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【連載】

シアトル発インターネットビジネス最前線 第3回

パーソン・ツー・パーソン型ナレッジ共有企業:AskMe.com
─次世代ナレッジマネジメントのトレンドを創る─

http://www.askme.com/

 米国では、“シリコンバレー”や“シリコンアレー”だけではなく、インターネット企業が集積したハイテク地区が次々と登場しています。IntelやFujitsuなどの工場があるオレゴン州北部のポートランド周辺と、MicrosoftやAmazon.comが本社を構えるワシントン州西部のシアトルやレドモンド周辺もまた、“シリコンフォレスト”と呼ばれ、インターネット企業の集積地になりつつあります。この連載では、シリコンフォレストから登場する注目の企業を紹介していきます。(本連載は隔週木曜日に掲載します。記事一覧はこちら


 設立して1年半以内でIPOを果たすことを狙っている急成長の企業が、シアトルに存在する。ユーザーが質問を専門家に直接尋ねることができるサービスを提供しているAskMe.comである。1999月8月に元MicrosoftのInternet Explorer(IE)開発者らにより設立された同社は、12万人の専門家と500万人のユニークユーザーを抱えるまでに急成長し、現在では毎日2万件の質問を受けるまでにいたっている。

 最初のアイデアは、当時Microsoftの開発者だったRamesh Parameswaran氏がシカゴからの飛行機内でeBayに関するビデオを見ていた時に生まれた、非常にシンプルなものだった。eBayはモノを売りたい人と買いたい人を結びつけるピア・ツー・ピア型(P2P)モデルであるから、今度は質問をする人と答える人を結びつけるP2Pを構築したらどうかと思いついたのだ。

 企業設立後わずか30日以内にサイトを立ち上げ、急速にユーザー数を伸ばした同社は現在、テクノロジー、エンターテイメント、教育、金融などをはじめとした2,000以上のカテゴリーを提供しており、総計220万件の回答を提供している。また、設立1年足らずで高トラフィックサイトの100社に仲間入りを果たし、今年2月には、MediaMetrixにより急成長サイトのトップ5に選ばれている。

 同社は特に、このP2Pシステムを企業のナレッジマネジメント分野で大きく活用させる計画を立てている。社内のコミュニケーションツールとして活用できるほか、社員間のQ&Aをすべてデータベースに保存して他の社員も検索できるようにすることで、巨大なナレッジベースを構築できる。社員の知識をデータベース化することで、企業のナレッジマネジメントに革命をもたらす可能性を秘めているのだ。



●検索エンジンをヒューマナイズする

Udai Shekawat
AskMe.comの共同設立者、
Udai Shekawat CEO
 AskMe.comの共同設立者であるUdai Shekawat CEOは「現在の検索サイトでは、ユーザーは無数のコンテンツの中から答えを探し出さなければならない。AskMe.comでは、各分野の専門家が直接個々の質問に答えることで、求める答えを1回で得ることができる」と語る。ユーザーは同社サイトを訪れ、キーワード検索かカテゴリー選択により専門家を探し出す。その後は、質問ボックスに質問を書き込み、送信ボタンを押すだけで、自動的に専門家に質問が送信される。回答は、平均で数時間から1日後に届く仕組みになっている。

 ユーザーからの質問と答えはサイトに掲載されるので、たとえば隣人に関する不満など、公にしたくないような内容の場合には、質問ボックスの下にある「プライベート」の欄をチェックすると掲載されない。また、「匿名」の欄をチェックすると匿名で掲載される。

 専門家として登録したい場合は、自分の専門分野を選んでキーワードと説明事項を書いて登録する。ユーザーが専門家に5段階評価を付けられるようになっているので、信頼できる専門家は一目でわかる。まったくのボランティアにもかかわらず、専門家は毎日300人のペースで増え続けているという。

 質問は実にさまざまであり、たとえばあるユーザーが叔父から譲り受けた日本刀の磨き方を尋ねたところ、専門家との質疑応答を繰り返すうちに、その日本刀が非常に貴重なものであるということがわかり、7ページにもおよぶ細かい指示を専門家に教えてもらったなどという高度に専門的なものもある。また、テヘラン在住の女性が糖尿病の子供のためのレシピを捜しており、ロスアンジェルスの女性団体がこれらのレシピを提供したり、チェコスロバキアの女性が米国人男性と結婚してできた子供の市民権に関する質問に移民局で働いている専門家が回答したりと、ユーザーは米国内に留まらない。

 最近では、父親と22年間離れ離れになっていた息子が、AskMe.comを通して5分間で父親を探し出したというケースがあり、米テレビネットワークのNBCがこの親子に関する特集番組を2本立てで制作しているという。同社のWalter Conner企業コミュニケーション部長は「こうしたケースは頻繁に起こっており、出版社やラジオ局からも、Q&Aの中で面白いものを毎週出版したり放送したいという問い合わせをよく受ける」と語る。



●次世代のナレッジマネジメント“P2P”

Walter Conner
企業コミュニケーション部長の
Walter Conner氏
 AskMe.comは、このQ&Aスタイルのサービスは次世代のナレッジマネジメントのトレンドとして大きな注目に値するという。同社のモデルは、Napsterに代表される個人間でのファイル共有システムを実現するピア・ツー・ピア型(P2P)と同様のモデルであり、共有するものがファイルではなく人間の知識であることから、これを“パーソン・ツー・パーソン型(P2P)モデル”と呼んでいる。

 Conner氏は「P2Pは、インターネットで最も急成長を遂げている分野である。我々が企業を設立した当初、競合他社はEXP.com、ExpertCentral.com、InfoRocketの3社のみだったが、現在では80社以上の企業が同様なサービスを提供している」と語る。調査会社のPC Dataでは、サイトカテゴリーに新たに「Ask & Advice」を設けてこれらの企業のトラフィックを調査しており、AskMe.comはこの分野でトップの座を獲得した。

 AskMe.comがトップに躍り出た大きな理由には、Keen.comやEXP.comをはじめとする他社の多くが有料サービスであることが挙げられる。その料金は、数ドルから数千ドルにまでおよぶ。しかし、この方法だと、ユーザー数が伸び悩むことから、数百万ドルという多額のマーケティングコストを費やしてユーザーを集める必要がある上、専門家にも売上を支払わなければならない。AskMe.comでは、ニュースグループの各分野でAskMe.comを紹介して専門家を集め、無料サービスという利点から口コミでユーザー数を増やしたので、Conner氏曰く「マーケティングコストは実質ゼロ」だという。

 また、Keen.comではQ&Aを電話で受け付けているため、質問に答えた後でその会話は失われてしまい、同じ質問を持ったユーザーに対して専門家はまた最初から答える必要がある。さらに、ユーザーは、専門家が家にいる時間に電話をかけなければならないので不便である。AskMe.comでは、一度回答された答えは永久にデータベースに保存され、サイトを訪れた誰でも再利用できる。ちなみに、AskMe.comのトップ専門家は、物理学、化学など16種類におよぶカテゴリーを担当し、今までに1万件以上の質問に答えてきたKent Wagner氏。同氏は車椅子の生活を送る元科学の先生で、退職したので一日中ユーザーからの質問に答えているという。



●“答え=問題解決”ではない

Dogpile.com
HyperMart
Dogpile.comサイトに行き、“オイリー
スキン”でキーワード検索すると、他の
ユーザーからのQ&Aが掲載されたページ
が見られる(上)。ページの下に付いた
ショッピングボタンをクリックすると、
ECセクション「HyperMart」のオイリー
スキン用製品のページにリンクする(下)
 AskMe.comのビジネスモデルは、コンシューマー向けサイトで売上を上げることにはない。Shekawat CEOは「我々は、AskMe.comのナレッジシェアリング技術を企業やサイトに提供することで売上を上げている。コンシューマー向けサイトは、このインフラが機能することを証明するためにある」と語る。Inktomiなどが他社サイトに対して検索エンジンをライセンス提供しているのと同様、AskMe.comではMSN、New York Times、Productopia、Avenue Aをはじめとする30以上のサイトに同社のQ&Aシステムを提供している。

 ECサイトでは、同社のQ&Aシステムをサイバー店員として使用することができる。たとえば、AskMe.comを使用しているGo2Netネットワークの一つであるサイト「Dogpile.com」に行き、“オイリースキン”でキーワード検索すると50人の専門家がリストアップされる。他のユーザーからのQ&Aが掲載されたページを読み終えると、下の部分にショッピングボタンが付いており、それをクリックすると、ECセクション「HyperMart」のオイリースキン用製品のページにリンクされる。

 同氏は「ユーザーが何か質問をする時、そこには必ずといっていいほどビジネスチャンスが含まれている。質問をするのは、問題を解決したいからである。しかし、“答え=問題解決”ではない。たとえば、自分に最適の保険プランに関しての質問だったら、問題解決は“答え”ではなく最適の保険プランに“入る”ことだ」と語る。ユーザーは何かを購入する前、かならず質問を持っている。そこで、専門家に尋ねるサービスが非常に重要になってくるのである。

 こうしたQ&Aシステムを構築するには複雑なシステム開発が必要となる。Conner氏は「AskMe.comのシステム開発は、オークションサイトの数倍も複雑である」と語る。同社のQ&Aシステムは、XML/HTMLベースのインターフェイスにクエリー入力、専門家の照合、コンテンツ管理、電子メール管理、それにデータマイニングを組み合わせて構築されている。データベースは専門家、Q&A、金融関連の3種類。開発チームは2週間ごとに新たなバージョンを開発しており、2つの開発チームを構成して互いに次バージョンを開発している。



●エンジニアの知識をデータベースに保存

Scott Lant
AskMe.comの社員第1号である、ソフト
ウェアエンジニアのScottLantz氏
 AskMe.comはまた、イントラネットにおける同社技術の利用は、社内コミュニケーションの効率性を上げるだけではなく、企業のナレッジマネジメントに革命をもたらすものになると主張する。特に、大手企業ではまず誰に質問をすればいいかを探し、その人物の電話番号や電子メールアドレスを調べるのに時間がかかる。AskMe.comのQ&Aシステムを使えば、部門別またはキーワード検索ですぐに最適な担当者を探し出し、質問ボックスに質問を書き込みクリックするだけで質問を複数に送信することができる。さらに、これらの質問はすべてデータベースに保存されて他の社員も検索できるようになるので、巨大なナレッジベースを自動的に構築していることになる。

 これはハイテク企業にとり、特に重要だ。ハイテク企業は極端なエンジニア不足に悩んでおり、エンジニアは売り手市場であるために知識をつけると条件のいい企業にすぐ移籍してしまう。問題は、エンジニアが企業を去るときにその知識までも一緒に持っていってしまうことである。多額のコストをかけてエンジニアを育てた企業にとっては、これは大きな損失である。AskMe.comを使えば、彼らの知識をすべてデータベースに保存することができるので、新しいエンジニアを採用しても最初から同じことを教える必要はなくなる。

 AskMe.comは、同社技術をソフトウェアのライセンスまたはASPモデルの双方で提供している。Shekawat CEOは「現在、General ElectronicやTexas Instrumentsなどとライセンス契約を交渉しており、料金は100万~500万ドルを予定している。また、ASPモデルは、設定料金が1万~数十万ドル、毎月のサービス料金が5~10万ドルであり、ユーザー数により価格は変わる。多くのサイトが参加すれば、価格は毎月5,000ドルあたりまで下がるだろう。今年の売上は500万ドル前後の予定だ」と語る。



●コンサルタントから起業家へと転向

System Room
AskMe.comのシステム室。高
性能負荷分散装置やコンテンツ
配信製品を開発しているシアト
ルの企業、F5の製品も置かれて
いる
 Shekawat氏は、スタンフォード大学で工業エンジニアリング/エンジニアリング管理を専攻し、1993年に卒業してからコンサルティング企業のMSI Consulting Groupで働いた経験を持つ。同氏は「MSIでは、MicrosoftのSteve Ballmer(社長兼CEO)やOracleのLarry Ellison(会長)、その他のコンピュータ業界のトップに対してインターネット戦略に関するコンサルティングを行なっていた」と語る。

 ハイテク業界ではIBMのメインフレームからPCの登場というように、10年ごとに従来の流れを変える大きなパラダイムシフトが起こっており、次の動きを待ち構えていた時だったという。同氏は1994年、インターネットがPCに代わる新たなプラットフォームであると確信し、インターネット企業に対象を絞りコンサルティングを行なう部門「MSI Internet Strategy Practice」を開設。E*Trade、Yahoo!、Exciteなどを担当した。同氏は「大学を卒業してすぐにインターネットの最前線を見ることができた。Yahoo!は現在、700億ドル規模の大手企業だが、当時は社員が17人しかいない無名の会社だった。市場価値は3億ドルだったが、それでも過剰評価されていると考えられていたんだ」と笑いながら語る。

 そのうち、同氏の友人が次々にインターネットの新興企業を設立した。そこで、これらの新興企業に投資してキャピタルゲインを得ると同時に、そこで働いて企業の運営方法を実際に学んでみようと考え、Activate.netやMobShopで働いた。同氏は「コンサルティングは知的な満足感はあるが、生み出すものはすべて調査報告書であり、実際に自分達でビジネスを興すことはない。そこで、自分で企業を設立してみたかった」と語る。

 同氏は、IEの元開発者であるRamesh Parameswaran氏、Digvijay Chauhan氏とともに1999年8月にAskMe.comを設立。Parameswaran氏とともに共同CEOとして、パートナー企業との提携、資本集めなどのビジネス開発を受け持つ。Chauhan氏はCTOとして開発チームを率いている。現在31歳のShekawat氏は、最後にプログラムを書いたのは大学時代で、もっぱらビジネス開発や企業運営に専念している。Parameswaran氏は、MITやハーバード大学に優るとも劣らないインドの工業大学、IIT(Indian Institute of Technology)の卒業生。米国のインターネット企業の多くはIIT出身者を多数採用している。



●P2P企業としてのトップを目指す

Dinner
夕食のケータリングサービス。
社員は毎日、休憩室で夕食が
ご馳走される
 AskMe.comは企業設立してわずか3日後に最初の投資ラウンドの400万ドルを受け取り、今年2月にはシアトル本社のGo2Netから1,000万ドルの投資を受け、共同ブランドによるAskMe Networkの開発を行なう提携を結んでいる。次の投資の後は、IPOを目指すという。Shekawat氏は「現在、IPOに関しての準備を進めており、来年の第1四半期、企業設立から1年半でIPOを行なうことを目標にしている」と語る。

 日本市場に関しては、数社と話し合いはしているがまだ決定しておらず、現在パートナー企業を探している段階だという。同社の取締役員には、日系アメリカ人のスコット・オキ氏がいることもあり、日本市場に対する理解は深い。同氏は、Microsoftの元幹部であり、現在ではシアトルの日系人コミュニティなどで日米間をつなぐ人物として有名だ。

 Shekawat氏は「我々は、成功する企業はYahoo!にしてもInktomiにしてもインフラ企業だと思っている。eBayもP2Pオークションのインフラ企業だ。我々はP2Pナレッジシェアリングのインフラ企業としてのトップの地位を確立する」と自信を見せる。

(2000/8/10)

[Reported by HIROKO NAGANO, Seattle]


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