【連載】
米国でのインターネット業界では、メーカーやソフトハウスの集まった西海岸「シリコンバレー」だけでなく、最近ではコンテンツやビジネス面で東海岸「シリコンアレー」(シリコン通り)が注目を集めています。この連載ではそうしたシリコンアレーから登場していく注目の企業を紹介していきます。(編集部)
Technology Companies」の ベストEC企業賞 |
このオンラインショッピング・ブームに乗り、ECサイトの開発・構築を手がける企業が多数登場しているが、その中でもとくにInterWorldはスケーラブルなECソフトウエアを開発する企業として注目を浴びている。設立4年目の同社は、投資王のGeorge Soros氏や、Microsoftの設立者のひとりPaul Allen氏などから総計4,250万ドル以上の投資を受け、「Upside」誌の「1998 Hot 100 Private Technology Companies」のベストEC企業賞も受賞している。InterWorldの創設者のひとり、Michael J. Donahue会長を通して、同社の成功の秘密、また将来の展望を探ってみた。
デベロッパー |
同社の代表製品である「Commerce Exchange」は、とくにB-to-B(ビジネス対ビジネス)やサイバーモールなどの大量のトランザクションを必要とするスケーラブルで包括的なソリューションを提供することで高い評価を受けており、現在、Cybershop International、Electronic Data Systems、J&R Electronics、MicroWarehouse、Ticket.comなどのECサイトに使用されている。Donahue氏は「Commerce Exchangeは、製品のオンラインカタログ化、ディスカウント、販売プロモーション、課税、クレジットカード処理、顧客の口座情報や注文状況確認サービス、製品配送、在庫管理など、ECに必要なすべての業務処理をサポートする」と語る。完全なバックエンド、フロントエンド機能を備える同製品は1996年9月、Gartner Groupと「INFORMATION WEEK」誌の主催による「Internet and Electronic Commerce賞」を受賞し、昨年、米国のB-to-B市場ではすでにOpen Market社の市場シェアを越えたと言われている。
ワークショップを行なう コンピュータルーム |
ニュージャジー州の有名なカジノ街、Atlantic CityにあるTrump Casino Servicesでは、同社のWebサイトを訪れたユーザーの滞在時間や参加したゲームの種類などを分析するために、100%純正JavaベースのBusiness Analyzerを使用しているという。Donahue氏は「非テクノロジー企業を対象にし、プログラミングの知識がない人でも販売形態や顧客に合わせたECシステムを構築できるソリューションを提供することが、我々の目的である」と語った。
また、たとえば日本からアクセスしているユーザーに対しては、製品価格を自動的に円に換算して表示するパーソナライズ機能も備えている。さらに、ユーザー履歴を最大限に反映し、決済や顧客サービスのレベルまで日本のユーザー向けにカスタマイズすることも可能だ。この技術には、Net Perception社のユーザーグループベースの技術を採用しているとのこと。その他、通常の製品は宅配便、デジタル製品はWeb上からダウンロードするなどの送り分けも指定でき、ある製品を注文するとそれに必要な製品も自動的に薦めてくれるなどの細かい設定もできる。
InterWorldでは顧客サービスにとくに力を入れており、Commerce Exchangeの最適な導入のためのプログラムを顧客に提供している。これは、販売サイクル分析、プロジェクト計画/管理、テクノロジー分析、ビジネスデザイン、サイトデザイン/開発、サイトテスティング、実行/評価などの段階を通して、それぞれの企業に合わせたECシステムの構築を短期間で行なうプログラムだ。また、Electronic Data Systems、Andersen Consulting、KPMG Peat Marwickなどと提携してCommerce Exchangeを再販している。
昨年11月には、コマースサービスプロバイダー(CSP)のInterPathが、Commerce Exchangeを使用したECサイトのホスティングサービスを開始した。コンピュータやオフィス用品の小売店であるClub Computerは、これによりわずか11日間で同社のECサイトを立ち上げることができたという。Donahue氏は「多くのECサイトでは、6~8ヶ月もの長い期間をかけて構築したあと、大きな変更はできない。しかし、我々のソフトウエアは素早くシステムを構築できる上、毎月や毎週のようにアップグレードができる」と語る。
孤児院の子供達への プレゼントがオフィスに |
InterWorldを設立した当時は、ブロードウェイ沿いのダウンタウンのビルにオフィスを構え、社員数も15名前後だったが、現在ではハドソン川の近くの巨大なビルに5万平方フィートのオフィスを構え、社員数も250名を越えている。ちなみに昔のビルにはRazorfish社もテナントとして入っていた。
Paul Allen氏がInterWorldに投資した理由として、Donahue氏は「我々は、人材、技術、アイデア、ビジョン、市場ターゲットのすべての分野で優れていた。とくにニューヨークは、金融やメディアなどの大量のトランザクションを必要とする企業のメッカであり、我々の市場ターゲットとぴったり一致する。また、シリコンバレーのように、何百社ものテクノロジー大手とプログラマーを取り合う必要もないので優れた人材が集まる」と語った。また、「インターネット先進国で生活したことが、InterWorldの設立に大きく役立った。インターネットが将来のグローバルな経済市場でもっとも大きな意味を持つと、海外生活のおかげで確信できた」とも語った。
Donahue氏は「初期段階ではエンジニアリングやリソースを充実させることに重点を置き、製品が完成した段階で販売スタッフを増強した。強力な販売ネットワークをカナダ、ヨーロッパ、そしてアジア市場で展開することで、世界の大手2,000社すべてをターゲットにする。売上は、本格的に製品販売に乗り出した過去9ヶ月間で飛躍的に伸びた」と語る。また、気になる新規株式公開(IPO)だが、同社は昨年いったんIPOを申請したあと株式市場の急落によりIPOを中止している。Donahue氏によると、今年再びIPOを行なう可能性が高いという。
Donahue氏は最後に「時間や場所の制約をすべて取り払うことができるECに対する需要は非常に大きく、供給が追いつかない状況だ。我々は、この急成長市場でスケーラブルな戦略を展開できるようなECシステムの開発を念頭に置いている。ECサイトで大成功を収めているDellやCiscoを見ればわかるように、EC市場で遅れを取った企業に未来はない」と語った。
('99/1/22)
[Reported by HIROKO NAGANO, NY]