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【連載】

東海岸インターネットビジネス最前線

第27回:オンラインゲームサイト
――インターネットの娯楽企業大手を目指すUproar

http://www.uproar.com/

 米国でのインターネット業界では、メーカーやソフトハウスの集まった西海岸「シリコンバレー」だけでなく、最近ではコンテンツやビジネス面で東海岸「シリコンアレー」(シリコン通り)が注目を集めています。この連載ではそうしたシリコンアレーから登場していく注目の企業を紹介していきます。(編集部)


Chris Hassett
UproarのChris Hassett社長兼COO
 ポータルサイトが提供するさまざまなサービスで、無料の電子メールやホームページが当たり前になった現在、オンラインゲームが注目されつつある。AOLは11月22日、ゲーム会社大手のElectronic Artsとオンラインゲームチャンネルを開設すると発表し、Lycosは翌日の23日、オンラインゲームサイトのGamesville.comを2億700万ドルで買収すると発表した。また、同月19日にNabisco Worldが発表した調査では、会社員のオフィスでの休憩時間の過ごし方として、約66%の会社員がネットサーフィンをトップにあげ、その中の約44%がオンラインゲームを楽しんでいるという。また、 12~18歳の子供の約8割がネットを利用する理由としてゲームを選んでいるとも発表された。

 このように、インターネットでもっとも注目されているオンラインゲームで、既存の大手メディアやソニーに対抗してトップの座を競っているシリコンアレー企業が、Uproarである。

 1995年にMichael Simon氏により設立された同社は、もともとはハンガリーのブダペストで設立された。今年3月に社名をE-PubからUproarに変更して米国で本格的なビジネスを開始、元PointCastの創設者として名高い起業家のChris Hassett氏を社長として招き、積極的なメディア戦略を展開している。インターネット市場調査会社NetRatingsの調査では、今年8月の人気サイト上位50位の中に同社が新たにランクインされている。UproarのChris Hassett社長兼COOに、今後の同社の戦略と展望を尋ねてみた。



●新たな娯楽“オンラインゲームショー”

Family Feud
米人気テレビ番組「Family Feud」の
オンラインゲームショー
 Uproarでは、娯楽、スポーツ、ゲームショー、ビンゴ、クイズなどに分かれるゲームチャンネルで、「CBS Sportsline Team Trivia」「Puzzle A-Go-Go」「Picture This」「How Low Can You Go」「Mental State」などのオンラインゲームを提供している。同サイトは毎月360万人のユニークユーザーを集め、彼らのサイトでの平均滞在時間は40分に及ぶ。

 Hassett氏は「ひと昔前、ネットユーザーといえば技術者や学者が主流だったが、現在では一般ユーザーが大多数を占めている。一般ユーザーは、インターネットに娯楽的要素の強いテレビやラジオのような役割を求めているが、インターネットの多くはニュースやユーティリティが主流で、楽しめる場所が少ない。Uproarは、オンラインゲームを中心とした娯楽コンテンツを提供することで、インターネットの娯楽企業としてトップの座を狙う」と語る。Cyber Dialogueでは、ネットユーザーがインターネットを娯楽メディアとして捉え始めているという調査結果を今年初めに発表した。調査によると、3分の1以上がオンラインゲームに興味を持っていると答えている。

 また、Uproarは最近、米人気テレビ番組「Family Feud」をオンラインで提供するという発表を行なった。これは「クイズ100人に聞きました」と類似した、一般家族が登場するクイズ番組。こうしたゲーム/クイズ番組のオンライン版を“オンラインゲームショー”と呼ぶが、同氏はこの分野がテレビとインターネットの融合で非常に重要な役割を果たすことになるという。それは、単なるチャンネルサーフのテレビよりも、マルチプレイヤーで他のユーザーとインタラクティブに競争するオンラインゲームショーの方がユーザーの積極的な参加と集中力を要し、ターゲットの絞られた広告をユーザーが長時間見る確率が飛躍的に高まるからだ。



●賞品目当てのユーザーを狙う

Bingo
Uproarのビンゴゲーム
 Uproarは今年5月、懸賞ゲームサイトのPrizePoint Entertainmentを4,000万ドルで買収することを発表した。PrizePointは、Hassett氏がPointCastの後に創設した企業として注目を集めたサイトで、「ユーザーはWebサイトで一定時間を過ごすだけで報酬をもらえる」というコンセプトに基づいている。ユーザーはショッピング券やスキー旅行券、コンピュータなどの中から欲しい賞品を選択し、クイズやゲームで一番高い得点を稼いで賞品を獲得する。また、友人をサイトに紹介して、ポイントを稼ぐこともできる。Media Metrixの今年3月の調査では、PrizePointユーザーの平均滞在時間は156分にも及んでいる。

 PrizePointは、今年2月にサイトを開設して以来大きな注目を浴びたが、わずか3カ月でUproarに売却された。Hassett氏は「我々のビジネスモデルが互いに補足し合うことを確認し、合併に踏み切った。インターネットの娯楽市場は、大手メディアの参入により急速に競争が激しくなり、積極的に動かなければ取り残されてしまうとの懸念もあった」と語る。

 同氏は「どの業界と比較しても、インターネットほど急速に伸びている成長市場は歴史上存在しない。このスピードについていくためには多額の先行投資、それをベースとした買収、優秀な管理チームの編成を行なうしかない」と語る。合併当時、Uproarは40名、PrizePointは25名の社員を抱えており、半年後の現在、社員は2倍以上の140名に急成長している。

 また、Uproarでは今年9月、CMP Mediaの元社長であるKen Cron氏をCEOに招いて、本格的なメディアビジネス戦略を展開している。Cron氏は、CMP Mediaを500万ドル規模の中小企業から5億ドル規模の大手メディア企業に成長させたシリコンアレーの有力人物。



●“衝動買い”のオンラインストア

 Uproarでは、積極的な買収と管理チームの編成により急速に規模を拡大している一方で、その他の多くのドットコム企業と同様に多大な損失も抱えている。売上の9割を支える広告収入は、今年の第1四半期には100万ドル、第2四半期には150万ドルだったが、同時期に計上した損失は2,600万ドルに及ぶ。しかし、同社はさらに1,000万ドルを広告費に費やして、メンバー数を増やすための積極的なプロモーションを行なっている。

 Hassett氏は「360万人のメンバー数を、1,000万人にまで拡大する計画だ」と語る。Uproarでは、これらのメンバーに対して同サイトでしか手に入らないユニークな娯楽商品を“衝動買い”させるためのオンラインストアを今年中に開設する予定だ。同氏は「我々は、コンピュータハードウェアを他社より15セント安く売るようなインターネット商取引(EC)を行なうつもりはない。それよりも、Uproarサイトでしか手に入らない面白い商品を販売する」と語る。

 同社では、この新オンラインストアの開設のために、Sharper Imageで14年間の経験を持つShannon King氏を雇った。Sharper Imageは、世界中から変わったノベルティ商品を探して販売している会社。世界中の小さなメーカーを個人的によく知っているKing氏は、この分野での知識と人脈において第一人者だという。

 こうしたノベルティ商品を販売するのは、Uproarのユニークさを強調するブランド構築とともに、利益率の高さも計算された上でのことだ。これらの商品の利益率は50%以上であり、同社では今年中に300種類の商品を集めるとしている。



●PointCastでの苦い経験から学ぶ

Michael Simon
UproarのMichael Simon会長
 Hassett氏は1994年、プッシュ技術の草分けとして知られるPointCastを創設したことで有名だが、同時に苦い経験も味わった。同氏はPointCastの設立初年度に1,800万ドルの売上を上げ、Business Weekの「1996年のアントレプレナー」に選ばれるなど、一時期大きな脚光を浴びた。

 しかし1997年に同社を去るハメに陥る。同氏は、Rupert Murdoch氏率いるNews Corp.からの4億5,000万ドルに及ぶ買収提案を断わったことで、役員会の信頼を失い、解任されたと言われている。その後、プッシュ技術は帯域幅を浪費するということでユーザー数が伸び悩み、PointCastは結局のところBill Gross氏のIdealabにより今年700万ドルで買収された。

 同氏はその後、ニューヨークに移住し、1997年の終わり頃から新会社設立のための準備を始めた。同氏は「多くの時間を費やし、あらゆる人と意見を交換して、メディア関連のビジネスプランをいくつも考えた。最初にPointCastと類似したニュース関連のビジネスを考えたが、インターネットは急速に進化しており、将来はテレビのような一般人向けのメディアになると思った。そこで、娯楽コンテンツが今後はさらに必要になってくると考えたのだ」と語る。

 こうして今年2月に設立されたのが、PrizePoint Entertainmentである。「DSLやケーブルモデムが一般的に普及し、広帯域接続が実現する近い将来、人々はどういったコンテンツを求めるだろうか? 株価や天気予報、ユーティリティを広帯域接続でダウンロードしたいとは思わないだろう。これらは56kbpsモデムでも十分だからだ。ユーザーは、今まで想像もしなかったような魅力的な娯楽コンテンツをインターネットに求めるようになる」と語る。

 同氏は、これ以前にも企業を創設している。「1986年、コンピュータチップの開発会社をボストンで創設した。このチップを沖データ、リコーなどに販売していたので、日本にもよく行っていた」と語る。同氏はこの会社の売却に関連して西海岸に渡ったが、その後、もともと東海岸出身だったことと、メディアビジネスの中心地だったことから、ニューヨークに移住したという。



●必要なのは技術ではなくコンテンツ

 Hassett氏は、インターネットを取り巻く環境は光速で変化しているとし、「PointCastを設立した当時は、Netscapeに代表されるようにテクノロジーを構築する企業が中心だった。しかし今では、Webサーバーやデータセンターなどのネットビジネスに必要なものはすべてライセンスやサービス購入により手に入る。必要なのは技術ではなくコンテンツだ」と語る。

 同氏がこの分野でライバルとして捉えている企業は、ずばりソニーだという。同氏は「ソニーはハードウェアも作っているが、娯楽企業だ。Sony Onlineでは、人気テレビ番組の『Jeopardy』や『Wheel of Fortune』などをオンラインで提供している」と語る。同サイトに対抗するため、Uproarではゲームのみではなく音楽、映画などの幅広い娯楽コンテンツの提供も計画しているという。また、DisneyやWarner Bros.、Viacomなどの既存の大手メディアもインターネットの娯楽市場での強力なライバルになるという。

 国際市場に関しては、Uproarは欧州市場を中心に11カ国語でWebサイトを提供している。日本市場に関しては、2000年をめどに参入を目指しているという。

('99/11/26)

[Reported by HIROKO NAGANO, NY]


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