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【連載】

ネットビジネス 日本からの挑戦

第10回:商品企画アイディアのポータルサイト
――ユーザーのアイディアを実際の商品に、「たのみこむ」

http://www.tanomi.com/

 米国では、西海岸の「シリコンバレー」、東海岸の「シリコンアレー」などから注目のIT関連のスタートアップ企業が登場しています。そして、今日本でも「ビットバレー」が話題になるなど、さまざまなインターネット関連のベンチャー企業が注目を集めています。この連載では、渋谷周辺のみならず日本全国から、新事業を創造する、まだあまり知られていない企業をピックアップし紹介します。(編集部)


 今年、日本のインターネット人口が2,000万人に達すると推計され、インターネット機能を生かしたダイレクトマーケティングや「BtoC」「CtoC」型のビジネスモデルが実現しやすくなるステージに突入するといってもいいだろう。

 最近では、大手メーカーがネット直販に乗り出すケースも増えてきている。新規商品開発においても、まず「インターネット限定商品」として自社のECサイトでテスト販売を行ない、コンシューマー側の反応を直接確かめるといったケースが増えている。また、そこで売れた商品については、更にユーザーの意見を反映させて改良を行なった後、大量生産/販売に結び付けることになる。

 しかし、ユーザーからの意見収集の仕掛け作り、コミュニティの構築・維持にかかるコスト、ノウハウを考慮した場合、企業側が独自に実施・運営すること必ずしも良いとは言えない場合もある。また、新規商品企画については、社内担当者間だけでは限界に達している部分もあり、「エンドユーザーからの大胆な意見」がほしいというニーズも企業側に見え隠れしている。

 ユーザー側においても、インターネットを利用して「自分の希望する商品がほしい」といったニーズは大きくなっており、また、商品開発において自分のアイディアが反映される喜びを徐々に知り始めている。

 インターネット先進国であるアメリカでは、既存商品の販売を中心とした「BtoC」型ECサイトの市場評価が下落傾向にある。他方、商品そのものを生み出していく新しいタイプのECサイトが注目を集めている状況だ。

 このような中、ニーズ・意見・アイディアが集まるコミュニティの場を企業側ならびにコンシューマー側の双方に向けて提供し、商品企画アイディアのポータルを目指そうとしているサイトが日本にも存在している。それが、今回取材した「たのみこむ(tanomi.com)」である。

 

●コンテンツを事業化するプロデュース集団「エンジン」の設立

社長奥田氏と営業マン北氏
社長奥田氏と営業マン北氏

 「たのみこむ」を企画・制作・運営しているのは、テレビ番組制作やWebコンテンツ開発を手掛ける株式会社エンジン(東京都港区:奥田裕久社長)である。当初エンジンは、放送作家、マンガ原作者、TV企画プランナーを職としていた3人で立ち上げられた。まずは、企画プランニングのみを手掛けていたが、徐々に制作や運営にも手を広げ事業内容を拡大してきた。最初は、TV番組やCMなどのコンテンツ制作がメインであったが、インターネットの普及と共に、次第にWebなどのインタラクティブコンテンツの制作を行なうようになった。当時より、奥田氏の心の中には、「新しいメディア、新しいプラットフォームでの挑戦」という意気込みが存在していた。

 それまでにエンジンは外注の請け先として、さまざまなプランニングからコンテンツ制作運営までを手掛けてきたが、1999年12月に開設された「たのみこむ」がエンジンの独自事業として、企画から制作、運営までを手掛ける初めてのビジネスとなった。

 

●3部構成から成る構想~「考えて作る」「販売する」「マーケティングする」~

 「たのみこむ」に関わるサービスは、当初3部構成を念頭に構想された。第1部は「考えて商品開発を行ない、新商品を作るサイト」、第2部は「実際にコンシューマーからの注文を受け、商品を販売するサイト」、第3部は「既存の商品購買動向をリサーチできるマーケティングサイト」の3部立てである。

 本当はシナリオ通り、第1部から立ち上げて行きたかったところだが、実際には第2部に当たる「たのみこむ本店」が先行して1999年12月に開設された。今現在、提供されているサービスメニューは「たのみこむ本店」のほか、「たのむ考えてくれ」「たのむ作ってくれ」「たのモール」の4つである。

 「たのみこむ本店」とは、未製作の商品企画をWeb画面に掲載しておき、ユーザーから一定数の仮注文が集まった段階で生産開始する「限定受注生産型ショッピングサイト」である。ここは、企業にとってテスト販売の場であり、企業側に自らの商品企画がユーザーに受け入れられるかどうかを試す場となる。また、限定受注生産を行なうことで受注数やキャンセル率等のバックデータを把握し、その結果を以って今後の商品化、大量生産へ踏み切るか否かを決定することができる。これまでに、100点程の商品企画が掲載されているが、約3分の2はメーカーから持ち込まれたものとなっている。商品化実績としては、「袴田吉彦プロデュースサングラス」、「スペシャルスタウト(ビール)」、「風らくらく傘」など17アイテムが数えられており、中には「アイドルとのお食事会」など、エンターテインメント性の高い商品もある。

 2つ目の「たのむ考えてくれ」は、企業側が新商品開発にあたってユーザーに知恵を絞ってもらい、卓越したアイディアを募集するというコーナーである。奥田氏が今後さらに発展させたいと考えているコーナーであり、商品開発のためのブレストの場を目指している。テーマについては原則、企業側からの持ち込みとしており、ここが「たのみこむ」構想の第1部に当たる。

 3つ目の「たのむ作ってくれ」は、ユーザー側から発生したニーズやリクエストを企業側に伝え、商品化を目指すコーナーである。ユーザーから持ち込まれたアイデア、リクエストは「たのみこむ」のスタッフが商品企画に仕上げて、企業側に売り込むことになる。また、交渉に先立ち、「たのみこむ」で購入を希望するユーザーを募集したり、商品の機能や色などの詳細についてアンケートを実施したりすることも可能である。「たのみこむ」が持つコミュニティ機能を生かして、企業への説得材料をそろえ、商品化を促す仕掛けとなっているが、その裏側には、企業側の商品開発担当者には思いもつかない奇抜なアイデアをユーザーから集める狙いが覗える。

 このコーナーは今年6月にリニューアルされ、新たにユーザー側のアイディアを企業側に持ち込む「CtoB」の橋渡し役である営業マンの掲示板「営業マン北、行け!」が併設された。営業マンの「北さん」が頼み込む日々の行動記録や、ユーザーからの商品化実現へのお願いメッセージ、社長から北さんへの激励叱咤、北さんからユーザーへのコメントなど、お願いをしているユーザーにとっては、思わず定期的にチェックしたくなるページである。「まだ、公にはできないものの、『たのむ作ってくれ』の中で大手企業から商品化の了承を得られたものもあります。楽しみにしていて下さい」(奥田氏)とのコメントもあり、興味を引かれるところだ。

 なお、4つ目の「たのモール」は、「たのみこむ本店」で商品化が決定したアイテムを限定ではなく、通常販売するコーナーだ。

 

●コアコンピタンスは「C to B」

 上記で紹介した4つのメニューは、基本的に「CtoC」というコミュニティをベースとした上で、「BtoC」色の強い「たのみこむ本店」「たのモール」「たのむ考えてくれ」と、「CtoB」型の「たのむ作ってくれ」の大きく2つに分けることができるだろう。

 インターネットの利用により、メーカー等の企業がエンドユーザーを直接の対象とした「BtoC」型のビジネスモデルやダイレクトマーケティングを実現しやすくなると以前より言われている。しかし、現状では既存の流通経路やビジネスモデルに対応した社内体制の理由により、インターネット機能を十分に活用しきれていないケースも見受けられる。エンドユーザーの意見を十分にくみ取れず、結果的には従来通りの企業側主導のマーケティングや商品開発に陥ったりと、企業側も試行錯誤を繰り返している。

 そんな中で、時計メーカーのシチズン時計は、随分前からマスカスタマイズゼーションサービスを実施し、ユーザーの好みに応じたパーツで組み立てたオリジナル時計を制作している。サイト内では、サロン(時計を制作したユーザー同士の掲示板)を開設しているが、そのシチズン時計も「たのむ考えてくれ」に参加している。

 その背景について奥田氏は次のように語っている。

 「一般的に企業という立場上、『コミュニティ運営が面倒』『何を書き込まれるか判らず怖い』『本当に書き込みしてもらえるのか不安』『掲示板が閑散としていたら、格好悪い』といった不安要素が裏側に存在していると思います

 「例えば、シチズン時計さんの掲示板に書き込むユーザーとして考えられるのは、 『シチズンのファン』であり、恐らくそのサイトにアクセスしてきたユーザー何千人のうちの少数に過ぎないでしょう。であれば、『たのむ考えてくれ』に参加することにより、時計に興味のある人や時計に関するアイディアを投稿したい人、といった更に幅広い層からの意見収集が可能になります

 自社へのロイヤリティが高いユーザー(=固定ファン)だけでなく、その見込み客となるユーザーの情報・ニーズを収集するためには、やはり「企業」サイトではなく、「コミュニティ」サイトが必要になると言えるのだろう。

 こういった点を踏まえると、「CtoB」という、あくまでもコンシューマーの意見・アイディアを企業側に伝えて、企業側のマーケティング活動、新規商品開発につなげるという「たのむ作ってくれ」のコンセプトは、正にインターネットを用いたサービスに適したものであり、最大限に発揮していくべきと言える。

 

●自分のアイディアに賛同してくれる喜び ~「CtoC」型コミュニティ~

 「たのみこむ本店」「たのむ考えてくれ」「たのむ作ってくれ」の3コーナーにおいて、「BtoC」型「CtoB」型を問わず、「CtoC」というユーザー同士の意見交換、コミュニケーションの場を設けている点が「たのみこむ」全体の魅力につながっている。

 「これまでに集まった商品アイディアは約7,300程度にのぼります。開設当初は懸賞プレゼント等を用意しないと、積極的なアイディアや意見が投稿されないのではないかと不安もありましたが、実際にスタートさせてみるとユーザー側から自発的な投稿が集まり始めました。自分のアイディアに賛同してくれるユーザーが他にもいるという喜びが優越感となり、さらに新しいアイディアや意見を寄せるといった良い意味でのスパイラルができていると思います」(奥田氏)

 これまでにも思わぬところで議論が白熱した掲示板があるとのことだ。

 「NEC 98シリーズの復活依頼に対して、YES/NOの議論が白熱し、NEC側に98シリーズの復活をお願いしに行ったんですが、担当者もその結果に驚くと同時に、その熱意を怖がるほどでした。結果的には、NEC 98の復活はないと断言されてしまいましたが…」(奥田氏)

 基本的にインターネットの初期からのユーザー層においては、積極的でオピニオンリーダー的な役割を果たす人が多いと言われ、実際にこのタイプの人々が多くコメントを投稿しているのかもしれない。しかし、新しいアイディアを出さないまでにしても、気に入った商品企画に1票を投票する人は、アクティブユーザーと言えるだろう。また、その周りには、ただ興味深げにそのやりとりを眺めているユーザーが何千、何万と存在していることになる。ユーザーのコミットメントレベルの違いはあるものの、そこにはやはり「CtoC」のコミュニティが形成されていることになる。

 

●商品企画アイディアポータル「たのみこむ」の収益モデルは?

 現在、収益の柱は主に3本立てとなっている。まず1つ目は、「たのみこむ本店」への出品料である月額3万円。2つ目が、限定受注生産が実現され、商品化された際の販売ロイヤリティ収入(売上の5~20%)。3つ目が、「たのむ作ってくれ」参加企業のバナー広告掲載料(掲示板システム利用料)である。

 「たのみこむ本店」開設当初は、出品費用は高めに想定されていたようだが、「色々な企画はあるけれども、資金不足のために全てを商品化・量産化できない中小企業に対して、広く窓口を開け放つためにも、月額3万円に設定した」(奥田氏)というコメント通り、幅広く多くのサプライヤーを集めるためにも、月額固定料金は低めに再度設定することになったという。

 2つ目のロイヤリティ収入について、「たのみこむ」側は、まだ商品化されている商品数は少ないものの、今後、権利ビジネスの恩恵を受ける可能性は大きいと睨んでいる。

 3つ目のモデルである「たのむ作ってくれ」参加企業のバナー広告掲載料については、まだサービスがスタートとして日が浅いため、全体収入に占める割合は少ないように思える。ただし、奥田氏曰く「ニーズ収集掲示板上の広告なので、バナークリック率も向上し、その企業への興味・理解が格段に上がるメリットもある」との強気の発言もあり、今後の動向が楽しみなところである。

 去年は、エンジンの全体売上に占める「たのみこむ」事業の売上比率は、5割に満たなかったが、今年は「たのみこむ」事業とその他既存事業(TV/CM番組制作、Web代行制作事業)との売上比率が逆転する勢いであり(想定売上比率1対2)、今年秋頃には「たのみこむ」事業単独で黒字化する見込みである。

 

●今後目指すは、エンターテイメントに基づく多メディア展開

オフィス 「ユーザーを楽しませながらニーズを収集し、コンテンツを見せていくノウハウは、長年のTV番組のプランニングで培ってきました。ユーザーは面白くなければ見に来ないですし、意見も発しません」(奥田氏)

 この点を踏まえて他の競合サイトと比較すると、「たのみこむ」の差別化ポイント・強みは、エンターテイメント性を兼ね備えたエンドユーザーの意見総合窓口である点だと言える。  また、今後のビジネス戦略を次のように考えている。

 「インターネットは個々のユーザーからのニーズ・意見の吸い上げに非常に適したメディアである一方、そこで得られた意見・アイディアを幅広く周囲に知らしめるためには、TV等の既存のマスメディアを上手く利用する方が効果的であり、インパクトが強いと言えます。そこで、「たのみこむ」自体をデジタル放送/インタラクティブTVにおけるキラーコンテンツに発展させようと考えています」(奥田氏)

 この戦略においては、これまでの既存メディアにおけるコンテンツ企画・制作ノウハウと「たのみこむ」を代表とするWebコンテンツ企画・制作・運営ノウハウを十分に生かすことが可能である。また、今後も「たのみこむ」事業については、エンジンから分社化をせず、エンジンの一事業という位置付けとする。その結果、TV番組制作などの他事業と融合しながら、既存のマスメディア向けコンテンツ事業とデジタル&インタラクティブコンテンツ事業とのシナジー効果を目指す方針である。

 「ネット上でコミュニティを形成して、様々なニーズや意見を汲み取り、TV番組や出版社等と連動して具現化された商品・アイディアを発信していくサービスモデルを形成していきたい。それが次世代TVのキラーコンテンツになると考えています」(奥田氏)

 現状、インターネットだけのメディアだと、ユーザー層が若者(20、30代)に偏ってしまいがちなので、更に幅広い層にアプローチするためには、メディアミックスが必要だとも考えている。また、日本国内だけでなく、海外(アジア/アメリカなど)への進出も考えており、実際にいくつか声も掛かっているとのことだ。例えば、「たのみこむ本店」モデルは、一定数の仮注文が集まったら購入できる海外並行輸入にも活用できると考えている。

 

●経営上のポイント ~パートナーが最も重要~

 会社を立上げ、事業を運営して行くには、まさにさまざまな能力が必要となってくるが、そのような人材パートナーをどのように見つけ、協力しあって行くかがカギとなる。

 「経営者にはオールマイティな能力が求められますが、それを一人でこなすのは非常に困難なことです。そのため、会社経営に求められる役割をどのように分担していくかがポイントとなるかと思います」(奥田氏)

 奥田氏は長年TV番組に関わってきたクリエイターである一方、奥田氏と高校時代の同級生である会長の左近氏は、証券会社勤務を経て、現在、資金繰りなどの財務をメインに担当するプロデューサー的役割を果たしている。クリエイターである奥田氏と企業プロデューサーである左近氏がうまくかみ合って、お互いを補い合っている。ベンチャー企業においては、何よりもパートナーが大事だと言うことである。

(2000/8/3)

[Reported by FrontLine.JP / コンサルティングチーム]


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