米国でのインターネット業界では、メーカーやソフトハウスの集まった西海岸「シリコンバレー」だけでなく、最近ではコンテンツやビジネス面で東海岸「シリコンアレー」(シリコン通り)が注目を集めています。この連載ではそうしたシリコンアレーから登場していく注目の企業を紹介していきます。(編集部)
同社はコンテンツサイトを集めた広告ネットワーク「DoubleClick Network」サービスを1996年から開始し、現在ではMTV Europeなど350種類以上の大手コンテンツサイトが同ネットワークに参加している。1998年6月に発表されたMedia Metrixの調査では、DoubleClick Networkのユーザー到達度が30%以上を達成し、AOL、Yahoo!に続き3番目にユーザー到達度の高いサイトになった。
社員数は500名を超え、世界15カ国にオフィスを設置、70カ国に広告を配信するまでに成長した同社は、日本でも1997年9月にDoubleClick Japanをトランスコスモス、NTT、NTTアドとともに設立。1998年の売上が5億円を超える成功を収めている。自らを、メディアとテクノロジーの両面を兼ね備える“メディアテック”企業と称する同社のKevin O'Connor CEOに、成功の秘密と今後の戦略について尋ねてみた。
Kevin O'Connor CEO |
同氏は「現在、Yahoo!でさえも広告スペースは4分の1程度しか販売されていないと言われるが、ターゲットを絞った広告配信を行なうDoubleClick Networkに参加すれば、コンテンツサイトは広告スペースをさらに多く販売できるようになる」と語る。また、DoubleClick Networkに参加しているサイトは選別された大手サイトであり、同氏は「アメリカには現在、10万種類以上のコンテンツサイトがあると推測されているが、DoubleClickはその中でも大手サイトにターゲットを絞っている」とする。
同氏は「DoubleClickの広告配信サービスを支えているのが当社技術の『DART(Dynamic Advertising Reporting & Targeting)』だ。DARTはDoubleClickが行なうビジネスすべてのバックボーンである」と語る。DARTは、12種類のカテゴリー指定の他、IPアドレス、ドメインタイプ、ブラウザーやOSの種類、曜日・時間、ユーザービヘイビアなどの組み合わせでユーザーの興味に合ったバナー広告を配信する技術。
同氏は「たとえばAltavistaで車の保険を検索したとすると、あなたは車の保険に興味を持っている人だということがわかる。アクティブに何かを探すビヘイビアを、広告配信技術に組み込むことで、ユーザーの興味に合わせた広告配信が行なえる。また、同じユーザーが何度も同じバナーを見ないようなバナー配信数制限(フリークエンシーコントロール)も行なっている」と語る。また、ユーザーのクリック率などの情報は同社データベースに蓄積され、どの広告が最も効果的かの測定も行なえる。ちなみに、連載の第1回で紹介したi-trafficもDoubleClickのカスタマーだという。
現在、24/7 MediaやFlycastなど、DoubleClickと同様の広告ネットワークサービスを提供している企業があるが、その中でもDoubleClickは売上面で圧倒的な強さを見せている。1996年の売上は600万ドル、1997年には3,000万ドル、1998年には8,020万ドルと飛躍的に伸び、広告主も2,700社中2,300社がAmerican Express、GAP、Datek、IBMなどの大手企業で占められている。1998年2月に行なわれたIPO(新規株式公開)では、DoubleClick[DCLK]株は公開価格の約2倍の35.13ドルで引け、ウォール街の話題に。現在の株価は90ドル台にまで上がっている。なお、シリコンアレーのライバル企業、24/7 Media[TFSM]も1998年8月にIPOを果たし、同社株は現在30ドル台で推移している。
また、同様な広告配信システムを開発しているNetgravityとDoubleClickを比較して、O'Connor氏は「両社の違いは、たとえば電話をかけたいときに電話会社に料金を支払うことで彼らのインフラを使用するのか、それともインフラを自分で構築して電話をかけるかの違いだ。Netgravityではソフトウェアを販売しており、購入したコンテンツサイトは自分達で複雑な設定・管理を行わなければならない。しかし、我々はIDとパスワードで簡単に広告状況がチェックできるWebベースのサービスを提供しており、ソフトウェアがアップグレードするたびに設定を変更したりインストールしなおしたりする必要がまったくない」と語る。「どちらがコスト高か?」との質問には「Netgravity」との回答が返ってきた。
Edisonの写真。Edisonは同氏の “ヒーロー”だという |
「3年前、我々はアトランタにある自宅の地下室で、何カ月もかけてインターネットビジネスに関するアイデアを考えていた。100種類以上もの異なるビジネスアイデアから、我々は最初、コンテンツサイトをアグリゲートして購読費をとるビジネスモデルを考え出した。しかし、実際にさまざまなサイトを見ていたとき、コンテンツそのものよりもそれを利用したビジネス、つまり広告の方が利益が出るのではないかという結論に至った。インターネットのメディア的側面から考えれば、テレビと同様、広告が売上の主要部分を占めると思った」と語る。
同氏は「ニューヨークがメディアの中心地」であるという理由でシリコンアレーに移転。Internet Advertising Networkを設立して技術開発にあたり、1996年2月、インターネット広告のPoppe Tyson(現在はModem Media.Poppe Tyson)の企業サイト向け広告部門であるDoubleClickと合併した。O'Connor氏は「1995年12月下旬にPoppe Tysonと電話で15分ほど話したとき、我々のやりたいことは完全に同じであるとわかった。メディア販売のリーダーであるPoppe Tysonと、メディア技術のリーダーである我々が合併するのはごく当然の成り行きだった」と語る。
とインターネット広告を比較している |
これに対してO'Connor氏は「CPCはインターネット広告市場の中でも小規模サイト向けのニッチ分野であり、我々も多少はCPCモデルを使用したビジネスを行なっている。しかし、広告にはブランド構築などの数々の目的があり、クリックはその中のひとつの要素に過ぎない」と語る。ちなみに、1997年10月に発表されたInternet Advertising Bureauによる調査では、インターネット広告はテレビコマーシャルと比較してより目に留まりやすく、バナーを1回でも画面表示すると、クリックの有無に関係なく宣伝効果があるという結果が出ている。
また、最近よく言われるCPMの値崩れ現象に関して、同氏は「CPMが下がっているとは思わない」と反論する。「CPMが20ドルで広告スペースの2割が売れたとしよう。一方、CPMが10ドルで広告スペースが全部売れたとすると、CPM20ドルのサイトより2倍以上儲かる計算になる。DoubleClick Networkに参加することで、より速く効果的に広告を販売することができるのだ」と語る。
また、将来的な戦略に関しては「効果の高い広告ソリューションを広告主に対して提供し続けることが最も重要であり、そのために新たなサービスを次々と打ち出していく。ハイリターン投資の『Closed-Loop Marketing Solutions』はその最新例だ。これは広告主に対して、リアルタイムでオンラインマーケティングキャンペーンを実行し、測定・管理するサービスである。たとえばWebでPCを販売しようと計画を立てた場合、最もトラフィックの高い広告とメディアをチェックして、結果を即座にキャンペーンに反映することができる」と語る。
DoubleClickでは、地域密着型の広告主にターゲットを絞った広告を展開する「DoubleClick Local」を提供すると同時に、「さらに地理的な規模を拡大し、世界中にDoubleClickネットワークを広げていく」と語った。
('99/3/5)
[Reported by HIROKO NAGANO, NY]