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【連載】

東海岸インターネットビジネス最前線

第11回:インターネットTV番組制作
――ネットTVブランドを目指す:Pseudo Programs

http://www.pseudo.com/

 米国でのインターネット業界では、メーカーやソフトハウスの集まった西海岸「シリコンバレー」だけでなく、最近ではコンテンツやビジネス面で東海岸「シリコンアレー」(シリコン通り)が注目を集めています。この連載ではそうしたシリコンアレーから登場していく注目の企業を紹介していきます。(編集部)


Mr.Harris
Joshua Harris会長
 1日に発表されたYahoo!によるBroadcast.com買収のニュースは、広帯域幅の普及とともに急速に需要が伸びると予測されるインターネットビデオ放送の注目度をいっそう高めるものとなった。Yahoo!によると、オフィスのT1回線などを通した高速アクセスにより同社サイトを訪れるユーザーはすでに50%にのぼっており、これらの高速アクセスユーザーをターゲットにした広帯域幅向けポータルも、Snapにより最近開設された(http://speed.snap.com/)。

 また、AltaVistaでは、ビデオコンテンツに含まれる言葉を検索する技術の開発を行なっており、ビデオや画像ファイル検索サービスを開始した。さらにLycosを含む多数のインターネット企業に投資しているCMGIも、Webビデオ放送ポータルサイトを今年の第2四半期に開設する計画を立てているなど、ポータル各社のストリーミングビデオに対する主導権争いがいよいよ本格化する兆しを見せている。

 これは、Webビデオ放送が単なるイベントやニュース放送だけではなく、リッチメディア広告キャンペーンや双方向マーケティング、さらにはE-commerceのプラットフォームになる可能性を秘めていることによる。こうした動きをいち早く予測し、インターネットTV番組の提供を開始したシリコンアレー企業が、Pseudo Programsである。

 チャット中心のコンテンツサイトとして1994年に設立された同社は、1996年に本格的なインターネットTV番組サイト「Pseudo Online Network」を開設し、現在では40種類以上のネットTV番組を提供している。ソーホーの一等地に位置する2万平方メートルのスタジオには、ゲームや音楽、アート、シリコンアレーの関係者が毎日忙しく出入りして、「Silicon Alley Reporter NetTV Show」や「88 Hip-Hop」などのヒット番組を制作している。同社の成功の秘訣と将来的な展望を、設立者のJoshua Harris会長へ尋ねてみた。



●よりニッチな視聴者をターゲットに

OnAir
収録中のスタジオ
 Pseudoサイトでは、「Biztech TV LIVE!」「88 Hip-Hop」「Channel P」「All Games Network」などのチャンネルを提供しており、各チャンネルにはそれぞれ5種類から6種類の異なるインターネットTV番組が含まれている。たとえば、Biztech TVLIVE!では、毎週金曜日にシリコンアレー関係者が多数登場する「Silicon AlleyReporter NetTV Show」が、88 Hip-Hopでは毎週木曜日に世界中のヒップホップ・ファンがアクセスするDJライブが放映されている。また、All Games Networkにはゲーム関連のイベントを中継する「ExpoTV」があり、視聴者は、放送の途中で他の視聴者とチャットを行なうこともできる。

 Harris氏は「100種類以上のチャンネルを持つケーブルTV(CATV)の登場により、ローカル情報の提供など、ニッチ市場をターゲットにすることが可能になったが、インターネットではCATVよりもさらにニッチな視聴者をターゲットにできる」と語る。同氏によると、Pseudoサイトは毎月100万人以上のユニークビジターを持つという。

 たとえば、PseudoのExpoTVでは昨年5月にアトランタで開催されたゲーム展示会、Electronic Entertainment Expo(E3)の実況中継を行なった。3日間で15時間におよぶネット放送により、会議に参加できない人々もその内容をリアルタイムに知ることができた。また、後からアーカイブにアクセスすることもできる。地上波TVやCATVではこうした放送は不可能だったが、インターネットではこのように無数のチャンネルを開設することが可能だ。



●コンテンツを作る側とアグリゲートする側

Studio
インターネットTV制作ルーム
 Pseudoの競合企業としてよく引き合いに出されるのがBroadcast.comだが、Harris氏は「Broadcast.comは、ビデオ/オーディオコンテンツをホスティングしているテクノロジー企業だ。我々は、コンテンツを所有し、ブランドを構築するメディア企業だ。我々は番組制作、ディストリビューション、マーケティング、再販/リパッケージングというエンド・トゥ・エンドのコントロールをインターネットTV制作に対して持っている」と語る。両社は以前、合併に関して話し合ったことがあるが、企業文化とビジネスモデルの違いから合意には至らなかったと言われている。

 Pseudoの主な収入源は、スポンサーシップと広告収入である。Harris氏は「Pseudoではバナーの他にも、ダイナミックなビデオコマーシャル、オーディオプロモーション、アニメーションなどのリッチメディア広告を提供している」と語る。一方、Broadcast.comは今年2月、一般ユーザーが簡単にWeb放送を行なうためのツールを無料で提供するという発表を行なった。これにより、同社はコンテンツを制作するのではなくアグリゲートすることで、一般ユーザーが制作する多数のWebビデオページを広告スペースとして使用できる。



●シリコンアレーの個性派、Harris氏

Producer
Daily Briefingsの
Cynicalプロデューサー
 Harris氏は、自分のことを「ピュア・インターネット・スペシャリスト」と表現する。インタラクティブコミュニケーションがインタラクティブTVによりもたらされると多くの人が信じていた1986年当初から、これらが電話線とPC、つまりインターネットによりもたらされることをいち早く見抜いていたHarris氏は、1986年にJupiterCommunicationsを設立。1990年から本格的なニュースレターサービスとコンファレンスビジネスを開始した。

 同氏は「Jupiterでインターネット市場のリサーチを行なっていたときに、インターネットTVが大きくなると予測した。そこでPseudoを設立したわけだが、プロダクションの経験も何もなかったのでJupiterと違って大変な苦労をした。2年間ほど多くのエンターテイナーを招いて、さまざまなアイデアを交換しあったことで、40種類のネット番組は自然に集まった」と語る。

 Harris氏はシリコンアレーの中でも個性的な存在である。PseudoのネットTV番組の中でピエロに扮して登場したり、数々の派手なパーティを行なうことでは、ベンチャーキャピタリストの中で有名である。



●今から5年後のTVとネットの関係は?

Mr.T-Bo
サウンドデザイナー/
ディレクターのT-Bo氏
 Harris氏は、TVとインターネットの融合に関して「将来的にメインとなるプラットフォームはTVではない。エンターテイメント的な価値としてTVは消滅しないが、TVの視聴時間はインターネットにより明らかに減少している」と語る。しかし、@Homeなどのケーブル回線を使用した広帯域アクセスサービスと双方向性を持つデジタルセットトップボックスにより、インターネットはTVに統合されるのではないかとの問いに対して、「リビングルームと書斎ではやはりニーズが異なるので、PCが消滅することはない。問題は、いかにデジタルコンテンツを配信するかというディストリビューションの違いであり、TVは強力なコンピュータにつながれた単なるモニターになる」と語る。

 同氏はまた「今から5年後には、IPをベースにしたビデオ配信が主流になり、その頃には誰もこの技術を『ストリーミング』とは呼ばなくなる。今のTVもケーブル回線を使用して映像をストリームしているだけだ。TVは限界のあるメディアで、番組を流すだけで時間のコントロールができない。双方向性を生かしたマーケティング、クリック&バイ、ビデオ・オン・デマンドが提供できるのはIPベースのインフラだ」と語る。



●ネットから生まれるTVブランドを目指す

 Pseudoは1998年12月、ホームエンターテイメントのオンデマンドビデオ企業であるIntertainerとWavePhoreとのディストリビューション契約を結んだ。WavePhoreでは、WaveTopというPCデータブロードキャストサービスを提供している。PseudoはExcite、Lycos、CNET、Bloomberg、CMP Media、Echoster、Roadrunnerとも同様のディストリビューション契約を結んでいる。

 また、今年2月に入り、National Geographic InteractiveのLarry Lux氏をPseudoのCEOとして抜擢した。Harris氏は「Larryはマーケティング分野で長年の実績があり、非常に有能である。今後はLarryが会社の運営やその他の実務を行なうことで、私は資本集めに集中する」と語る。

 資本集めに関しては、同氏によると1,500万ドルの投資の話がまとまる寸前だとしているが、現時点では正確な情報は得られなかった。また、合併に関して同氏は「株主に対してPseudoのブランドの価値を明らかにすることが重要なので、現在のところ、考えていない」と語った。株主は半分以上が同社社員で、あとの半分は銀行家だという。

 将来の展望として、Harris氏は「Pseudoは、ポスト2000年のネットワークブランドになる。20年前、CNNやMTVがCATVネットワークとして登場した当時、誰も彼らが世界的なTVブランドとしての地位を確立するとは予測していなかった。我々もインターネットTVネットワークとして登場し、世界的なTVブランドとしての地位を確立する」と語る。

('99/4/16)

[Reported by HIROKO NAGANO, NY]


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