INTERNET Watch Title Click

【連載】

ネットビジネス 日本からの挑戦

第3回:「コンビニ」を利用したECビジネス
――コンビニの店舗網をECのインフラとする、イー・ショッピング

http://www.eshopping.ne.jp/

 米国では、西海岸の「シリコンバレー」、東海岸の「シリコンアレー」などから注目のIT関連のスタートアップ企業が登場しています。そして、今日本でも「ビットバレー」が話題になるなど、さまざまなインターネット関連のベンチャー企業が注目を集めています。この連載では、渋谷周辺のみならず日本全国から、新事業を創造する、まだあまり知られていない企業をピックアップし紹介します。(編集部)


鈴木CEO
鈴木康弘社長

 小売りの世界にも日本独自のECビジネスのモデルが生まれ始めている。その中でも最も注目を集めているのが、すでに国民の生活に密着した感のあるコンビニエンスストアの店舗を商品の受取や決済の拠点として活用しようとするモデルである。宅配便の受取が難しい単身者や、オンラインでのクレジットカード決済に不安を感じる層を取り込めるとして、ここ数ヶ月の間にも数多くの事業者がコンビニ店舗網を活用したECビジネスへの参入を表明している。

 この「コンビニEC」を最初に考案し、ビジネスにしたのが、ソフトバンクを母体にしたイー・ショッピング・インフォメーション株式会社(東京都中央区、鈴木康弘社長)である。1999年11月に設立された同社は、全国約8,000店を展開するセブン-イレブン店舗での商品受取、代金決済を目玉に、書籍取次卸大手トーハンとの提携によりオンラインで書籍を販売する「eS!Books」、玩具卸大手ハピネット、玩具メーカ大手エポック、タカラ、トミー、バンダイとの提携による玩具販売「eS!Toys」をインターネット上で展開している。

 今回は、「コンビニの店舗をECのインフラとして活用する」というビジネスモデルがいかにして生まれたのか、そして実際のビジネスの現状、今後の展開について鈴木社長に聞いた。

 

●「素直な発想」から生まれた日本型オンライン小売りモデル

 1999年2月頃、当時ソフトバンクの営業マンだった鈴木社長は、もともと流通系のシステムエンジニア(SE)をしていたことから、ソフトバンクの孫正義社長に「SE時代の知識を活かして、何かビジネスを考えたら?」と持ちかけられたという。

 「アメリカ型のECをそのままもってきてもダメだと考えました」――世界最大のオンライン小売米Amazon.comは、自前で巨大な倉庫をもち、通常のどの書店も持てないほどの大量の在庫を揃えた。これにより顧客の注文に迅速に対応できる体制を整え、既存の書店との差別化を実現させている。しかし、SEとして流通業界を担当していた鈴木社長は、日本の複雑な流通機構の中では、独自に商品を調達し、書店と差別化を図るだけの商品の在庫を持つのは難しいことを理解していた。そこで、商品供給元として「卸」と直接パートナーシップを組み、卸がもつ在庫から商品を供給してもらうことを考えたという。

 また、商品の決済に関して、クレジットカードでの決済が一般的となっている米国と違い、日本ではカード番号をネット上に流すことに対して不安をもつ消費者が多いことを考慮し、公共料金の支払い場所として、すでに広く利用されているコンビニ店舗を決済インフラとして活用することを思いついた。さらに、「決済をコンビニでするのであれば、コンビニで商品の受け渡しもやればいいじゃないか」と考えたという。

 代金決済、商品受渡のパートナーとして選んだセブン-イレブンは、現在、雑誌の取扱いシェアが日本最大であり、すでに書籍卸トーハンからの物流ルートが確立されていることから、書籍のコンビニ受取を実現するための大きな投資が必要なかったという幸運もあった。

 こうしてコンビニ店舗をECの商品受取、決済のインフラとして活用するという日本の商習慣になじむアイディアが生まれた。

 その後、鈴木社長は、このアイディアをもとに、ソフトバンク孫社長、ソフトバンク・コマース宮内社長と議論を重ね、1999年4月にはあっという間に事業化が決まった。また、その後のトーハン、セブン-イレブンなどの出資企業との交渉もスムースにいったという。

 「どこの会社も、「ECビジネスをやりたい」という気持ちがあったということと、ソフトバンクといえば、インターネットビジネスでいろいろと実績があるというイメージが大きかったんじゃないですか」と鈴木社長は振り返る。

 

●「通常の小売りと何ら変わらない」

スタッフの皆さん
イー・ショッピングのスタッフ

 こうしたECサービスを提供しているサイトが「イー・ショッピング」である。その中で、書籍、玩具など各商品のマーチャンダイジング、マーケティング、サイトの運営を、イー・ショッピング・ブックス株式会社、イー・ショッピング・トイズ株式会社といった商品群ごとの別会社が担当している。そして、サイトの全体的なシステム構築・運用を担当しているのが、イー・ショッピング・インフォメーション社である。ここでは、システム開発・運用などは、小売業という本業とは直接的に関係ない業務ととらえ、サイトから切り離してイー・ショッピング・インフォメーションに集約することでコスト削減を図っている。その一方で、小売業としての本業の部分には様々なこだわりを持ち、各サイトごとに力を入れている。

 そのひとつがカスタマサポートである。最近では、大手の専門業者にアウトソースすることも一般的となっているが、イー・ショッピングでは全て自社内でカスタマサポートを行なっている。

 「客からの声は非常に重要。カスタマーサポートは自分のところでやり続ける(鈴木社長)」方針だ。ユーザーからの質問・苦情のメールに対応するということはもちろんのこと、セブン-イレブンの店員からのさまざまな質問にも答えている。

 夜間はサポートしていないが、サポートスタッフが自主的に遅くまで残って対応することも少なくないと言う。――「POSレジの操作についても自分のところで回答できるようになりました(笑)。本来はうちの担当ではないのですが、『それはうちの担当ではない』といって“たらいまわし”にしても、ユーザーから見たらイー・ショッピングの対応が悪いということになりますからね

限定プリエ
即完売の限定プリモプエル

 もうひとつのポイントが取り扱う「商品」である。玩具の「eS!Toys」の商品は、出資元でもある玩具卸大手ハピネットから供給されている。その取り扱い商品に関して、「eS!Toys」側からどんどんと注文を出しているとのこと。例えば、現在取り扱っている、ある青山の人気雑貨店の商品は、社員の一人が目を付け、渋谷の街角でヒアリング調査を行なった上で、ハピネットで取り扱ってもらうことになったという。また、エポック、バンダイといった出資先に名を連ねている玩具メーカ大手に、独自商品の開発を依頼したこともあるという。

 「プリモプエルという電子ペットがあるのですが、製造元のバンダイに依頼して、『白』のプリモプエルを限定で生産してもらったんです。すると、十数分で完売して、あとでYahoo!のオークションで数万円で売られていました」というエピソードもある。

 ほかには、陳列にもこだわりを見せている。多くのECショップでは商品の配置がなかなか変わらないことがある。イー・ショッピングでは、元営業マンなどが日々の売れ筋動向やニュースなどに気を配りながら、商品を陳列している。「雨が降ったら傘を店先に出そう、の発想ですよ」。

 合理化できる部分は徹底的に合理化し、本業の「商品を売る」と言う部分に大きな力を注いでいる。「通常の小売りと何ら変わらないんです。商売人の心を忘れないようにしています」。

 

●車とチョロQ

 イー・ショッピングが最初に取り扱った商品は、本であった。すでにインターネットでの購入が消費者に受け入れられつつあったことも選択理由の一つではあると思うが、本当の理由は別のところにあると鈴木社長は言う。「本って情報の集大成じゃないですか。どんな本を買うかで、ある程度その人の趣味、嗜好が分かるんです

 インターネットでは、単に商品を販売するだけでなく、ユーザーの購買履歴を蓄積することができる。「レコメンデーション・エンジン」と呼ばれるソフトウェアを利用すると、さまざまなユーザの購買行動分析から、Aという本を購入した人はBという本を購入する傾向があるという一定の法則を見いだし、次にAという本を購入した人にBという本の購入を勧めることができる。

 鈴木社長はさらにその先を見据えている。「車好きの人が自分の車のチョロQを持っていたりするじゃないですか」。

 一見して全然関連のないように見える商品であっても、ユーザの購買理由には結びつきがあることがある。書籍を中心として、複数の商品を取り扱うイー・ショッピングでは、様々なユーザのさまざまな商品の購買行動分析から、顧客ごとに的確な商品のクロスセリングを行なうことができるようなエンジンの開発に取り組んでいく方針だという。

 

●商品を実際に手にとって見られない問題をいかに克服するか

 サービス開始当初から順調にビジネスを拡大しているイー・ショッピングであるが、悩みがないわけではない。

商品説明画面
詳細な商品説明

 「Face to Faceでないことの難しさを感じています」。 実際の店頭とは違い、インターネットでは商品の良さを伝えることが難しいというのはどのEC事業者も頭を悩ます課題だ。昨年12月の日経BP社の調査でも、オンラインショッピングを利用したことのない理由として、「実際に商品を確認してから購入したい」という回答が個人情報の漏洩の不安に続いて第2位(22.6%)となっている。(参照URL http://nnb.nikkeibp.co.jp/nnb/200001/nmmq9.html)

 イー・ショッピングでは、この問題に関してさまざまな解決方法を試しているところだ。以前、非常に大きなおもちゃのブロックを販売しようとしたが、全く売れなかった。そこで、販売担当者が自分の子供と一緒にとった写真を商品紹介のページに掲載してみたところ、その商品はあっという間に売れたという。商品の大きさがユーザに伝わったためであろう。書籍に関しても、その中身を積極的に見せることを試し始めている。実際の書店では、消費者は本の中身を少し読んでから買うものである。特に、絵本や参考書ではなおさらである。イー・ショッピングでは、出版社に了解を取りながら、本の内容を一部公開し、ユーザが欲しい本を選ぶ際に中身を見てから買えるようにしている。

 また一方で、インターネットの特徴を活かした商品紹介の方法も検討している。例えば、花火。通常は実際に火をつけたらどうなるかを確かめてから買うことはできない。インターネットであれば、花火の横に火を付けたあとの写真を貼り付けておくことができる。今後も、インターネットの双方向性を活かした新しい商品紹介の方法も検討していく方針だという。

 

●20もの新チャネルを検討中

cargoods画面
5月オープン予定の
eS! CarGoods

 イー・ショッピングの考える日本型ECビジネスモデルは、コンビニを活用したものだけではない。2000年5月末、自動車部品卸のエンパイヤ自動車と日石三菱の出資を受け、自動車用品をインターネット上で販売し、日石三菱のガソリンスタンドで受取・取り付け・決済が出来るサービス「eS!CarGoods」を開始する。自動車用品なのだから、必ず自動車で行くガソリンスタンドで受け取れていいはずと考えるのは自然なことだが、このモデルもイー・ショッピングが考案した新しいものだ。鈴木社長がエンパイヤ自動車の担当者から自動車部品のカタログを見せてもらっているときに、自動車部品なのだから自動車に乗る人が頻繁に訪れる場所、そして、商品を取り付ける技術者のいる場所であるガソリンスタンドで受け取れるようにすればいい、と考えたということだ。日石三菱側もちょうどガソリンスタンドのサービスマンによる簡単な整備サービスを提供しようと考えていたこともあり、渡りに船という形でトントン拍子で話は進んだという。

 現在、自動車用品以外にも、20もの新しい商品の取扱いを検討しているそうだ。今後、その一つ一つの商品ごとに最適なビジネスモデル、最適なアライアンス相手を検討していくという。

 書店や玩具店など、リアルな世界において、すでに事業を展開している会社も続々とインターネット上でのビジネスの展開を検討し始めているが、彼らの場合「チャネルカニバリゼーション(共食い)」の問題が常についてまわる。インターネット上でのビジネスが拡大しても、その結果リアルな世界の店舗での売り上げを侵食されてしまっては本末転倒だという訳だ。その点、インターネット上のみでビジネスを展開しており、既存の事業との折り合いを考える必要がなく、商品の特性に応じて最適なアライアンスパートナーを選別できるイー・ショッピングは大きな強みを持っていると言える。

 

●チャンスは長くは続かない

 日本より一足先にネットバブルが巻き起こった米国ではすでにネット株の選別が進んでいる。イー・ショッピング同様、オンライン小売業で一時は市場を席巻した「1-800-Flowers.com」、「eToys」などは、現在株価がIPO時点を割り込むぐらいに暴落している。一方で、「Akamai Technologies」、「Kana Communications」といった技術基盤に立脚した企業の株価は急速に上昇している。「インターネットビジネス」そのものに対する期待感からバブル的な値を付けてきたインターネット企業も、ここへきて「売上規模や技術力」といった実に当然の評価基準で選別され始めている。

 イー・ショッピングも遠からずIPOを検討しているという。今後日本の株式市場においてもネット株の選別が始まると予想されるが、その中でイー・ショッピングが高い評価で受けれられるかどうかは、オンライン小売業の枠を出て、先に述べたレコメンデーション・エンジンのような技術的な柱を作ることができるかどうかにかかっていると言えるかもしれない。

 取材の最後に読者に向けて、メッセージをもらった。

「今まさにリアルがバーチャルに変わっていく狭間にいる」――ソフトバンクの孫社長がよく言うように現在進行中のIT革命は、農業革命、産業革命に続く何百年に一度の大きな変革だという。

 「変化のスピードはすさまじく速く、このチャンスは3~4年しか続かない。とにかくスピードをもって行動し、変化に対応する力が重要だ」と、そのチャンスを手にした鈴木社長が力説する。

 鈴木社長は最後をこう締めくくった。

 「システムを論理的に考える頭で、ビジネスを論理的に考えることが重要です」。

(2000/4/6)

[Reported by FrontLine.JP( http://www.flj.co.jp/ )/コンサルティングチーム]


INTERNET Watchホームページ

ウォッチ編集部INTERNET Watch担当internet-watch-info@impress.co.jp