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【連載】

ネットビジネス 日本からの挑戦

第7回:元女性誌編集者たちが創刊したWebマガジン
――コンテンツビジネスへの展開を図る、 Cafeglobe.com

http://www.cafeglobe.com/

 米国では、西海岸の「シリコンバレー」、東海岸の「シリコンアレー」などから注目のIT関連のスタートアップ企業が登場しています。そして、今日本でも「ビットバレー」が話題になるなど、さまざまなインターネット関連のベンチャー企業が注目を集めています。この連載では、渋谷周辺のみならず日本全国から、新事業を創造する、まだあまり知られていない企業をピックアップし紹介します。(編集部)


矢野氏、青木氏
右から矢野代表と青木編集長

 既存の大企業のEC展開やベンチャー企業の新ビジネス立ち上げなど、企業のネットビジネスへの参入経路や狙いは多種多様である。その中で、審査のハードルが高かった従来の銀行融資ではなく、ベンチャーキャピタル(VC)の資本を得て起業するパターンは、ネット企業に特徴的である。起業の門戸を開いたという意味では、VCの存在は興隆の一つの契機ともなっている一方で、資金調達の容易さが安易なビジネスを生み、確実な収益モデルがないままIPOに走るベンチャーの乱立、いわゆる「ネットバブル」を引き起こしたとも言われている。

 

 女性をターゲットにしたサイトを展開している株式会社カフェグローブ・ドット・コム(東京都港区、矢野貴久子代表取締役社長)もVCの支援を受けているネット企業の一つだ。「女性向けサイト」はここ一年間で急増し、注目を浴びている。ひとくちに「女性向けサイト」といっても、そのターゲットとコンテンツ内容はさまざまである。働く女性のためのスキルアップ、転職情報、グルメ情報、ファッション情報、コスメ情報などのほか、妊娠、出産、育児をサポートするサイトなど数限りない。  その中で、同社の運営するサイト「Cafeglobe.com」はオシャレなだけじゃない、政治・経済・社会問題情報にも関心が高い女性をターゲットとし、彼女たちのニーズに応えるコンテンツのWebマガジンを演出している。今回、仕掛け人である代表取締役の矢野貴久子氏と編集長の青木陽子氏に、設立の経緯とビジネスモデル、また、今後の展開についてインタビューを聞いてみた。

 

●ナチュラルに貪欲に生きる女性達のためのメディア

 1999年12月20日、Web上に登場した「Cafeglobe.com」。さわやかな色使いが目を惹く、気軽に読める女性向けWebマガジンだ。記事は、ファッション・美容系はもちろんのこと、政治・経済にいたるまで、手頃な文章量と写真にまとめ上げられている。

 世界33都市のライターから送られてくる情報は毎日更新される。ハワイ旅行記で著名な山下マヌー氏や、ニュースキャスターの草野満代氏らのコラム、ジャーナリストの櫻井よしこ氏と社会事情の意見を交換できるページもある。また、美容ジャーナリストとイマドキの東京の男の子とのメール交換日記「ワタナベケイコのメルトモBOYS大作戦」などユニークなページもある。

 「コンテンツに関してはコンペティターはいません」矢野氏(代表取締役社長)は断言する。

 

●Webマガジン創刊を企画し、会社を設立する必要性を実感

オフィスの様子
オフィスの様子

 1998年8月、矢野氏(当時フリー編集者)は、青木氏(当時、雑誌「ラヴィドゥトランタン」編集者)と語り合っていた。

 「今ある女性誌は、どれも似たり寄ったりで、内容がファッションにシフトし過ぎている気がする。自分たちが読みたい女性誌がない。『TIME』や『AERA』、『NewsWeek』のように薄くて軽い、手軽に読める女性向け週刊誌を作りたい」

 しかし、雑誌となると製本・印刷・流通などのコストの問題、返品・在庫のリスクなど問題は山積みだ。そこへ構想をあきらめかけていた矢野氏は海外でサイトを運営している友人から「インターネットでならすぐに創刊できるのでは?」とのアドバイスを受ける。1999年6月のことだ。

 しかし、彼女たちにはWebサイト構築の経験は全くなかった。彼女たちはまず企画書をWeb向けに練り上げ、1999年7月に入り、勉強を兼ねてインテルへのプレゼンを行なう。その席でネット展開するならば会社を設立する必要があることを強く感じ、事業資金を提供してくれるVCを見つけなければと自覚することになる。

 その頃、矢野氏は「ビットバレー」の存在を知り、軽い気持ちでメーリングリストに一通のメールを書いた。

 「私たちは女性誌編集者の集団です。女性向けのサイトを立ち上げようとしています。VCは技術系ビジネスに関心を持つことは多いようですが、コンテンツビジネスに興味を持つことはありますか?

 このメールが状況を急変させることになる。翌日には、投資したいという内外のプロポーザルが、10数社からあったという。

 「メール、電話での問い合わせが殺到しました。半年前までVCを知らなかった私ですが、ここで感触をつかみました」(矢野氏)

 

●VCとの出会いから2ヶ月後、アメリカ本社設立、翌月に日本支社設立

 ビットバレーでの交流を深めた矢野氏は、1999年8月中旬、米国のVC、Lotus Capital Management社にプレゼンを行なった。同社のBrad Huang氏は、既に行なっていた対日本マーケティングに基づき、日本における女性向けコンテンツを提供するサイトに投資することを決定しており、制作のプロ集団を探索している状態であったという。

 「知的好奇心の旺盛な女性」、「働き続ける意思のある女性」、「お金を自己実現に使いたいという女性」。そして、老後のプランや、住宅の購入、資金の投資なども行なう可処分所得の高い女性達が増加中。これは、矢野氏が2年前に某雑誌で行なったアンケートで得た結果である。日本でもまだ注力されていない層をメインにしたコンテンツを提供していくというプレゼンテーションが決定打となった。

 資本金のうち、1,000万円を、矢野、青木らの貯金から、残りの同額をBrad Huang氏とその友人投資家たちが作った投資組合が引き受けることになる。1999年10月18日、新規株式公開などにからむ戦略により、米国にCafeglobe.com本社が設立された。そして、同年11月25日、日本支社が設立。矢野がビットバレーにメールを出してからWebサイトを立ち上がるまでわずか4カ月である。

 

●現在のビジネス概要――VCをコンサルタントとしてコンテンツに専念

 「Webサイト立ち上げから半年間はコンテンツを充実させること」「編集方針を明確にすること」の2点が投資家から要求された。一方、Brad Huang氏はサンフランシスコのベンチャー会社が開発したサイト更新システムを矢野氏たちに紹介したりといった支援も行なっている。矢野氏は、同氏のことを、投資家でもあり、コンサルタントでもあると言う。コンテンツのプロではあるが、経営のノウハウを持たない彼女たちにとって、融資から経営戦略のコンサルティングまで行なうBrad Huang氏の存在は、単なる資金援助を行なうVC以上の価値を持つ。

 

●Cafeglobe.comのコンテンツ

コンテンツ画面
コンテンツ画面

 女性誌を知り尽くした編集スタッフが作るコンテンツのターゲット層は、「20代後半~30代の働く女性」。その中でも特に「知的好奇心の強い大人の女性」をコアダーゲットにしている。コンテンツは、ニュース記事、「Mode&Style」(美容・ファッション情報)、「Travel&City」(旅行・世界各都市情報)。「Life&Culture」(生活・文化情報)に大きく分類される。

 ニュース記事に並んで掲載されているコーナー「1 week in 3 minutes」では、社会・政治・経済それぞれに、ニュースキャスター草野満代氏、三菱総合研究所 経済調査部長 主席研究員の浜 矩子氏による、週のトピックニュースに対する発言を掲載しており、彼女たちの視点に意見があればメールを出すこともできる。

 Mode&Styleでは、季節を先取ったファッション情報やコスメ情報が、人気の美容ライターやスタイリストの手によってまとめ上げられ、見応えのあるページが続く。

 Travel&City では、旅行エッセイではお馴染みの山下マヌー氏の執筆記事を始め、ニューヨーク、パリ、ロンドン、シンガポール、ミラノ各都市から届けられる記事が並ぶ。

 また、Life&Cultureでは、デジタル系の記事が多く、オンラインショッピングでのクレジットカードの安全性について、ノートパソコンの購入の仕方、メールのマナーなどインターネットビギナー向けの情報が大半を占める。この他、音楽・シネマ情報なども加わる。

 こうした記事だけではなく、スポンサーのバナーをクリックするだけで「コソボ救援活動」に100円が支払われる「クリック募金」、ボタンを押すだけで、お好み俳優から現在の政権に対する意見まで投票できる「VOTE!」など、シンプルなユーザ参加型のコンテンツもある。

 

●Webサイト運営の実状

 現在、ディレクトリ構成の制作から記事制作、メール配信まで、運用は全て手作業で行なわれている。

 「コンテンツ更新は夜中に行ない、メール配信はごくごく普通のメーラーを使ってます。メール送信ボタンを押す瞬間は緊張の一瞬。ちゃんとBCCに皆さんのアドレスが入っていることを何度も確認します」(青木氏)

 また、多くのコンテンツを安定して供給するためには、どうしても外注費用が多くなるのが目下の悩みだ。コラムを依頼している著名人を始め、海外43名、国内30名のスタッフへの外注費用がかかる。現状で、コンテンツの提供を支えるための、ソースの確保と運用の省力化が急務となっている。これに関しては、ビジネスモデルが軌道にのるまでの必要な投資であると彼女たちは割り切っている。今後、コンテンツ力を維持しつつも、融資と経営を支援してくれるVCからいかに自立していくかが今後のポイントであろう。

 

●今後のビジネス展開について

ブランディング
Cafeglobe.comのブランディング

 同社では、Cafeglobe.comの強みを活かした収益モデルを検討している。現在、Cafeglobe.comの収入は、バナー広告とスポンサーシップによる記事広告の2種類に依っている。記事広告は、掲載するクライアント・商品については、媒体であるCafeglobe.comがイニシアティブを取り、ターゲット層に自然に訴求する内容を造り上げていくという。

 また、今後のビジネス展開も「コンテンツ力」を活かしていく考えだ。一つは、DB化されたコンテンツをポータルサイトへ販売していくという「コンテンツプロバイダー」としてのビジネス。彼女たちの人脈で集まってきた世界十数ヶ国のライターやジャーナリストから毎日届く記事をDB化し、その価値を売っていく。また、コンテンツの価値を確保する意味でも、価値対価のあるコンテンツは有料メールで配信する。有料メールのために新規に準備しているコンテンツもあるという。

 そして、そのような手法によって囲い込まれた会員は、マーケティングリソースとして価値を持つと考え、Cafeglobe.comを彼女たちと企業の円環的なマーケティングスペースとして提供することを考えている。

 また、今後、各国の言語でCafeglobe.comの情報を発信していくことも考えており(まずはアジアで展開することが目標)、最終的にはCafeglobe.comがブランドとしての価値を持ち、利益を生み出す仕組みを考えているという。

 

●経営上の工夫と株式公開時期について

 同社では、将来のビジネス展開を睨み、来期は株式の公開も予定している。

 「焦るつもりはありません。市場をじっくり見ながら判断します。本来、株式公開が目的ではなく、価値ある情報の詰まった女性誌の創刊が目的でした。そのこともあって、コンテンツを創るための資金調達に必要ならば株式を公開するつもりです」(矢野氏)  代表の心意気を反映してか、ほぼ全員女性で占めるスタッフにも「良いものを作りたい」という価値観が共有されている。

 しかし、他のネット企業と同様に、彼女たちも人手不足の問題を抱えている。企業の成長とモチベーション維持、そして良い人材の確保という3つの経営的要素のバランス取りはベンチャー企業共通の悩みといえよう。

 

●起業を計る人たちに一言

 既存の媒体のコンテンツプロデューサーからネットへの展開を発想し、VCと理想的な関係を持ちながらビジネスを発展させていこうとしているCafeglobe.comは、ネット起業家にとって激励ともケーススタディともなる存在だ。

 「インターネットに性差別はありません。銀行で融資を受けて起業するのは、女性にとって大変厳しい状況ですが、インターネットは注目と人を集めてから成長することが可能です」(青木氏)

 彼女たちは「女性サイト」というくくりについてまわりがちなフェミニストというイメージとは関係ない。ごく自然に、自分たちが生きていく上で知らなければならないことや、知りたいこと、それをWebというメディアを用いて情報発信しているのである。現在の広告収入モデルから、コンテンツビジネスへと展開し、Cafeglobe.comブランドが確立されるまで、その成長に注目したい。

 

(2000/6/8)

[Reported by FrontLine.JP / コンサルティングチーム]


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