかも、この選択は「すべての加入者に関係すること」であって、何もしないと「通話ごと非通知」(つまり番号は通知される)になるという事実がなかなかパンフレットから伝わって来ないのである。皆さんがもし「こんなオプションは必要ないや」とハガキに返事をしていないとすると、既にあなたの電話番号が相手に通知されているのである(ただし電話をかけたときだけで受けたときは関係ない)。


基本的に発信者の匿名を許さないシステム

 実は問題はここから始まるのだ。それは、IDナンバーディスプレイというのが、今までの電話にあった匿名性を正面から否定しているシステムだということである。「184」を付ければ通知されない、公衆電話からの着信は自動的には拒否できないなどの事実だけを捉えて「いたずら電話防止に役に立たない」という結論を出している人がテレビの中でも多くいたが、これは今までの電話を前提とした話である。実は、IDナンバーディスプレイでは「番号を知らせずに電話してくる奴は怪しい奴で受信する必要はない」という考え方でいるのが正しいのである。つまり、「184」をつけたり、必要もないのに公衆電話を使うような電話は「受け取られない」と考えるべきなのである。

 今まで、電話はどこから掛けようが、どのように掛けようが「同じ電話」であった。しかし、これからはそうではなくなる。ちょっとした言い訳のために「今会社からだけど」と家庭に連絡を入れれば、「あんたどこの公衆電話から電話しているのよ」となるし、携帯を持っているのに公衆電話からかければ「どこの地下をほっつき歩いてるの」となる。恋人の電話を借りて掛ければ、誰と付き合っているかすぐにばれる。間違い電話を掛けて失礼に切れば、すぐに逆に掛かってきて小言を食らうことになる。電話機は、単に通信手段のための道具ではなく「人を特定するID」になったのだ。


匿名の電話が必要なときは?

 こうなるとかえって、プライバシーの侵害であるという話も出てくるだろう。「私から掛けるからあなたの電話番号教えて」という台詞は今までは遠回しに「私の番号は教えたくないの」ということであった。だが、これからはこうした防衛策も水の泡だ。一度でも掛けてしまえば電話番号は相手に通知されてしまうのである。他にも通信販売の会社に電話したとき、新聞で見かけた求人先に電話したときなど、「まだ相手を完全には信用できないとき」はどうしても電話番号を伝えたくはないはずだ(むろんこうしたときのために「184」は用意されている)。

 だが、逆に相手を信用できるのならナンバーディスプレイは非常に便利だ。たとえば、なじみのピザ屋に注文をしようとすれば、一言も言わないうちに「はいインプレスのウォッチ編集部さんですね。場所は千代田区三番町でよろしいですか?」と返事がくるだろう。通信販売にしても、既に何回も使っているのであれば、電話をかけるだけで面倒くさい住所や電話番号といった質問攻めに合わずに済む。むろん、電話番号以外の名前や住所はあなたが最初に注文したときの情報を整理しているだけで、どこかの名簿から取ってくるわけではない(むろんそうした悪徳業者もいるかもしれないが)。また、偽名を使った注文や嫌がらせも簡単に判別が可能だ。お店側からすれば、本人であるかどうか特定するのに便利なのである。お店側からすれば、今までの電話注文では相手が本当に本人であるかどうか「信用する」しかなかったのであるから、大きな前進といえる。


プライバシーを公開せずには生きていけない

 インターネットの中でもプライバシーの問題はよく取り上げられる。これは主に「プライバシーの保護」という観点からである。プライバシーは「保護されるべきもの」というのが、「正論」のようになっているが、実は私は微妙に違うと思っている。

 本当は、プライバシーは「本人が」選択的に「公開」していくもので、他者が公開すべきものではない、というのが本質だと思う。プライバシーを公開しないということは、他者とのコミュニケーションを拒否するということなのである。はじめて電話を引いたとき、だれでも友人知人に電話番号を教えたはずだ。FAXを引いたとき、電子メールアドレスを持ったとき、そんなときはだれでもプライバシーの公開に積極的になる。本当にプライバシーを誰にも公開せずに生きて行ける人はいないはずだ。

 だから、私たちは積極的にプライバシーの公開を選択していく必要がある。相手を信用できないときはプライバシーの公開は控えるべきだ。だが、一方で十分信用できるときは、プライバシーを公開した方が便利だし楽しいはずである。そして、それは相手も同じであることを知るべきである。プライバシーを公開してくれない相手は信用できないし無視されるかもしれないが、プライバシーを公開してくれる相手は信用する。IDナンバーディスプレイはこうした意識を持つことを要求しているのである。

 この意識は電話だけでなく、インターネットでも通用する考えだと思う。いたずらにプライバシーの保護だけを考えて、さまざまなアンケートに答えなかったりするよりも、相手のサイトが信用できるかどうかを基準に考えれば、どうしたときにプライバシーを公開し、プライバシーを秘匿すべきか見えてくるはずだ。また、匿名のメールや匿名でのアンケートへの回答が果たして相手に信用されるかどうかも自ずから分かるだろう。相手もあなたを信用してよいかどうか判断しているのである。


NTTさん。もっとしっかりお願いします

 とはいえ、このIDナンバーディスプレイの告知ハガキの出来は最悪に近いものだったし、ISDN加入者の私への説明も間違いだらけ(後で訂正の電話は来たが)。また、公衆電話からの自動着信拒否ができないのは分かるにしても、同一公衆電話からの着信拒否ぐらいはできるようにして欲しかった(これは手元資料による。NTTには確認していないので、できるのかもしれないが)。さらに、古いTAは買い直す必要があるし(アナログでのIDナンバーディスプレイサービスを利用したい場合)、ISDNユーザーには何かと負担が大きいサービスになってしまっている。

 そんなこんなで、まだまだ改良の余地のあるサービスではあるとは思うが、上記のような理由で私は基本的にこのサービスに賛成である。さて皆さんはいかがでしょうか?

[編集長 山下:ken@impress.co.jp]


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