米国でのインターネット業界では、メーカーやソフトハウスの集まった西海岸「シリコンバレー」だけでなく、最近ではコンテンツやビジネス面で東海岸「シリコンアレー」(シリコン通り)が注目を集めています。この連載ではそうしたシリコンアレーから登場していく注目の企業を紹介していきます。(編集部)
このような巨大なB2B市場への参入に遅れを取るまいと、世界中の企業がECサイトの立ち上げやEC関連サービスの提供に乗り出しているが、実際には各国間で異なる貿易規制や慣習があるため、新たな市場と取引を開始するのは容易ではない。各国の商務省や商工会議所がさまざまな貿易関連の情報を掲載したWebサイトを開設してはいるものの、これらの情報を集めるだけでも多大な時間と労力を要するのが現状である。
こうした貿易関連の情報を一つにまとめ、しかも国際取引のためのトランザクションツールを提供しているグローバルなB2Bネットワークポータルが、シリコンアレー企業のスタートアップ(新興)企業、ProNetLinkである。今年4月16日にサイトを開設したばかりの同社は、世界122カ国の総計320万社に及ぶ企業ディレクトリを持ち、世界中の貿易ニュースやリソースとともに、企業間取引が行なえるようなさまざまなトランザクションツールを提供している。ユーザーが毎週1,500人ずつ増え続けているというProNetLinkのGlenn Zagoren会長へ、同社のビジネスモデルと将来的な戦略を尋ねてみた。
ProNetLinkのスタートページ。 登録してパーソナライズできる |
Zagoren氏は「ProNetLinkでは、Dow Jones、Rueters、World Trade Magazine、Journal of Commerceなどの主要ソースから毎日1,000件以上のニュースを会員に提供している。これにより、会員は複数のサイトに行き情報収集を行なう必要がなくなる」と語る。
また、取引も同サイトで行なえる。同氏は「たとえば、眼鏡のフレームを1万個必要としている企業があるとしよう。企業ディレクトリで検索して200社がリストに現われた場合、ProNetLinkではワンクリックですべての企業に見積請求を送ることができる。取引したい企業が見つかれば、必要事項が自動的に記入された注文書を企業に送り(現在はベータテストの段階)、決済、配送手配までを同サイトですべて行なうことができる。このような包括的なB2Bソリューションを提供しているポータルは他に存在しない」と語る。同氏は、各業界に焦点を絞った“バーチカルポータル”と比較して、ProNetLinkを“多角的ポータル”と呼んでいる。
ProNetLinkの企業ディレクトリ。 ジーンズメーカーを検索してみると、 109社のリストが表示された |
また、ProNetLinkは、これらの企業間のコミュニケーションを促進するさまざまなツールも提供する。たとえば、ProNetLinkに現在ログインしているユーザー同士がチャットを行なえる「PNL LIVE!」や、特定の業界にトピックを絞ったディスカッションサイト、世界中で行なわれている貿易関連の会議やイベントのWebキャストなどである。その他、8月からは新たに企業間のビデオ会議サービスを提供する予定だ。
ProNetLinkは今年6月、UPSと提携して、重要な書類や写真ファイルをオンラインで安全に送れるデジタル暗号化サービスの提供を開始した。Zagoren氏は「企業は重要な提案書を送る場合、現在でもインターネットを通さずUPSやFeDEXを通して送っている。我々は、強力な暗号技術を使用した『UPS Document Exchange』により、低コストでの書類の即時送信を可能にした」と語る。通常の郵送では20~30ドルかかる書類の配送が、このサービスを使用すれば3~4ドルになり、トラッキング制度など同等のサービスを受けられる。
ProNetLinkの収益モデルは、サイト購読費と広告である。サイト購読費は月額29ドルで、60日間は無料トライアル期間になる。登録にかかる時間は15分程度で、クレジットカード番号を入力する必要もないので、誰でも気軽に登録できる。
しかし、インターネットの購読費モデルは成功しにくいのではないだろうか。これに対してZagoren氏は「無料コンテンツ、無料ISPなど、無料モデルが成功するのはコンシューマー市場のみだ。インターネットのビジネス市場では、付加価値のある情報にカネを支払うのは当然のことになるだろう。いずれにせよ、インターネット企業は損失を出し続けているので、近い将来、どのようにして利益を計上するかを考える必要がある」と語る。
同社はまた、コストを削減して効率化を進めるために、会社本体に不要なものはすべてアウトソーシングするという徹底した方針を採っている。同氏は「2GBのRAMを搭載する4台のメインサーバー、2台のSQLサーバー、その他のデータベースサーバーがつながるネットワークシステムは、すべてAT&Tにアウトソーシングしている。巨大なデータベースネットワークはAT&Tのオフィスに24時間サポート付きで設置されているので、IT管理者を雇う必要はない」と語る。
サイト開発チーム、法律家、投資チームも、イスラエルやオハイオなど各地に散らばっており、プロジェクトベースで仕事を行なっている。本社スタッフは14名で「バーンレート(ベンチャー企業の資本消費率)を抑えるため、必要なスタッフしか抱えないようにしている」という。
Jean Pierre Collardeau社長(左) |
CDのマーケティング時に日本で多大な時間を過ごしたという同氏は「当時、CDはまだよく知られていない新技術であり、国際的な市場認知度を得るにはある程度の時間が必要だった。ProNetLinkも、これと同様なことが言える。一朝一夕にはいかないだろうが、我々のコンセプトに関して企業や各国政府からの積極的な反応を受けており、多大なニーズを感じている」と語る。
ProNetLinkのアイデアを思いついたのは、貿易関連の仕事に30年以上携わってきたJean Pierre Collardeau氏であるという。Zagoren氏は、ProNetLinkの立ち上げ時からマーケティングコンサルタントとして関わっていたが、正式に会長になったのはサイトが開設された今年4月である。
Zagoren氏は現在、ProNetLinkのコンセプトを広めるために各国を飛び回り、政府関係者や企業幹部との交渉を重ねている。インタビュー当日もちょうど、アジアとヨーロッパの8カ国/12都市で85回の会議をこなして帰ってきたばかりだという。
ProNetLinkは今年6月から、CNN、CNNfn、NBC、ABC、CBSなどの全米TVネットワークで大々的な広告キャンペーンを開始した。同社は、サイト開設日から9日間で48万5,573件のヒット、2万5,000人のユニークビジター、1,517社の新企業のサイト登録があったと発表しているが、現在では毎月500万件のヒット数があるという。現時点では、カレンダーやWebキャストなどいくつかの機能は使用できないものの、今後はさらに積極的に機能面での充実を図っていくという。
また、世界規模でのユーザー獲得キャンペーンをさらに推し進め、今年中には世界15カ国に、来年中には30カ国にオフィスを設置する予定であるという。Zagoren氏は「各国の市場や言語に合わせつつ、世界中と情報が共有できるようなサイト開発を行なうことが、今後の課題だ。我々は米国企業ではなく、ホスティングもヨーロッパやアジアで行っており、中立的な立場をあくまで貫いている」と語る。日本市場に対しても積極的に考えており、8月には日本へ行く予定だ。
('99/7/23)
[Reported by HIROKO NAGANO, NY]