米国でのインターネット業界では、メーカーやソフトハウスの集まった西海岸「シリコンバレー」だけでなく、最近ではコンテンツやビジネス面で東海岸「シリコンアレー」(シリコン通り)が注目を集めています。この連載ではそうしたシリコンアレーから登場していく注目の企業を紹介していきます。(編集部)
同社は、無料電子メールサービスを大手サイトやISPを通して提供することで、短期間で多数のユーザーを獲得している。Mail.comの提携サイトは、Altavista、Lycos、CNN、CNET、NBC、Snap!、Rollingstone.Com、CBS Sportsline、Weather Channelなど、全部で40社以上にわたる。同社は、これらを合わせた広告ネットワーク「Mail.com Partner Network」を構築し、年齢、性別、職業、年収、興味のある分野、地域別などのユーザー属性情報をもとにしたバナー広告のターゲット配信を行なっている。Webサイトのトラフィック調査会社、MediaMetrixによると、この広告ネットワークは、Exciteを抜き、DoubleClickの次の第7位に位置している。バナー広告の売上は提携サイトと分け合い、同社の売上の約8割を占めている。
また、Prodigy、GTE、Cable and Wireless、EarthLink、JunoなどのISPもMail.comのサービスを使用している。同氏は「ISPのサービスの多くは、一つのマシンからしかネットアクセスができず、モバイル環境に向いてない。しかし、Mail.comのWebベースのサービスを使用すれば、現在使用している電子メールアドレスとパスワードをWebサイトに入力するだけで、どのマシンからでも自分のメールが読めるようになる」と語る。
同社は、同様のサービスをビジネス市場にも提供している。現在、企業の大部分は社内で電子メールシステムを管理しているが、年中無休のサーバー管理にはコストがかかるのでアウトソーシングするケースが増えている。Mail.comでは、スパム防止、バックアップ、セキュリティなどの機能を含めて、メールボックス1個につき毎月2~5ドルを徴収しており、現在AT&T、Continental Airlines、Mercedes Benzなどを顧客に抱えている。
同社は12月15日、日々のスケジュール管理に役立つカレンダー機能を電子メールサービスに追加することを発表した。カレンダーにはアポイント、誕生日、記念日などを書き込めるほか、やるべきことや買い物のチェックリスト、定期的に行なうイベントの設定、アドレス帳、自動的にアポイントの日時や誕生日などを知らせてくれるリマインダー機能なども付いている。
また、インターネット電話会社のNet2Phoneとの提携により、Mail.comの会員はインターネット電話サービスを使用できるようになった。Net2Phoneの「Click2Talk」技術を使用して、Mail.comのアドレス帳にあらかじめ記載された電話番号をクリックするだけで、国際電話も含めたインターネット電話が行なえる。ユーザーはこれにより、最大で95%のコストを削減できるとしている。
また、同25日にサービスを開始する予定のファックスメールは、電子メールは持っていないがファックスは持っているという人に、自動的に電子メールをファックスで送ってくれるというもの。アドレス帳にあらかじめ記載されたファックス番号をクリックするだけで、ファックスが送られる仕組みだ。
Gorman氏は「次世代の電子メールは、フィルタリング、ファックスメール、カレンダーとの統合など便利な機能がついたWebベースのシステムになる。ISPを変えても、違う場所に移動しても、そのアドレスはどこでも使えるし、パーソナライズもできる。我々の目標は、多様な統合メッセージングサービスをビジネスとコンシューマーに提供することだ」と語る。同社は現在、インスタントメッセージングサービスの提供も計画している。
Mail.comは1998年9月、Sycamore Ventures、J & W Seligman & Co.、Primus Venture Partnersなどから合計1,400万ドルの投資を受け、1999年6月にIPOを果たした。当日、公開価格7ドルから8.62ドルで引けた同社株は、現在17ドル前後で推移しており、資産価値は7億ドル以上にのぼる。通信ポータルを目指す同社はIPO後、次々に関連企業を買収してサービスと顧客数を増やしている。
1999年7月には、Webべースのカレンダーを開発するeOrganizerと、インターネットファックス技術を開発する3Cubeの19%を買収した。3Cubeとの契約では、同社のインターネットファックス技術をライセンスし、Webベースのファックスとカンファレンスコール(電話会議)関連ツールを開発してマーケティングすることになった。
同8月には、企業向け電子メールシステムを開発するAllegroの買収を行なった。同社は4年以上にわたり、企業向けにメールサービスを提供してきたリーダー的企業で、とくにスパムメール、MP3などの大容量ファイル、ウィルスなどが企業システムに入るのを防ぐフィルタリング技術で有名。Continental Airlines、Mercedes Benz、NASCARをはじめとする100社以上の企業をホスティングしている。
10月にはコンピュータテレフォニーのソフトウェアを開発し、AT&T、Lucent Technologies、Hewlett Packard、Samsung and Siemensなどの顧客を持つTCOM、11月にはSingapore.Comを買収している。今月には、インターネットファックス企業のNetMoves.comを1億7,000万ドルで買収したという発表が、シリコンアレーで大きなニュースとなった。同社は、150カ国を超える7,000社の企業顧客、14万6,000人のユーザーに対してインターネットファックスサービスを提供しており、ADP、 Airborne Express、 bSquare、Disney、Hewlett-Packard、New York Times、Rent.net、Panasonic、Yahoo!などを顧客やパートナーに持つ。
Gorman氏は「ネットビジネスで成功するためには、各分野で成功している小さな企業をどんどん買収することが必要だ。これにより、専門家、オフィス、情報システム、会計システムなど、構築するのに何年もかかるインフラが短期間で手に入る」と語る。
オーストラリア出身のGorman氏は、Mail.comを設立する以前は金融業界で長年の経験を持つ。12年間働いたDonaldson, Lufkin & Jenrette(DLJ)では、衛星金融部門を設立。EchostarやGlobalStarなどに50億ドルから100億ドルという大規模な投資を行なった。同氏は「Mail.comを設立するきっかけは、DLJで小さな企業が大企業になるのを目の当たりにし、自分でもビジネスを始めてみたいと思ったからだ。そのうち、インターネットの大きな可能性を知り、興味を持った」という。同社のアイデアは、現在社長を務めるGary Millin氏によるもので、Gorman氏が同氏に出資して二人で企業を設立した。
その後はしばらくMillin氏が実際の業務に携わり、Gorman氏はウォール街で働いていたという。同氏は「最初の頃は、Mail.comのサービスに登録する人々は毎日400人程度だった。しかし、そのうち毎日2万人が登録するようになり、我々の製品が優れたものだと確信した」と語る。その後、同氏はウォール街を辞めて、Mail.comで正式に働くことになった。インターネット業界に関しては「プレッシャーが高く何のルールもない世界だが、成功すれば大きい」と語る。
同社の設立当時の社名はiNameであり、今年2月にMail.comへと社名変更している。社名変更の理由に関して、同氏は「最初は、人々に無料電子メールアドレスを提供することから始まったが、その後はファックスメール、インスタントメールなど、メールアドレスだけではなくメールに関係したものなら何でも提供するように事業が拡大していった。そこで、メール全般に関するブランドが必要だと気付いたのだ」と語る。
同氏はまた「Mail.comは非常にパワフルなブランドだ。インターネットの世界では、高いビルを建てることも、道ばたに看板を出すこともできない。いかにして顧客をサイトに呼ぶかは、ブランドにかかっている」と語る。
「Fashionmall.com」 |
Gorman氏は「我々は、EC機能を持つ初めての電子メールプロバイダーだ。ユーザーは毎日、Mail.comサイトで多大な時間を費やしている。ここで、本やCD、コンピュータやソフトウェアなどがワンクリックで買えたら、また電子メールを送る感覚で友人に花やCDなどのギフトを送ることができたら便利だ」と語る。
同氏はまた、国際市場がこれから最も伸びる分野だとし「現在、50%の顧客は国際市場から来ており、将来は70%になると予測している。米国市場の次に大きな市場は日本市場なので、来年早々には日本市場に向けたイニシアティブを発表する」と語る。日本のパートナー企業に関しては、ノーコメントとのこと。
最後に「我々はIndia.com、Asia.com、doctor.comなどのドメイン名も持っているが、これらはMail.comとは別企業として、12カ月以内に各分野でのポータルとして開設される。China.comがIPOを行なって大成功したことが大きな話題となったが、アナリスト達はこの企業の価値の半分は名前だとしている。我々は、ドメイン名という巨大な資産を持っている」と語る。
('99/12/24)
[Reported by HIROKO NAGANO, NY]