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米国では、西海岸の「シリコンバレー」、東海岸の「シリコンアレー」などから注目のIT関連のスタートアップ企業が登場しています。そして、今日本でも「ビットバレー」が話題になるなど、さまざまなインターネット関連のベンチャー企業が注目を集めています。この連載では、渋谷周辺のみならず日本全国から、新事業を創造する、まだあまり知られていない企業をピックアップし紹介します。(編集部)
今年夏から秋にかけて、EC先進国である米国の動向を追いかけるように日本でもさまざまな比較・評価ビジネスが登場してきている。米国企業が日本に進出しているケースも多く、米Mediametrixや米Gomez、そして8月に米GIGAと提携した株式会社リンコムなど、自社独自の評価手法に基づいてECサイトの評価を行なうビジネスや、複数のECサイトを横断的に検索し取扱商品の価格や購入条件を比較一覧できるサービスを提供するDealTimeやeZuzなどの会社が現れている。その評価手法もさまざまで、価格比較や自社独自に設定されたベンチマーク、ユーザーからの口コミ等を基に評価を行っている。
この比較・評価・口コミ情報はユーザーやショップ側に対してどのような役割を果たすのだろうか?ユーザーにとっては、現状3万近くある無数のECショップの中から良いお店、自分のニーズに合ったお店を探すのに有効であろうし、ショップ側にとって比較・評価の結果は、現状認識、自己のポジショニング把握に役立ち、顧客リレーションシップの構築・維持に活用することができると考えられる。
そこで今回は、ユーザーの口コミ情報に基づいた「ECショッピングガイド」を目指す株式会社イーシーウォッチドットコム(以下EC-Watch.com:東京・港区、手嶋友長社長)を取材し、そのビジネス動向を聞いてみた。
●会社の設立経緯 ~口コミの重要性に着目~
EC-watchでは、現在約1万5千店舗におよぶECショップ情報と約1万8千に上るオンラインショッピング経験者からの口コミ情報を掲載している。ユーザーに対してはECショッピングガイドとしてのサービスを、ショッピングモール・商品情報サイトに対してはコンテンツ及び口コミ情報管理システムの提供をしている。EC-watch上でユーザーはごく簡単な会員登録(無料)を行うことによりメンバーとなり、自分が利用したお店について、購入者コメントを投稿できる。
EC-Watch.com社長の手嶋氏は、学生時代に野村総合研究所にてBtoC向けECに関する統計調査のプロジェクトマネジメントに関わる機会を得て、国内ECの黎明期(1995年)より個人運営サイトから大企業サイトまで2万店近くのECショップを見てきた。手嶋氏は「ユーザーにとって本当に役立つショップとは何か?、ユーザーに支持されているショップにナビゲートするにはどうすればいいのか?」という課題を常に持ちながら仕事に取組んだという。その後、Webインテグレーター(SIPS)である株式会社メンバーズに入社し、コミュニティサイト企画に携わる中で、コミュニティ運営における管理システムや口コミを活用したマーケティング手法であるバイラルマーケティングのノウハウ、口コミの影響度の大きさを学んだ。そして、学生の頃から持ち続けていた課題に対して見付け出した一つの解決策が、口コミによる「ショッピングガイド」であった。
「ユーザーに対して有用なショップ情報を与えるためには単なるリンク集ではダメですから、ユーザーに評判になっているショップ・商品などの口コミ情報をまとめて、それをお客様への「ショッピングガイド」にするのがいいのではないかと思ったのです」(手嶋氏)
そのような折、メンバーズの社長自身がネット広告代理店業務を強化する中でWebマーケティングに強い媒体を持ちたいと考えており、ビジネスとしてECショッピングガイドを立ち上げるためオンラインショッピングに知見のある人間を探していた。メンバーズ側の意図としては、自社の強いWebマーケティング媒体を持つと同時に、個別ショップに対するコンサルティングノウハウも蓄積して、ユーザーの満足度・ロイヤリティを高めるための顧客リレーションシップ手法を確立させたいという考えもあった。
そこで、手嶋氏とメンバーズ社双方の考えが合致した。1999年末頃から話合いが進められ、今年3月にメンバーズの100%出資により会社を設立、7月のサイト開設に至ることとなった。手嶋氏が重要視する口コミを生かしたWebマーケティングに強い媒体を構築するためには、購入者コメントページとショップとの連携方法やコメント内容管理が要となるため、手嶋氏もこの部分のプランニングに念入りに時間をかけたとのことである。
●EC-watch ~口コミ情報に基づいたユーザー目線のショッピングガイド~
EC-watchメンバーによる記載項目は購入日・購入品・購入金額・誰のため・何のため・フリー購入者コメント・5段階の総合評価の計8項目である。定量的な評価軸は5段階の総合評価1つのみとなっている。
「最近、価格比較サイトも登場してきていますが、アメリカのあるレポートでは、ユーザーの8割は最低価格商品を選ばないという結果が出ていて、ブランドやサービス内容、ユーザーの評判・信用を重視する傾向があります。日本でも数値データよりも個別のコメントを重視するカルチャーがあると思いますので、評価においては数値化に限定せず、ユーザーからのフリーコメントによって価格やサービス内容をジャッジできる点を重視し、それが他の評価サイトとの差別化ポイントになると考えています」(手嶋氏)
EC-watch自体は、あくまでもユーザー主体のショッピングガイドを目指すという構えである。
「ショッピングガイドですから、良いお店、人気になっているお店しか紹介せず、その意味において公平中立な評価サイトとは異なります」(手嶋氏)
「口コミ情報は最終的にお店にユーザーをナビゲートする威力を持っていると思います。お店に入ろうかな、商品を買おうかなと迷っているユーザーに対して背中を一押しする力があります。また、一般ユーザーからのコメントの中にはECを利用した背景、例えば、子供のプレゼントに熊のぬいぐるみを探していて、などと書かれていて、単なる価格比較と違い、ユーザーのモチベーションを高めるような温かみと説得力のあるガイドとなります」(手嶋氏)
サイト内でのメンバー検索では「性別、年齢、購入商品ジャンル、誰のため、何のため」というカテゴリー別に検索できる。“カキコミスト”のプロフィールだけでなく、利用シーンから店舗やコメントを調べられる点は正にユーザーの視点に立っていると言える。
●サイト利用者の8割はオンラインショッピング経験者
サイトのアクセス数は現在約55万PV/月、ユーザー層はインターネットユーザー全体の分布とほぼ同じで、男女半々、20代から30代の利用が多い。ユーザーのうち約8割がオンラインショッピング経験者で、その中でもオンラインショップをはじめて利用してみて「こんなに良いものとは思わなかった」と感じているEC初心者層と10回以上経験したことのあるベテラン層の2つの山に大きく分かれている。
「ユーザーーは一度アクセスしてコメントした後、自分の過去のカキコミ一覧を見られる機能があるので、回を重ねるごとに自分のショッピング意欲が掻き立てられ、次の購入につながっていくようです」(手嶋氏)
この点においては、オンラインショッピングのビギナー層がヘビーユーザーに育つことに一役買っていると言える。現在、1万8千におよぶコメントも昨年末からコツコツ溜めていったものである。当初は購入者コメントコンテストで金銭などのインセンティブを用意して収集せざるを得なかったが、現在は評価コメント内容の質を重視し、賞品と交換可能なポイント制に移行している。(ポイント制度:メンバー登録時に10ポイント、サイトへのアクセス毎に1ポイント、評価書込み毎に5ポイント付与)
●口コミ情報の運用体制
ECショップについては、「代金を支払っても商品がこない」「配送が遅い」などの苦情が取り上げられることがあるが、このような批判や過剰な誹謗中傷コメントの取り扱いには、EC-watchでも慎重を期しており、コメントの検閲を行っている。まず最初に、大量のコメントをシステム的に処理し、最終的には人の目で確認する工程を踏んでいる。
「検閲システムについては、これまでに溜めたコミュニティ運営ノウハウに基づいてオーダーメイドで開発しました。システムの精度や運用方法について公開はできませんが、サイト運営上で実際に生じたさまざまなケースに対応する中でシステムチューニングを行い、運用マニュアルを整備しています。開発・運用はメンバーズにお願いしています」(手嶋氏)
また、ユーザーからの良いコメントばかりではなく厳しいコメントも掲載し、ショップのサービス向上に役立てている。
「コメント内容の比率は良いコメント8~9割、厳しいコメント1~2割という感じです。マイナスコメントについては、お店の人が返事を返す機能を設けており、そのごめんなさいコメントを読んだユーザーが心象を良くして、逆にサービスを利用するようになるケースもあります」(手嶋氏)
マイナスコメントの掲載に対しては、ショップからの反発も懸念されるところだが、店長の多くはこれらの批判コメントも積極的に受け止めているとのことだ。特に売上のあがっているお店の店長にインタビューすると「ユーザーからの良い/悪い、双方の意見を受け止めるのがリテーラーの基本であり、良いショップたる条件」という返事がくるようだ。EC-watchもこのモットーの下、サイト運営が円滑になされている。プラス・マイナスコメントに関わらず「ショッピングガイド」に掲載しても役に立たないコメントは全て排除すると同時に、トラブルの多いショップは掲載をとりやめることもある。
●ECショップへのマーチャントサポート機能
一方、ECショップに対するマーチャントサポート機能としてのサービスでは、各ショップの商品詳細画面や注文結果確認画面からEC-watchに登録されたそのショップへの購入者コメント投稿ページにリンクを貼れる機能がある。現在2,000店舗以上がEC-watchの評価書き込みページにリンクを貼っている。
「商品配送の確認メールの中にも購入者コメント投稿ページへのリンクを挿入してもらっていますが、そこから投稿されたコメントは非常に内容の濃いものとなっています。利用者にアプローチするタイミング、使って感じた際にすぐコメントできるというタイミングが有益な口コミを集めるにあたって重要なのです。また、最近、ショップオーナーからよく聞くのが、ショップの掲示板でEC-watchを見て来たというユーザーーの投稿が増えていることです」(手嶋氏)
EC-Watch.comではショップとのリレーションシップを重視しており、EC-watchが「良い店」と選定したお店には営業マンが直接出向き、ユーザーの生の声をフィードバックさせて、更なるサービス向上につなげている。
「隔週ペースでショップに対して、ユーザーの声や『現在、支持されているショップはどこか?』等のアドバイスをメールマガジンで配信しています。今後は、ショップの店長達が実際に集まり情報交換ができるオフ会のようなものを開催していく考えです」(手嶋氏)
●ユーザー、ECショップ/モール、EC-watchのバリューチェーン
現在のEC-watchにおける主な収入源は広告収入となっている。「小所帯なので、まずはオンラインショッパーが集まるショッピングガイドとしての媒体価値を高めることに専念しています」(手嶋氏)。しかし昨今のBtoC型ビジネスや広告収入ビジネスに対する市場の警戒感を考えると、この戦略だけではやはり売上規模にも限りがあるだろう。今後はこれらの「ショッピングガイド」コンテンツ自体やコメント掲載システムを、モールやショッピング関連システムを必要としているサイトにASP提供していく方針である。
「今年の冬頃から、大手ショッピングモールへショッピングガイドのコンテンツ提供及びコメント掲載システム・運用管理を提供することになっています。各テナントショップにおいて、EC-watchのカキコミ機能を利用してもらうことで、ショップへのユーザーーの誘致、サービスレベルの向上を促すと共に、モールに良いお店を引き込んでいくバリューチェーンの構築を目指します」(手嶋氏)
ショップの売り上げ、モール全体の売上拡大は、同時にEC-watchの広告収入の拡大にも寄与する。「ユーザー」「ECショップ/テナント」「モール運営者」「EC-watch」の4者においてwin-winの関係を築きたい考えだ。
また、口コミ掲載システムのASP提供は、EC-watch自体の会員獲得にもつながり、媒体の価値を高める。これは例えばオークションサイト「BIDDERS」がオークション機能を各ポータルサイトやECモールにASP提供し、自社の会員を獲得して「BIDDERS」ブランドの価値を高めている戦略に近い。これらの点を踏まえると、EC-watchのビジネスはBtoC 、BtoB の枠組みに収まらない、ユーザーとショップの狭間で、有機的に利益を生み出す仕組みと言えよう。
「現状、コンテンツ(システム)提供依頼の引き合いも予想以上に好調で、ショッピングモールや商品情報サイトと具体的な話を進めており、今年度の売上高についても全体的には当初の予定通りです」(手嶋氏)
●今後はEC-watch認定マークをブランドに
その他にEC-Watchの価値を高めるプランとしては、認定マークの導入も検討している。現状のサイトではユーザーの5段階の総合評価による“ザガットサーベイ”的な評価となっているが、今後はEC-watch自身の客観的な指標に基づく“ミシュラン”的な評価軸を設定し、その双方を合わせたものとしてEC-watch認定マークを確立させたい考えだ。客観的な指標を設定すると、EC-watchとショップとの間に一種の緊張関係が生じるかと思われるが、「これまでにユーザーに支持されてきたサイトEC-watchが設定した評価軸であれば、ショップからも支持されます」と手嶋氏は自信を覗かせている。ただ、定量的評価において最も需要となるのが指標軸ならびにベンチマークであるが、その部分については現在準備中とのことである。
EC-watch認定マークの意図としては、次のように語っている。
「リアルのお店では人気のある店に行列が出来ていたりしますが、ネット上でもEC-watchが発行する認定マークがその行列(人気度)を示すものにしたいと思います。ショピングモール内においては人気のあるテナントが集まり、人気のないテナントが退去する、というモールという場が発展する流れを創るマークとして位置付けていきます。渋谷の109が人気のある店舗を誘致し、人気が無くなってきた店舗を退去させるのと同じことです」(手嶋氏)
●会社経営における今後の課題は?
現在、25歳という若さの手嶋氏であるが、「失敗しても恐いものがありませんし、何でもチャレンジできる時にマネジメントができるのは非常に良い経験です。また、これまでも自分を厳しい環境に置けば置くほど、向上させることができます」(手嶋氏)という考えの下に仕事を続けている。
「失敗しても恐いものがない」と言えるあたりが若い社長らしいコメントであり、今後の展開が楽しみである。従業員は6名程(社員3名、派遣スタッフ3名)で平均年齢も20代後半と若く、価値観を共有できる仲間意識をコンピタンスと考えている。リソース不足も懸念されるところだが、「現時点で急激に人を増やす予定はないです。間接部門やシステム運用部分は、メンバーズにアウトソースしていますので、社内リソースは、プランニング機能に特化させます」(手嶋氏)という方針である。
また、営業リソースの確保も重要なファクターだ。EC-watchのサービス内容を高めるためには、ユーザーにとって役に立つコメントの収集とショップとの良好な関係がカギとなってくるからである。
「営業においては、メールマガジンや店長向けHPというオンラインのチャネルと、Face to Faceの営業の双方を活用しています。実際に出向くショップは、1万5千店舗の中から優良店を選定し、彼らを中心に訪ねていくという方法で効率化を図っています」(手嶋氏)
ただし収益の拡大を計るためには、ネットワークの活用や現状のリソースでは限界があるのも事実だろう。メンバーズへうまくアウトソースしながらも、ビジネス的には自立していくことが今後の課題と言えよう。
●EC市場へのメッセージ
最後に今後のEC市場について手嶋氏に語ってもらった。
「失敗しても恐いものがない」と言えるあたりが若い社長らしいコメントであり、今後の展開が楽しみである。従業員は6名程(社員3名、派遣スタッフ3名)で平均年齢も20代後半と若く、価値観を共有できる仲間意識をコンピタンスと考えている。リソース不足も懸念されるところだが、「現時点で急激に人を増やす予定はないです。間接部門やシステム運用部分は、メンバーズにアウトソースしていますので、社内リソースは、プランニング機能に特化させます」(手嶋氏)という方針である。
「現在メディアでは、BtoCのECは冷え込んでいるという消極的な見方がされていますが、長期的に見れば、まだまだBtoCも伸びる余地があります。オンラインショッピングを利用しているユーザーはまだ一部という感じですし、初めてオンラインショッピングを経験した人の新鮮な驚きを示すコメントを読むと、まだ伸びるという確信が得られます。今後、更にオンラインショッピングを発展させるためには、リアルのショップで行われている顧客へのサービスレベル(即レスポンス等)をクリアし、オンライン購入の良さ、メリットをユーザーに対して訴求していくことが重要となります」(手嶋氏)
EC-watchのサービスを通じて分かるように、ガイド・比較評価ビジネスは、ユーザ ー、評価対象企業/サービスに対してサポート、情報提供の役割を担っている。その点においてBtoCとB to B双方のビジネスを展開できるサービス形態と言えるだろう。また、ガイド・比較評価としては定量・客観的な基準だけではなく、独自の視点にも付加価値があることが分かった。
インターネットの良さの一つはユーザーの意見が反映されやすいということである。そのユーザーからの多くの意見(口コミ)を取込んでいるショッピングガイドという点がEC-watchの強みである。今後、国内外で多数のガイド・比較評価ビジネスが立ち上がり、さまざまな切り口が登場すると予想されるが、ユーザーの視点に立った評価・ガイドというのは一つの潮流となるのだろう。
(2000/12/07)
[Reported by FrontLine.JP / コンサルティングチーム]