米国でのインターネット業界では、メーカーやソフトハウスの集まった西海岸「シリコンバレー」だけでなく、最近ではコンテンツやビジネス面で東海岸「シリコンアレー」(シリコン通り)が注目を集めています。この連載ではそうしたシリコンアレーから登場していく注目の企業を紹介していきます。(編集部)
「Comet Cursor」拡大図 |
設立1年足らずで、シリコンアレー業界誌「@NY」(現在、internet.comの一部)の「トップ・シリコンアレー25社」の中に選ばれたソフトウェア開発企業、Comet Systemsもその1社である。同社は、Webブラウザーのカーソル(矢印)部分を画像やアニメーションに変えるというユニークなソフトウェア「Comet Cursor」を開発している。このアイデアを思いつき、ハーバード大学ビジネススクールをドロップアウトしたJamie Rosen氏と、テクノロジー業界のベテランDean Margolis氏により1997年終わりに設立された同社は、1998年8月にCATV番組サイトの「Comedy Central」から同ソフトウェアを市場に投入して以来、8カ月間で一気に400万人のユーザーを獲得するという快挙を果たした。RealAudioやShockwave、ICQよりも普及速度が高いというComet Cursorを開発した同社の成功の秘訣と将来の展望をDean Margolis CEOおよびBen Austinマーケティングディレクターに尋ねてみた。
具体的には、Webサーファーが「Warner Bros」や「Comedy Central」などのComet Cursor対応Webサイトを訪れると、「Comet SystemsからComet Cursorをダウンロードしますか?」という質問がポップアップメニューで登場する。それに「はい」と答えるとソフトが瞬時にダウンロードされ、それ以降はどのサイトでも自動的にComet Cursorが起動するようになる。カーソル部分の画像サイズは1センチ四方程度で、Comet Cursorの画像ファイルは1KBと軽い。
カーソルには、製品の値段、株価動向なども含むことができ、CNNfnサイトでは個々のユーザーがカスタマイズした株価がカーソル部分に登場する。また、Comet Cursorを使用したAT&T WorldNetの懸賞ゲーム「Log On, Scratch Off」では、スクラッチカード部分でカーソルがコインに変貌し、カードをこすることができる。
Comet SystemsのBen Austinマーケティングディレクターは「WebサイトへのComet Cursor導入はいたって簡単で、オブジェクト・エンベッデド・タグのHTMLコードを特定のページにコピー&ペーストし、画像ファイルを指定するだけでいい」と語る。Comet Systemsでは、Comet Cursorを毎月1,500ドルでライセンスしているが、実際にライセンス料を支払っているのは100社ほどで、残りの1万以上のサイトは機能が限定された無料バージョンを使用している。
マーケティングディレクター |
Margolis氏は「我々のビジネスモデルは、サイト出版社からではなく広告主から収益を得るメディア型モデルだ。現在、インターネット広告市場の大部分を占めるバナー広告は、『画面をスクロールすると見えなくなる』『クリック率が低い』などの様々な理由でCPM(Cost Per Mill:1,000回表示あたりの広告料)が低下している。Comet Cursorは、バナー広告と併用することでこれらの問題を解決する“キラーアップ(大ヒット・アプリケーション)”だ」と語る。
Comet Cursorには個別にユニークID番号が付いているため、インプレッションやクリック率が簡単に測定できる。したがって、DoubleClickや24/7 Media、Flycast Networkなどの広告ネットワークがComet Cursorを使用し、インプレッションやクリック率ベースでComet Systemsにコミッションを支払うことが可能になる。一方、広告ネットワーク側にとっては、このリッチメディアソフトウェアを使用することで広告の効果が高まれば、CPMを広告主に対してより高値に設定できるというメリットも生まれる。
Margolis氏は「広告ネットワークには、Comet Cursorは非常に魅力的なツールになる。我々にとっては、20億ドルのインターネット広告市場の数%でも(コミッションにより)得られれば大きい」と語る。
米地域ベル系電話会社のBellSouthは4月26日、Comet Cursorを使用した初の広告主として、広告ネットワークのFlycast NetworkでComet Cursorの使用を始めた。ここでは、Flycastは全体で25ドルのCPMをBellSouthから受け取り、Comet Systemsはそのうち2ドルを受け取ることになる。
Procter & Gamble、MasterCard International、Johnson & Johnson、Coldwell Banker Real Estate Corporationの出資により行なわれたMillward Brown Interactiveの調査では、Comet Cursorを組み込んだバナー広告はクリック率が2倍になり、ブランドリコール(ブランドを思い出すこと)はバナー広告単独の17%に比べて、Comet Cursor併用では39%と2倍以上の効果が出た。また、製品購入の意欲なども高まり、全体的な広告の効果は10倍に高まるという結果が出ている。4カ月にわたるこの調査は、FortuneCity.com、GameSpot、Lycos.com、NBC.com、Women.comなどのWebサイトを通して、約1万4,000人を対象に行なわれ、3月に結果が発表された。
BellSouthでは、通常のバナー広告の平均クリック率は1.2%であり、これがComet Cursorにより実際に2倍に増加するのかを確認するため、5月10日に集計結果を出すとしている。その他にも、Warner Bros、Comedy Centralなど現在Comet Cursorを使用しているサイトも同様の広告キャンペーンを行なう予定。
現在は6台のサーバを設置し、 3本のT1回線を敷設している |
Margolis氏は「ベンチャーキャピタル会議で意気投合し、会社を設立しようということになったが、最初は異なるビジネスモデルを考えていた。最初、多様な検索機能のついたオンライン不動産サイトを開設しようと考えていたが、すでに多数の競合が存在しており、非常に難しいと気付いた。その後、Jamieがこのアイデアを思いつき、ニューヨークのベンチャーキャピタル、Prospect Street Venturesから250万ドルの投資を受け、会社設立に至った」と語る。また、Tom Schmitter CTOとは、Rosen氏がMITのアントレプリナーズクラブで出会い、リクルートしたという。
最初はカリフォルニアに本社を構える予定だったと語るMargolis氏は「テクノロジー企業と言えば、以前はシリコンバレーかボストンだったが、現在、ニューヨークに比重が移ってきている。ニューヨークはメディアとテクノロジーの両方を合わせ持つ街なので、とくに我々のビジネスモデルに最適だった」と語る。
提示した電光掲示板とErik Diehnシステムエンジニア(左)、 Keith Pajonasシステム アナリスト(右) |
現在、ニューヨークは数年前と比較すると地価が約1.5倍に跳ね上がり、ブラウザー開発企業のNeoPlanet(Bigfootからのスピンオフ)はアリゾナ州のフェニックスに、GT Interactiveはロスアンジェルスに移転するなど、コスト削減のためにニューヨーク市を離れる企業が増えている。しかし、Comet Systemsは「2回目の投資ラウンドが終われば買収を積極的に行ない、ビジネス開発、マーケティング、テクノロジー分野でスケールアップを図る」と強気な姿勢を崩さない。
同氏は「現在のところ競合は存在しないが、我々はLycosとのディストリビューション契約などを通して、さらに多数のユーザーがComet Cursorを使用するユビキュイタスな(至る所にある)環境を作り上げることに専念する。また、リッチメディアアプリケーションで広告に付加価値を提供することにより、インターネット広告の市場規模を大幅に拡大することを目標にしている」と語る。また、将来的な戦略に関しては「将来的にはクリック&バイ・アプリケーションなどのE-commerce市場に向けたソフト開発に力を入れていく」とも語った。
('99/5/14)
[Reported by HIROKO NAGANO, NY]