米国でのインターネット業界では、メーカーやソフトハウスの集まった西海岸「シリコンバレー」だけでなく、最近ではコンテンツやビジネス面で東海岸「シリコンアレー」(シリコン通り)が注目を集めています。この連載ではそうしたシリコンアレーから登場していく注目の企業を紹介していきます。(編集部)
Eduardo Yeh氏とDarryl Shepherd氏により18カ月前に設立された同社は、Webサイトで日時と電話番号を入力すれば、ホテルで提供しているようなウェイクアップコールをかけてくれる「Mr. Wakeup」サービスを提供している。この無料サービスは2月にベータ版が発表されて以来ユニークさが話題を呼び、WIRED、New York Timesをはじめとするメディアで大きく取り上げられている。8月には190万ドルの投資を受け、現在はビジネス市場へさらにサービスを拡大するiPingの設立者、Eduardo Yeh社長に、同社のビジネスモデルや将来的な展望を語ってもらった。
さらに、「今日は、ビデオを返す日」などのリマインダーを125字以内でテキスト入力すれば、テキスト音声システムがそのリマインダーを電話の際に読んでくれる。テキスト入力が面倒というユーザーは、自分の声を録音して流す機能を使うこともできる。また、近い将来はアイドルやMTVの人気キャスターの声など有名人の声で起こしてくれるサービスも始まるという。同氏は、「60秒間だけは皆を笑わせ、ユーザー体験を楽しいものにしたい。これはエンターテイメントだ」と語る。
日程は最高で2001年末まで設定でき、米国、カナダ地域でサービスを提供している。同氏は「最初は、インターネットを通してボイスメールやFAXが受け取れる統合メッセージングや、広告ベースの無料長距離電話サービス『Mr. Distance』などを考えていた。しかし、多くの投資家たちが興味を持ったのがMr. Wakeupだった」と語る。その後、主要ビジネスをMr. Wakeupに絞り、発表からわずか半年間で6万人のユーザーがこのサービスを定期的に使用するようになったという。ちなみに、PC Computing誌のテスト(1999年10月26日付)によると、Mr. Wakeupのサービスには1回のミスもなかったという。
インターネット企業が販売している広告のほとんどはバナー広告だが、広告主にとってはバナー広告よりも音による広告の方が数倍インパクトがある場合がある。たとえば、アーティストのニューシングルのプロモーションやTV番組の予告など、さまざまな応用が考えられる。同氏は「我々は、電話をコミュニケーション機能以上のもの、つまり、ディストリビューションとしても最大限に利用できると考えている」と語る。
iPingでは10月にサイトを更新して、Mr. Wakeupと類似した数々のサービスを提供する準備を進めている。たとえば、薬を飲む時間を知らせしてくれる「Dr. Dose」、自分の持っている株価に変動があったときに知らせてくれる「Mr. Doller」などだ。同氏は「これらのサービスは、Mr. Wakeupのユーザービヘイビアから学ぶことで開発された。ユーザー体験を簡単にするために作られている」と語る。
Mr. Wakeupのシステムは、iPingの独自技術であるノーティフィケーションアーキテクチャ「Ringblaster」を使用している。同社では、このアーキテクチャを使用したユーティリティ機能を、ビジネス市場やポータルサイトに売り込もうと考えている。Ringblasterは、PSTN(加入電話網)およびIPゲートウェイの双方に対応しており、スケーラブルでいかなるプラットフォームにも柔軟に対応できるという。Yeh氏は「現在はMr. Wakeupなどコンシューマー向けのサービスが中心だが、このアーキテクチャはB2B(Business to Business:企業間)市場で巨大な可能性がある」と語る。
たとえば、運送会社のFedEXでは、iPingの技術を使用したトラッキングサービス「Mr. FollowUp」を提供している。自分が送った荷物がいつ先方に届いたかを確認するためには、サイトを訪れトラッキング番号を入力するだけでよい。その後はすべてMr. FollowUpが定期的にトラッキングを行ない、荷物が先方に着いた時点でユーザーに電話をかけてくれる。
送金サービスを行なうWestern Unionもまた、同社の顧客支援サービスにiPingを使用している。送金をした顧客は、いつお金が相手に届くか気になるものである。そこで、Western UnionはiPingのアーキテクチャを使って、送金が完了した場合はお知らせの電話をかけるというサービスを提供している。この電話サービスは、自宅の電話だけではなく、オフィスの内線やボイスメールにも対応している。
インタビューに訪れたのは、iPingが ソーホーの一等地に引っ越した当日で、 何も置かれてなかった。Yeh氏は「ネット 企業に必要なのは、クリエイティブな 環境だ」と語る。 |
同氏は「最初は気が合う友人だったが、ネットビジネスで成功したいという夢が互いにあり、一緒にビジネスを始めようという話になった。Darrylはテクノロジーを、僕はビジネスを担当している」と語る。Shepherd氏は、ピッツバーグ大学のバスケットボールの有望選手だったが、けがをしてスポーツの道をあきらめなければならなかった。その後、アーティストを目指してニューヨークに移住、BillboardのR&B部門で2曲がトップチャートに輝き成功を収める。しかし、もともと大学でコンピュータサイエンスを専攻していた同氏は、浮き沈みの激しい音楽業界で一生を過ごすことにためらいを感じ、インターネット業界に転向した。
Yeh氏は「我々は、サクセスストーリーにありがちなハーバード大卒の人々とはまったく違う。専門的な知識は何もなかったし、資金集めもやったことがないし、僕は移民でDarrylはアフロアメリカンだ。しかし、この困難にチャレンジし、全力投球したことが逆によかったと思う」と語る。
iPingは8月、Grand Central HoldingsやCosmoz.comなどのベンチャーキャピタルから、190万ドルの投資を受けている。Yeh氏は「最初、150万ドルの予定だったが多数の投資家からの申し込みがあり、各投資額を減らさなければならなかった」と語る。業界で尊敬されている人物からの投資を受けることは、無名の人物から大金を受けることよりも重要だとする同氏は「いくら資金を集めたかではなく、誰から資金を受けたかが重要になる。iPingには、元CMP Media社長のKen Cron氏を始めとする業界のビジョナリストがアドバイザーとして参加している」と語る。
同社は来年には、インスタントメッセンジャーやPDAなどのさまざまなプラットフォームにもノーティフィケーションサービスを提供する予定。また、他言語にも対応させて国際市場にも進出する計画を立てている。同氏は「僕のバックグラウンドを見てみれば明快なように、まずアジア市場に進出する」と語る。とくに日本市場に関しては期待しながらも、優秀な人材が多いわりにはインターネット市場で米国に大きく遅れをとっていることを指摘し「日本人の才能が生かし切れていないのは残念だ。やる気と情熱がある若者が、もっとベンチャーをやってもいいのでは」と語る。
同氏は一方、「ドットコム企業のIPOに関するサクセスストーリーを読み、IPOを目的にして企業を興すのでは、限界が来る。チームとともに毎日の仕事を楽しもうとする心構えが大切だ」と語る。
('99/11/12)
[Reported by HIROKO NAGANO, NY]