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【連載】

東海岸インターネットビジネス最前線

第28回:電子ブックシステム開発企業、Versaware
――自分だけのバーチャル図書館に電子ブックを収録

http://www.versaware.com/

 米国でのインターネット業界では、メーカーやソフトハウスの集まった西海岸「シリコンバレー」だけでなく、最近ではコンテンツやビジネス面で東海岸「シリコンアレー」(シリコン通り)が注目を集めています。この連載ではそうしたシリコンアレーから登場していく注目の企業を紹介していきます。(編集部)


Tina Ravitz
VersawareのTina Ravitz COO
 ペーパーレス社会を目指して、テクノロジー企業は競って“電子ブック”のキラーアプリを開発している。Paper ComputerやIBMが開発する“ペーパーコンピュータ”や折りたたみ式スクリーン、コンピュータの画面に表示された文字を読みやすくするMicrosoftのソフトウェア「Microsoft Reader」など、いずれは紙が過去の遺物になる時代がやってくるかもしれない。

 8月にサンフランシスコで開催された「Seybold」会議では、MicrosoftのDick Brass技術開発担当副社長が「今から20年後には、紙は過去の遺物となるだろう」と大胆な予測を行なった。同氏によると、2002年には電子ブックの販売部数が10億部を超え、2006年には街角のキオスクで電子新聞や電子マガジンが売られるようになり、今から10年後の2009年には、一流作家は出版社を通さずに読者に直接書籍を売るようになっているという。この予測を実現すべく、同社はR.R.Donnelly、Bertelsmann、HarperCollins Publishers、Penguin Putnam、Time Warner Booksなどの大手出版社と提携し、何万冊もの書籍を「Open eBook」仕様に準拠した電子ブックバージョンに変換する計画を進めている。

 しかし、Microsoftよりも優れた電子ブック技術を開発したと主張しているシリコンアレー企業が存在する。1997年1月に設立されたVersawareは、紙の本を単にデジタル化するだけではなく、ビデオやオーディオを統合したダイナミックなコンテンツに変換し、さらに自分のお気に入りのコンテンツを保存して好きな時に自由に取り出せるパーソナルライブラリーなどのさまざまな機能を提供している。同社のTina Ravitz COOに、同社のビジネス戦略と将来の展望を尋ねてみた。



●進化する電子ブック「Versabook」

Versaware HomePage
Versawareのホームページ
 Versawareは、紙の本を「Versaware Electronic Book(VEB)」ファイルという電子フォーマットに変換し、ビデオ、オーディオ、写真、地図、Webサイトへのリンク、検索、注釈などのマルチメディア機能を付加する電子ブックシステムを開発している。同社によると、現在デジタル化されている商業出版物は全体の5%にしか過ぎず、デジタル化されたコンテンツも、フォーマットに互換性がなかったり、柔軟性に欠けているのが現状だという。

 Ravitz氏は「VEBフォーマットは業界標準のeBook、ICE(Information and Content Exchange)、XMLに対応しており、他のフォーマットにない柔軟な機能を多数持っている。たとえば、新たなコンテンツを既存のコンテンツにリアルタイムに統合したり、自動的に情報のアップデートや変更を行なうことが可能。また、プログラムを再スタートせずに、自動的に異なるタイプの本や記事に対応する」と語る。

 Microsoftの電子ブックフォーマットに関しては、同氏は「新たにコンテンツを追加したり訂正したりする場合、すべてコンパイルし直す必要がある。そのため、Microsoftのフォーマットを使えば毎年新たなCDを出版する必要がある。Versawareを使えば、以前購入した電子ブックに新たな情報をアップデートするだけでよいので、継続して使用することができる」と語る。

 こうしてデジタル化された電子ブックファイルは「Versabook」と呼ばれ、Webサイトからダウンロードしたり、CD-ROMやDVD-ROMで販売される。Versabookは百科事典や専門書、新聞や雑誌、その他のジャーナル、料理のレシピ、旅行ガイドなど、あらゆるコンテンツに対応する。Ravitz氏は「Versabookのコンテンツは、ニュース記事やガイドブック、教科書、百科事典などのように、始めから終わりまですべてを読む必要がないものが最適だ」と語る。



●自分だけのバーチャル図書館「Versaware Library」

 本を購入したら、今度はそれを収める本棚が必要になるが、Versawareでは、Versabookを保存するためのバーチャル図書館「Versaware Library」を提供している。パソコン用のクライアントソフトで、Webサイトからダウンロードできる。Ravitz氏は「料理のレシピ、旅行ガイドなど多様なトピックの中から、自分の好きなコンテンツだけを集めて、バーチャル図書館に収めることができる」と語る。

 Versaware Libraryは、何かを調べたい場合、対象になるVersabookのみを選ぶことができるインテリジェントな検索エンジンを持つ。たとえば、バーチャル図書館に50冊のVersabookがあるとしよう。米国の法制度の歴史を調べたかったら、料理の本や旅行ガイドは必要ないので法律書と歴史書のみを選べばよい。チキン料理のレシピが欲しかったら、料理の本のみを選択する。

 もし、情報が見つからなかった場合には、バーチャル書店「eBookstore」に行き、自分の必要なコンテンツをダウンロードすることができる。Ravitz氏は「我々の目標は、ユーザーがコンテンツを自由にコントロールできるようにすることだ」と語る。

 Versawareのシステムを使用する出版社は、固定料金として1~5万ドルを同社に支払い、その後は1冊ごとに1.5ドルを支払うことになる。一見、割高に見えるかもしれないが、このシステムを使えば、実際には紙の本よりもかなり安い値段で電子ブックを販売することができる。Ravitz氏は「電子ブックは製本コストや配送コストを削減できるため、これらは紙の本よりも20~30%ほど安く提供できる」と語る。現在、McGraw Hill、Oxford University Press、McClelland & Stewart、百科事典のFunk & Wagnallsをはじめとする7社の出版社がVersawareシステムを使用している。



●未来形の出版ポータル「eBookcity.com」

eBookcity.com
電子ブックポータル「eBookcity.com」
 Versawareは今年11月、Versabook技術をベースにした新たな電子ブックポータル「eBookcity.com」のベータ版を立ち上げた。同サイトはコンシューマー向けのポータルで、ユーザーは無料でVersabookのさまざまな機能を利用できる。

 バーチャル図書館「My Library」では、オンライン上で自分だけの図書館を構築でき、最新のVersabookを販売しているバーチャル書店「eBookstore」では、好きな電子ブックをダウンロード購入できる。無料ブックを提供している「Free Books」コーナーもある。また、自費出版をしたい人のためのセクション「ePublish Center」では、自分の本の批評をサイトに掲載したり、読者とチャットしたり、効果的なプロモーションが行なえる。

 ただし、まだベータ版だからかもしれないが、PCユーザーはInternet Explorer 4.01以降でないとeBookcity.comにアクセスできない。Macintoshユーザーは、Netscape Navigator/Communicator 4.03以降でないとアクセスできない。それも4.5以外だ。

 同社はその他、他社のポータルサイトの開発も行なっている。同社が開発したFunk & Wagnallsのサイトは、キーワードやトピック、自然言語で検索できるVersawareのインテリジェントな検索エンジンを使用しており、毎月400万人近くのユニークビジターを集めている。同社はまた、Funk & Wagnallsとコンテンツの排他的ライセンス契約を結んでおり、LycosやXOOM.comなどのポータルサイトにこれらのコンテンツを提供している。同社が開発したLycosの子供向けサイト「Lycos Zone」では、Funk & Wagnallsの百科事典、Random Houseの辞書、19万以上の記事、3,000以上のマルチメディアファイルを収めたリサーチセンターを提供している。



●夢を求めてドットコム企業に転職

XOOM.com
Versaware開発によるXOOM.comのサイト
 1999年7月にVersawareに入社したRavitz氏は、1986年から1994年までNewsweek誌の副社長を務め、1995年から1997年までViacomのTechnology and Business Operations部門の副社長、その後はNew Media Venturesの社長を務めたというメディア業界の大ベテラン。

 小さなシリコンアレー企業に移ることに対してためらいはなかったかと尋ねると、「まったくなかった。新しい企業の中に入って、その企業が大きく成長するのを最初から体験するのは、すばらしいことだわ。とくに、Versawareは今まで市場に存在しなかった製品やサービスを開発しているので、とてもエキサイティング」という返事が返ってきた。シリコンアレーに関しては、同氏は「ニューヨークは出版の中心地、その中でもシリコンアレーはメディアとテクノロジーが融合する場所なので、Versawareを設立するのにもっともふさわしい土地だ」と語った。

 最近、“トラディッショナル”な企業で働く有能な人材が、IPOで一攫千金を目指して、あるいはデジタル時代の夢を求めてドットコム企業に転職するケースが目立っているが、Ravitz氏もその例外ではない。Ravitz氏の他、同社のCFOであるStephen Kessler氏もMcGraw-Hillで幹部を務めた人物だ。

 Versawareの創設者の一人であるHarry Fox氏は、同社を設立する前、1982年にFuturevisionという教育関係の電子出版企業を創設した。Futurevisionはその後、Learning Companyに買収され、同氏は同社のNew Technologies部門副社長に就任した。



●将来はモバイルにもVersabook

 将来、大きく成長が期待される電子ブック市場だが、市場がまだ小さいのが現状だ。Versawareでは、こうした状況から、eBookcity.comなどのポータルを通してコンシューマーに電子ブックの便利さを訴えている。Ravitz氏は「現在は出版社やポータルサイトを中心に技術サービスを提供しているが、すぐにコンシューマー市場にもマーケティングを行なっていく」と意欲を語る。

 同社はまた、PDAや携帯電話などのモバイルデバイスにVersabookのコンテンツの一部をダウンロードする技術を開発している。たとえば、ダラスに出張する場合には、何冊かの旅行ガイドからダラスの部分だけを抜粋して、ダラスのホテル、レストラン、空港からの道順、お薦めスポットをPalmPilotにダウンロードすることができる。

 数年後にはどのような企業になっているかとの質問に関しては、同氏は「質の高いコンテンツを提供する電子出版分野でのリーダー企業になっているだろう」と語った。IPOは、来年を目指しているとのこと。なお、1998年11月、Nomura Internationalが同社の11%を取得している。

('99/12/10)

[Reported by HIROKO NAGANO, NY]


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