米国でのインターネット業界では、メーカーやソフトハウスの集まった西海岸「シリコンバレー」だけでなく、最近ではコンテンツやビジネス面で東海岸「シリコンアレー」(シリコン通り)が注目を集めています。この連載ではそうしたシリコンアレーから登場していく注目の企業を紹介していきます。(編集部)
1994年5月に音楽のBBSから始まったSonicNetは、1995年にオンラインサービスのProdigyで音楽サイトを開設。1996年にすでにストリーミングオーディオ/ビデオでライブサイバーキャストを行ない、1万2,000人のリスナーを集めてインターネット史上の最高記録を達成した。1997年には、独立系音楽サイト 「Addicted To Noise」との合併により、さらに豊富なコンテンツを提供することが可能となった。日本でも同年、 「SonicNet Japan」が開設され、チベットフリーダムコンサートを始めとする数々のサイバーキャストが行なわれている。
また、1997年9月には、米最大のケーブルテレビ会社であるTCIの子会社、TCI Musicによる買収で、SonicNetのコンテンツは「The BOX」を始めとするケーブルテレビにも使用されるようになった。
多数のコンテンツサイトが消滅していった中、現在ではMTVと肩を並べる音楽サイトになったばかりでなく、ビデオ・オン・デマンドなどインターネットとテレビの融合をさらに推し進めるSonicNet。成功の秘訣や将来的な展望を、同社のNicholas Butterworth社長兼編集長とMichael Goldberg上級副社長へ尋ねてみた。
社長兼編集長 |
Nicholas Butterworth氏は「SonicNetは、音楽に関連するすべてのメディアを一つに統合した、いわゆる音楽のポータルサイトである。ヒップホップ、ロック、オルタナティブ、ダンス、ポップ、エレクトロニックなど、若者が好むすべての音楽に関するコンテンツを提供している」と語る。SonicNetでは、リアルタイムでインタラクティブなインターネットの利点を生かして、毎日数回のアップデートにより15本から20本の記事を掲載。人気スターとのチャットや大型イベントのサイバーキャストも提供している。
しかし、SonicNetがもっとも力を入れている分野がインターネットとテレビの融合を考慮に入れたオンデマンドなコンテンツ配信である。この広帯域時代に向けた実験として、SonicNetはThe BOXとの協力によりオンデマンドサイトの 「Streamland」を提供している。 Levi'sがスポンサーとなり1997年11月に開設された同サイトには数十万のユーザーが登録し、50万以上のミュージックビデオがダウンロードされている。さらに、オフラインのThe BOXにもSonicNetのコンテンツを提供するなどの、クロスメディアプロモーションを行なっている。
上級副社長 |
その後、SonicNetはサイバーキャストの提供で注目され、1996年12月にニューメディアに興味を持っていたParadigm Entertainmentにより買収された。Goldberg氏は「この少し前に、Addicted To NoiseのマーケティングスタッフがNicholasとニューヨークのバーで飲んでいた。Nicholasはそのとき、Addicted To NoiseがSonicNetと合併する気はないかどうかを尋ねたそうだ。私はParadigmによるSonicNet買収のニュースを見た直後、Nicholasに電話をかけ、その件について2、3時間話し合った」と語る。
同氏はそのときの様子を「Nicholasと話せば話すほど、Addicted To Noiseの持つ音楽ニュースやアルバム批評、特集コラムと、SonicNetのサイバーキャストとチャットチームが融合すれば強力な新たな音楽チャンネルが生まれると確信した」と語る。その後、1997年2月にParadigmがAddicted to Noiseを買収することで、SonicNetと合併した。
エンターテイメント部門 上級副社長(左) |
さらに、1998年6月にはAT&TがTCIを480億ドルで買収するという計画を発表。これによりSonicNetはAT&Tの一部になった。AT&TとTCIの合併により、TCIのケーブルインフラが大幅に改善され、電話、データ、ビデオのデジタルサービスを見据えたデジタルセットトップボックスの導入がより早まることが確実になった。これにより、ケーブルモデムを使用した広帯域アクセスサービスを行なう@Home(TCIが最大株主)を中心に広帯域プラットフォームの普及はさらに速まり、SonicNetがインタラクティブテレビの音楽ポータルになる可能性も高まってきた。
Butterworth氏は「The BOXでも現在SonicNetのコンテンツを提供しているように、インタラクティブセットトップボックスでもコンテンツ配信に関わることになるだろう。TCIではデジタルセットトップボックスを今年の第4四半期に出荷するとしており、デジタル配信が実現するのはおそらく来年あたりだろう」と語る。
また、今年3月にはケーブル会社のComcastと提携し、同社が@Homeとの協力により提供している広帯域アクセスサービス「Comcast @Home」と地域インターネットサービス「Comcast InYourTown」の加入者に対しては、The BOXでComcastサイトをプロモートし、ComcastサイトからはThe BOXのミュージックビデオをリクエストできるようにするという発表を行なった。これによる広告やその他の売上はシェアすることになる。
クリエイティブディレクター |
同氏はまた「今までは、たとえばビートルズの音楽をLPで持っていたファンは、新たなフォーマットが登場するたびに、カセットでもCDでもさらに購入していたわけだ。しかし、デジタルではそうはいかない。これは完璧にマスターと同じなので、1回のダウンロードで済むのだ。これは、非常に大きな音楽業界の変化につながるだろう」と語る。
それでは、Sony Music Entertainment、Warner Bros.、Universal Music Group、BMG Entertainment、EMIのビッグ5に代表される大手音楽レーベルは生き残れるのだろうか? Butterworth氏は「ニーズが異なるので、大手レーベルが潰れることはないだろう」と語る。「タレントを発掘し、プロデュースし、パッケージ化し、大々的にプロモートするという大手レーベルの能力は、小規模レーベルに簡単に真似できるものではない。しかし、それ以外のニッチ市場を狙ったオルタナティブ、インディーズ系ミュージックに関しては、『MP3.com』のようなサイトが活躍することになる」と語る。
音楽業界の根強い抵抗、また著作権問題に関する法的規制などで、デジタル配信の普及には依然として障害が多い。1998年10月に通過した「Digital Millennium Copyright Act」の中の条項には、オンライン放送事業者は、音楽を放送するたびに著作権が帰属する音楽レーベルに一定割合の金額を支払わなければならないというものがある。具体的な支払い金額はまだ決定されていないが、この金額次第では、多くのインターネットラジオ局が打撃を受けるものと考えられる。
Butterworth氏は「インターネットラジオは、聴きたい音楽を自分で選んで聴くことができる点で、通常のラジオとは異なっている。したがって、音楽レーベルに対して何らかの支払いを行なうことは当然だが、その一方で、我々は音楽レーベルのプロモーションを行なっているとも言える。これを考慮した場合、この支払い金額はそこまで高くはならないはずだ」と語る。
どちらにしても、音楽のE-commerceは、CDnowのようなCDを郵送する方法ではうまくいかず、最終的にはデジタル配信にならざるをえないと考えられる。ニューヨークでSonicNet Japanサイトの運営管理を行なうTakashi Koyano氏は、その理由として「注文してから品物が到着するまでに時間がかかり過ぎること、他のサイトや一般の小売りとの価格競争により利益が薄いこと」を挙げ、「MP3などの直接ダウンロードできるシステムが一般化すればCDは過去のものとなる」と語る。
SonicNetでは現在、デジタル配信は行なっていないが、Butterworth氏は「まだ詳細は言えないが、もうじき何らかのイニシアチブを発表する」と、日本人DJの新譜をかけながら語った。
('99/3/19)
[Reported by HIROKO NAGANO, NY]