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【連載】

東海岸インターネットビジネス最前線

第10回:オンラインコミュニティ
――インターネットの歴史を2度塗り替えた:TheGlobe.com

http://www.theglobe.com/

 米国でのインターネット業界では、メーカーやソフトハウスの集まった西海岸「シリコンバレー」だけでなく、最近ではコンテンツやビジネス面で東海岸「シリコンアレー」(シリコン通り)が注目を集めています。この連載ではそうしたシリコンアレーから登場していく注目の企業を紹介していきます。(編集部)


Front
TheGlobe.comフロント
 スティッキーなサイト作りにしのぎを削るYahoo!、Excite、Lycosなどのポータル各社は、パーソナライズされたユーザー体験を提供するオンラインコミュニティの価値を再認識し始めている。1998年初めにボストン本社のオンラインコミュニティであるTripodを買収したLycosのBob Davis社長兼CEOは「コミュニティはユーザーインタラクティビティによる有機的なアプリケーションであり、非常に重要な分野である」としている。また、今年2月にGeoCitiesを買収したYahoo!のJerry Yang Chief Yahoo!も、「ユーザーとサービスを合わせたコミュニティ『GeoCities』により、ユーザーにECを含んだパーソナライズ体験を提供できる」と語っている。

 ニューヨーク州郊外にあるコーネル大学の学生、Todd Krizelman氏とStephan Paternot氏が1994年に設立したオンラインコミュニティ「TheGlobe.com」は、TripodとGeoCitiesが買収された現在、「Xoom.com」と並び残された数少ない独立系オンラインコミュニティとなった。同サイトでは、特定の興味を持った人たちが集まり、チャットや掲示板で情報交換を行なったり、自分のホームページを無料で開設できるほか、パーソナライズされたコンテンツやE-commerceなどのサービスも受けられる。投資額やIPOなどでインターネット史上記録を塗り替え、現在125名の社員を抱える同社の共同設立者、Krizelman氏とPaternot氏に成功の秘密と今後の戦略について尋ねてみた。



●単なる無料ホームページ提供ではない

Paternot
Stephan Paternot
共同設立者兼CEO
 Paternot氏は「TheGlobe.comは、TripodやGeoCitiesのように単なる無料ホームページを提供している会社ではない。我々のコンセプトは、コンテンツ、コマース、ユーザーインタラクションの3つにターゲットを絞り、これらをベースとして世界的なコミュニティをインターネット上で作り上げることだ」と語る。TheGlobe.comでは、無料ホームページサービスのほかにも、Yahoo!やMSN、Exciteなどのポータルと同様、スタートページで自分の興味のあるニュース、映画批評、ストックポートフォリオ、ローカル情報などのパーソナライズされたコンテンツを提供している。さらに「何でも買える」オンラインショッピングサイト、有名人とのチャット、無料電子メール、アドレス帳、カレンダー、電子グリーティングカードなどのサービスも幅広く提供しており、これによりユーザーは他のサイトに行く必要性がなくなる。「TripodやGeoCitiesを訪れるとわかるように、両サイトではこれらのサービスをまったく提供していない」。

 同氏は「最初は多くのオーディエンスを集めるユーザーインタラクションから始まり、この3つのコンポーネントがうまく統合されてきたのはここ1年あたりのことである」と語った。特にニュースについては15社から17社のメディア企業とのコンテンツ契約により、ビジネスからエンターテイメント、スポーツ、ローカル情報まで幅広く提供している。“ジェネレーションX”といわれるMTV世代向けにターゲットを絞ったコンテンツ作りが人気を呼び、ユニークビジターは1998年1月に約100万人だったのが、同年8月には600万人、12月には930万人に跳ね上がっている。50%が口コミによるもので、40%のユーザーは海外からのビジターという。



●EC戦略では「ノンAmazon」を目指す

Krizelman
Todd Krizelman
共同設立者兼CEO
 TheGlobe.comの収益モデルは、そのほとんどがバナー広告によるものであるが、将来的にはE-commerceによる売上を伸ばしていく方向にある。Krizelman氏は「広告はバナー中心だが、サイトの壁紙広告など、クライアントの希望に合わせたカスタム広告も行なっている。ダンキンドーナツでは、我々のサイトを使用して新製品の『コーヒークーラー』(アメリカで昨夏に流行したアイスコーヒー製品の一つ)のテストマーケティングを行なった。TheGlobe.comユーザーはテクノロジーにあまり詳しくない平均的なユーザーであることから、広告主の70%はProcter & GambleやLevi's、ペプシなどのコンシューマ企業になっている」と語る。

 また「E-commerceによる売上は現在のところ全体売上の10%程度だが、この数字は今後大幅に伸びると見込んでいる。我々は、書籍、音楽、ビデオ以外のすべての製品分野に関してのワンストップショッピングセンターを構築する。書籍、音楽、ビデオを扱わないのは、すでに『Amazon.com』が市場での地位を確立しているからだ。アパレル、パーソナルケア製品、家電など、それ以外の製品分野ではユーザーが我々のショッピングサイト 『Shop.theglobe』で買い物をすることを目指している」と語る。

 この戦略を推し進めるため、TheGlobe.comは今年2月、オンラインモールのAzazz.comを1,850万ドルで買収した。同社は、オンラインショッピングの最中にインターネット上でリアルタイムのカスタマーサービスを提供する「Personal Shopper」を開発しており、この技術はShop.theglobeに統合されることになる。TheGlobe.comはまた、E-commerceサイトとの広告契約も積極的に結んでおり、今年3月にはオンラインストアのMusic Hq.ComおよびDvd Flix.Comと120万ドルの広告契約を結んだ。これにより、Music Hq.ComやDvd Flix.Comでは930万人のユーザーを獲得することになり、TheGlobe.com自体は音楽、ビデオのオンラインストアを構築する必要はなくなる。デジタル配信に関しては、現在のところは明確なイニシアチブはないが、近い将来的参入を考えているという。



●エンジニアの最初の給料は「ピザ」

Poster
オフィスの至る所に
張られたポスター
 TheGlobe.comは、1998年11月13日のインターネット史上に残るIPO以来、アメリカのありとあらゆるメディアで取り上げられてきたが、その中でも有名な話が「ピザストーリー」である。友人や家族から集めた1万5,000ドルで会社を設立した同社(当時の社名はWeb Genesis)の最初のオフィスは「コーネル大学の寮」であり、「学生ユニオンのカフェテリアで社員面接をし、最初の給料はとりあえずピザだった」(Krizelman)。ピザというとコーラを片手にTシャツ、ジーンズで仕事をするプログラマーやエンジニアのイメージが強いが、このピザで雇われたプログラマーとグラフィックアーティスト、デザイナー、エンジニアが同サイトの技術システムを開発したという。

 二人の出会いは、1991年夏のコーネル大学入学前のサマースクールにさかのぼる。Paternot氏はコンピュータサイエンス/ビジネス、Krizelman氏は生物学を専攻しており、「1年生のとき冗談で、将来テクノロジー企業を設立しようという話をしていた」(Paternot氏)。その後「大学3年(1994年)のとき、インターネットの普及のスピードに驚き、これが大きく世界を変えるものになると確信」(Krizelman氏)、Web Genesisを設立した。

 学校と仕事の両立は厳しく、西海岸で開催されているカンファレンスの途中で試験を受けにニューヨークに飛び、それが終わった後でまた会議に舞い戻ることもあったという。コーネル大学の近くにある窓のない小さな倉庫スペースをオフィスとして借り、資本集めのためにさまざまな投資家達と話をしたという。しかし当時、無名の彼らに対して興味を持つ投資家は少なく、最初の3年間でかき集めた資本は200万ドルほどだった。「経験がなかったことと、我々がまだ若かったということだ。さまざまな投資家達に我々のアイデアを話したとき、彼らのほとんどは我々のことを『クレイジーなアイデアを持っている若造』と考えていた」(Paternot氏)。

 その後、同大学出身でAlamo-Rent-A-Carの創設者であるMichael Egan氏が大学学長とランチを食べていたときに彼らの話を聞き、興味を持ったという。同氏は即座に2,000万ドルの小切手を渡し、個人のインターネット企業への投資額としては史上最大額の投資として一躍脚光を浴びることになった。



●IPO:ジェネレーションXのサクセスストーリー

Krizelman&Paternot
Paternot氏とKrizelman氏
 TheGlobe.comが塗り替えたインターネット史上記録の第2弾は、IPOである。1998年9月24日にeBayがIPOを行なった後、株式市場は低迷し、ほとんどのインターネット企業がIPOの申請を控えていた。Paternot氏は「我々は4年間ずっとIPOを夢見てきた。1998年にやっとその準備が整い、いよいよというところまで来たとき市場が暴落した」と語る。しかしその後、インターネット広告とE-commerceに関する前向きな調査予測と金利の引き下げにより、市場がやや上向き状態になり、11月11日に行なわれたEarthWebのIPOが、市場の低迷を脱する突破口となった。同社株が約3倍の高値で終了した翌日、TheGlobe.com株を求める投資家達からの電話が殺到し、数十人の投資家とのカンファレンスコールを経てIPO決定に至ったという。

 13日のIPO当日、公開価格の9ドルは5分で97ドルに跳ね上がり、史上最大の上昇率を見せた。最終的には605%増の63.50ドルで引け、多くのメディアは「ジェネレーションXのサクセスストーリー」「24歳の公開企業で最年少のCEOが誕生した」(TheGlobe.comの広報担当)など、同社のIPOを熱狂的に報道した。

 TheGlobe.comのIPOの成功にはさまざまな要因があるとされているが、そのうちの大きな要因は株価にあるといわれている。引受人のBear Sternsが公開価格を9ドルに設定した途端、買い注文が殺到し、IPOの前夜にはすでに4,000万株の注文が入っていたという。また、1月19日付けの「Wall Street Journal」紙によると、Nasdaqの小規模な証券会社が株価を誤って伝えたことで買い注文に拍車がかかり、予想よりも高値で同社株を買わされるハメになった投資家達もいたという。

 Paternot氏は「シリコンアレーでは、シリコンバレーより多くの企業がIPOを行なうようになりつつある。我々が企業を設立した当時には、ニューヨークに数百社しか存在しなかったインターネット企業が、現在では数千社に跳ね上がっている。多様化の街、ニューヨークはさまざまな異なるビジネスモデルが存在しているので、一つの基準で企業を測ることはできない。我々に関しても、多くの人は我々が失敗するだろうと信じて疑わなかった。そして数年後、我々は自分達のアイデアが正しいと証明したというわけだ」と語る。



●買収先と同時に身売り先も探す?

 将来的な戦略としてPaternot氏は「毎週月曜日に1社ずつ買収を行なう」とジョークを飛ばす。しかし、そのくらいの感覚でビジネスを行なわなければ激しい競争に生き残ることはできないということなのだろう。同氏は「市場は統合の方向に急速に向かっており、我々もこの機会を逃すことなく買収を行なう予定である。ビジネス、金融分野でのコンテンツサイトの買収、またE-commerceに関しても他社と異なるユニークなサービスを行なう企業を買収する予定である」と語る。

 Paternot氏はまた、オンラインオークションがE-commerceを飛躍的に高めるものになると考えており、3月にオークションサイト「Boxlot.com」との提携を発表した。両社は協力してオークションサイトを開発することになり、今年前半には新サービスを提供できるとしている。同氏は「オークションは、我々のサイトのE-commerce戦略を推し進める推進力になるものだ」と語る。

 TheGlobe.comの1998年の売上は前年比615%増の550万ドルで損失額は1,470万ドル、現在株価は52ドル前後で推移している。この株価の比較的高値に関しては、LycosやAltaVistaによる同社買収の噂が流れていることが原因の一つであるとされている。Krizelman氏はこの問いに関しては「我々はメディア、通信企業などのパートナー企業を探している」とだけ述べ、具体的な合併計画に関しては語らなかった。

('99/4/2)

[Reported by HIROKO NAGANO, NY]


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