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【連載】

ネットビジネス 日本からの挑戦

第5回:サーバーの運用・監視のアウトソーシングサービス
――将来は「IP機器」の運用・監視サービスへ、インターネット・マネージ

http://www.i-manage.co.jp/

 米国では、西海岸の「シリコンバレー」、東海岸の「シリコンアレー」などから注目のIT関連のスタートアップ企業が登場しています。そして、今日本でも「ビットバレー」が話題になるなど、さまざまなインターネット関連のベンチャー企業が注目を集めています。この連載では、渋谷周辺のみならず日本全国から、新事業を創造する、まだあまり知られていない企業をピックアップし紹介します。(編集部)


技術部門取締役 土元氏、代表取締役 瀬田氏、営業部門取締役 飯尾氏
(左より)技術部門取締役 土元氏
代表取締役 瀬田氏
営業部門取締役 飯尾氏

 EC事業者やASP事業者など、インターネットをインフラとしてビジネスを展開する企業が急激に増加している。そのサービスの心臓部とも言えるデータやアプリケーションを格納するインターネットサーバーは、高度なセキュリティやパフォーマンスが要求され、かつ24時間365日の稼動が必要となるため、事業者自らが設備を設置し、運用していくのはコスト的に見合わない。そこで、専門の業者にアウトソーシングするのが一般的となっている。


 インターネット・マネージ株式会社(神奈川県横浜市、瀬田陽介社長)は、このインターネットサーバーの運用・監視のアウトソーシングサービスに特化してビジネスを展開しているベンチャー企業である。  インターネット・マネージは「運用・監視」ビジネスのもつ将来性に着目し、その分野に特化することで、技術やサービスを深堀りし、差別化を図っている。同社では、この自らのビジネス形態を、ISPやASPになぞらえて「MSP(Management Service Provider)」と呼び、「運用・監視のプロ」として、独自の地位を築こうとしている。インターネット・マネージの経営陣に、その戦略と今後の展開について聞いた。

 

●運用監視センターからリモートでサーバーを運用・監視


サービス概要図

 横浜にあるインターネット・マネージのオフィスには、「グローバルセンタージャパン」や「Cable & Wireless IDC」などの5つのデータセンターやASP事業者などと直接接続された端末がいくつも並んでいる。同社では、データセンターや顧客企業のオフィスにオペレータが常駐する形ではなく、自社のオフィスからネットワーク経由でインターネットサーバーを運用・監視する形態をとっている。果たしてネットワーク越しで、常駐と同じレベルのサービスを提供することは可能なのか?

 「可能です。逆に、オペレーターを監視センター1カ所に集中することで、ソフトウェアやセキュリティに関する知識やノウハウを集積することができ、個々の担当者によってサービスのレベルが異なるという常駐型が持つ問題が発生せず、一定のサービスレベルを保つことができます」(瀬田社長)

 インターネットサーバーの運用において重要なサーバーソフトのセキュリティホールに関する情報などは、絶えず新しい情報が必要となるため、「どのパッチがどのセキュリティホールに対応しているのか」などの情報を即座に共有化できるなどの点が強みになっているという。

 また、提供する監視サービスの内容は非常に詳細である。SI企業やデータセンター事業者がサービスの一環として提供している運用サービスでは、サーバーが稼動しているかどうかを簡単なコマンドで確認し、ダウンしていることが確認されたらサーバーを再起動する、という程度であるのが一般的だ。しかし、インターネット・マネージのサービスでは、立ち上がっているべきプロセスの稼動を一つ一つ確認したり、httpの接続監視をネットワークの内側からだけでなくエンドユーザー側からも行ない、ちゃんとページが表示され、サービスが機能しているかどうかも確認している。障害が確認された場合には、監視センターからリモートでシステムの自動終了/再起動を行なう。また、EC事業者などでエンドユーザーからのアクセスが増加してくると、CPUやメモリといったシステムリソースが不足し、障害を引き起こす。そこで、システムリソースの1ヶ月分の利用状況の分析レポートを作成し、月に一度実施される顧客との定例ミーティングでリソースの増強点などをアドバイスしている。この定例ミーティングは、リモートサービスの「顧客と顔を合わせる機会が少ない」という問題点をカバーし、顧客からの意見やニーズを吸い上げるという位置付けもあるという。このような細部にわたるサポートはECやASPビジネスの競争が激化する中で付加価値が高いものであると言える。

 ほかには、インターネットサーバーの世界においてデファクトスタンダードとなっているオープンソースのサーバーソフトウェア(Linux、apache、sendmailなど)を運用レベルで動作保証している点もインターネット・マネージのサービスの特徴である。インターネット・マネージでは、専任の技術者を置くことで、最新のソフトウェアの情報を収集し、運用レベルでの動作を保証できる体制を整え、他社との差別化を図っているという。

 

●出資企業との「有機的」な連携

 インターネット・マネージは各分野の有力な企業からの出資を受け入れている。これらの出資元企業は単なる資金供給源としての位置付けだけでなく、インターネット・マネージのビジネスにおいて戦略的に重要な役割を担っている。

 出資企業のひとつである、大手SIベンダー「富士通ビジネスシステム」は、同社が顧客向けに構築したUNIXサーバーのシステム運用および監視を、基本的にインターネット・マネージに全てアウトソースする形をとっている。また、インターネット総合研究所は、同社が出資/運営協力しているデータセンター、グローバルセンタージャパンにインターネット・マネージのサービス用サーバーを設置すると共に、グローバルセンタージャパンの顧客に対しインターネット・マネージの運用監視サービスを提供する用意をしている。つまり、両社はインターネット・マネージの顧客獲得における代理店的な役割を担っていることになる。

 知名度のないベンチャー企業では、営業活動の難しさがある。また、システムの運用・監視サービスというと未だに常駐でのサポート体制を求められることも少なくなく、リモート監視の優位性を顧客企業に理解してもらうことは容易ではないという。そこで、インターネット・マネージでは、同社の技術・サービスをよく理解してくれるSIやデータセンター運営の有力企業に新規顧客獲得の代理店的な役割を担ってもらうことにより、ベンチャー企業ゆえの営業力の弱さを補完している。また

、この提携は出資元企業にとっても、コアな事業ではないサーバーの運用・監視サービスを専門のインターネット・マネージに任せることで、自らのリソースを費やさずに高いレベルのサービスを顧客企業に提供できるという大きな利点がある。

 

●10人のインターネット技術者を中心に設立

インターネットデータセンター内
インターネットデータセンター内

 インターネット・マネージは、パソコン通信会社の技術者10人を中心として設立された。その会社では、ASPという概念が一般的になる前の1996年頃から、インターネットを利用しLotus Notesをネットワーク経由で企業に利用してもらうというASP的なサービスを提供していたという。そのビジネス自体は、企業へのインターネットの導入がそれほど進んでいないという状況下で、あまり芳しい実績をあげることはできなかった。しかし、そこで働く技術者たちにいち早くインターネット技術を習得させ、インターネットの将来性を認識させるには十分であったという。

 現在、日本国内全体でネットワークなどのインターネット技術を理解し、使いこなせる技術者が圧倒的に不足している。

 「インターネット技術者が10人もいるというと、同業他社からは驚かれます」(瀬田社長)

 とはいえ、インターネット・マネージも技術者確保の問題に無縁というわけではない。マーケットが急拡大する中で、受注は増え続ける一方であり、現在のリソースではこなしきれなくなりつつあるという。

 彼らは、この技術者確保の問題に関しても興味深い提携を行なっている。サーバーの運用・監視という業務は基本的に定型的な業務が中心となるため、マニュアルを充実させ、技術者のサポートをつけることで、派遣社員などのオペレーターを積極的に活用しているという。先日発表された、人材派遣大手のアデコキャリアスタッフとの間の業務提携は以下のようなものである。

 アデコの登録技術者をインターネット・マネージに派遣してもらい、サーバーのリモート運用・監視の現場でオペレータとして勤務させる。単に定型的なオペレーター業務を行なわせるだけでなく、業務を通して専門知識をOJT的に教育する。アデコは、このインターネット・マネージで教育を受けた人材を、最近需要が急激に伸びているデータセンターなどの常駐のシステム運用オペレーターとして派遣することができる。一方で、インターネット・マネージは、安定して運用・監視オペレーターの派遣が受けられるのと同時に、その中から優秀な人材を発掘し社員として採用するという狙いもあるという。この提携はまだ発表されたばかりであるが、派遣社員をどのように教育し、成果をあげていけるかは興味深い。

 

●サーバーの運用・監視から「IP機器」の運用・監視へ

 昨年11月に設立されたばかりのインターネット・マネージであるが、2000年度は約4億円、2002年度には約20億円と急速な売上の拡大を見込んでいる。こうした急速な成長を支えているのは、冒頭でも述べたようなEC事業者やASP事業者の急増によるインターネットサーバーの増加という要因が一番であろう。ただし、もともと運用や監視といったサービスはスケールメリットが働く分野であるため、今後大企業の参入が予想される。いずれ激しい競争が始まることは想像に難くない。

 「サーバー運用の市場はまだ伸びるとは思いますが、それだけでやっていこうとは思っていません」と瀬田社長は語る。

ではどのような展開を考えているだろうか?

 「近い将来、車、エレベータ、トイレなど、現時点ではネットワークとは無関係に思えるものにも、IP技術が組み込まれることになるでしょう」(瀬田社長)

 そういった未来を見据えて、インターネット・マネージは、運用・監視サービスの対象をインターネットサーバーから、産業機械や家電などあらゆる「IP機器」に広げていくことを検討している。  一見してインターネット・マネージのビジネスとは関連性のないように思える、100円パーキング「タイムズ」のパーク24や、LSI/システム開発のメガチップスとの提携がそれだ。

 パーク24とはコインパーキングのネットワーク化事業を共同で開発中である。将来的にはコインパーキングの課金用マシンをリモート監視し、空車の情報をiモードにリアルタイムで提供するようなサービスの提供も検討しているという。また、メガチップスとの間では、将来のIP組み込み機器の運用・監視に関する検討を共同で開始しているという。

 産業用機械、家電など将来IP技術が組み込まれる全ての機器が運用・監視対象となるとすれば、その数はかなり大きくなる。現時点では、それらが、どのような形でネットワークに接続され、どのように利用され、どのような運用サービスが必要されるか予測するのは難しいが、この「IP機器」運用・監視サービスの分野において、インターネット・マネージがどのような展開を見せていくかに注目したい。

 

●マーケットの開拓者であることの自負

 「ここ2~3年が勝負」と瀬田社長は語っている。インターネットサーバーの運用・監視サービスは、初期設定や環境構築に手間がかかるため、一度契約をすると継続的に利用するケースが多いという。EC/ASP市場が急拡大するここ数年の間に顧客企業を囲い込めるかがまずひとつの鍵となってきそうだ。

 競合に関しては、「現時点で直接の競合と呼べる企業はいない。ただし、競合は出てきても構わない。むしろこのマーケットを社会的に認知してもらうために競合は大歓迎。ただし、このマーケットを作り出したのは我々なのです」と瀬田社長は自負している。

(2000/5/11)

[Reported by FrontLine.JP / コンサルティングチーム]


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