米国でのインターネット業界では、メーカーやソフトハウスの集まった西海岸「シリコンバレー」だけでなく、最近ではコンテンツやビジネス面で東海岸「シリコンアレー」(シリコン通り)が注目を集めています。この連載ではそうしたシリコンアレーから登場していく注目の企業を紹介していきます。(編集部)
しかし、優れた顧客サポートサービスを提供することは、Webサーファーをバイヤーに転向させるマーケティングプロセスの一部として、最近大きく注目を浴びつつある。顧客サービスや顧客との関係を自動化するカスタマーリレーションシップマネジメント(CRM)を最大限に活用することで、顧客のニーズを理解して即座にターゲットを絞ったマーケティング展開やパーソナライズされたオンライン広告配信を行なうことが可能になるからだ。
しかしこれまで、CRMシステムの導入には高価なハードウェアやソフトウェアを購入する必要があり、多大なコストがかかっていたため、中小規模のサイトには同システムの導入は難しかった。これらの企業に対して、Webベースの顧客サービスソリューションを提供しているシリコンアレーのスタートアップ(新興)企業が、LivePersonである。同社は、顧客サポート用のオンラインチャットシステムをWebサイトに提供しており、過去2カ月でクライアントが50社から100社に倍増するなど、急速に売上を伸ばしている。今年8月には1,900万ドルの投資を受け、業界リーダー的な地位に着いた同社のRobert LoCascio社長兼CEOに、同社の成功の秘訣と将来の展望を尋ねてみた。
質問のあるオンライン顧客は、LivePersonのアイコンをクリックすれば、サポートオペレーターとの会話がチャットウィンドウ上で24時間行なえる。オペレーター側は顧客からの質問を受けた時点でアラームで知らせを受け、データベースの中からそれぞれの質問に対する適切な回答を検索し、顧客の質問にリアルタイムで答える。このデータベースは各サイトが蓄積しているFAQデータなどで、これらをLivePersonサーバーにエクスポートすることができる。LoCascio氏によると、オンライン顧客の質問のうち70%は既存のデータベースから回答が導き出せるという。
また、オペレーターはWebブラウザーのある場所ならどこからでもLivePersonのサーバーにログオンして仕事ができるので、世界中から優秀なスタッフを雇い、オフィススペースを節約するというモデルも考えられる。オペレーターが何人のオンライン顧客と話したか、どの顧客とチャットを行なったかも記録され、さらにオペレーターは一度に4人の顧客を扱えるので、電話サポートよりも効率的だ。
LivePersonのクライアントには、クレジットカード会社のNextCardやCBS SportsLine、NationsBank、Fragrance Counter、Cook Expressなどが名を連ねている。
LivePersonのチャット 画面。3人のオペレーター から話したい人を選べる |
LivePersonのチャット 画面。リアルタイムで 会話が進む |
しかし、LivePersonサービス導入の利点は、顧客サポートのみにあるのではなく、むしろ顧客一人一人の質問や意見を聞くことで、彼らの興味や嗜好性を把握し、即座に効果的なマーケティングを展開することにある。LoCascio氏は「すべてのチャット会話、チャット終了時に尋ねるユーザー情報、たとえばフォローアップのための電子メールアドレス、興味のある商品、サイトを訪れる頻度などの情報はLivePersonのデータベースに保存される。その後、独自のデータマイニングシステムでユーザー属性とかれらの質問を分析し、次の効果的なマーケティングに活用する」と語る。
同氏は「たとえば、フラワーショップサイトがあったとしよう。カーネーションに関して質問をしたユーザーがいたとすると、カーネーションに興味を持ったユーザーのみに電子メールでのフォローアップ情報を送信する。ポイントは、顧客と話して顧客を知ることだ。そして、彼らの嗜好性を理解した上でグループ化し、パーソナライズしたメッセージを送る“ポストチャット”マーケティング戦略を展開することで、さらなる売上増につながる」と語る。
同氏は「他社が10万ドル以上もする高価な顧客サービスソフトウェアを販売しているのに対して、我々はWebベースのサービスを提供しているので、クライアントは気軽に顧客サポートシステムを導入できる。たとえば、LivePersonでは試しにオペレーター5人分だけ契約し、うまくいけば次の日1,000人に増やすことも可能だ。さらに、クライアントは、ハードウェアの購入やソフトウェアのインストールなど面倒な作業も、技術的な知識も必要ない。しかも安価なので、販売サイクルが非常に速い」と語る。
スケーラビリティに関しては、LoCascio氏は「我々は、バックエンドにはJava、Oracleのデータベースを使用して、毎日何10万件ものチャットを扱うことができるスケーラブルな技術を独自に開発した。チャットエンジンから分析ツールまで、すべては独自技術で、サードパーティのソフトウェアは一切使用していない」と語る。また、システム構築には50万ドルを費やし、サーバー管理はGlobixにアウトソーシングしているという。
このシステムは非常に柔軟性があり、クライアントからのフィードバックに応じてさまざまな機能を即座に追加することもできる。同氏は「我々は、優れた意見を参考にして新たな機能を追加し、数週間ごとにアップグレードバージョンを提供している」と語る。次バージョンに追加される新機能には、オペレーターが顧客を他のオペレーターに引き継ぐことのできる機能がある。これにより、特定の分野に詳しいオペレーターに顧客を引き継ぐことが可能になる。今後は、音声認識やビデオ機能を追加する計画を立てている。
同氏は1996年、インターネットの急成長の波に乗って新たなネット企業、Sybarite Interactiveを設立した。同社はオンラインコミュニティプラットフォーム「TOWN」を開発し、Xeroxなどが同システムを使用して、顧客同士が問題を解決するためのオンラインコミュニティを開設した。しかし、「顧客同士は文句を言うだけで、問題解決にはつながらなかった。そこで、顧客サポートサービスが必要だと気付いた」という。
LoCascio氏は、今年に入り社名をLivePersonと変更して、本格的なオンラインチャットソリューションの提供に乗り出した。同社は急成長を遂げ、今年4月から7月までの4カ月間で、ベータテストクライアント10社だったのが、正規クライアント100社と契約するに至り、同時期、社員も8人から40人に増加した。同氏は「はた目には、いきなり市場に登場したように見えるが、下積み期間は長かった。急成長はほんのここ数カ月のことだ。ネットビジネスは、ブレイクすれば大きい。そして驚くほど速い。しかし、それまでは忍耐強く待つしかない」と語る。
LivePersonは、今年1月に第1ラウンドの投資として460万、8月には第2ラウンドの投資としてHighland Capital Partners、Goldman Sachs & Co.、Hambrecht & Quistなどから1,900万ドルを受けている。Highland Capitalは、eToysやAsk Jeeves、Be Free、CheckFree、NextCard、Wit Capitalなどにも投資している。LivePersonは現在、IPOの噂が流れているが、それに関してはノーコメントとしている。
同社は最近サンフランシスコに販売オフィスを設置し、近い将来は国際市場にも進出したいとしている。LoCascio氏は「フランスやドイツに顧客がいる。フランスではLivePersonのリセラー、BeWebがビジネス展開している。日本市場にも進出したいが、現在のところ日系企業からのアプローチはない。日本市場でのパートナーを見つければぜひ進出したい」と語る。
また、将来的に手強い競合相手になる企業は、インターネットのスタートアップ企業ではなく、Siebel Systemsなどの既存のコールセンター大手企業なのでは、との質問に対しては、同氏は「もし、我々がSiebelを買収すれば面白いことになるだろう。笑わないでくれ。ネット業界では、十分起こりうることなのだから」と語った。
('99/9/3)
[Reported by HIROKO NAGANO, NY]