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【連載】

ネットビジネス 日本からの挑戦

第4回:中小製造業者向け情報サービス
――中小製造業のデータベースを利用したコミュニティを提供、エヌシーネットワーク

http://www.nc-net.or.jp/

 米国では、西海岸の「シリコンバレー」、東海岸の「シリコンアレー」などから注目のIT関連のスタートアップ企業が登場しています。そして、今日本でも「ビットバレー」が話題になるなど、さまざまなインターネット関連のベンチャー企業が注目を集めています。この連載では、渋谷周辺のみならず日本全国から、新事業を創造する、まだあまり知られていない企業をピックアップし紹介します。(編集部)


社屋外観 BtoC市場から立ち上がったECは、その数倍のビジネス規模を持つと期待されているBtoB市場へ次々と展開されている。しかし、BtoBの中でも日本を支える中小企業の存在はまだあまりフォーカスされていない。全国で60万社以上あるという製造業。その大部分が中小・零細の町工場だ。それだけ多くの中小・零細工場をインターネットで結べば1つの巨大な工場として機能するはず。そんな発想から誕生したのが、中小企業向けの情報サービス会社、株式会社エヌシーネットワーク(東京都千代田区、内原康雄社長)である。

 中小製造業者向けコミュニティサイトの基盤を確立したエヌシーネットワークだが、具体的にどのような設立経緯で今に至り、今後どのような展開を図っていくのか。BtoBの新たな可能性を模索する代表取締役社長の内原康雄氏に話を聞いた。

 

 

●設立の経緯――系列をこえて製造企業を結びたい

内原社長 社長の内原氏(写真)は、元々プレス加工会社の株式会社内原製作所の経営者でもあり、金型設計、製作を自ら行なっていた。従来、顧客との取引は、紙に書いた図面をチェックしてもらい、それを修正するというものだった。最近では、設計はCADで行なわれるようになり、紙ではなくデータをやり取りする形になっている。インターネットを初めて使ったとき、これはCADのデータを「とばせる道具」だと思ったという。そこで、すでに取引のあった金型製造業・部品工場など、仲間9社のあいだでネットワークを構築。工場間でCADデータのやり取りや部品の受発注に活用し始めた。

 インターネットという道具をもっと有効に活用できないものであろうか。ヒントをくれたのは検索エンジン「YAHOO!」であった。CAD/CAM関連の金型製造業の工場を検索したところ、年商5,000万から5,000億の業者まで、数100件がいっぺんに検索された。 「さまざまな情報を入手するためには便利なものの、情報量が多すぎて本当に必要な情報が入手できない。これではビジネスには活用できない」と思ったのが始まりだった。

 「製造業にとって本当に必要な情報を厳選できる、製造業のためのYAHOO!をつくろう」――そうして、1998年、仲間内だけでなく系列・業界をこえて日本中の中小製造業をネットワークで結ぶ、日本初の中小製造業向け情報ネットワーク「エヌシーネットワーク」がスタートした。エヌシーネットワーク(NC network)の「NC」は、数値制御を指す「Numerical Controle」に由来している。

 

●中小製造業版YAHOO!「EMIDAS工場検索エンジン」
(for Engineers & Manufacturers Integrated Database Access System)

EMIDAS工場検索エンジン画面エヌシーネットワークのメインコンテンツは、中小製造業のデータベースである「EMIDAS工場検索エンジン」だ。「EMIDAS工場検索エンジン」は、登録業者の得意技術や所有設備などを詳細に網羅した企業データベースと直結しており、求めている技術や事業規模、所在地などから適切な企業を検索できる。

 これに自社情報を登録すれば、インターネット内で営業ができたり、新規の外注探しができる。仕事を発注したい場合は仕事情報を掲載し、一方、その仕事を受注したい企業は、WEBからメールを送信できるようになっている。 中小製造業の一つ一つの会社は、「部品」を作っているのであり、自社製品としての最終製品はない。つまり商店を開くことはできないのである。そのため中小製造業は、一次請け、二次請け、三次請けとして、大手有名メーカを頂点としたピラミッド構造に組み込まれ、“系列”に縛られた特定のメーカにしかモノが売れなかった。

 大企業が伸びていた時期、中小企業はどこの下請けになっても安定した収益があった。しかし、最近は大手企業でも同種の製品で争っており、「勝ち組」と「負け組」が分かれてしまっている。そのため、下請けは親企業によって仕事が全く取れなかったり、逆にさばききれないほどの注文を受けたりする。しかし、「インターネットを使って横のネットワークを展開すれば、従来の縦の系列から脱却できる。手の空いている下請けに仕事を回して設備を有効利用でき、コストも時間も節約できるのです」(内原氏)

 EMIDASに登録したおかげで、系列企業外・異業種から受注できたとの声も多い。受注確率3割、引合い率7割の実績があるという。  「EMIDAS工場検索エンジン」以外にも、「CAD/CAM/CAEの広場」「CAD/CAM/のショールーム」「中古品売り買い」「技術講座」「求人情報」など多彩なコンテンツがある。これらのコンテンツの登録・閲覧・利用は全て無料で、サイト内で取引が成立しても、手数料や中間マージンといった料金は一切徴収していない。

 特に大々的に加盟の呼びかけはしていないが、噂を聞きつけてこのサイトを訪れる企業は多く、現在の登録企業は2,400社を越え、1カ月平均200社のペースで増加している。コミュニティサイトとしては、かなり賑わっているサイトだ。

 

●コミュニティサイトからBtoBの電子商取引の場へ

オフィス風景
オフィス風景

 コンテンツはすべて無料で開放しているため、収入源はバナー広告のみ。しかし、今年からこれまで形成してきたコミュニティを基盤に本格的にBtoBの電子商取引に乗り出す。中小製造業にインターネットで受発注や決済を完結できるインフラを提供し、その利用料を徴収する予定だ。

 コミュニティの価値に目をつけて出資を希望する企業も多い。しかし、あくまでも内原氏の最大の目的はBtoBの電子商取引のインフラを中小製造業に提供することにある。そのため、コミュニティの住民に対して電子メールやバナー広告によるマーケティングを行ない、サービスや製品を販売するといったBtoC的なビジネスにはあまり興味がなかった。

 しかし、「中小製造業にとってハッピーになることならば」ということで、KDDなどとパートナーシップを組み、アフィリエイト型でコミュニティの住民に商品を販売することも計画中だ。パートナーの選定は慎重で、内原氏の理念を十分理解していることが前提であり、特定の企業に独占的な特権を与えないように同業他社を複数組み入れてバランスを保っている。その他、「公開入札、オークションなどいろいろ企画しているので、運営しながらベストなものを探していく」とのことである。

 

●グローバルな展開へ

 サイトを利用しているのは国内の企業ばかりではない。すでに韓国などのメーカが"日本語"で仕事を掲載しているという。今のところ日本語にのみ対応しているが、登録されている中小製造業のなかで200社くらいは英語でも対応可能とのことなので、今後は日本語と英語の二本立てで運営していく方針だ。

 株式公開についても「証券会社は早くしろというが、本業でないことに時間をとられたくない、社員の力を注ぎたくない」と当初は消極的であった。しかし、「世界で名前が売れ、世界中から受注が来るようになるなら」と、2002年を目処にNASDAQへの公開も検討中だ。

 

●今後の課題

 中小製造業側からの視点からサイトの運営をしているところは他になく、現在、競合相手もいない状況だ。それでも、「中小製造業のインターネット普及率はまだまだ低く、1,000万円の工作機はためらわず買うが、10万円のパソコンは買わないという企業も多い」と、中小製造業者全体にインターネットに対する理解をもっと深めてもらう必要があると語る。製造に関する知識があり、かつ基本的なパソコン操作やインターネットを使いこなせる人材が不足していること。また、エヌシーネットワーク自体の知名度がまだまだ低いといった課題も残っている。

 

●製造業者がITを身につけてビジネスを始めたら本当に強い

 内原氏自身、製造業に携わる一人として、誇りをもって将来の目標を語る。

 「ネットで製品の設計もできる。ネット越しに、製品の写真を使って、『この曲げアールをこうして欲しい』といった詳細なやりとりをしながら、設計をすすめていくというのも可能になるはずだ

 また、労働力の安さという点では海外の企業に負けるかもしれないとしながらも、日本の製造業者は本当にものすごい技術を持っていると語り、「ここ10年日本の製造業は沈んでしまっている。国内の自動車業界でも落ち目のメーカーもある。国内メーカーに部品を売れなくても、これからはネットを使って世界に、ルノーやボルボに売ればいいじゃないか!」と提案する。

 エヌシーネットワークのサイトは、特にデザインに凝ったサイトではない。しかし、地に足をつけて、中小製造業にとって本当に必要な情報と機能を提供してきたからこそ、世界を狙えるコミュニティーサイトが育った。今後ここを基盤として世界を舞台にビジネスを行なう中小製造業者がたくさん出てくるに違いない。

(2000/4/20)

[Reported by FrontLine.JP/コンサルティングチーム]


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