表外漢字字体表とJIS文字コードの対応表 凡例

作成日/2001年6月21日
作成者/小形克宏

※この対応表は、規格票の例示字体としても使われている平成明朝を使用可能なシステムを前提にしている。ただし、現在流通しているごくポピュラーな明朝体を使えば、おおよそのところは変わらないであろうと思われる。ただしよくデザイン差のあらわれる“牙”や筆押さえの有無などについては、かなり違ってくるだろう。また『表外漢字字体表』を手元において比較することも前提としている。この対応表だけで何かを判断しないで欲しい。


◎それぞれの欄の見方
[字体表番号]……[83JIS字体]に対応する字体表番号。

[83JIS字体]……表外漢字字体表の字体に、もっとも近い字形を平成明朝で掲出した。

[印刷標準字体]
← ………83JIS字体欄と表外漢字字体表が同一であることをしめす。(815字)
78 ………アドビシステムズ字体切り換え*の、「78JIS」で表外漢字字体表そのもののが表示可能。(128字)
78'………「78JIS」で表示される字体が、表外漢字字体表とごく微細なデザイン差があるもの。(8字)
Exp………アドビシステムズ字体切り換えの、「Expert」で表外漢字字体表そのもののが表示可能。(12字)
Exp' ……「Expert」で表示される字体が、表外漢字字体表と微細なデザイン差があるもの。(4字)
♪ ………なんらかの理由で、表外漢字字体表そのもののは表示不能。理由は[JIS X 0208での対応]を参照。(53字)

上記以外の“-”で区切られた数字を掲出しているものは、JIS X 0208で表現不可能な字体であり、これはJIS X 0213における面区点位置を掲出している。(2字)

[簡易慣用字体]……表外漢字字体表にある簡易慣用字体22字について、83JIS字体と同じものは“←”で(15字)、別の符号位置をあたえられている字体はそのものを(6字)、0213に収録されているものは面区点位置をしめした(1字)。

[備考欄表示]……表外漢字字体表の備考欄に掲げられているデータのうち、文字コードに関連すると思われるデータ(デザイン差、3部首許容等)のみを転載した。

[互換規準]……JIS X 0208「6.6.4 過去の規格との互換性を維持するための包摂規準」(略称・互換規準)にあげられている字体を“★”でしめした。これはすべてが表外漢字字体表に収録されている。(29字)

[人名略字]……1990年10月20日の法務省民事局長通達「氏又は名の記載に用いる文字の取扱いに関する通達等の整理について」(民二第5200号、1994年に民二7005号として改正)の別表2「通用字体に準じて整理した字体表」の文字について、表外漢字字体表での対応を以下の記号でしめした。ただし、この別表2には140文字が採録されているが、表外漢字字体表では[穐][廠][砺]は除外されているので、この欄で掲出しているのは全137文字となる。
●……カッコ内の康煕字典体**が印刷標準字体として収録されたもの。(119字)
▲……カッコ外の略字体が簡易慣用字体として収録されたもの。(15字)
◎……カッコ外の略字体が印刷標準字体として収録されたもの。(2字)
×……いずれとも違う字体が印刷標準字体として収録されたもの。(1字)

[83JIS入れ換え]……83改正時に第1水準と第2水準で符号位置を入れ換えられた22組44文字のうち、表外漢字字体表には19文字が収録されている。該当するものを“◆”でしめした。

[その他注意点]……その他、表外漢字字体表とJIS文字コードを考えるうえで必要と思われる注記。

[印標/例示の相違点]……表外漢字字体表の印刷標準字体から見た、JIS規格票の例示字体との違いを説明した。違いのないものは空白のままだ。

[印標/例示の比較結果]……表外漢字字体表からJIS規格票の例示字体を比較した結果をしめした。
違いなし……845字
違いなし(簡易慣用字体は78JIS字体)……1字
表外漢字字体表では、現に用いている場合は変更を求めず……28字
表外漢字字体表では字体の差……74字
表外漢字字体表では字体差ではなくデザインの差/1~3……36字
表外漢字字体表では字体差ではなくデザインの差/4-A……23字
表外漢字字体表では字体差ではなくデザインの差/4-B……13字
表外漢字字体表では字体差ではなくデザインの差/4-C……2字

[JISから見た問題点]……上記2項目は表外漢字字体表→JISの視点であるのに対して、この項目はJIS→表外漢字字体表だ。
印刷標準字体と例示字体が同じで、問題は少ない……729字
印刷標準字体と例示字体が同じで、デザイン差マークあり……47字
印刷標準字体と例示字体が同じで、個別デザイン差マークがある……4字
印刷標準字体と例示字体が同じで、3部首許容……13字
印刷標準字体と例示字体の違いがデザイン差だけ……67字
印刷標準字体と例示字体が同じかデザイン差のみだが、83JISで入れ換えた……17字
印刷標準字体と例示字体の違いがデザイン差のみで,区点位置の入れ替えに関わり,個別デザイン差にも関わる……1字
印刷標準字体と簡易慣用字体がともにX0208にあり例示字体も同一であるもの……5字
印刷標準字体と簡易慣用字体がともにX0208にあるが、簡易慣用字体にデザイン差あり……1字
印刷標準字体と例示字体の字体差が3部首だけ……27字
印刷標準字体と例示字体の字体差が0208、0213、0221で包摂……70字
印刷標準字体と簡易慣用字体の違いが0208(97JIS)で包摂されている……15字
印刷標準字体が0213にあるか、0208互換規準……17字
0221と0208/0213の間で印刷標準字体を表す符号位置に異同が出てしまう……6字
印刷標準字体が0208にはない……1字
簡易慣用字体が0208にはない……1字
印刷標準字体が0208にはなく、0221と0208/0213との間で符号位置に異同が出る(個別デザイン差もふくむ)……1字


◎補注
* …… アドビシステムズのIllustrator ver.5.5(Macintosh版)以降か、InDesignに実装されている。
**……この別表2では、“いわゆる”抜きの単なる“康煕字典体”と表記してある。真意がどこにあるかはわからない。


◎2001年6月6日公開版との違い
・データの精度向上……見落としていた靄、蟹、棘、膏、楯、橙、徘の改刻を反映した。また、明らかなものは省略していた表外漢字字体表と規格票例示字体との違いを、[印標/例示の相違点]欄ですべて記入した。[JISから見た問題点]欄の新設を除けば、前バージョンからのデータ追加はこれらだけで、あとは表現や分類を見直しただけだ。

・項目の見直し……以下のように表外漢字字体表から見た視点と、JIS漢字コードから見た視点を区別するため、項目を見直した。また、これに伴いデータ内容を〈問題なし〉などから、より立脚点が明確になる〈違いなし〉などに変えた。
- 83JISでの符号位置の入れ換えを考慮に入れないと、JIS漢字コードの対応は検討できない。このため[83JIS入れ換え]欄を新設した。
- [JIS文字コードでの対応]欄を、[その他注意点]と[印標/例示の比較結果]に分離した。
- [注意点]欄を[印標/例示の相違点]に名称変更した。
- [JISから見た問題点]欄を新設した。


◎この表の見方
この表で一番注目されるべきは、やはり[JISから見た問題点]欄だろう。なぜなら、ここでされている分類によってJIS漢字コードの対応方法が分かれるからだ。そこで、この欄の分類について説明する。ただし、ここでの思考結果は私のものであり、必ずしも現実のJCS委員会の審議内容を反映するものではない。

・印刷標準字体と例示字体が同じで、問題は少ない……729字
一番問題が少ないと考えられるグループであり、また文字数も多い。しかし、表外漢字字体表の『字体の違いとデザインの違い』は、あくまでも『字体表』にある1,022文字を対象に作られたものだ。したがって、これをそのままJIS X 0208の6,879文字や、JIS X 0213をふくめた11,223文字に適用することはできない。〈問題が少ない〉とはそういう意味だ。JIS漢字コードの包摂規準すべてを表外漢字字体表に当てはめチェックしていった際に、これらの文字に問題が発生する可能性は十分にある。

・印刷標準字体と例示字体が同じで、デザイン差マークあり……47字
このグループではデザイン差のマークが付されている。だから表外漢字字体表でデザイン差とされた字体までをふくめて、包摂規準との整合性をチェックしなければならないだろう。

・印刷標準字体と例示字体が同じで、個別デザイン差マークがある……4字
個別デザイン差(4-C)とされた字体が、じつは厄介な問題を内包しており、それぞれ個別に以下の4パターンに分かれる。
卉(167番)…… *付きの字体がISO/IEC 10646のExtention-Bにある。
荊(242番)…… *付きの字体が78字体でJIS X 0221の8346。
稽(251番)…… *付きの字体が78字体だがJIS X 0221では包摂。
腔(312番)…… *付きの字体もJIS X 0208/JIS X 0213では包摂。

・印刷標準字体と例示字体が同じで、3部首許容……13字
例示字体が“いわゆる康煕字典体”通りではあるが、3部首許容である食偏、示偏、しんにょうを持っているグループ。JIS漢字コードがこの3部首にどのように対応するかで、このグループの扱いは変わってくるだろう。

・印刷標準字体と例示字体の違いがデザイン差だけ……67字
両者の違いがJIS漢字コードの包摂規準内にあるのはもちろん、表外漢字字体表でもデザイン差の範囲内であるグループ。違いが微細であるだけに、もしこのグループを表外漢字字体表どおりに直すと、フォントベンダーも自社フォントを直し、結果として混乱がおきかねない。この事態を“避けるべき混乱”と考えるか“好ましい収束”と考えるか、違いが小さいだけに見識が問われるところだろう。

・印刷標準字体と例示字体が同じかデザイン差のみだが、83JISで入れ換えた……17字
上記項目と同じだが、83JISで入れ換えたもの。大型機など78JISのままの実装をしているシステムでは問題になるだろう。

・印刷標準字体と例示字体の違いがデザイン差のみで,区点位置の入れ替えに関わり,個別デザイン差にも関わる……1字
字体表517番の「靱」(区点80-55)は、例示字体との違いは筆押さえだけ(78字体)だが、83JISで「靭」(区点31-57)と入れ換えられた過去をもっている。そして個別デザイン差として包摂規準内だが例示字体にはない字体を掲出されている。ちなみにJIS X 0208にある2つめの異体字「靫」(区点80-54)の扱いは、表外漢字字体表にはしめされていない。

・印刷標準字体と簡易慣用字体がともにX0208にあり、例示字体も同一であるもの……5字
簡易慣用字体の扱いを考えるうえでは、おそらく一番問題が少ないとおもわれるグループ。

・印刷標準字体と簡易慣用字体がともにX0208にあるが、簡易慣用字体にデザイン差あり……1字
字体表997番は、印刷標準字体「蘆」は例示字体と同一だが、簡易慣用字体「芦」は現行規格とは違う78字体がしめされている。

・印刷標準字体と例示字体の字体差が3部首だけ……27字
例示字体が、表外漢字字体表の許容する略字体の3部首を採用しているグループ。規格票で“現に印刷文字として用いている”のだから、許容されると考えることも可能だが……さてどうするか。

・印刷標準字体と例示字体の字体差が0208、0213、0221で包摂……70字
表外漢字字体表では“字体の差”とされているが、JIS X 0208、JIS X 0213、JIS X 0221の包摂規準の範囲内であるもの。包摂規準内だから例示字体を変更しても矛盾はないが、実際にこれをすれば、過去の規格と間で「字が変わった」という声が出かねない。それにしても包摂規準とは、いったい何なのだろう? もし私が恐れるとおり“混乱”がおこるのなら、それは今までの包摂規準が現実と矛盾していたことになる。表外漢字字体表はパンドラの箱を開けたということか……。

・印刷標準字体と簡易慣用字体の違いが0208(97JIS)で包摂されている……15字
JIS X 0208では印刷標準字体と簡易慣用字体が包摂規準の範囲内におさまってしまうグループ。両者を使い分けようとすればJIS X 0208の変更が必要となる。ただしこのうち、JIS X 0213に印刷標準字体が収録されている12字は、互換規準そのものを撤廃することで対応が可能になる。そしてこれは既定の方針でもある。“0208(97JIS)”と持って回った表現をしている所以だ。つまり厄介なのは残り3字の[痩、屏、并]だけだが、これら全てが“JIS X 0208が表外字体案に対応すると、JIS X 0221との変換表作成に問題が出そうな文字”( http://www.watch.impress.co.jp/internet/www/column/ogata/special9.htm )に入っており、これはこれで別の大問題をはらんでいる。

・印刷標準字体が0213にあるか、0208互換規準……17字
上記項目に入らなかったJIS X 0208の互換規準にある文字。印刷標準字体はすべてJIS X 0213に収録ずみなので、互換規準を撤廃することで対応は可能。逆に言えば、互換規準を撤廃しないと対応はできないことになるのだが……。

・0221と0208/0213の間で印刷標準字体を表わす符号位置に異同が出てしまう……6字
例示字体を印刷標準字体に揃えると、JIS X 0221「原規格分離漢字の取扱い規則」(詳細は規格票p.883以降を参照)に抵触し、JIS X 0208とJIS X 0221(=ISO/IEC 10646≒Unicode)との変換表に異同が出てしまう。詳しくは“JIS X 0208が表外字体案に対応すると、JIS X 0221との変換表作成に問題が出そうな文字”( http://www.watch.impress.co.jp/internet/www/column/ogata/special9.htm )を参照してほしい。

・印刷標準字体が0208にはない……1字
印刷標準字体をJIS X 0208で表現することができないもの。ただしJIS X 0213には収録ずみ。

・簡易慣用字体が0208にはない……1字
簡易慣用字体をJIS X 0208で表現することができないもの。ただしJIS X 0213には収録ずみ。

・印刷標準字体が0208にはなく、0221と0208/0213との間で符号位置に異同が出る(個別デザイン差もふくむ)……1字
印刷標準字体そのものはJIS X 0208で包摂外だが、個別デザイン差とされた[臈]は区点71-37にある。一方で印刷標準字体そのものがJIS X 0213に収録されている。そして、JIS X 0221にはこの両方がすでに収録されている。結果的にJIS X 0208だけで印刷標準字体に対応しようとすれば、JIS X 0221との変換表に異同が出ることになる。JIS X 0213をふくめて考えれば支障はないとも言えるし、この字体があるからこそ、JIS X 0213をふくめないと対応は不可能とも言える。

いずれにせよ、上記[JISから見た問題点]を検討することで、現在のJCS委員会が直面している問題が、3次元のクロスワードパズルを解く複雑怪奇さと等しく、そのくせ考えられる選択肢は膨大で、一歩足を踏みはずせば世に大混乱を巻き起こしかねない危うさを孕んでいることがお分かりいただけると思う。
現在の私には、多かれ少なかれ混乱なしで表外漢字字体表に対応する方法を考えつくことができない。最良の選択は“対応しないこと”だが、人事から言ってむずかしかろう。今回の見直しは、現在だけの問題ではなく未来の世代にも重大な影響をあたえる。JCS委員会の責務は重い。心の底から彼らの良識に期待したい。