米国でのインターネット業界では、メーカーやソフトハウスの集まった西海岸「シリコンバレー」だけでなく、最近ではコンテンツやビジネス面で東海岸「シリコンアレー」(シリコン通り)が注目を集めています。この連載ではそうしたシリコンアレーから登場していく注目の企業を紹介していきます。(編集部)
インターネット広告は、将来的には電子メールを使用したダイレクトマーケットや、製品情報との融合によるコンテクチュアル販売、ストリーミングビデオなどのリッチメディア広告、TVや印刷物と統合されたクロスメディアキャンペーンなどが大きなトレンドになる可能性がある。インターネット広告ネットワーク市場で第3位に位置する24/7 Mediaは、こうしたWebマーケティングを熟知しているシリコンアレー企業だ。同社は、業界1位のDoubleClick(本連載第8回参照)と同様のサービスを提供しているが、24/7 Mediaのユニークな点はカスタマーデータベースを最大限に利用したダイレクトマーケットに焦点を絞っている点にある。
インターネット企業3社の合併により1998年1月に設立された同社は、設立8カ月足らずでIPOを行ない、現在では米国に200名の社員を抱えるまでに成長した。また、24/7 Media Europeや24/7 Media Asiaなど、世界各地でのビジネス展開も行なっている。同社の成功の秘訣と将来の展望をDavid J. Moore社長兼CEOに尋ねてみた。
Moore氏は「これらと類似したサービスは他社も行なっているが、24/7 Mediaではこれらのバナー広告配信サービスに加えて、ダイレクトマーケットやカスタマー管理を含めた包括的なソリューションを提供している。我々のもっとも大きな資産は、カスタマーデータベースである。カスタマーを把握することで、バナー広告に限定されない幅広いマーケティング戦略を展開することができる」と語る。
24/7 Mediaは昨年4月、この戦略を推し進めるため、データベースマーケティング技術を開発するIntelligent Interactionsを買収した。RealNetworksやMotley Foolなども使用している同社の広告配信システム「Adfinity」は、複数のサードパーティーのデータベースを組み合わせてターゲットを絞った広告配信を行なうシステム。また、Open MarketやIBMのE-commerce製品に対応する「dbCommerce」は、データベースマーケティング技術とカスタマートランザクション情報、サードパーティー情報を組み合わせることで、ターゲットを絞った個人にカスタマイズされたプロモーションやカタログリストを配信するシステム。
同データベースでは、WebサーファーがIBM、Intel、MicrosoftなどIntelliQuestと契約している企業の製品をオンラインで購入すると、その購入データが同データベースに統合される仕組みになっている。オンラインで製品を購入する際に「今後、類似した製品に関する情報を受け取りますか」などの質問ボックスがよく見られるが、「はい」と答えた場合にのみデータ統合が行なわれる。IntelliQuestのクライアントは、デモグラフィックやライフスタイル情報をもとに200種類以上にセグメント化された同データベースにより、効果的なマーケティング展開が行なえる。
24/7 Mediaでは、同データベースを使用して独自のカスタマーデータベース「24/7 Profilz」を構築している。同社は現在、24/7 Mediaネットワークサイトのユーザー登録データやユーザービヘイビアとHigh-tech Householdを統合している段階にあり、今年の第2四半期には1,000万~1,500万人の個人プロフィールをベースにしたダイレクトマーケットを開始できるとしている。
Moore氏は「これにより、24/7 Mediaではネットワークを訪れるユーザーひとりひとりに異なる広告を配信することができる。『はい』と答えたユーザーのブラウザーにクッキーを埋め込み、そのユーザーが24/7 Mediaネットワークのサイトを訪れた際には、Adfinityがユーザーの統計プロフィールに合致した広告を配信する。たとえば、年収7万5,000ドルの25歳の独身男性と、年収12万ドルの2人の子供を持つ45歳の既婚男性が同じWebサイトを同じ時間に訪れたとしよう。データベース情報によると、2人とも6カ月以内に新車を購入したいと考えている。その場合、独身男性には2シートのスポーツカー、既婚男性にはミニバンのバナー広告がページに登場するといった具合だ」と語る。
Leslie A. Howard副社長 |
24/7 Mediaでは、このリストを使用したカスタマーリレーション管理サービスを新たに開始する。24/7 Mediaの広告主は、このオプトイン電子メールリストを使用して、潜在カスタマーに対して製品やサービス情報の電子メールを送信することができる。また、広告主のカスタマーデータベースに、オプトイン電子メールリストを追加することも可能。
この新サービスは24/7 Profilzとも統合され、広告主はターゲットを絞ったバナー広告の配信に加えて、ニュースレター、サイトアップグレード、新製品の紹介の電子メールを含んだカスタマーリレーション管理サービスなどの統合的なカスタマー獲得プランを得られる。Moore氏は「我々の戦略は、広告主に包括的なインタラクティブマーケティングパッケージを提供することで、オンライン広告の価値を高めることだ」と語る。
Moore氏は「私はいつもニューメディアに興味を持っていたが、TVコマーシャル広告会社のPetry Mediaで新たなビジネスの可能性を模索していたとき、インターネット広告に目をつけた。そこで1996年、Mark Burchill氏とともにPetry Interactiveを設立、1997年に広告ネットワークビジネスを開始した」と語る。しかし、すぐに資金が必要になり、Petry Mediaによる投資の可能性がなかったために新たなパートナーを探す必要に迫られたという。
同氏は「11月末、Interactive Imaginationと合併の話が決まり、同じ問題に直面していたKatz Millenuim Marketingともその2日後に話がまとまった。Travelers GroupやニューヨークのベンチャーファンドであるProspect Streetなどから合計1,000万ドルの投資を受けた」と語る。Interactive Imaginationは、1994年に開設されたシリコンアレーのスタートアップ(新興企業)。同氏は「企業文化は非常に異なっていたものの、当時の社員数はPetryが12名、Katzが12名、Interactiveが20名と小規模で、資金繰りに苦労したという共通項があり、比較的うまくいった」と語る。
Moore氏が社長職に就いた理由は、同社Corporate Communications部門のLeslie A. Howard副社長によると「メディアビジネスでの長年の実績があるMoore氏が社長である限り、投資家たちが安心するからだ」と語る。
設立して1年半足らずの24/7 Mediaが目指す目標は大きい。同社は将来、とくにインターネットとTVの融合分野で、インタラクティブTVおよびインターネット家電に対する広告配信サービスのトップ企業になることを目指している。Moore氏は「先月、我々は米3大TVネットワークの一つ、NBCのオンラインネットワーク『NBC Interactive Neighborhood(NBC-IN)』とローカル市場をターゲットにした3年間の契約を結んだ。E-commerce、広告、その他のダイレクトマーケットなどを含んだオンライン戦略により、TVネットワークとのクロスメディア戦略で新たな収益源の確保を目指す」と語る。
24/7 Mediaの売上は、1998年には1,990万ドル、今年は6,000万ドルに成長すると予測されている。ローカル広告市場は600億ドルの巨大市場であり、これらの市場をめぐる既存メディアとの争いも激しくなるものと考えられる。Moore氏は「我々のライバル企業は、広告市場を狙う企業すべてだ。したがって、ポータルサイトやバナー広告ネットワークの他、地方新聞などの既存メディアもライバルだ」と語った。
('99/4/30)
[Reported by HIROKO NAGANO, NY]