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【連載】

東海岸インターネットビジネス最前線

第16回:リッチメディアメッセージング企業
――インタラクティブキャラクターエンジンを開発するtogglethis

http://www.togglethis.com/

 米国でのインターネット業界では、メーカーやソフトハウスの集まった西海岸「シリコンバレー」だけでなく、最近ではコンテンツやビジネス面で東海岸「シリコンアレー」(シリコン通り)が注目を集めています。この連載ではそうしたシリコンアレーから登場していく注目の企業を紹介していきます。(編集部)


Paul Maya
Paul Maya共同設立者兼CEO兼CTO
 インターネット広告市場の拡大にともない、リッチメディアやダイレクトマーケティングなどさまざま形態のインタラクティブ広告やマーケティングが登場しているが、その中でも、56kbpsのダイヤルアップ接続でリッチメディア広告の可能性を追求しているシリコンアレーのスタートアップ(新興)企業が注目されている。1996年1月にPaul Maya氏とMarc Singer氏により設立されたtogglethisは、電子メールという基本的なツールをベースに、アニメ化されたキャラクターが登場する“インタラクティブショー”のプラットフォームを開発している。

 同社は、TVのビジュアル体験とWebのインタラクティブ体験を組み合わせた新たな形態のエンターテイメント番組を、コンシューマーのデスクトップに配信するというユニークなコンセプトにもとづき、現在、Warner Brothers、Disney、Intelを始めとする多数の企業のインタラクティブ広告の制作・配信に携わっている。また、ハンドヘルドPC、セットトップボックスなどのインターネット情報家電での広告モデルにも力を入れており、昨年はシリコンアレー業界誌「@NY」(現在は「internet.com」の一部)のトップシリコンアレー25社の中の16位に選ばれた。同社の成功の秘訣と将来の展望を、設立者の一人であるPaul Maya CEO兼CTOに尋ねてみた。



●キャラクターとの関係を深める“togglethisショー”

Mulan
Lost in Space
togglethisショー。「Mulan」のドラゴン
(上)と「Lost in Space」のロボット
(C)Disney
(C)1998-99 New Line Cinema,inc
 Maya氏は「togglethisショーに登場するキャラクターは、映画や人気アニメのキャラクターが多く、ショーはTV番組のように6回から12回のエピソードに分かれている。ユーザーは、アニメ化されたショーに参加することで、楽しみながらこれらのキャラクターに親近感を持つことになる」と語る。ブランド化されたキャラクターとの関係を深めたユーザーは、キャラクターグッズを購入したり、映画館へ足を運ぶ。Disney映画「Mulan(ムーラン)」のドラゴン、New Line Cinemasの映画「Lost in Space(ロスト・イン・スペース)」のロボットなどがこれまでにショーに登場し、ティーンエイジャーの人気を集めた。

 具体的には、ユーザーは同社サイトや提携サイトから特別なソフトウェア「IC(Interactive Character)Engine」をダウンロードする。その後は、毎週togglethisから電子メールが送られてきて、それに添付されているファイルをクリックするとインタラクティブショーを楽しむことができる。IC Engineは、現在パテント申請中の独自技術「ICTechnology」をベースとしており、キャラクターの基本情報ファイルを含むため、サイズは2MBとやや大きめである。しかし、いったんダウンロードしてしまえば、その後、メールで送られてくる個々のショーのファイルは5~20KBと非常に軽くなる。

 同社が行なった最新の広告キャンペーンは、New Line Cinemasの映画「Austin Powers」である。この大ヒットしたコメディ映画のショーは、数カ月で約10万人がダウンロードした。ユーザーはAustin Powersショーに登場するキャラクターと多様な形でコミュニケートできるほか、映画情報やローカル映画館のリストへのリンクも組み込まれているので、興味があればWebサイトにリンクして映画のチケットを購入することもできる。このキャンペーンは、30%のクリック率を達成した。



●Webブラウザーから飛び出した広告

togglethis HomePage
togglethisのホームページ。Austin
Powersショーが掲載されている
(C)1999 New Line Cinema,inc
 togglethisプラットフォームの強みは、Webブラウザーの外側で自由にキャラクターが動き回り、オフラインでインタラクティブショーが楽しめることだ。Maya氏は「現在、バナー広告を始めとするインターネット広告の主流はどれもWebサイトをベースにしたものだが、togglethisはWebブラウザーにコントロールされない広告ベースのインタラクティブエンターテイメントを提供している」と語る。

 同社は、IC Engineソフトウェア技術のライセンスと、インタラクティブショーの制作やディストリビューションにより収入を得ている。インタラクティブショーの制作は、簡単なドラッグ&ドロップによるインターフェイスで、プログラムに関する専門知識がない人でも簡単に制作できるため、クライアントによっては自らインタラクティブショーを制作する場合もある。

 同氏は「Cartoon Networkのキャンペーンでは、彼らは独自のキャラクターリソースと制作チームを使用したので、我々は主にソフトウェアのライセンス提供という形で彼らのキャンペーンをサポートした」と語る。制作期間は、5~6人の制作チームで平均6~9カ月ほどかかり、制作費は公表していない。クライアント側が制作を行ない、togglethisがディストリビューションのみを行なう場合は、CPM(Cost Per Mill:1,000回あたりの料金)ベースでの課金になるとのこと。



●インタラクティブキャラクターをECに使用

Office
togglethisのオフィス風景
 togglethisは現在、デジタルセットトップボックスや携帯電話、ハンドヘルドデバイス、その他のインターネット情報家電へリッチメディア広告を配信するための「PersonalJava」ベースのIC Engineの開発を進めている。次世代バージョンの同エンジンは、エンターテイメント番組のほかにも、プロモーションやパーソナライズ、E-commerce向けの情報収集と配信などが行なえる予定だ。

 Maya氏は「たとえば、インタラクティブキャラクターをE-commerceのエージェントとして設計することもできる。カスタマイズされたエージェントは、自分の興味のある製品に関してのショッピングアドバイスをしてくれる。『帽子が欲しい』と言えば、『何色の帽子が欲しいですか?』とエージェントが聞いてくる。『赤の帽子』と答えると、赤の帽子を販売しているWebサイトの情報を集めてくるといった具合だ」と語る。

 Jupiter Communicationsの調査によると、インターネット情報家電の普及台数は1998年には320万台だったのが、2002年には3,730万台に急増すると予測されている。これらのデバイスはPCに取って代わるものではなく、PCを補足するものになり、もっとも使用されるインターネット機能は電子メールと予測されている。togglethisは、こうした環境での同社プラットフォームの幅広い普及を目指している。



●きっかけは、動かないWeb

Bozlo Beaver
カルト的な人気を呼んだ「Bozlo Beaver」
 Maya氏は、同社設立のきっかけを「その当時、インターネットは動かないテキストと画像オンリーの、すごくスタティックなものだった。そこで、もっとコンシューマーよりの、TVみたいなものがあってもいいと思った」と語る。同氏は、Times-Mirrorのマルチメディア子会社の同僚であるMarc Singer氏とともに、“ダイナミック”“インタラクティブ”“リッチメディア”をコンセプトとした企業の設立を思い立った。同子会社は、インタラクティブCD-ROMのインターフェースデザインを行なっている会社。両氏は2カ月間かかってビジネスプランを書き、ついに最初のシードマネーを得た。金額は公表していないとのこと。

 その後、これらのコンセプトを証明するため、ベータバージョンのソフトウェアと新たなアニメキャラクターの「Bozlo Beaver」を開発した。同キャラクターはインターネットコミュニティでカルト的な人気を集め、その後、Sun MicrosystemsのEmbedded Systems Software部門のJim Hebertゼラルマネージャーや元MicrosoftのRichard Tait氏、個人投資家のBob Perry氏からの投資を得た。なお、1997年11月には、Warner BrothersがこのキャラクターとIC Engineを使用した広告キャンペーンを行ない、話題を呼んだ。

 カーネギーメロン大学出身のMaya氏は、同大学時代にエンターテイメントニュースをオンラインコミュニティに提供するアクセスシステムを開発。その後ニューヨーク大学(NYU)で映画を専攻している。同氏がNYU時代に撮ったドキュメンタリー映画は、PBSで放映されている。



●ゲーム、懸賞など多様なショーを提供

 togglethisは、今後はますますコンシューマー市場にターゲットを絞り、今年8月にはJavaベースの新技術の発表を行なう予定だ。これには、ストリーミングオーディオ、3Dアニメーション、VRMLなどの機能も追加され、ハンドヘルドデバイスでのインタラクティブショーの配信にも対応する予定である。

 同社はまた、さまざまな企業との提携も積極的に行なっており、今年2月にはLycosとの共同ブランドによるディストリビューション契約を結んでいる。Lycosのエンターテイメントセクションにはtogglethisチャンネルが設けられ、そこからインタラクティブゲームショーや懸賞を含む多様なショーを提供するIC Engineがダウンロードできる。また、Webベースの無料電子メールサービス企業であるRocketMailと、インタラクティブ広告のクロスプロモーションキャンペーンを行なっている。

 Maya氏は「コンシューマーブランド企業は、新しい形態のインターネット広告を求めている。もちろん、バナー広告はインターネット広告のベーシックとして定着しているが、コンシューマー企業はより効果的で魅力的なリッチメディア広告に期待している」と語った。

('99/6/25)

[Reported by HIROKO NAGANO, NY]


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