米国でのインターネット業界では、メーカーやソフトハウスの集まった西海岸「シリコンバレー」だけでなく、最近ではコンテンツやビジネス面で東海岸「シリコンアレー」(シリコン通り)が注目を集めています。この連載ではそうしたシリコンアレーから登場していく注目の企業を紹介していきます。(編集部)
X-Ceedは同年7月、シリコンアレーの大手インタラクティブマーケティング企業、THINK New Ideasの創設者であるScott Mednick氏を同社に招き入れ、その後はReset、Mercury Seven、Zabit & Associatesなどのインターネット企業を次々と買収し、それと同時にインターネットに関係のない部門のほとんどを売却した。とくに、シリコンアレー企業の古株で優れたコンサルティング能力とデザインチームを有するMercury Sevenを引き入れたことで、X-Ceedの競争力は飛躍的に高まった。
X-Ceedは現在、ニューヨークの有力ビジネス紙「Crain's New York Business」によるトップシリコンアレー企業の第5位に選ばれ、年収6,000万ドル以上、社員総数は350名を超えるまでに成長している。Razorfishと肩を並べるWebビジネスコンサルティング企業としての地位を確立したX-Ceedの成功の秘訣と将来の戦略を、Scott Mednick会長に尋ねてみた。
チーフ・ストラテジック・オフィサー |
同氏は「ホテルや航空会社は、ブランド構築のためのTVコマーシャルや雑誌広告に巨額を投じている。しかし、もし一人の社員が不適切な対応を顧客にとれば、広告によるいいイメージも途端に崩れてしまうだろう。つまり、本当の意味でのブランド構築は、社内の人材開発やコミュニケーショントレーニングから始めるべきである。我々は、このための効率的なWebアプリケーションを含めたイントラネットソリューションを提供している」と語る。
X-Ceedにより1997年に開発されたWebアプリケーション技術「Maestro」は、社内トレーニング、コミュニケーション、販売スタッフの成績のリポーティングやトラッキング、結果集計、賞品やストックオプション提供などのインセンティブプログラムのリアルタイムでの提供を実現する。Mednick氏は「インセンティブプログラムを自動化した業界随一のサービスであるMaestroにより、販売部門マネージャーは販売スタッフの成績を一括してモニタリングでき、コメントや連絡事項なども即座に通達できる。これにより、社員の指揮を高め、売上増加に大きくつながることになる」と語る。
X-Ceedでは、Maestroのサイトサービス管理を自社の「Performance Group」部門で一括して行なっており、クライアント企業はそのサービス料金をX-Ceedに支払うという形態をとっている。料金体系はそれぞれの企業の使用頻度やカスタマイズの度合いにより異なるという。こうしたWebサービス/ソリューション提供は今後、さらにニーズが増えるものと予測され、現在、多数のインターネット企業がWebデザインからWebサービスプロバイダーやアプリケーションサービスプロバイダー(ASP)へと方向転換を図りつつある。
Webデザインやイントラネット構築の場合、1回のWebサイト構築プロジェクトが終われば、その後の収入のメドが立たないという理由から不安定な経営状況に追いやられるが、X-Ceedでは売上の60%がMaestroサービスによるため、収入の安定化が図れるとしている。
X-Ceedはその他にも、サイトトラッキングや分析ツール、オークションエンジン「E-Auctioneer」の開発などを行なっている。「Diamondcutters.com」では、X-Ceedが開発したE-Auctioneerを使用して、通常のオークションサイトとはひと味違うサービスを行なっている。この中の自動化オークションプログラム「Auto Bid」は、ユーザーが自分の求める価格を設定すれば、自動的にビットしてくれるシステムだ。Mednick氏は「ユーザーはAuto Bidにより、そのサイトに常時いる必要がなくなる。こうしたシステムは、オンライン株式取引サイトでは導入されているが、通常のオークションサイトでは存在しなかった」と語る。
X-Ceedはまた、今年3月にインタラクティブ技術企業のTROONを買収した。TROONは総合検索テクノロジーの「MajorFind」、オンラインコミュニティ構築ツールの「Megaphone」などを開発しており、これによりX-Ceedはテクノロジー面での優位性を一層高めることになる。しかし、Mednick氏は「テクノロジーはあくまで効率化を図るための手段であり、ソリューションではない。我々の目的は、ソフトウエアの開発ではなく洗練された統合インターネットシステムの構築にある。フラッシュアニメを開発したとしても、1カ月もすればすぐに飽きてしまうだろう。問題は、効果的な問題解決の方法を発見するトップレベルのコンサルティングだ」と語る。
X-Ceed Interactive(旧Mercury Seven)がコンサルティングを行なったE-commerceコミュニティの「Spree.com」は、開設後1年足らずで24種類のE-commerceサイトとの提携契約を結び、高トラフィックサイトのランキングではインターネット市場全体で第36位に、E-commerceサイトで第7位に躍進したという。Mednick氏は「ユーザーに既存の市場と同様のカスタマー体験を提供するためには、訪れるたびにサイトが自分好みになるようなパーソナリゼーション、ワン・トゥ・ワン・マーケティングが必要になる」と語る。
同氏は1998年、THINKを去っている。その理由として「私はヒラリー・クリントンの人権関連の委員会のメンバーでもあり、慈善団体に興味があった。丁度、THINKも経営が安定してきた頃だったので、会社は次のマネジメントに任せて、私は西海岸にあるアーノルド・シュワルツネッガーの慈善団体で働こうと考えていた」と語る。しかし、その数カ月後、X-CeedのWerner G. Haase会長による申し出を受け入れ、Mednick氏は再びインターネット業界に舞い戻った。同氏は「THINKよりもさらに包括的なWebソリューションを提供するX-Ceedの企業コンセプトに賛同した」と語る。
一方、Mercury Sevenの共同創設者であるKevin Labick氏は、同社の合併に対して「他社からもさまざまな合併の話が持ちかけられたが、彼らのほとんどはインターネットマーケティングやオンライン広告に関するイニシアチブを持っていなかった。しかし、X-Ceedは包括的なWebビジネスの構築を提供するという目的のもとに、インターネットマーケティング事業も行なっていたため、賛同した」と語る。Mercury Sevenでは、インターネットマーケティングとオンライン広告に対象を絞った人気オンラインマガジン「ChannelSeven」を発行している。
Mednick氏は「Silicon Valley Bank(SVB)がX-Ceedを選んだことも、我々がもっとも優れたテクノロジーとハイレベルのコンサルタントを有していることを証明している」と自信のほどを見せる。SVBは、Amazon.comなどにも投資している35億ドルの資産を持つ投資銀行で、4,000社以上のスタートアップ(新興)企業クライアントを持つ。SVBでは、これらの企業に対して付加価値の高い金融情報を提供する新サービス「eSOURCE」を開始したが、これらのインターネットマーケティングおよびプロモーションサービスの提供をX-Ceedに依頼している。
THINKのIPOで巨額を築き、西海岸に2軒の家を持つMednick氏だが、引退することなく多忙な生活を送っている。同氏は「今週だけで、5つの都市を回った。インターネットが発達しても、直接クライアントや社員に会って話をすることは、やはり重要だ」と苦笑しながら語った。
('99/5/28)
[Reported by HIROKO NAGANO, NY]