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【連載】

東海岸インターネットビジネス最前線

第25回:子供向け教育コンテンツサイト
――ジェネレーションXの次を狙うMaMaMedia

http://www.mamamedia.com/

 米国でのインターネット業界では、メーカーやソフトハウスの集まった西海岸「シリコンバレー」だけでなく、最近ではコンテンツやビジネス面で東海岸「シリコンアレー」(シリコン通り)が注目を集めています。この連載ではそうしたシリコンアレーから登場していく注目の企業を紹介していきます。(編集部)


Front
ソーホーのMaMaMedia本社
 インターネットのトレンドがEビジネスやB2B(Business to Business:企業間)などのビジネス市場に集中するなかで、いま“子供”市場に注目が集まりつつある。AOLやTime WarnerのRoadRunner、Netcenter、DisneyのGo Networkを含む大手ポータルとコンテンツの戦略パートナーシップ契約を結び、今年9月に5,000万ドルの投資を受けたのが、子供向けのWebサイトを提供するシリコンアレー企業、MaMaMediaである。

 ソーホーの一等地にオフィスを構える同社は1995年、インターネットを使って子供達が楽しみながら学ぶことを目的として設立された。5歳から12歳までの子供を対象にしたこのサイトは、1997年6月に正式に開設して以来、ユーザー数は1997年10月の1万人から、1998年10月には10万人、現在では70万人に達するという急成長を遂げている。

 Forrester Researchによると、子供の年間消費額は年間270億ドルに達し、大人が子供のために消費する金額も1,170億ドルに及ぶ。同社はまた、子供のネットユーザーは4年後には2倍以上の1,300万人に膨れ上がるとも予測している。各学校にインターネットが導入され、子供の教育にインターネットがなくてはならない存在になったとき、コンシューマー市場だけではなく教育市場でも子供向けポータルが必要になり、同市場を狙った激しい競争が予想される。教育分野で17年以上の経験を持つ設立者のIdit Harel CEOに、同社のビジネスモデルや戦略を尋ねてみた。



●MaMaMedia=すべてのメディアの“母”

Idit Harel
MaMaMediaのIdit Harel創設者兼CEO。
同氏が手がけた著書を手に
 同サイトでは、子供達がゲームなどの遊びを通して自然にプログラミング言語を学習したり、物語やアニメーションを創作できるさまざまなプログラムを提供している。Harel氏は「このWebサイトに登場しているプログラムの多くはMIT Media Labで長年研究された教育プロジェクトの結晶で、子供達は自分のホームページを作り、漫画キャラクターをデザインしたり、物語を創作したりできる」と語る。創作されたアートや物語は、バーチャルギャラリーに展示され、優れた作品を投票で選ぶこともできる。

 このサイトのベースになっているMIT Media Labの教育理論は「コンストラクショニズム」と呼ばれるもので、Legoブロック玩具で有名な同大学教授のSeymour Papert氏により提唱されている理論。これは、子供は物事を受動的に教えられるよりも、能動的に創造するとき、学習成果が最大に高まるというもので、Harel氏は'80年代にこの理論の構築に携わり、MIT Media Labでは同分野で博士号を取得した。

 同氏は「電子メディアを使用して遊びながら学習するというコンセプトは、'60年代のセサミストリートから始まり、'80年代にはCD-ROMが登場したけれども、その双方ともインターネットに比べるとまだまだ受け身のメディアだったわ」と語る。インターネットの登場により、子供達は自分でビデオゲームやアニメーション、デザイン、ストーリーを自由に作ることができ、それらを他の子供達と共有することができるようになった。「教育とエンターテイメントはこれまでかけ離れたものだったけど、MaMaMediaはこれらを統合して、子供達が独自のメディアを作り出すことを可能にしたの。つまり、MaMaMediaというのは、すべてのメディアの“母”という意味よ」と語る。



●ジェネレーションXの次は「Clickerati」

MaMaMedia WebSite
MaMaMediaサイト。子供のアートを展示
するバーチャルギャラリー
 Harel氏はまた、'90年代以降に生まれた子供は、テクノロジーに関して前世代の子供とは完全に異なった感覚を持っていると主張する。「ノンリニアでテクノロジーを自然に受け入れ、メディアを自在に使いこなすことができる」これらの子供達を、Harel氏は「Clickerati」と呼ぶ。コンピュータに関して豊富な知識を持ち、業界の中でも中心的なデジタルエリートを表わす「Digerati」をもじった言葉で、Digeratiは知識エリートの「Literati」から来ている。

 同氏は「私達の世代、つまりベビーブーマーの世代は、テレビのスイッチを入れたり切ったりしていたわ。そして、ジェネレーションXの世代はケーブルテレビ。私はテレビのない世界は考えられないし、あなたはケーブルテレビのない世界は考えられないでしょ。'90年代の子供は、インターネットのない世界は考えられない。これらの子供達は、生まれたときからすでにインターネットが存在していて、異なる種類のメディアに触れる多様性を当たり前と思っている。彼らは、メディアを消費したり選択するよりも、メディアを作り出す世代なの」と語る。

 同氏はまた、教育に重要なのは、読み(Reading)/書き(Writing)/算数(Arithmetic)の“3R” の代わりに、探求(Exploration)/表現(Expression)/共有(Exchange)の“3X”になると語る。Harel氏はこれを「21世紀に向けたスキル」だとし、インターネットがこれらを可能にすると語る。



●コンテンツとコマースの微妙な関係

MaMaMedia WebSite
ストーリーをプログラムするコーナー
 Harel氏は「MaMaMediaのビジネスモデルは広告とスポンサーシップで、さまざまなプレミアライセンス、シンジケーション、テレビ/ラジオへのコンテンツ提供などを行なっている」と語る。同サイトでは、マーケティングチームとスポンサー企業、またクリエイティブチームが一体となり、広告の可能性を追求している。同氏は、教育サイトでの広告掲載には肯定的で「MIT Media Lab時代、子供のためのテクノロジーや子供のための出版など、子供の学習意欲をかき立てるようなプロジェクトを繰り返してきたけど、こうしたプロジェクトのスポンサー企業も子供の教育に情熱を注いでいる人達だったわ」と語る。

 一方、Jupiter Communicationsの調査によると、子供をターゲットにしたオンライン広告に対して懸念を持つと答えた親は昨年の17%から今年は45%に増加しており、コンテンツとECの融合が子供向け市場の場合はマイナスイメージになりかねないことを示している。これは、判断能力の低い子供の個人データを企業が獲得することに対する懸念であり、FTC(米国連邦通商委員会)では、親の承諾がない限り商業Webサイトは13歳以下の子供の情報を集めることができないという法案を提出している。また、商業Webサイトは現在、親の承諾なしに子供のデータを広告主に対して売却することはできない。

 しかし、知識層の中には子供がデジタル時代に適応するためには、保護されるより市場にさらされる方が効果的だとする向きもあり、MaMaMediaでも積極的にコンテンツとコマースを統合している。「ECに関しては、2000年から開始する予定。子供達は、ショッピングモールに行くよりも早く、オンラインショッピングをするようになるわ」と同氏は語る。



●一番下の娘はClickerati世代

WallArt
オフィスのあるビルディングの壁絵
 イスラエル出身のHarel氏は、Harvard Universityでインタラクティブテクノロジー/教育と人材開発という2つの修士号、MIT Media Labでコンストラクショニズム分野の博士号を持ち、著作活動を続ける一方で、3人の子供を持つ母でもあり、急成長中の企業のCEOという役割も演じている。どんなに忙しくても子供との時間が一番大事だとする同氏は「暇だからといって仕事がはかどるわけじゃないわ」と笑いながら語る。

 「会社を設立したのは、ちょうど4年前だったわ。ソーホーのオフィスにはMIT Media Labを卒業したばかりの私とラップトップだけ。1996年初めに最初の投資を受け、子供が将来的にインターネット市場のとても重要なユーザー層になることをアピールするため、5人でプロトタイプのWebサイトを開設したわ。私はニューメディアを子供達に紹介する仕事を17年間続けてきたけど、新しい技術を使って子供がいかに楽しんで学ぶかを研究することが、私のパッションなの」と同氏は語る。

 22歳から母となったHarel氏の子供達はそれぞれ、19歳、16歳、7歳。「3人とも異なる世代だから、とても興味深いわ。一番下の娘はClickerati世代で、MacもPCもプレイステーションも任天堂もPalm Pilotも、関係なく使いこなす。プラットフォームにこだわらないのね。でも、一番上は、まだMacかPCにこだわっているわ」と語る。3人とも、毎週金曜日にオフィスにやって来て「働いて」もらっているという。「コンテンツチームで働いているわ。彼らから学ぶことが重要なの」と語る。



●教育水準が高い日本に期待

 同社は現在、90名を超える社員を抱え、今年末には120名になる。初期の投資ではIntelや日本の新学社から560万ドルを集め、最新の投資ラウンドでは予想額の2,000万ドルの2倍をこえる5,000万ドルを集め、次期IPOがささやかれている。

 同社では現在、Time WarnerのRoadRunnerやMicrosoftのWebTVなどの分野でのコンテンツの提供にも力を入れている。Harel氏は「RoadRunnerと、ブロードバンドでのコンテンツ配信トライアルを行なったとき、子供達は20~30分間で120~150ページを閲覧するなど、とても大きな興味を示したわ」と語る。また、WebTV向けには、ペイントアプリケーションや出版エンジンなど、特別にコンテンツのカスタマイズをしている。

 また、大手メディアとともに子供向けの新たなプラットフォームを作ることが必要になるとし、近い将来はテレビ、印刷物メディア、その他の異なるメディアにも登場することになると語った。国際市場に関しては「1年前に日本に行ったとき、とくに日本に興味を持ったわ。AOLやWebTVなど、MaMaMediaのパートナーのほとんどは日本にプレゼンスがあるので、日本進出は時間の問題。日本は非常に教育水準が高く発達した国なので、ローカリゼーションのやり方もすべてを日本語に変えるのではなく、英語と日本語を半々の方がいいかも」と語る。

('99/10/29)

[Reported by HIROKO NAGANO, NY]


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