米国でのインターネット業界では、メーカーやソフトハウスの集まった西海岸「シリコンバレー」だけでなく、最近ではコンテンツやビジネス面で東海岸「シリコンアレー」(シリコン通り)が注目を集めています。この連載ではそうしたシリコンアレーから登場していく注目の企業を紹介していきます。(編集部)
スタンフォード大学の博士号を持つ二人組により1997年に設立された同社は、企業や個人がWebブラウザーを通してデータを収集、管理、分析できる多様なデータベースアプリケーションを無料で提供している。ユーザーは、製品注文ページやパーティの招待状、顧客サポートなど、特定のニーズに合わせたアプリケーションをカスタマイズできる上、集められたデータをWebブラウザーから閲覧することができる。シリコンアレー業界誌「@NY」(現在は「internet.com」の一部)の1999年のトップシリコンアレー25社に選ばれた同社の創設者の一人、Andrew Erlichson CEOに同社のビジネス戦略と将来の展望を尋ねてみた。
たとえば、オンラインストアの製品注文ページを作成したい場合、同社サイトのユーザー登録をした後、テンプレートのカテゴリーの中から最適なテンプレートをクリックする。製品注文ページのテンプレートには、製品の種類、注文数、購買者の住所、氏名、電話番号、クレジットカード番号など、製品注文に必要な項目がすべて掲載されている。編集ツールで製品名などをカスタマイズした後、この製品注文ページに個人や企業のWebサイト、または電子メールからリンクを張れば完了だ。
実際に試してみたところ、サイトのユーザー登録には2分、アプリケーションの作成には10分しかかからなかった。Flashbaseは世界中で使用でき、日本語のアプリケーションも作成可能だ。Erlichson氏によると、20%が米国以外のユーザーで、日本からも多数のユーザーが使用しているという。顧客からの製品注文データはFlashbaseのデータベースに保存され、ユーザーはIDとパスワードでこれらのデータにアクセスできる。収集されたデータは各ユーザーに帰属し、結果をグラフ化するなどの分析もできる。データ件数は1,000件まで入力可能。
Erlichson氏は「大手のWebサイトは比較的小さなプログラムを作る時間的余裕がなく、小規模のWebサイトではこれらのプログラムを作るためにわざわざエンジニアを雇うコストがない。このニッチ市場をターゲットにしている」と語る。たとえば、Hewlett-Packardでは、Flashbaseを使用してアジア太平洋市場の販売スタッフに対するアンケート調査を行なったという。
製品注文ページのテンプレート。編集ツー ルで製品名などをカスタマイズできる |
Erlichson氏は「たとえば“企業面接フォーム”や“結婚式の出席フォーム”などをユーザーが作ったら、今度はそのフォームをテンプレートとして他のユーザーに提供することで、ユーザー自身がアプリケーションをプログラムする」と語る。これにより、同社のサービスが開始された1999年9月以来、4カ月間でカテゴリーはビジネス、パーソナル、教育、登録、調査などに広がり、よく使われるビジネス分野では、EC、ソフトウェア開発、不動産、法律、金融、ジャーナリズム、医薬、音楽、レストランなどのサブカテゴリーも生まれている。
同社はこうしたテンプレートを無料で提供する代わりに、バナー広告で売上を上げている。同氏は「カテゴリーを選んだ段階で、それをベースにした広告配信を行なうので、ユーザーはターゲットの絞られた広告を受けとることになる」と語る。バナー広告配信ネットワークには24/7 Mediaを使用している。
また、無料サービスで多数のユーザーを惹きつけ、さまざまな付加価値サービスを有料で提供することにより売上を拡大する狙いだ。同氏は「アンケート調査や企画提出などのアプリケーション作成とデータベース処理は、企業が社内で開発すると高いコストがつく。我々は、これらのデータ収集、管理、分析に特化したスケーラブルなサービスを低価格で提供している」と語る。Flashbaseは、毎月24.95ドルで、クレジットカード処理のためのSSLサーバー、10万件までのデータ入力、デスクトップアプリケーションからのデータファイルのアップロード、入力されたメールアドレスすべてに対してのメール送信などのプレミアムサービスを提供している。さらに、24時間の高速接続、データベースのバックアップ、バナー広告の非掲載、デザインのカスタマイズなども提供している。
たとえば、30名程度の企業部門で新社員を採用したい場合、Flashbaseの“面接評価フォーム”を使えば、社員全員で共有できるデータベースアプリケーションを即座に作成できる。面接を行なった社員は、面接評価フォームに候補者の名前や住所、面接の評価、コメントなどを書き込み提出する。他の社員はデータベースにアクセスして詳細を見ることができ、評価ランキングのグラフ化などのデータマイニングも行なえる。
Erlichson氏は「インターネットを共同作業のために使用して、そのためのアプリケーションサービスを売ることが我々のビジネスモデルだ。我々は、データの送り手と受け手の関係が“1対多数”ではなく“多数対多数”のモデルに焦点を絞っている」と語る。データベースは、多数のユーザーで共有されるコミュニティーリソースとしての性質を持つため、Webベースのアプリケーションとして考えた方が自然だという。
また、同社は現在、PalmPilotや携帯電話などのモバイルデバイスからFlashbaseのWebアプリケーションを使用できるシステムを開発しており、サービスの開始は数カ月後になるという。
同社が最初に開発したのは、オスカー授賞式のためのアプリケーションだった。オスカーの公式サイトでは、オスカー授賞式に出席する人々が各部門の受賞者を予測するページを設けて、予測がもっとも当たった人、もっとも外れた人に、ベスト予測賞とワースト予測賞が与えられた。Erlichson氏は「このアプリケーションは大成功を収め、インターネットはデータを収集するのに最適なプラットフォームだと確信した。そこで、テクノロジーに詳しくない人でも簡単にデータベースアプリケーションを作成できるサービスを提供しようと閃いた」と語る。
その他にも、無数のアイデアを思いついたという同氏は、「たとえば、ユーザーがインターネットにつながっている間に、空いた帯域幅を使って次に閲覧されるページを予測してダウンロードするというシステムを開発した」と語る。しかし、このシステムはサーバー側とクライアント側の両方にソフトウェアをインストールする必要があったため、どの企業も乗り気にならなかったという。
また、無料ISP企業のJuno Online Servicesに対して、TVにつなげるだけでネット接続ができる100ドル程度の安価なネットデバイスの開発を提案したという。同氏は「2,000ドル近くするPCを買ってインターネットに接続しようと思っている人は、毎月15ドル程度の接続料金は高いとは思わないだろう。しかし、そこまで出せない人向けに、安価なネットデバイスを販売したら売れると考えた。しかし、彼らは興味を持たなかった」と語る。
Flashbaseは1999年6月、1回目の投資ラウンドとしてシリコンアレーのベンチャーキャピタル、Dawntreaderから100万ドルを獲得した。Dawntreaderは、Wit Capitalの会長を務め“エンジェル投資家”としても有名なBob Lessin氏により設立された企業。これにより、Flashbaseは管理チームを中心とした強力な企業体制を急速に固めつつある。
アプリケーションのホスティングサービスは現在、もっとも注目される分野になっており、Flashbaseの他にも、コンシューマー市場向けにActivespace、Bitlocker、eViteなどが同様のサービスを提供している。パーティのオンライン招待状を提供しているeViteは、1999年12月に2回目の投資ラウンドで3,000万ドルを獲得し、大きな話題を呼んだ。また、ファイルやデータをオンラインで保存するi-drive.com、Docspace、X:driveなども同様に注目を集めており、今後はさらに多数のASPサービス企業が登場するものと見込まれる。Erlichson氏は「未来はASPサービスにある。今後1年間でFlashbaseは社員数を100名以上に増やし、サービスの規模を大幅に拡大することを目指す」と語った。
(2000/1/7)
[Reported by HIROKO NAGANO, NY]