【連載】
米国でのインターネット業界では、メーカーやソフトハウスの集まった西海岸「シリコンバレー」だけでなく、最近ではコンテンツやビジネス面で東海岸「シリコンアレー」(シリコン通り)が注目を集めています。この連載ではそうしたシリコンアレーから登場していく注目の企業を紹介していきます。(編集部)
会長兼CEO |
特定の興味を持った人たちが集まり、チャットや掲示板で情報交換を行なったり自分のホームページを無料で開設したりできるオンラインコミュニティが、現在、注目を浴びている。Lycosは今年初めにBoston本社のオンラインコミュニティであるTripodを買収、今年8月にはYahoo!とExciteもオンラインコミュニティ「Clubs」と「Community」をそれぞれ開設した。Tripodと同様のサービスを提供するTheGlobe.comは先月IPOを果たし、公開価格の605%増(54 1/2ドル)で初日の取引を終了した。同社株価は一時97ドルまで高騰している。
この理由としては、Webユーザーを真の意味で獲得するのは、サーチエンジンのような「通過地点」ではなくユーザーが長時間滞在する「粘り気(Stickiness)」であり、オンラインコミュニティは、まさにこの「Stickiness」を提供することがあげられる。
そのオンラインコミュニティの中でも女性向けナンバー1の人気を誇るのが、シリコンアレーのスタートアップ(新興)企業、iVillageだ。1995年にメディア界のベテラン陣、Candice Carpenter氏、Nancy Evans氏、Robert Levitan氏により設立されて以来、同社は強力なメディア戦略を押し進め、現在では約300万人のメンバー数を誇っている。
アメリカでは、女性Webユーザーが来るべきI-Commerce(オンラインショッピング)の強力な推進力になることが予測されている。今年発表されたJupiter Communicationの調査によると、女性は最大の未開拓Webユーザー市場であり、男性よりも積極的にWebで買い物をし、Webサイトへの忠誠心も高いという。その意味で、iVillageは女性のための最大のポータルサイトとなることが予想されている。競争の激しいシリコンアレー企業の中で、推定1億ドルという最大の投資額を享受するiVillageのビジネス戦略、また将来的な展望を探ってみた。
広報スタッフ |
iVillageでは、子育て、健康、美容、ショッピング、在宅勤務、金融など全部で12種類のコミュニティを提供している。Carpenter氏は、iVillageの目的を「日常生活の中で起こる問題に焦点をあて、それを解決すること」だと語る。「Disneyはファンタジーを与えるけど、それはエスケープ。コミュニティは、多くの女性が抱える身体的、精神的、また財政的な問題の解決を提供する非常にパワフルなツールだといえる」と語った。
コミュニティは、非常に微妙な問題も匿名性のもとにオープンに話し合うことができる。iVillageでは、他の女性サイトが行なっているような型にはまったニュース記事は提供せず、他メンバーとの会話や、専門家によるアドバイス、問題解決に必要な情報データベースを提供する。たとえば、健康チャンネルの「Better Health」に行けば、乳ガンから30代の平均血圧にいたるまで、同じ悩みを解決した人のアドバイスが聞け、役に立つ必要な情報を素早く入手することができる。
広報担当のJason Stell氏は「いつも驚かされるのは、世の中で何が起こっているかが真っ先に分かることだ。以前、(子育てチャンネルの)『Parent Soup』のチャットルームの1つで、7~8歳の子供達を持つ親たちが『子供たちの成長が異常に速く、ティーンエイジャーと変わらない』という会話を交わしていた。その数カ月後に、New York Times紙が同じ内容の記事を大きく発表した。こうしたことは当り前のように起こっている」と語る。
オンラインコミュニティは、1,000人以上のコミュニティリーダーによってトピック別に管理されている。焦点の定まらないチャットが多い中で、iVillageのチャットが効果的なのは、メンバーを問題解決へと適切に導くこれらのコミュニティリーダーによるところが大きい。Stell氏は「コミュニティリーダーはすべて、同じ問題を体験したことのあるメンバーがボランティアでやっているので、皆協力的だ」と語る。Carpenter氏は、iVillageのサイトを表現する際に「Noコンテンツ」という言葉を使う。同氏はその説明として「人々は情報を求めてコンテンツにやってくるけど、その後はそのコンテンツを元にしてインタラクティブに会話をするようになるでしょう? つまり、コンテンツはあくまでコミュニケーションをサポートするもの。つまり、iVillageのコンテンツはインタラクティブ性が含まれていない『古い意味』でのコンテンツではないという意味なの」だそうだ。
同氏は「記事を通した情報提供という従来型のコンテンツ提供は、iVillageの目的ではない」と語り、その例として、Quickenとの共同ブランドによる金融チャンネルの「Armchair Millionaire(肘掛け椅子の億万長者)」をあげた。同社はこのチャンネルで、自らコンテンツを提供する代わりに、金融機関のCharles Schwabと提携して「The Investor Center」というブリッジサイトを設けた。ここで、Charles Schwabは口座開設や証券取引の手順などの投資のための具体的な情報を提供している。Charles Schwabでは、大きな可能性を秘める女性市場に参入するため、この提携でiVillageに400万ドル以上を支払い、さらにプロモーションのために300万ドルを投資しているという。
iVillageの主な収入源は広告とI-Commerceである。広告収入には、バナー、ブリッジサイト、スポンサーシップがある。バナーCPM(Cost per Mill:1,000回表示あたりの広告料)はYahoo!などの大手ポータルサイトの3倍以上の値がつく場合も多々あり、ブリッジサイトとのパッケージではCPMは200ドルになることもあるという。
Carpenter氏は、広告主からの高い評価の理由として、女性にターゲットを絞ったことを第一の理由にあげる。「iVillageは最初ベビーブーマー世代に焦点をあてていたけど、今年5月に『At Work』や『StudentCenter』など性別に関係のない2部門を売却し、女性のみに対象を絞るようにしたの。3兆ドルにのぼる米消費者市場の購入決定権の8割は女性にあり、新たにビジネスを始める人の3分の2も女性。広告主は25~40歳の女性という可能性のある市場で、トピック別に広告を打てるようになったわ」と語る。たとえば、教育関連の企業は、iVillageと共同ブランドの教育チャンネルを開設することで、教育に関心のある女性のみをターゲットにした効果的な広告戦略を行なうことができる。
また、女性は投資する際には男性よりも多くのデータを調査し、専門家の意見を求める傾向があるという。こうしたことから、信頼できる情報を提供してくれる女性向けオンラインコミュニティが、彼女達の将来的なショッピングポータルとなる可能性が高い。
iVillageではメンバーの信頼を確保するために、プライバシー保護のタスクフォースを設立している。「メンバーのプライバシー保護は非常に重要な問題だわ。ニューメディアは従来型メディアと異なり、信用を失ったら即座にメンバーを失ってしまう。広告主には、電子メールなどメンバーの個人的な情報は一切提供していない」と語る。
一方、I-Commerceによる売上は、Amazon.comなどとの売上シェアリングモデル、またベビー用品サイトのiBabyのサイト売上などがあるが、具体的な売上額は公表されていない。
11月30日、米3大TVネットワークの1社であるNBCがiVillageに投資をするという発表が、シリコンアレーを揺るがした。同社へのこれまでの最大投資額はAOLによる3,250万ドルだったが、今回の投資額はそれに匹敵するものと推測されている。この契約は、iVillageをYahoo!やAOLのようなWebの大手ブランドとして大きく躍進させるものとして注目を集めている。
この契約の内容は、NBCチャンネルでiVillageの大々的な広告キャンペーンを行なうことや、NBC.com、NBCが買収したポータルサイト、Snap.comでのiVillageのプロモーションが含まれる。メディアパートナーとしてNBCを選んだ理由として、Carpenter氏は「出版社なども含めて今まで様々なメディア企業と交渉してきたけれど、女性のインターネット普及率が急速に伸びる今後12~18カ月間でブランドを確立するためにはTVがもっとも効果的だという結論に至ったの。インターネットビジネスはスピード勝負よ」と語った。また、NBCはMicrosoftとのMSNBCなど、メディアコンバージェンス(融合)を率先している、女性視聴者が多局に比べて多いなどの理由もあがった。iVillageのCFキャンペーンは来年1月から開始される予定。
一方、Snapに関して、同氏は「初めてWebを訪れた人がすぐに使えるような、インテュイティブ(直感的)で簡単なポータルサイト」と評価する。カウチポテトの感覚でポータルサイトを捉えるSnapは、Webビギナーの女性のニーズにぴったりあてはまる。iVillageでは、Snapのサーチエンジンをネットワーク全体で使用し、共同ブランドによるコンテンツをSnapに提供する予定。
iVillageはNBCとの契約により、押しも押されぬ女性向けオンラインコミュニティのトップの座を獲得したが、今後の課題は安定した収益モデルの確立にあるといえるだろう。オンラインコミュニティの草分け的存在であるThe Wellはメンバー数の減少に苦戦し、The Electric Mindsは8カ月で閉鎖、California州のChannel Aも今年7月に閉鎖しているなど、投資を獲得できなかったオンラインコミュニティは次々と市場から撤退している。iVillage自身も、一時はCarpenter氏個人の銀行預金を使用する状況にまで追いつめられた時期もあったという。
今後は広告収入のみではなく、I-Commerceを含めたさまざまなビジネス戦略が必要になってくるだろう。同社では現在、新たなI-Commerce専門のチャンネルを開設する計画を立てているという。iVillageに投資した企業の多くは、同社が将来的には女性ポータルサイトとしての地位を確立し、売上シェアリングモデルで大きく収益を上げる可能性に賭けている。
また、iVillageでは、同社サイトで提供している子供につける名前のデータベース「Baby Name Finder」の書籍化を行なうなど、メディアコンバージェンスにも力を入れている。同社では、メンバーによるテラバイツ規模の膨大なコンテンツを抱えており、それらをまとめて書籍化することも計画中だという。Carpenter氏は「何のルールもないコンバージェンス分野で、新たなビジネスモデルを切り開いていくことはとてもエキサイティング。放送事業者とインターネットがいかに協力して事業を行なっていくかについても、iVillageがそのルールを作っている。iVillageの名前は、AOLやYahoo!のように家庭に浸透するようになる」と強い決意を語った。
なお、同社は12月11日にIPOの申請を行ない、インターネット銘柄を狙う投資家達の注目の的となった。IPOの日時に関してはまだ明らかにされていないが、予測では来年1月とされている。
('98/12/25)
[Reported by HIROKO NAGANO, NY]