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【連載】

東海岸インターネットビジネス最前線

第6回:ITプロフェッショナル用コンテンツサイト
――IPOで全世界を驚かせた:EarthWeb

http://www.earthweb.com/

 米国でのインターネット業界では、メーカーやソフトハウスの集まった西海岸「シリコンバレー」だけでなく、最近ではコンテンツやビジネス面で東海岸「シリコンアレー」(シリコン通り)が注目を集めています。この連載ではそうしたシリコンアレーから登場していく注目の企業を紹介していきます。(編集部)


Front
EarthWeb社のフロント
 現在、世界中で1,500万人のITプロフェッショナルが存在し、年間合計で7,500億ドルのハードウェアやソフトウェアの購入を行なっているといわれている。そのITプロフェッショナルに特化したコンテンツサイトを提供しているEarthWebは、シリコンアレーの中でも最大の成功を収めた企業の一つである。

 1994年に3人で設立された同社は、1995年10月にJavaディレクトリ公式サイト「Gamelan」を開設して以来、同社の代表サイト「Developer.com」や「Datamation」を始めとする12種類のITプロフェッショナル向けサイトを提供し、アメリカ国内だけではなく世界中のユーザーを魅了している。同社サイトで提供しているテクノロジー分野は、Java、HTML、CGI、Cold Fusion、Perl、JavaScript、XML、ASP、C/C++、ミドルウェア、データベース、分散オブジェクトなど50種類以上にのぼっている。また、昨年11月に行なわれたIPO(新規株式公開)では、同社株は343%増という驚くべき高値で終了し、EarthWebの名を世界的に有名にした。EarthWebの創設者の一人、Jack Hidary CEOに同社成功の秘密と今後の戦略について尋ねてみた。



●求められる“ハンズオン”情報の提供

Jack Hidary
Jack Hidary CEO
 Hidary氏は、もともとは医療関連のリサーチ機関で脳の研究を行なっていたサイエンティスト。その後は大企業向けのシステムコンサルタントを務め、1994年にEarthWebを設立した。同氏は「大手企業のイントラネット構築をサポートしていた当時、必要な情報がWebにほとんどなく、ほんの少しの情報を探すにも非常に苦労した。ニュースや技術説明などはあふれていたが、ソースコードのような具体的で実践的な情報、いわゆる“ハンズオン”情報はなかった。そこで、これらのサービスを提供しようと思いついた」と語る。

 設立者の一人であり、現在は戦略アドバイザーを務めるNova Spivack氏が最初に開発したサイトは、Javaディレクトリ公式サイト「Gamelan」だったという。その後は「Gamelan」のアーキテクチャに基づいて、「Developer.com」などのITプロフェッショナル向けサイトを次々に開設。現在ではサイト購読者が毎月140万人を超えるまでに成長している。ユーザーも大手企業のITプロフェッショナルがほとんどで、そのうちの3分の1が海外からアクセスしているユーザーだという。

 同社では最新のテクノロジー情報を提供する電子メールニュースレターも毎週発行しており、メール購読者は30万人以上。Hidary氏は「ITプロフェッショナルが必要としているものは、それぞれのテクノロジー分野における具体的な情報である。しかし、IDGの『JavaWorld』などのように特定の分野のみにターゲットを絞ったコンテンツサイトはあるが、我々のように広範囲のコンテンツビジネスを行なっている企業は他にない。事実上、我々がこの分野ではトップだ」と語る。

 また、EarthWebでは、通常のテクノロジーサイトとはひと味違った技術の提供も行なっている。同社の代表サイトの「Developer.com」では昨年、Javaアプレットのソースコードを見ることができるデコンパイラ「Code Analyzer」を発表した。これにより、「Gamelan」に登録された2,000種類以上のJavaアプレットのソースコードを見ることができるという。


●ITは広告主にとって大きな魅力

Editorial Staff
編集部門のスタッフ
 EarthWebの主な収入源は、広告、購読費、ソフトウェアのオンライン販売の3種類に大きく分かれている。最大の売上分野は広告で、EarthWebの売上全体の90%以上を占めている。Hidary氏は「我々は『Yahoo!』や『Excite』などのコンシューマー向けポータルサイトに比べて、非常に高いCPM(Cost per Mill:1,000回表示あたりの広告料)を獲得できる。我々のユーザーの大部分は、システム構築に多大な予算を使う大企業のITプロフェッショナルで、これが広告主にとっての大きな魅力になっているのだ」と語る。

 さらに、EarthWebの広告主の多くは、ただの企業アピールや宣伝広告のみではなく、優秀な人材を求めるための人材募集広告を出しているという。多数のテクノロジー企業では、優秀なITプロフェッショナルの採用には困難を極めており、EarthWebのようなターゲットの絞られたサイトに広告を出す傾向があるという。

 次に、EarthWebでは、広告を掲載しないITプロフェッショナル向けオンラインマガジン「ITKnowledge.com」で、購読費ベースの売上モデルを実験的に行なっている。現在は、特別期間ということで、年間購読費は95ドル。

 さらに、同社のオンラインストア「EarthWeb Direct」では、Microsoft、Symantec、Lotusを含んだソフトウェアベンダーのITプロフェッショナル向けソフトウェアを販売している。これらは、Javaアプレット、ネットワーク管理などのソフトウェアで、コンシューマー製品ではない。現在のところ、まだ広告収入が主な収入源になっているが、将来的にはこの2種類の売上分野にも力を入れていくという。


●サイエンスとインターネットの関係

Present
Hidary氏のオフィスから見える
マンハッタンの光景
 Hidary氏はサイエンティスト時代、インターネットを活用してヨーロッパや日本の同僚たちとよく共同研究を行なっていたという。そのうちにインターネットが大きく発展すると確信し、サイエンティストからインターネット業界のアントレプルナー(起業家)に転向。1994年に兄弟のMurray Hidary氏と前述のSpivack氏の3人でマンハッタンのミッドタウンに小さなオフィスを構え、3人でそこに寝泊まりしながらサイト開発を行なったという。

 マンハッタンの景色がよく見える高層ビルの上階に位置するオフィスで、Hidary氏は「1996年、1997年にWarburg Pincus Venturesから1,700万ドルの投資を受け、その他の投資家も合わせると投資額は現在2,000万ドル以上になる。2年半前、このオフィスに引っ越したが、今ではこのフロアにも人が入りきれないので、下の階のオフィスも借りたところだ」と語る。

 同社で働く約70名の社員のうち、コンテンツ開発担当は12名、システム管理担当は8名で、そのうちの4名がサーチエンジンなどの新システム開発に携わっている。外部に約200名のテクニカルライターを抱えており、内部スタッフは技術者よりも編集、金融、マーケティング分野での経験者を雇っている。事業家の家系を持つという同氏は「チームで働くのが好きで、企業を興して成功するチームを率いたいというのが、私の昔からの夢だった。サイエンスもチームで働く世界なので、その意味では現在の仕事と共通している」と語る。兄弟でもありビジネスパートナーでもあるMurrayは大学時代に音楽を専攻し、今でも作曲活動を続けているという。


●奇跡的なIPOで世界の注目の的に

Meeting
真剣にミーティングを
行なうスタッフ
 EarthWebは、昨年11月に行なった同社のIPOで世界的な注目を浴びることになった。eBayのIPO後、株式市場は低迷し、iVillageやInterWorldを始めとするほとんどのインターネット企業がIPOの申請を取りやめていた。それにも関わらず、EarthWeb(NASDAQ:EWBX)はIPOを行ない、公開株価14ドルから一時は59ドルまで急騰し、最終的には48 11/16ドルで終了した。オンラインブローカーのWitCapitalを通してEarthWeb株を購入できたあるラッキーな個人投資家は、1日で50万ドルを儲けたという。

 Hidary氏は「eBayの後、市場は低迷気味で、どのインターネット企業もIPOを差し控えていたので、逆に我々がそれを打開するきっかけになれればと思った」と語った。これにより同社は3,000万ドルの資金を得た。EarthWebではIPO以前にも幹部クラスのITプロフェッショナル向けサイトの「Datamation」、Webマスター用のサイト「HTMLGoodies」、イントラネットに特化したネットワーク管理者向けサイト「IntranetJournal」を含む5社を買収していたが、この資金調達により一層の買収戦略を推し進めることができるとしている。

 同氏は「買収した後のサイトは、大抵トラフィックが大きく伸びている。『Datamation』も『HTMLGoodies』も買収後、トラフィックは2倍になった」と語る。同社ビジネス部門のビジネス開発/M&Aチームで、Murrayが責任者となり買収戦略を立てているという。


●今後はクロスメディアと国際戦略

Jack & John
John S. Mazzone国際市場副社長(左)
 現在、EarthWebでは日系企業のリンクメディアと提携し、「Developer.com」や「ITKnowledge」の日本語バージョンを開発・提供している。同社のJohn S. Mazzone国際市場副社長は「28万ページ以上のコンテンツを持つ『ITKnowledge』には、企業の効率性を高める上での貴重な情報が満載されている。日本でも現在300ページを翻訳済みで、毎日、日本語のコンテンツを追加している。日本市場は外国市場では最大規模なので非常に重要だ」と語る。

 また、EarthWebではクロスメディア戦略も積極的に推し進めており、同社のWebマスター向けサイト「HTMLGoodies」「JavaGoodies」のJoe Burns編集長により書かれた同名のシリーズ書籍を出版した。同書は米最大のコンピュータ関連出版社のMacMillan Pressから出されたもので、現在ベストセラーになっている。さらに、新サイト「Y2Kinfo」の開設、今月に入ってからの「DICE」の買収など、着々と規模拡大の手を売っている。「DICE」は、ITプロフェッショナルに特化したオンライン就職情報サイトであり、7万9,000件の人材募集を提供し、900社以上の広告主を持っている。

 将来的な展望として、Hidary氏は「我々の目標は、世界中の1,500万人のITプロフェッショナルすべてに対して、サービスを提供することだ。現在、イスラエル、イギリス、スペイン、日本、中国市場に進出しているが、今後はさらに国際戦略を推し進めていく」と語る。

 ちなみに、以前話題になっていた同社のチャット技術「ChatPlanet」が、一時期シリコンアレーに出没していたZapataに買収されたという報道に関しては、Hidary氏は「まったくの誤り」だとしている。ChatPlanetは無料のチャット技術サービスで、現在1万6,000以上のサイトがこれを使用したチャットルームを運営している。

('99/2/5)

[Reported by HIROKO NAGANO, NY]


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