米国でのインターネット業界では、メーカーやソフトハウスの集まった西海岸「シリコンバレー」だけでなく、最近ではコンテンツやビジネス面で東海岸「シリコンアレー」(シリコン通り)が注目を集めています。この連載ではそうしたシリコンアレーから登場していく注目の企業を紹介していきます。(編集部)
同社は今年1月、視聴者が1億人を超えると言われる米国の一大イベント「スーパーボウル」のTV中継に、1998年の年商の約半分にあたる200万ドルを費やして、30秒の広告スポットを購入した。このニュースは全米中の注目を集め、多くのTVや新聞、雑誌が「スーパーボウルに広告を出した史上最小の企業」として同社を面白半分に書き立てたが、この結果、毎月200万人のユニークビジターが訪れる有名ブランドに、文字通り“一夜にして”なったのである。さらに、顧客企業数は毎月200~300社のペースで増え、現在は2,000社を超えており、売上も82%増を記録した。
先月のOpinion Research Corporation Internationalの調査によると、HotJobs.comは、Amazon.com、Priceline.com、eBayなどに続き、6番目に有名なインターネット商取引(EC)ブランドに数えられている。同社創設者であるRichard Johnson社長兼CEOに、同社の成功の秘訣と将来の展望を尋ねてみた。
就職希望者は、求める仕事のタイプや業界、特定の企業、地域などのキーワードで自由に検索し、気に入った企業があれば、直接履歴書を送ることができる。また、サイトに履歴書を登録すれば、興味を持った企業からのコンタクトが受けられる。HotJobs.comでは、社員募集を行なっている企業のすべてをリストで公開しているので、就職希望者は誰が自分の履歴書を見ているかを知ることができる。
現在、HotJobs.comでは推定2万2,000件の募集広告、約26万人の就職希望者の履歴書を有していると言われている。この数字は、業界最大手のMonster.comの22万5,000件と比較すると少ないが、Johnson氏によると、HotJobs.comではヘッドハンター企業による募集を断っているからだという。同氏は「Monsterなどの他の就職サイトは、50%以上がヘッドハンター企業による募集だ。これらの多くは、総務や秘書関係の仕事が多く、上級職は少ない」と語る。
また、就職希望者は、特定の企業に対しては自分の履歴書を見られないように設定できるので、責任の重い地位にいる社員が、上司に自分の履歴書を見られるといった危険性がなくなる。これにより、同サイトには、84%が学士課程修了、24%が修士/博士号取得という質の高い履歴書が集まっている。同氏は「我々の顧客リストには、Goldman Sacksなどのように、自分達のイメージを非常に重要視しているため、今まで一度も募集広告を出したことのなかったような企業もある」と語る。
営業スタッフ。新たな企業顧客を獲得 するたびに中国風の“ドラ”が鳴る |
また「これは典型的な加入者モデルで、キャンセルをしない限り企業は継続してサービスを利用するので、我々は定期的な収入を確保できる。広告モデルの場合、同じ企業に何度も営業する必要があるので、新たな企業に営業をかける時間がなくなる」と語る。また、人事担当者は単に広告を掲載したサイトには1日に何度も訪れることはないが、HotJobs.comには常時ログオンしているという。同氏は「我々が彼らのデスクトップポータルだ」と語る。
また、HotJobs.comでは、同サイトで使用している技術を使用した採用ソフトウエア「SoftShoe」をLucent TechnologiesやFord、Coca Colaなどの大手企業に提供している。これらの企業は、同ソフトウエアを使用して、自社サイトで就職希望者の評価、トラッキングなど採用のすべてのプロセスを管理している。
Resumixなどの他社製品との違いに関しては、同氏は「採用プロセスには、募集部門のスタッフや上級管理職など多くの人々が関わっているが、これらのソフトウエアは人事担当者のみに構築されたものなので、人事担当者をかえって忙しくさせてしまう。SoftShoeでは、求める人材の条件、履歴書の評価に関して、関係者すべてが意見をリアルタイムにやりとりして採用の全段階に参加できる」と語る。
また、米国では多くの人々が企業に対する忠誠心を失っている。Johnson氏が大学を卒業した当時は、いったん企業に就職したら、その企業で一生働くというのが常識だったという。しかし、80年代後半の不況によるレイオフを経て、終身雇用システムは崩壊し、人々の企業に対する忠誠心が薄らいだ。同氏は「米国では、人々は平均5年以内に企業を変わっている。ということは、10万人の社員のいる企業では、1万人の新社員を採用する他に、社員数を一定に保つだけで年間2万人を雇う必要があるということだ」と語る。
同氏は「ほんの5年前までは、“採用情報”というのは企業のリップサービスにすぎなかった。私が大学を卒業して、最初にMerrill Lynchで人事関係の仕事を受け持ったとき、人事部門は60階建ての豪華なビルの地下室にあった。かなりひどい扱いだったが、現在では企業の成功のためには、人事は最も重要だということが認識されてきた」と語る。
希望の仕事のタイプ、業界などを入力 すれば、新たな募集が出るたびに知ら せてくれる検索エージェント機能 |
同年、Webサイト開発企業のNew Media Labsを設立し、当時世界最大のトランザクションを誇るColumbia HouseのWebサイトを開発。また、J.Crew、L.L.Bean、Eddie Bauerなどのサイト開発も手がけた。同氏はECサイトの開発を行ないたかったが、当時はどの企業もクレジットカードでの決済を好まず、断念したという。
その後、HotJobs.comのサイト開発を数カ月かけて行ない、1997年2月に企業として設立した。HotJobs.comのコンセプトには、同氏の長年のヘッドハンターとしての経験が生きている。同氏は「職業を変わるということは、大きな感情をともなうプロセスであり、ヘッドハンターはこれらの人々と直接やりとりする仕事だ。年収、職種、地域など、人々の希望やキャリアに関してのカウンセリングを行なう中で、さまざまな経験をした。あるときには仕事を断わったが後で気が変わり、私に泣きついてきた人もいたが、これは採用のプロセスをよく理解することに役立った。Monster.comなどは広告企業であり、包括的な採用のプロセスを提供していない。そこで、我々が包括的なソリューションをWebサイトで提供できればと考えた」と語る。
将来的な展望に関しては、同氏は「アジアは、技術者を始めとする多数のナレッジワーカーがいるので、カギとなる重要な市場だ。日本、香港でもサービスをぜひ行ないたい」と語る。
とくに日本に関しては「私はエコノミストではないので、日本の不況がいつまで続くかわからないが、景気は上向きになりつつあるように思う。また、日本人の企業に対する意識や忠誠心がアメリカと同様のものとは言えないが、忠誠心が薄れてきているという傾向はあるだろう。これは、経済の発展にも貢献する。なぜならば、社員も企業も、雇用関係を義務と捉えると、社員が他に興味のある仕事を見つけても変わりにくい。変わらず嫌々働けば、効率性が落ちるからだ。アメリカでも80年代は、自分の仕事に興味がなくても、そこにとどまっていた。その理由は、そうしなければならないものだと思っていたからだ。しかし、現在、もしあなたがスキルワーカーならば、仕事を変わる方がキャリアアップにつながる場合が多い」と語る。
最後に、同社自身の採用方法に関して尋ねると、「もちろん、HotJobs.comを通してだ。HotJobs.comの社員のほとんどは、サイトを通して採用した」という答えが返ってきた。
('99/9/17)
[Reported by HIROKO NAGANO, NY]