米国でのインターネット業界では、メーカーやソフトハウスの集まった西海岸「シリコンバレー」だけでなく、最近ではコンテンツやビジネス面で東海岸「シリコンアレー」(シリコン通り)が注目を集めています。この連載ではそうしたシリコンアレーから登場していく注目の企業を紹介していきます。(編集部)
1995年12月にChris Bryant氏とMichael Diamant氏により設立された同社は、もともと「キャッツ」「レ・ミゼラブル」「ミス・サイゴン」などのブロードウェイ劇場のWebサイト開発を多数手がけていた。現在では、Microsoft、ソニー、American Express、NTT America、Deutsche Bankなど多数の大手企業をクライアントに持ち、ビジネスプランの開発とプロジェクト管理でとくに高い評価を得ている。
同社は、ニューヨークのライバル企業であるRare Mediumが公開企業になった後、ほぼ唯一の独立系インタラクティブエージェンシーとなり、Agency.comとJupiter Communicationsと並んで3大IPO候補として注目されている。また、買収のターゲットにもなっており、同社オフィスにはiXLやUSWeb/CKSなどが頻繁に訪問しているという。T3 Mediaの創設者の一人、Chris Bryant会長兼CEOに、同社の成功の秘訣と将来の展望を尋ねてみた。
同社はもともとブロードウェイ劇場のWebサイト開発から始まり、トニー賞やブロードウェイの有名レストラン「Sardi's」からのサイバーキャスト、また「レ・ミゼラブル」のチケットを予約したり公演スケジュールを確認するためのデータベースシステムの開発などを行なってきた。
同社は1996年、MicrosoftのWebサイト開発を行なって以来、Eビジネスソリューション企業として注目を集め出した。「Microsoftは、Windows CEのWebサイトをコンシューマーに訴えかけるようなサイトにしたかった。そこで、メディアに強いニューヨークのエージェンシーを探していた。当時、我々はまだ12名ほどの会社だったが、彼らは我々のコンセプトを気に入り、Windows CEのWebサイトを我々に依頼した。それまでは小規模な企業ということで我々を相手にしなかった企業も、これ以降は次々と我々のところへやってきた」と語る。今年に入り、同社はシアトルにオフィスを開設、社員数も昨年の40名から今年は83名に増加した。
同社がデザインしたソニーのデジタル カメラのWebサイト |
この例としてBryant氏はソニーを挙げ、「デジタルカメラのWebサイトを開発したとき、先方からは『写真の美しさを見せる』というコンセプトにもとづいた雑誌のイメージ広告に近いデザイン案が出された。悪くはなかったが、我々はWebの特性を生かした能動的なデザインの方がよりアピールすると考えたので、何度かエクストラネットを使って意見交換した。これにより、修正案を出し合い互いに満足の行くサイトが短期間で完成した」と語る。
T3 Mediaでは、ソニーのイメージング部門、オーディオ部門サイトの他にも、同社とディストリビューターをダイレクトにつなぐB2B(Business to Business:企業間)サイトのバックエンドアプリケーションも開発している。これにより、ディストリビューターはソニー製品をどの程度の価格で何台欲しいかという注文を行なえる。
「@d:tech」のインターネットマーケティ ング分野で最優秀賞に選ばれたAmerican Expressのスモールビジネス向けサイト |
Agency.com、Rare Mediumなどのライバル企業と競争して、このプロジェクトを勝ち取ったという同氏は、T3 Mediaと他社との違いをこう述べる。「Agency.comは基本的に広告エージェンシーだ。Razorfishは最先端のコンテンツ/デザインにターゲットを絞っている。Strategic Interactive Groupは、ビジネスプランを中心にしている。我々は、メディア購入やプランニング、デザインだけではなく、注文エントリー、決済システム、データベースなどのバックエンドシステムを統合するソリューションやプラットフォーム開発を提供する」。
具体的には、すべてを自社で開発するのではなく、レガシーシステムとの統合分野などは戦略パートナーのIBMやTACTにアウトソーシングをすることで、シームレスなECソリューションを提供している。
マーケティング部門のKyra Feldman氏 (右)とインターネットストラテジスト のMarty Laiks氏(左) |
同氏とインターネットとの出会いは1980年代後半、Compaqでネットワークソフトウエアのテストに関わっていた時だという。その後、1994年に初期のWebブラウザーである「Mosaic」を見たとき、インターネットはとてつもなく大きくなると直感した。同氏は「私は3カ月の調査を経て、1994年10月、BPAでインターネットベースの企業戦略の提案を行なった。しかし、そのとき彼らはインターネットの重要性に気づかず、提案は却下された。そこで、会社を辞めて自らビジネスを始めた」と語る。
1995年6月、同氏は自宅のアパートでWebデザインサービスを始め、のちのパートナーになるMichael Diamant氏とApple主催のインターネットセミナーで出会う。なお、Diamant氏は現在、さらなるビジネスキャリアを求めるため、T3 Mediaを退社している。
T3 Mediaは、年間100%の成長率を遂げており、昨年の350万ドルから今年は700万ドルの売上を見込んでいる。同社はまた、ITコンサルティング企業のTACTから投資を受けている。今後の成長の可能性に関しては、Bryant氏は「2つの可能性を考えている。IPOかベンチャーキャピタルによる投資、または戦略合併のどちらかだ」と語る。
最近のシリコンアレーのIPOブームに関して、同氏は「RazorfishやAgency.comにもあてはまることだが、IPO後は四半期ごとの決算を満たすことが重要になるだろう。現在は創設者が企業を運営しているが、あと数年後にはトップがIT業界のベテランに変わる可能性が大きい」と語る。とくに、Razorfishに関しては「大きく変わるだろう。あの会社は非常に興味深い会社だが、IPO後はビジネス的な側面が重視され、そのために要求されるトップの役割や性質は変わってくるだろう」と語る。また、シリコンアレーに関しては「今、一番面白い。平均年齢が26~27歳という若さで、人材が加速度的に集まっている。急成長しているエネルギーあふれる場所だ」と語る。
また、国際市場に関しては「拡大を目指している。しかし、RazorfishやAgency.comのように、国際的な企業を多数買収していくやり方では、企業をまとめるのは難しい。我々は、すでに国際市場でのプレゼンスを持つ大手企業とパートナーを組むことを狙っている」と語る。日本市場に関しては「我々のデザイナーは日本のデザインに注目している。日本は、インタラクティブサービス市場で、非常に重要な市場になるだろう」と語った。
('99/10/15)
[Reported by HIROKO NAGANO, NY]