米国でのインターネット業界では、メーカーやソフトハウスの集まった西海岸「シリコンバレー」だけでなく、最近ではコンテンツやビジネス面で東海岸「シリコンアレー」(シリコン通り)が注目を集めています。この連載ではそうしたシリコンアレーから登場していく注目の企業を紹介していきます。(編集部)
また、AltaVistaでは、ビデオコンテンツに含まれる言葉を検索する技術の開発を行なっており、ビデオや画像ファイル検索サービスを開始した。さらにLycosを含む多数のインターネット企業に投資しているCMGIも、Webビデオ放送ポータルサイトを今年の第2四半期に開設する計画を立てているなど、ポータル各社のストリーミングビデオに対する主導権争いがいよいよ本格化する兆しを見せている。
これは、Webビデオ放送が単なるイベントやニュース放送だけではなく、リッチメディア広告キャンペーンや双方向マーケティング、さらにはE-commerceのプラットフォームになる可能性を秘めていることによる。こうした動きをいち早く予測し、インターネットTV番組の提供を開始したシリコンアレー企業が、Pseudo Programsである。
チャット中心のコンテンツサイトとして1994年に設立された同社は、1996年に本格的なインターネットTV番組サイト「Pseudo Online Network」を開設し、現在では40種類以上のネットTV番組を提供している。ソーホーの一等地に位置する2万平方メートルのスタジオには、ゲームや音楽、アート、シリコンアレーの関係者が毎日忙しく出入りして、「Silicon Alley Reporter NetTV Show」や「88 Hip-Hop」などのヒット番組を制作している。同社の成功の秘訣と将来的な展望を、設立者のJoshua Harris会長へ尋ねてみた。
Harris氏は「100種類以上のチャンネルを持つケーブルTV(CATV)の登場により、ローカル情報の提供など、ニッチ市場をターゲットにすることが可能になったが、インターネットではCATVよりもさらにニッチな視聴者をターゲットにできる」と語る。同氏によると、Pseudoサイトは毎月100万人以上のユニークビジターを持つという。
たとえば、PseudoのExpoTVでは昨年5月にアトランタで開催されたゲーム展示会、Electronic Entertainment Expo(E3)の実況中継を行なった。3日間で15時間におよぶネット放送により、会議に参加できない人々もその内容をリアルタイムに知ることができた。また、後からアーカイブにアクセスすることもできる。地上波TVやCATVではこうした放送は不可能だったが、インターネットではこのように無数のチャンネルを開設することが可能だ。
Pseudoの主な収入源は、スポンサーシップと広告収入である。Harris氏は「Pseudoではバナーの他にも、ダイナミックなビデオコマーシャル、オーディオプロモーション、アニメーションなどのリッチメディア広告を提供している」と語る。一方、Broadcast.comは今年2月、一般ユーザーが簡単にWeb放送を行なうためのツールを無料で提供するという発表を行なった。これにより、同社はコンテンツを制作するのではなくアグリゲートすることで、一般ユーザーが制作する多数のWebビデオページを広告スペースとして使用できる。
Cynicalプロデューサー |
同氏は「Jupiterでインターネット市場のリサーチを行なっていたときに、インターネットTVが大きくなると予測した。そこでPseudoを設立したわけだが、プロダクションの経験も何もなかったのでJupiterと違って大変な苦労をした。2年間ほど多くのエンターテイナーを招いて、さまざまなアイデアを交換しあったことで、40種類のネット番組は自然に集まった」と語る。
Harris氏はシリコンアレーの中でも個性的な存在である。PseudoのネットTV番組の中でピエロに扮して登場したり、数々の派手なパーティを行なうことでは、ベンチャーキャピタリストの中で有名である。
ディレクターのT-Bo氏 |
同氏はまた「今から5年後には、IPをベースにしたビデオ配信が主流になり、その頃には誰もこの技術を『ストリーミング』とは呼ばなくなる。今のTVもケーブル回線を使用して映像をストリームしているだけだ。TVは限界のあるメディアで、番組を流すだけで時間のコントロールができない。双方向性を生かしたマーケティング、クリック&バイ、ビデオ・オン・デマンドが提供できるのはIPベースのインフラだ」と語る。
Pseudoは1998年12月、ホームエンターテイメントのオンデマンドビデオ企業であるIntertainerとWavePhoreとのディストリビューション契約を結んだ。WavePhoreでは、WaveTopというPCデータブロードキャストサービスを提供している。PseudoはExcite、Lycos、CNET、Bloomberg、CMP Media、Echoster、Roadrunnerとも同様のディストリビューション契約を結んでいる。
また、今年2月に入り、National Geographic InteractiveのLarry Lux氏をPseudoのCEOとして抜擢した。Harris氏は「Larryはマーケティング分野で長年の実績があり、非常に有能である。今後はLarryが会社の運営やその他の実務を行なうことで、私は資本集めに集中する」と語る。
資本集めに関しては、同氏によると1,500万ドルの投資の話がまとまる寸前だとしているが、現時点では正確な情報は得られなかった。また、合併に関して同氏は「株主に対してPseudoのブランドの価値を明らかにすることが重要なので、現在のところ、考えていない」と語った。株主は半分以上が同社社員で、あとの半分は銀行家だという。
将来の展望として、Harris氏は「Pseudoは、ポスト2000年のネットワークブランドになる。20年前、CNNやMTVがCATVネットワークとして登場した当時、誰も彼らが世界的なTVブランドとしての地位を確立するとは予測していなかった。我々もインターネットTVネットワークとして登場し、世界的なTVブランドとしての地位を確立する」と語る。
('99/4/16)
[Reported by HIROKO NAGANO, NY]