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【連載】

東海岸インターネットビジネス最前線

第7回:コンシューマー市場のインターネットリサーチ会社
――シリコンアレーの生みの親:Jupiter Communications

http://www.jup.com/

 米国のインターネット業界では、メーカーやソフトハウスの集まった西海岸「シリコンバレー」だけでなく、最近ではコンテンツやビジネス面で東海岸「シリコンアレー」(シリコン通り)が注目を集めています。この連載ではそうしたシリコンアレーから登場していく注目の企業を紹介していきます。(編集部)


Gene DeRose
Gene DeRose会長兼CEO
 急速に変化するインターネット業界の動向を把握するために、市場予測や分析などのリサーチペーパーに対する需要が企業間でこれまでになく高まっている。シリコンアレーの中心地、Sohoに本社を構えるJupiter Communicationsは、多くのインターネットリサーチ会社の中でも、コンシューマー市場に焦点を絞ったインターネット関連のリサーチ会社としてとくに注目を集めている。1986年に設立された同社は、インターネット・スタートアップ(新興)企業のリサーチや市場予測に加え、数々のコンファレンスを全米各地で行なっており、現在ではCNNやNew York Times紙をはじめとする主要メディアの多くで同社リサーチが引用されるまでに認知度を高めている。

 インターネット関連の米業界誌「Information Week」が1998年に行なったインターネットリサーチ会社に対する信頼度調査では、Jupiterが、Gartner Group/Dataquest、Yankee Group、Meta Group、IDC、Forrester Research、Giga Groupなどの大手リサーチ会社を抜いて、300人の情報システム(IS)エグゼクティブからもっとも信頼できる企業として選ばれた。また、同社のGene DeRose会長兼CEOは、シリコンアレーの業界紙「Silicon Alley Reporter」による「New Yorkのインターネットエグゼクティブ・トップ100」の第2位に選ばれている。CNNfnのニューメディア番組「Digital Jam」のゲストコメンテーターとしてもよくテレビに登場するDeRose氏に、同社成功の秘密と今後の戦略について尋ねてみた。



●AOLの成功を予測した最初の企業

Office
オフィス風景
 DeRose氏は「Jupiterは、インターネットやテクノロジーがビジネス市場ではなくコンシューマー市場にどのような影響を与えるかに焦点を絞った唯一のリサーチ会社だ。インターネットはテクノロジーではなくてメディア、マーケティングだ。我々は、ネットユーザーがインターネット上でどのように音楽を聞いたりショッピングを行なうか、また広告を見ているかなど、インターネットが与えるコンシューマー市場への影響を予測・分析する」と語る。

 Jupiterの洞察力の鋭さを主張する同氏は「1992年、I-Commerce(電子商取引)やオンライン広告がここまで大きく成長すると予測した大手リサーチ企業はいなかった。同年、我々は『単純で使いやすい』という理由でAOLがコンシューマー市場で大きな成功を遂げると予測し、オンラインオークションが成功するとも予測した」と語る。

 設立者のJoshua Harris氏は、多くの人がインタラクティブコミュニケーションはインタラクティブテレビによりもたらされると信じていた1986年当初から、これが電話線とPC、つまりインターネットによりもたらされることをいち早く見抜いていた。Harris氏は数年間、Prodigyなどのオンラインサービスにリサーチレポートを提供していたが、1989年に当時26歳のDeRose氏を採用し、1990年から二人でニュースレターサービスとコンファレンスビジネスを本格的に開始した。

 DeRose氏は、Jupiterに入社する前には「Cosmopolitan」誌でゴシップコラムニストを務めていたという。ちなみに、Harris氏は現在Jupiterを辞め、同社オフィスから徒歩数分の場所にインターネット放送局「Pseudo Programs」を設立、その経営にあたっている。


●SPSで“媒体”から“サービス”提供企業に

Meeting
SPSのWebテクノロジー戦略の
ミーティング
 Jupiterは、インターネットリサーチ会社としての地位を確立するため、1994年に購読制のインターネット関連リサーチレポート「Strategic Planning Services(SPS)」の提供を開始した。クライアントは、コンシューマーコンテンツ戦略、デジタルコマース戦略、オンライン広告戦略、サイト運営戦略、電話会社/ケーブル会社のインターネット戦略、Webテクノロジー戦略の6分野に加え、ヨーロッパのインターネット市場に関する最新のインターネットリサーチを得ることができる。

 さらに、これら7種類のリサーチペーパーという“媒体”の他、クライアントはJupiterアナリストへ電話や電子メールで無制限にアクセスすることができる。これにより、クライアントはコンシューマー市場での効果的なインターネット戦略の展開に関する的確なアドバイスを得ることができる。SPSの認知度はインターネットの成長とともに急速に高まり、現在クライアントは世界中で450社を超える。

 SPSのコンセプトづくりはDeRose氏が、全体的な監修はリサーチ部門のPeter Stock上級副社長が担当する。また、SPSの各分野では10人近くの専門アナリストとリサーチャーが世帯調査、オンラインユーザー調査、エグゼクティブ調査、市場予測を行なっている。DeRose氏によると、クライアントの内訳は米企業が80%、ヨーロッパ企業が15%、アジア企業が5%で、企業のSPS契約費は内容により2万ドルから4万ドルまでになるとのこと。

 SPSを通して、同社はニュースレター出版社という“媒体”を提供する企業から、アドバイサリー(Advisory)という“サービス”を提供する企業に移行した。こうした「アドバイサリーサービス」モデルは、専門知識を提供するという意味ではコンサルティングと同様だが、個々の企業に特化せずに幅広い知識を提供するという点でコンサルティングと異なっている。アドバイサリーサービスは、もともと1979年にGartner Groupがテクノロジーリサーチ分野で始めたものだが、Jupiterはこれをインターネットリサーチ分野に応用した。

 また、Jupiterは1997年12月、市場リサーチ会社のNFO Interactiveと提携することで、米国の52万5,000世帯、インターネットユーザー12万人、総計140万人のコンシューマーに対するリサーチを可能にしている。DeRose氏は「これにより、『TVをつけっぱなしのままインターネットにつながっている頻度』や『コンシューマーのオンラインとオフラインでの書籍購入冊数の割合』など、今までリサーチが困難だった分野でのリサーチが可能になった」と語る。


●エグゼクティブの“Mindshare”を狙う

Chart
SPSとMindshareのチャート
 Jupiterは、エグゼクティブにターゲットを絞った新たなコンサルティングサービス「Mindshare: The Jupiter Executive Program」の提供を今月から開始した。DeRose氏は「企業のインターネット戦略には、広告やWebテクノロジー、コスト管理など、基本的にどの業界にも共通した部分があるが、それ以降の戦略は企業ごとに異なっている。こうした個々の企業に合わせたインターネット戦略を一対一でコンサルティングするのがMindshareだ」と語る。

 これは、前述のアドバイサリーサービスに加えて、利益率の高いコンサルティングビジネスにもJupiterが参入したことを示している。Jupiterではここ最近、オンライン広告やECなどのインターネット分野のみではなく、業界別に細分化したリサーチにも力を入れており、その一環として1998年初めには試験的にショッピング、ファイナンシャルサービス、トラベル業界のリサーチを開始した。これらのリサーチは大きな成功を収め、現在ではヘルス、音楽、テレビ、コンシューマーグッズ、広告業界のリサーチも行なっている。

 DeRose氏は「Mindshareはサービスを開始したばかりなので、クライアント数は公表できないが、今年は50から100のクライアントを予定している。価格はそれぞれの企業により異なるが、契約により10万ドルにまでなる場合もある」と語る。


●全米トップニュースを飾った熱狂のイベント

Conference
Jupiterが開催している
数々のコンファレンス

 その他、Jupiterの重要な収入源になっているのが、テクノロジーと音楽業界を結ぶ「Plug.in」、インターネット広告の「Online Advertising Forum」など、全米各地で開催するコンファレンスである。同社を一躍有名にしたのも、同社が1995年に開催したコンファレンスだったと言われている。

 ハッカーやインターネットギーク(おたく)達で埋め尽くされた会場には、AOLのTed Leonsis氏、ProdigyのScott Kurnit氏、Microsoft NetworkのRuss Siegelman氏がパネラーとして登場した。ディスカッションでは観客の非難や中傷でSiegelman氏の会話が中断され、興奮状態のまま終了した。この日の模様は全米トップニュースとしてテレビや雑誌で報道され、参加者が80人足らずだったJupiterのイベントはそれ以降、800人以上が参加するビッグイベントに生まれ変わったという。

 コンファレンスは11人のフルタイムスタッフの他、それぞれのコンファレンスに合わせてPRやマーケティング、アナリストが柔軟に関わっている。企業の出展費用は平均4,000ドルで、スポンサー費は2万ドルから5万ドル、「Plug.in」などの大きなイベントでは数100万ドルの売上を計上する。DeRose氏は「昨年あたりからイベントの数を絞り、ユニークなコンファレンスというブランドづくりに焦点を絞っている」と語る。


●アジア市場への進出を目指す

Jack & John
副社長兼シニアアナリストである
Adam Schoenfeld氏
 Jupiterは1997年10月、Gartner Groupから800万ドルの株式投資を受け大きく躍進した。Jupiterの副社長兼シニアアナリストであるAdam Schoenfeld氏は「私がJupiterに入社した1994年当時、社員数は12人だったが、現在では社員は185名を超え、60名のリサーチャーと35名のアナリストを抱えるまでに成長した」と語る。海外市場への進出も著しく、昨年はLondonに支社を設立、フランス、ドイツ、英国市場などの地域市場に特化したリサーチも開始した。

 一方、大手リサーチ会社が次々と市場に進出し、大きな競争に直面しつつあることに関しては「ほとんどのリサーチ企業はビジネス市場に関するリサーチが主流であり、Jupiterが専門とするコンシューマー動向には力を入れていない。その証拠に、ForresterもSPSを購読している」とDeRose氏は語る。

 将来的な展望として、同氏は「今年はアジア市場でのイニシアチブをオーストラリアで発表し、SPSのリサーチ分野にアジア市場のインターネット戦略を追加する予定だ。日本市場へも進出する」と語った。今年同社がIPO(新規株式公開)を行なうという噂が流れていることに関しては、同氏は「ノーコメント」とした。

('99/2/19)

[Reported by HIROKO NAGANO, NY]


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