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【連載】

東海岸インターネットビジネス最前線

第1回:インターネット広告の新ビジネスモデルを切り開く「i-traffic」

 米国でのインターネット業界では、メーカーやソフトハウスの集まった西海岸「シリコンバレー」だけでなく、最近ではコンテンツやビジネス面で東海岸「シリコンアレー」(シリコン通り)が注目を集めています。この連載ではそうしたシリコンアレーから登場していく注目の企業を紹介していきます。(編集部)


オフィスから眺めたソーホー
オフィスから眺めたソーホー

 出版、広告などのメディア業界で優れた人材が集中しているニューヨークの新たな顔、シリコンアレーでは新たなインターネット・ビジネスが続々と生まれつつある。1997年のCoopers & Lybrand(現PricewaterhouseCoopers)の調査によると、大半のシリコンアレー企業がWebサイト・デザイン関連を占めているものの、最近ではマーケティングやソフトウエア開発関連企業が急速に台頭している。インターネットを単なる企業広告や個人の自己紹介ページから、巨大なビジネスの可能性を秘めたメディアに変貌させる原動力になっているのが、これら多くのスタートアップ企業(新興企業)である。

 7月に開催されたインターネット企業の首脳陣が集まった「Rising Tide Summit」では、招待された人物の誰もが「ポータル」という言葉をもはや使わなかったと言われるほど、ニューヨークのインタラクティブ業界の動きは速い。この中でもとくにインターネット広告分野は最先端の分野だが、今回は同分野で設立3年目にしてすでに新たなビジネスモデルを確立した「トラフィック誘導企業」のi-trafficを紹介する。



●ユニークな広告モデルが成功への道

オフィスの風景
オフィスの風景

 「電子商取引(EC)サイトにトラフィックを運ぶ」ことに特化した企業、i-trafficは、2000社を超えるニューヨークのインターネット企業の中でも自社の売上によって支えられ、投資家に依存しない数少ないスタートアップ企業のひとつである。

 同社は、従来型の広告会社ではない。アメリカではもともと、広告企画・制作を行なう広告会社と、「メディアレップ」と言われる広告スペース購入のみに特化した企業との棲み分けが明確であるが、同社はWebでのノウハウを持つメディアレップの草分け的企業だといえる。

 Webはテレビやラジオなどの従来型メディアのようにチャンネル数が制限されていないため、広告主はこれらの無数に存在するWebサイトというチャンネルの中からターゲットとなるユーザー層の集まるサイトを見つけださなくてはならない。クライアントの代わりに、特定のターゲットに応じたサイトグループを作り、これらのグループへ効果的に広告を配置することにより、トラフィック率を飛躍的に増大させることに専念しているのが同社である。また、広告スペース購入以外にも、記事文中へのリンク依頼、検索エンジンへの掲載なども行なっている。

 同社は現在、Disney、CDNow、BellSouth、Hearst New Media、Sports Illustrated、NetGrocerを始めとする多数の大手企業との契約を取り付けており、これらのクライアントから絶大な信頼を得ている。BellSouthとの契約では、同社が取り扱っているバナー広告スペースのコストは1,500~2,000万ドルにものぼると言われている。

 i-trafficでは、契約の金銭的な条件を明らかにしていないが、広告リンクから売上に結びついた額の一定割合を請求するという、通常の広告会社がもっとも敬遠する「売上シェアリング」方式を採用していると言われている。設立2年目の1996年の売上は100万ドルで、投資家なしで利益計上を達成しており、1998年の売上は500万ドルを超えると予測されている。1996年6月時点に16人だった社員も現在では75人を超え、さらに社員を増やしている。



●i-traffic流、リンクの集め方

Scott Heiferman CEO
Scott Heiferman CEO

 1995年4月、若干24歳で同社を設立したScott Heiferman氏は、ソニーのインタラクティブ・マーケティング部門で2年間働いた経験を持つ。同氏は当時、ソニーサイトへのトラフィック率を高めるため、AOLの担当にウォークマンという「賄賂」を送ったという。その後、AOLページの目立つ所にソニーサイトへのリンクが貼られ、トラフィック数は大幅に伸びたという有名なエピソードが残っている。

 トラフィックを増大させるためには、ターゲットのサイトグループへできるだけ多数の露出を行なうが、それでは、具体的にi-trafficではどういう方法を採っているのだろうか。同社では、通常のメディアレップがやっているような「広告スペース購入(Media Buy)」の他、記事文中へのリンク依頼、検索エンジンへの掲載などのさまざまな手段を講じている。


Peter Meluso
Peter Meluso

 同社のChief Service OfficerであるPeter Meluso氏は「我々はiballsとは異なり、Media Buyの他にもさまざまな方法を開発している」と語る。iballsは、Music BoulevardやJ Crewなどの広告を担当しているi-trafficの競合企業。同氏は「検索エンジンのキーワードの広告主になるという方式を考え出したのも、Webサイトの壁紙を広告スポットとして初めて使用したのもi-trafficである」と語る。

 検索エンジンのキーワードの広告主になるという方式は、求める情報と関連した広告を得ることができるので、ユーザーにとっても利益になる。Heiferman氏は「マドンナを検索したユーザーがCDNowのバナーを見ればクリックしたくなるように、ユーザーは自分のニーズに合ったものであれば広告を厭わない。行動プロフィール、サイトグループ別の広告プレースメントを含めた総合的な戦略が、デモグラフィック(ユーザー属性)を知悉したターゲティングの次のレベルだ」と説明する。

 i-trafficはまた、1996年11月のDisney Interactiveの映画「101 Dalmatians(101匹わんちゃん)」のプロモーションで、Webサイトの壁紙を広告スポットとして初めて採用した。犬のイメージを壁紙に使用したプロモーションは大きな話題を呼び、多くのサイトが無料でこの壁紙を使用するなど大成功を収めた。また、多数の映画関連サイトにTシャツや他のインセンティブを与えて、Disneyへのリンクを貼ることも行なった。



●ビジネスはワークセッションから始まる

自由に働く社員
自由に働く社員

 i-trafficがクライアントとビジネスを行なうプロセスはまず、クライアントのビジネスや目標を深く理解するためのワークセッション(打ち合わせ)から始まる。その後、クライアント情報のみではなく、競合企業やランドスケープ(ビジネス分野)情報などを集め、パラメータを決定する。パラメータとは、クライアントのターゲット、広告コスト、ECサイトの注文コスト、提供コストなどの測定基準のことである。

 いったんパラメータが決定されたら、それに最適化したメディア戦略を構築していく。プロモーション開始後は、1週間おきに広告のパフォーマンスを確認し、最適な広告環境を目指して広告プレースメントの計画を変えていく。こうしたモニタリングや新たな広告スペースの探索には、多数のスタッフの力を借りているが、i-trafficでは、片っ端から新たなWebサイトを探してリンク依頼か広告スペースの購入を行なう職種を「リンク救世軍(Link Crusader)」と呼んでいる。ちなみに、モニタリング担当はリンク・アナリスト、社内のシステム管理者は「お抱え神経科医(Resident Neurologist)」と呼ばれている。



●社員へのインセンティブが急成長のカギ

休憩室で一休みをする社員
休憩室で一休みをする社員

 i-trafficの驚異的な成長率のカギはアイデアの斬新さにあるが、新しいアイデアが次々に生まれるクリエイティブな環境は、社員に対する高いインセンティブから来ている。ソーホーの一等地にあるオフィス、若い才能を集める魅力的な給与体系の他にも、同社の90%を社員が所有しているため、社員一人一人に自分の会社だという意識が強い。1996年1月に入社した前述のMeluso氏は「個人のニーズに気を配るi-trafficの企業文化は、他社と違って非常にユニークである。ここで働けるのは非常にエキサイティングだ」と語った。

 オフィスの雰囲気も活気があり、ほとんどが20代という若い社員たちが生き生きと仕事をしている。オフィスは2フロアに分かれており、下のフロアは大型クライアントのCDNow用、そのさらに奥の部屋には全クライアントのトラフィック率や管理データが置かれている企業秘密の「戦争の部屋(War Room)」がある。Meluso氏は「i-trafficには、オン/オフ双方の広告業界での経験を持つ人々が集まっているが、その多くが変化を求めてここにやってきた。かれらの個々の長所を活かして、i-trafficはチームとして最大限の力を発揮している」と語った。



●将来を開拓するi-traffic

Myles Weisslederマーケティング・ディレクター
Myles Weisslederマーケティング・ディレクター

 i-trafficは、もはや小さなスタートアップ企業ではない。今年6月、コンピュータ業界の先導師、Esther Dyson氏からの10万ドルの融資を受け、7月にはiXLやUS Webなどによるi-traffic買収の噂がシリコンアレーを飛び交った。この件に関して、同社のMyles Weisslederマーケティング・ディレクターは「Dyson氏から投資を受けたということは、i-trafficに強力な市場価値をもたらすだろう。我々は独立系企業のユニークな点を重視しているが、戦略的な提携パートナーシップに関しては窓口を開いている。国際市場への進出を容易にしてくれる企業、また西海岸への進出をサポートしてくれる企業との提携は大歓迎である」と語った。

 同社は今年7月、San Francicsco支社を開設するためインターネット広告業界の実力者、Ron Kovas氏を同社に招き入れている。Kovas氏は、AdKnowledgeをインターネット広告管理ツール開発企業の大手に引き上げた人物。i-trafficはまた、国際市場進出に向け、日系企業との提携交渉も行なっているという。Weissleder氏は「現時点で明確なことは言えないが、我々は現在、国際クライアントを獲得するため、日系大手の広告会社との積極的な提携交渉を進めている」と語った。地理的な制約のないインターネットの性質からいって、日系広告会社との提携はi-trafficのノウハウを国際クライアントに提供する大きなビジネスチャンスにつながるだろう。

 今年3月のオンライン食料品店、NetGrocerとの契約、また5月のInternet Shopping Networkのオークションサイト、First Auction Siteとの契約など、i-trafficは快進撃を続けている。Meluso氏は最後に「インターネットは、メディアとして大きな可能性を秘めている。急速に進化しているインターネットと同様、インターネット広告市場の流れも非常に速く、今日構築したものが明日には無意味になることもある。我々はこの分野を文字どおり開拓しているのだ」と語った。


('98/11/13)

[Reported by HIROKO NAGANO, NY]


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