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【連載】

東海岸インターネットビジネス最前線

第9回:オンライン音楽コンテンツサイト
――オンデマンドな音楽配信を狙う:SonicNet

http://www.sonicnet.com/

 米国でのインターネット業界では、メーカーやソフトハウスの集まった西海岸「シリコンバレー」だけでなく、最近ではコンテンツやビジネス面で東海岸「シリコンアレー」(シリコン通り)が注目を集めています。この連載ではそうしたシリコンアレーから登場していく注目の企業を紹介していきます。(編集部)


Front
SonicNetフロント
 シリコンアレーでは最近“コンテンツ”に再び注目が集まっている。今月開催されたインターネットの最新トレンドに関する会議「Jupiter Consumer Online Forum」では、ExciteのGeorge Bell社長兼CEOが「(無料電子メールなどの)ユーティリティは多数提供されており、差別化を図るものはコンテンツだ」と述べ、Jupiterはこうした“差別化”というコンテンツの新たな意味づけを“コンテンツルネサンス”というコンセプトで表現している。コンテンツは、単にWebサイトのスティッキネス度(滞在時間)を高めるだけではなく、急速に進むインターネットとテレビの融合がもたらすコンテンツのデジタル配信で非常に重要な役割を果たすことになる。こうした音楽や映画のデジタル配信時代に備えて着々と準備を整えるシリコンアレー企業が、SonicNetである。

 1994年5月に音楽のBBSから始まったSonicNetは、1995年にオンラインサービスのProdigyで音楽サイトを開設。1996年にすでにストリーミングオーディオ/ビデオでライブサイバーキャストを行ない、1万2,000人のリスナーを集めてインターネット史上の最高記録を達成した。1997年には、独立系音楽サイト 「Addicted To Noise」との合併により、さらに豊富なコンテンツを提供することが可能となった。日本でも同年、 「SonicNet Japan」が開設され、チベットフリーダムコンサートを始めとする数々のサイバーキャストが行なわれている。

 また、1997年9月には、米最大のケーブルテレビ会社であるTCIの子会社、TCI Musicによる買収で、SonicNetのコンテンツは「The BOX」を始めとするケーブルテレビにも使用されるようになった。

 多数のコンテンツサイトが消滅していった中、現在ではMTVと肩を並べる音楽サイトになったばかりでなく、ビデオ・オン・デマンドなどインターネットとテレビの融合をさらに推し進めるSonicNet。成功の秘訣や将来的な展望を、同社のNicholas Butterworth社長兼編集長とMichael Goldberg上級副社長へ尋ねてみた。



●広帯域時代に向けた実験「Streamland」

Nicholas Butterworth
Nicholas Butterworth
社長兼編集長
 SonicNetは、18歳から24歳までの年齢層をターゲットとした音楽サイトであり、中心となるビデオ・オン・デマンドサイト 「Streamland」や音楽情報サイト「Addicted To Noise」の他、Macromediaの協力による音楽とアニメーションの融合サイト 「FlashRadio」、映画批評サイトの 「Cinemachine」、ケーブルテレビチャンネルのサイト 「The BOX Online」など複数のブランド、コンテンツを提供している。The BOXは米人気チャンネルで、視聴者はオペレータに電話をかけ、自分の希望のミュージックビデオをリクエストすることで、数分後にそのビデオを見ることができる。いわゆるビデオ版ジュークボックスのようなもので、4,140万人の加入者が存在する。

 Nicholas Butterworth氏は「SonicNetは、音楽に関連するすべてのメディアを一つに統合した、いわゆる音楽のポータルサイトである。ヒップホップ、ロック、オルタナティブ、ダンス、ポップ、エレクトロニックなど、若者が好むすべての音楽に関するコンテンツを提供している」と語る。SonicNetでは、リアルタイムでインタラクティブなインターネットの利点を生かして、毎日数回のアップデートにより15本から20本の記事を掲載。人気スターとのチャットや大型イベントのサイバーキャストも提供している。

 しかし、SonicNetがもっとも力を入れている分野がインターネットとテレビの融合を考慮に入れたオンデマンドなコンテンツ配信である。この広帯域時代に向けた実験として、SonicNetはThe BOXとの協力によりオンデマンドサイトの 「Streamland」を提供している。 Levi'sがスポンサーとなり1997年11月に開設された同サイトには数十万のユーザーが登録し、50万以上のミュージックビデオがダウンロードされている。さらに、オフラインのThe BOXにもSonicNetのコンテンツを提供するなどの、クロスメディアプロモーションを行なっている。



●コンテンツの質の高さが成功のカギ

Michael Goldberg
Michael Goldberg
上級副社長
 多数の独立系音楽サイトの中でSonicNetが生き残ってきた理由として、Addicted To Noiseの創設者で現在はSonicNet上級副社長を務めるMichael Goldberg氏は「コンテンツの質の高さ」をあげる。「Rolling Stone」誌で10年間エディターとシニアライターを務めた経験を持つ同氏は、アーティストとの深い人脈を持ち、SonicNetがようやくWebサイトを立ち上げた1995年には、「Addicted To Noise」をインターネット上でのトップ音楽サイトの一つとして確立させていた。

 その後、SonicNetはサイバーキャストの提供で注目され、1996年12月にニューメディアに興味を持っていたParadigm Entertainmentにより買収された。Goldberg氏は「この少し前に、Addicted To NoiseのマーケティングスタッフがNicholasとニューヨークのバーで飲んでいた。Nicholasはそのとき、Addicted To NoiseがSonicNetと合併する気はないかどうかを尋ねたそうだ。私はParadigmによるSonicNet買収のニュースを見た直後、Nicholasに電話をかけ、その件について2、3時間話し合った」と語る。

 同氏はそのときの様子を「Nicholasと話せば話すほど、Addicted To Noiseの持つ音楽ニュースやアルバム批評、特集コラムと、SonicNetのサイバーキャストとチャットチームが融合すれば強力な新たな音楽チャンネルが生まれると確信した」と語る。その後、1997年2月にParadigmがAddicted to Noiseを買収することで、SonicNetと合併した。



●インタラクティブテレビの音楽ポータルへ

Sandy Smallens
Sandy Smallens
エンターテイメント部門
上級副社長(左)
 1997年9月、TCI MusicがParadigmを3,050万ドルで買収。これにより、SonicNetはTCI Musicの一部となり、同社の持つ前述のThe BOXや、Digital Music Express(DMX)とともに新たなデジタル配信の可能性を切り開くことになった。DMXは30チャンネルを提供する衛星音楽配信システムで、加入者は現在2,900万人を超える。

 さらに、1998年6月にはAT&TがTCIを480億ドルで買収するという計画を発表。これによりSonicNetはAT&Tの一部になった。AT&TとTCIの合併により、TCIのケーブルインフラが大幅に改善され、電話、データ、ビデオのデジタルサービスを見据えたデジタルセットトップボックスの導入がより早まることが確実になった。これにより、ケーブルモデムを使用した広帯域アクセスサービスを行なう@Home(TCIが最大株主)を中心に広帯域プラットフォームの普及はさらに速まり、SonicNetがインタラクティブテレビの音楽ポータルになる可能性も高まってきた。

 Butterworth氏は「The BOXでも現在SonicNetのコンテンツを提供しているように、インタラクティブセットトップボックスでもコンテンツ配信に関わることになるだろう。TCIではデジタルセットトップボックスを今年の第4四半期に出荷するとしており、デジタル配信が実現するのはおそらく来年あたりだろう」と語る。

 また、今年3月にはケーブル会社のComcastと提携し、同社が@Homeとの協力により提供している広帯域アクセスサービス「Comcast @Home」と地域インターネットサービス「Comcast InYourTown」の加入者に対しては、The BOXでComcastサイトをプロモートし、ComcastサイトからはThe BOXのミュージックビデオをリクエストできるようにするという発表を行なった。これによる広告やその他の売上はシェアすることになる。



●MP3は、ほんの始まりにすぎない

Ofer Cohen
Ofer Cohen
クリエイティブディレクター
 Butterworth氏は、無料でダウンロードし気軽にポータブルプレイヤーで聴けることから爆発的な人気となったMP3フォーマットを、「ほんの始まりに過ぎない」とする。同氏は「今後はより多くのデジタルフォーマットが登場してくるだろう。デジタルフォーマットが従来のものと大きく異なる点は、音質がまったく変わらない点だ。これにより、コンシューマは一度ダウンロードすればもはや同じものを購入する必要がなくなる」と語る。

 同氏はまた「今までは、たとえばビートルズの音楽をLPで持っていたファンは、新たなフォーマットが登場するたびに、カセットでもCDでもさらに購入していたわけだ。しかし、デジタルではそうはいかない。これは完璧にマスターと同じなので、1回のダウンロードで済むのだ。これは、非常に大きな音楽業界の変化につながるだろう」と語る。

 それでは、Sony Music Entertainment、Warner Bros.、Universal Music Group、BMG Entertainment、EMIのビッグ5に代表される大手音楽レーベルは生き残れるのだろうか? Butterworth氏は「ニーズが異なるので、大手レーベルが潰れることはないだろう」と語る。「タレントを発掘し、プロデュースし、パッケージ化し、大々的にプロモートするという大手レーベルの能力は、小規模レーベルに簡単に真似できるものではない。しかし、それ以外のニッチ市場を狙ったオルタナティブ、インディーズ系ミュージックに関しては、『MP3.com』のようなサイトが活躍することになる」と語る。



●デジタル時代に始動する“世紀末の掟”

 音楽業界の根強い抵抗、また著作権問題に関する法的規制などで、デジタル配信の普及には依然として障害が多い。1998年10月に通過した「Digital Millennium Copyright Act」の中の条項には、オンライン放送事業者は、音楽を放送するたびに著作権が帰属する音楽レーベルに一定割合の金額を支払わなければならないというものがある。具体的な支払い金額はまだ決定されていないが、この金額次第では、多くのインターネットラジオ局が打撃を受けるものと考えられる。

 Butterworth氏は「インターネットラジオは、聴きたい音楽を自分で選んで聴くことができる点で、通常のラジオとは異なっている。したがって、音楽レーベルに対して何らかの支払いを行なうことは当然だが、その一方で、我々は音楽レーベルのプロモーションを行なっているとも言える。これを考慮した場合、この支払い金額はそこまで高くはならないはずだ」と語る。

 どちらにしても、音楽のE-commerceは、CDnowのようなCDを郵送する方法ではうまくいかず、最終的にはデジタル配信にならざるをえないと考えられる。ニューヨークでSonicNet Japanサイトの運営管理を行なうTakashi Koyano氏は、その理由として「注文してから品物が到着するまでに時間がかかり過ぎること、他のサイトや一般の小売りとの価格競争により利益が薄いこと」を挙げ、「MP3などの直接ダウンロードできるシステムが一般化すればCDは過去のものとなる」と語る。

 SonicNetでは現在、デジタル配信は行なっていないが、Butterworth氏は「まだ詳細は言えないが、もうじき何らかのイニシアチブを発表する」と、日本人DJの新譜をかけながら語った。

('99/3/19)

[Reported by HIROKO NAGANO, NY]


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