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【連載】

ネットビジネス 日本からの挑戦

第19回:オンライン・マーケティング・リサーチ
――生活者情報をマスメディアに発信、インフォプラント

http://www.info-plant.co.jp/

 米国では、西海岸の「シリコンバレー」、東海岸の「シリコンアレー」などから注目のIT関連のスタートアップ企業が登場しています。そして、今日本でも「ビットバレー」が話題になるなど、さまざまなインターネット関連のベンチャー企業が注目を集めています。この連載では、渋谷周辺のみならず日本全国から、新事業を創造する、まだあまり知られていない企業をピックアップし紹介します。(編集部)


 

 既存のマスメディアを利用したコミュニケーションにおいては、情報の流れは情報発信側から受信側(視聴者)への一方方向に限られていた。この従来の情報流通の構図を一変させたインターネットの登場は、情報の発信側と受信側の垣根を取り払い、インタラクティブなコミュニケーションを実現させた。

 このようなインターネットによる情報流通はすでに我々の生活シーンの一部となっており、日経BP社「インターネット視聴率センター」の調査では、テレビを「ながら視聴」しつつインターネットを利用するユーザは40%に上るという報告もある。一方で、「もしテレビとインターネットのどちらか1つをあきらめなければならないならば、テレビをあきらめる」と、米国人のうち3分の1が回答した(米Arbitron/Edison Media Research)との調査結果が公表されるなど、インターネットとマスメディアはしばしば対比関係にあるものとして扱われる。

大谷真樹社長
大谷真樹社長

 また、マスメディア側では、もはやインターネットの影響力を無視できなくなっており、テスト的なインターネット放送やホームページからのリクエスト受付など、インターネットの活用方法を模索している。

 そのような中、株式会社インフォプラント(東京新宿区、大谷真樹社長)では、マスメディアとインターネット双方の特性を効果的に活用したユニークなサービスを展開している。マスメディアとインターネットを対比させて考える従来の発想から一歩抜け出した概念「Cメディア」は、マスメディアや社会に向けて生活者情報を発信する新しいメディアであり、これこそが同社のビジネスモデルを端的に表しているという。

 

●Cメディアが目指す方向性

 同社が提唱する「Cメディア」とは、マスメディアや社会に向けて生活者情報を発信するという新しいメディアである。「C」とは生活者「市民:Citizen、消費者:Consumer」を指すという。

 従来、一方的に大衆に向けて情報を発信するだけであったマスメディアにおいても、インターネットの登場により、視聴者とインタラクティブに情報交換できる機会が設けられるようになってきた。だが、そのほとんどは、電話やFaxによる既存の情報流通の仕組みにインターネットという選択肢を加えただけのものであり、あくまで発信者主導の活用方法に過ぎない。

 「Cメディア」が目指す方向は、それらとは根本的に異なるものである。生活者サイドのポジションに立って生活者の声を集め、従来のマスメディアも含めた社会全体に向けて生活者情報を発信するメディアを目指しているのだ。そして、マスメディアから発信されたその情報を受け取った生活者の声を再度、Cメディアにフィードバックできるスキームとなっている。

 マスメディア、インターネット、消費者の融合を実現しようというビジネスモデルなのである。インフォプラントという社名は、「Cメディア」で発信するインフォメーションを創り出す工場であることに由来している。

 

●インフォプラント誕生の背景

 インターネットとマスメディアを絡めた生活者情報メディアを構築しようとしているインフォプラントであるが、その誕生には、大谷氏のTV業界での職務経験が大きく影響している。

 大谷氏は以前、NECで流通サービス業のシステム化に取組んでいたが、1993年、TV制作会社に転職、主にフジテレビの報道センターにて番組制作活動をしていた。その時にTV業界のあまりの労働集約的な現場に驚き、疑問を呈していた。その後、1996年7月にTV報道・ドキュメンタリー番組の企画・制作を行なう会社(インフォプラントの前身)を設立して制作活動を続ける傍ら、ちょうど普及し始めたインターネットを利用することでTV業界における労働環境を改善できるのではないかという考えに到った。

 「メディア業界の裏方にいたのでメディア制作現場のニーズが見えたんです。ビジネスモデルは現場から生まれますからね。また、番組制作会社はTV局を頂点にした縦社会の底辺にいて、そこからなかなか脱却出来ない。であれば、横に飛び出して、これまでの『怨念』を持って、労働集約型の構造自体を変えてやろうと思ったのです」(大谷氏)

 TV制作現場では、徹夜作業は当たり前であり、ひたすら頑張ることは美しいといった体育会系的なノリがある。例えば、現場担当者が夜中に翌日の番組向けの情報収集を行なう際、何本もの電話を掛けて友達の友達の伝を頼ることは日常茶飯事である。
 そこで現場の負担を軽減すべく、1998年7月からメディア向けリサーチならびに情報提供サービスを行なうようになった。インターネットを利用することで、制作現場が抱える悩みの一つを解決しようとしたのである。当初は営業マンを設けず、制作現場に不可欠な付箋紙やボールペン、マグネットにインフォプラントの連絡先が印字されたものが営業マン代わりだった。
 その後も番組制作と並行して、このサービスを提供していた。しかし1999年に入り、大谷氏が米国出張中にケガを患い、日々の業務から離れて思考の時間を得た際に、確固たるビジネスモデルが必要だという考えに達した。その結果、同年10月よりメディア向けリサーチならびに情報提供サービスの本格的な事業展開が進められた。


●メディア向けサービス(mp@ckTM)と企業向けサービス(DTR、dp@ckTM

 インフォプラントが提供するメディア向けサービスの代表的なものは、TV・雑誌などの制作現場向けのアンケート調査、モニター募集である。このサービスは「mp@ck(エムパック)」シリーズとして商品化されている。特徴は24時間受付対応で、アンケート開始後・集計・納品まで24時間以内、かつ基本パッケージ料金は5万円(10問100サンプル)という速さと低コストであることだ。

 このサービス内容も現場のニーズに基づいたものであり、制作現場は24時間稼動し急いでいること、費用も制作現場担当者の独自決裁で済む金額(5万円)から導き出した。

 企業向けサービスにおいても、mp@ckシリーズと同様のサービス「dp@ckTM」を展開している。mp@ckと異なるサービスラインアップとしては、「DTRTM(デスクトップリサーチ)」シリーズの「DTRdirect」というASP方式のサービスがある。これは、インフォプラント側でのパネラーやアンケート設定・集計サービスを利用せず、企業担当者が自由にインフォプラントのシステムを使ってアンケート調査が実施可能なサービスである。

 現在では、メディア向けならびに企業向けサービスを合わせて、1,000ユーザー以上からのリピート受注がある。受注件数は平日の方が多く、1日に10数件、週末は1日に4、5件ということだ。売上は月商約4,000万円となっており、その内訳はmp@ckシリーズ1/3、DTRシリーズ2/3である。

 昨年度決算は赤字だったものの、mp@ckシリーズならびにDTR、dp@ckシリーズにおいて、事業単体では黒字化している。赤字になった理由は戦略的先行投資(システムならびに人員強化、宣伝費)のためであり、今年度に従来のランニングコストに戻せば、黒字になる予定である。

 

●サービス展開における強みは「低コスト&スピード」と「業界人脈」

 インフォプラントの強みの一つは調査実施における低コストとスピードにある。5万円からの料金設定はTV制作現場のニーズに応えるためだが、「スピード」は番組制作者だけでなく、企業にとっても大事なポイントとなる。

 「この前もNTTさんのLモードに関する調査を行ない、翌日にはコンシューマーの声をフィードバックしました」(大谷氏)

 この一件のように、世論を騒がせているニュースについて、消費者の意見を翌日までに収集できることは、サービスインの是非や時期を早急に検討したい企業にとっては有り難いことである。
 インターネット業界は技術や流行ブランドの移り変わりが激しいため、企業側は消費者のニーズをいち早くキャッチし、きちんと耳を傾けながら開発していく必要がある。今現在の消費者の意見を1~2か月後に知ったのでは、手遅れのこともありえるだろう。
 インフォプラントはメディア向けリサーチや情報提供サービスにおいて、ほぼ独占的にTV局や番組制作会社を顧客として囲い込んでいる。この背景にはメディア業界独特の商慣習と口コミパワー、そして大谷氏の持つ業界人脈がある。メディア業界は新参者に対する参入障壁が高く、特殊なビジネス文化が残っている。

 「メディア向けのオンラインリサーチサービスを開始した時も、フジテレビを手始めに、その後は徐々に口コミで他局スタッフの間に広まっていきました。『何だか、大谷が変なことを始めたらしい。でも、便利そうだぞ』というように。そして、一度良好な取引関係が築かれると、他の同業他社がその間に入り込むのは至難の業です」(大谷氏)

 mp@ckは平均売上単価が5万円と低く、数を売る必要はあるものの、メディア業界を顧客として囲い込んでいるインフォプラントにとっては、安定した収入源と言えるだろう。


●インフォプラントのコアコンピタンスは良質なパネラーの存在

 メディア向けアンケート調査や企業向け調査にしても、その結果内容において重要になってくるのが、アンケート回答者となるパネラーの存在である。現在インフォプラントには7万人以上のパネラーが登録していて、その属性は、男性37.4%、女性62.6%、年齢層は、10代9.5%、20代39.3%、30代35.9%、40代10.1%となっている。(2001年1月現在)

 「パネラーの維持において大事なことは『量』より、むしろ『質』です」(大谷氏)

 そのため、むやみに懸賞サイトやポータルサイトと連携することはせず、既存パネラーの口コミや紹介などでパネラーを増やしている。

 「パネラーの質を維持するために、クレームや要望を聞く専属チームを社内に設けていて、先日も約3,000人のパネラーを退会させました」(大谷氏)

 パネラーに対するインセンティブは低い設定(1回アンケート回答で50円程度)になっているが、金銭的インセンティブが低いにも関わらず、良質なパネラーを維持できるのはどうしてだろうか?

 「当初パネラーを募集する際に『サイバーメディア特派員』という名目で募集しました。『メディアに参加できますよ!自分の1票が直接メディアに反映されます!』といったメディアとの連動性を訴求したんです」(大谷氏)

 メディア向けのリサーチ、例えば良く飲むビール銘柄アンケートにパネラーが回答した場合、数日後には自分の1票が加わったアンケート結果をマスメディア内において確認するチャンスがある。その際に自分がマスメディアに参加しているという精神的インセンティブを感じることができ、その魅力のもとにパネラーは参加意識を持ち続ける。その結果、インフォプラントはパネラーの質もアクティビティも高く維持できるという訳だ。
 インフォプラントのパネラーは、マスメディアとの有機的なつながりにより参加機会が多い。この点が他のオンラインアンケート調査会社のパネラーと異なる部分であり、差別化ポイントであると言える。
 インフォプラントでは、このように自社のコアコンピタンスが確立した後には、その他の部分を一切社内に持たない方針である。その他サービス展開に必要な機能はアライアンスで補完する。
 生活者情報の分析などノウハウは三和総合研究所と、パネラーに対するインセンティブ機能の向上においてはビーンズドットコム、JCB、DCカードと提携している。

 「アライアンスを組むためには、適切なタイミングで明確な経営判断を下す必要があり、スピード感覚が重要です。タイミングを見誤ると命取りになるケースもありえます」(大谷氏)

 

●今後のビジネス展開の方向性

 今後のビジネス展開方針としては大きく分けて3つある。

オフィス風景
オフィス風景

 まず一つ目は、パネラーのカバレッジの拡大である。今後は数百万のリーチ力を持つポータルサイトと提携し、mp@ckシリーズのパネラーを増やす予定である。より多くの母数を持つことでカバレッジを広げ、参加型コミュニティを形成する考えである。ただし、100万人規模のマーケティング情報をコントロールすることは不可能なため、上記コミュニティからスクリーニングすることで、企業向けアンケート調査(DTRシリーズ)の目的に応じたパネラー(オピニオンリーダー、フォロワー層等)を抽出する仕組みを作っていく。

 二つ目は、海外展開によるマーケットの拡大である。1999年夏より海外展開に着手し始め、現地企業とのアライアンスあるいは合弁でオランダ、韓国、台湾、中国、インドに進出している。現在は売上よりもサービスの立上げを最優先にしており、特にアジアにおいては、その地域のコンシューマの声を収集できることにメリットを置いている。

 オフィスの壁の一部が大きな世界地図になっていたのを見ると、大谷氏のCメディアとしての日本発世界への挑戦は始まったばかりで、今後の展開が楽しみである。

 「インドなどは、独特の身分制度や文化が存在するため敬遠する日系企業が多いけれど、人口10億人のうち1億人はかなりの裕福層であるし、英国統治下時代の影響もあってか、中国よりもサービス展開しやすいのではないかと考えています」(大谷氏)

 三つ目は、独自調査部分を充実させ、将来Cメディアの中核となる「C-NEWS」(生活者情報)を展開していくことである。

 「オンラインマーケティング調査の流行やDTRシリーズの好調さによって、短期的視点においてはインフォプラントはオンラインリサーチ会社のように見えます。しかし、中長期的には、生活者サイドに立ったC-NEWSを配信し、インフォプラント自身が次世代の通信社になることを目指しています」(大谷氏)

 生活者情報の配信メディアはありそうだが、まだ社会的に十分に認知されているメディアがあるとは言えない。大谷氏の頭の中では、金融情報ならばブルームバーク、生活者情報ならばインフォプラントという将来像を描いている。
 そのために、今後力を入れていきたいサービス分野が「独自調査」である。インフォプラントのコンセプト「Cメディア」のブランドを構築し、調査を超えた高付加価値ニュースを配信していく予定である。生活者向けのニュース配信においては安価で提供し、企業や既存メディアに対しては年間契約などを結び、その時の「適性」価格で提供することを考えている。 その前段階として、インターネットに特化したニュースサイト「japan.internet.com」(運営:インターネットコム株式会社)と提携し、月曜~金曜まで日々のトピックニュースに関する調査結果を提供している。現在、調査企画はインターネットコムで行われ、調査実施はインフォプラントという役割分担になっているが、今後徐々にアライアンス先を増やすことで、生活者のニーズや意見の仮説検証を行える場としてのインフォプラントの価値を高めて行く。

 

●インフォプラントが目指す姿とは?

 ネットビジネスとしてインフォプラントが目指す姿を尋ねたところ、このような答えが返って来た。

 「ネットビジネスではないのです。インフォプラントはあくまでも新しいサービス、産業の創造を目指し、業界の変革にインターネットを使っているだけです。個人的に、ネット上だけで完結しているビジネスモデルは5年後、10年後のイメージができないんです。インフォプラントにおいては、5年先に新しい通信社として認知され、10年先には『生活者情報はCメディア』と言われるようなグローバルな存在にしていきたいと思っています」(大谷氏)

 メディア先進国であるアメリカにおいても、リアルタイムに投票集計できるサービスはあるものの、システムがあるだけで、マスメディアに情報提供している通信社はない。

 「インフォプラントが生活者情報の通信社としてメディアと連動している点がユニークだとすれば、それを日本発のビジネスモデルとして乗り込んでみたい。これこそ“日本からの挑戦”って感じですね」(大谷氏)

 ネットバブルが弾けた今、ネットビジネスではリアルとの融合が、リアルワールドのビジネスではネットとの融合が今後の成功を左右するポイントだと考えられる。そのような中、ネットを利用してサイバースペース上に生活者のコミュニティを形成し、その情報をマスメディア、企業向け(リアルワールド)に配信し、その情報を受け取った生活者の声をまたフィードバックするという、まさに新しい通信社ビジネスを構築しようとしているインフォプラントの今後が楽しみである。

(2000/2/15)

[Reported by FrontLine.JP / コンサルティングチーム]


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