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【連載】

シアトル発インターネットビジネス最前線 第5回

イメージライブラリー企業:Getty Images
─7,000万の画像を保有する業界最大手のネット戦略とは?─

http://www.gettyimages.com/

 米国では、“シリコンバレー”や“シリコンアレー”だけではなく、インターネット企業が集積したハイテク地区が次々と登場しています。IntelやFujitsuなどの工場があるオレゴン州北部のポートランド周辺と、MicrosoftやAmazon.comが本社を構えるワシントン州西部のシアトルやレドモンド周辺もまた、“シリコンフォレスト”と呼ばれ、インターネット企業の集積地になりつつあります。この連載では、シリコンフォレストから登場する注目の企業を紹介していきます。(本連載は隔週木曜日に掲載します。記事一覧はこちら


Entrance
Getty Imagesのオフィス入り口。Adobe
Systemsの隣のオフィスパークに位置し
ている
 ビジネスのやり方を大きく変えるネットビジネスの波がどの業界にも押し寄せているが、写真やグラフィクスを広告代理店や出版社にライセンス提供するイメージライブラリー業界もその例外ではない。広告デザイナーやエディターは従来、何冊ものカタログ写真集の中から数千、数万の画像を一つずつ確認して、広告や記事の内容とぴったり合うイメージを探し出し、気に入った画像を注文するという煩雑で時間とコストのかかるプロセスを経る必要があった。

 これらの分厚いカタログをオンライン化し、キーワード検索でイメージを探し出せるようにしてダウンロード販売することで、プロセスを大幅に効率化した企業が、Getty Imagesである。Mark Getty氏とJonathan Klein氏により英国で1995年に設立された同社は、7,000万の画像と3万時間におよぶビデオコンテンツを含んだ最大のイメージライブラリーをコンシューマー市場とビジネス市場の双方に提供している。

 同社は1999年7月から本社をシアトルに移転、5年間で24社の競合他社を買収して、Bill Gates氏のCorbisを抜いて業界最大手に躍り出た。現在、社員3,000名と35万社の顧客を抱え、世界50カ国にビジネスを展開している。同社設立者の一人、Jonathan Klein CEOに、同社のビジネスモデルや今後の戦略を尋ねてみた。



●イメージライブラリーポータル「Gettyone.com」

Jonathan Klein
Jonathan Klein CEO
 Getty ImagesのJonathan Klein CEOは「我々が1996年7月にNASDAQでIPOを果たした時、企業趣意書に“インターネット”という言葉は一回も登場しなかった。Getty Imagesはビジュアルコンテンツ企業として上場し、当時、ECによる売上はゼロだった。しかし現在、ECによる売上は全体の30%に達しており、今後5年以内にこの数字は100%になるだろう」と語る。

 同社は、オンライン戦略の中核を占めるイメージライブラリーのポータルサイト「Gettyone.com」を2000年1月に開設し、現在120万種類のイメージを広告業界向けにオンライン販売している。ユーザーは、キーワード検索でイメージを探し出し、気に入ったイメージをダウンロードして購入することができる。同氏は「我々の提供している7,000万のイメージの中で、オンラインで提供されているのは120万種類と言うと、少ないと思うかもしれない。しかし、我々の売上の80%は、全体の0.7%にあたる50万種類のイメージから来ているのだ。こうした違いを見極めることが重要である。たとえば、写真家が日本に行って富士山の写真を100枚撮って来たとしよう。我々がデジタル化するのは、その中で最も優れた3枚の写真のみだ」と語る。サイトは現在、100万人の登録ユーザーを抱えている。

 同氏は、イメージやビデオなどのコンテンツのオンライン販売は、ブロードバンドの時代が到来するとともに、最も有望な分野になると見込んでいる。「Amazon.comは、ユーザー側にとっては簡単にモノが買えるという意味で確かに便利だが、企業にとっては倉庫や工場、商品の配達員が必要であり、その流通モデルは変化していない。Amazon.comが5万件のアイテムを増やす場合は50万平方フィートの倉庫をネバダ州に建設する必要があるが、我々の場合必要になるのはサーバースペースのみだ」と語る。

 Getty Imagesでは、イメージの保管やサービス提供にかかる全体コストをオンライン化により大幅に縮小している。従来、イメージの保管は1枚につき年間200ドルがかかっていたが、デジタル化して保管するためのコストはその4分の1以下の45ドルで済むようになったという。イメージは、48MBの高解像度ファイルやサムネールなどの数種類のファイルにして保存され、キーワード検索を可能にするインデックス化が行なわれる。



●10億ドルをかけた買収劇で最大手に

ScannRoom
イメージをデジタル化するスキャン室。
室内は色彩調整を行うために薄暗い
 Getty Imagesは、買収による質の高いコンテンツの獲得、イメージのデジタル化、そしてイメージのオンライン販売という3段階のビジネスプランにより、業界最大手の地位を不動のものにした。同社はこの5年間で、約10億ドルをかけてStone、The Image Bankなどの競合企業24社を買収し、写真、イラストレーション、アートプリントなどの画像、オーディオ、ビデオの巨大なコレクションを手に入れた。

 これらの企業はそれぞれに異なるビジネスモデルと顧客を持ち、個々のブランドを確立しているため、Getty Imagesはそれらのブランド名を残してサービスを提供している。同社は、これらブランドをまとめる親会社のような存在であり、4種類の市場セグメントにブランドを分類して提供している。

 まず、同社の売上の80%を占める広告/デザイン業界向けの「Gettyone.com」ではStone、The Image Bank、FPG、PhotoDiscを含めた12種類のブランド、報道/出版業界向けの「Gettysource」ではAllsport、Hulton Gettyなどの7種類のブランド、SOHO市場やビジネスユーザー向けの「Gettyworks」ではEyeWireとPowerPics、コンシューマー市場向けにはArt.comといったブランドを提供している。ただし、無料コンテンツに慣れ親しんでいるコンシューマー市場では、高価なアートのオンライン販売は難しいという。ギャラリーで絵画を購入するという楽しい体験がない上、色調の違いなどの懸念が大きいからだ。現在、コンシューマー市場が全体で占める割合は約3%に過ぎない。

 同社は、業界3位のKodakのThe Image Bankを1999年11月に、業界2位のVisual Communications Group(VCG)を2000年3月に買収したことで、イメージライブラリー市場の最大手に躍り出た。これにより、今後はBill Gates氏のCorbisとの激しい競争が予測されるが、Klein氏は「Bill Gatesはお金を必要としていないので、買収はムリだ」とジョークを飛ばす。同社は、Corbisとの大きな違いを「彼らは技術的には強いが、イメージライブラリー業界での長年のノウハウは持っていない」と語る。

 たとえば、Getty Imagesではイメージをデジタル化する際に、明度とモニターの色調設定をファイルのメタタグに埋め込むことにより、ユーザーがイメージを購入する際に正確な色調を確認できるといったきめ細かなサービスを提供している。また、写真のオブジェクトの背景を透明にすることにより、ユーザーのイメージにそのオブジェクトを組み込むことができるといったオプションも提供している。



●92ページの価格表を1ページにまとめる

Gettyone.com
Gettyone.comで富士山の写真を選んだ
ところ。ユーザーはサイトを通して使用
目的や解像度など12項目の質問に答える
だけで、自動的に価格を算出できる
 Getty Imagesの価格体系は、それぞれのブランドごとに異なっている。まず、一番多いのが独占ライセンス契約だ。顧客は「本の表紙」など特定の目的で使用することを条件に、一定期間だけイメージをライセンス契約し、その期間は他社がそのイメージを使用することはできない。価格は、イメージの種類や解像度などで異なり、数十ドルから数千ドルまで。次に、独占契約ではない代わりに使用上の目的を制限されないタイプのライセンス契約で、価格は50ドルから180ドル前後。

 ECサイトを導入する以前は、同社スタッフが92ページにおよぶ細かい価格表を見ながら価格をマニュアルで計算していたという。しかしこの方式では、契約を急ぐために不必要な割引や、値上げが行なわれることもあり、顧客の不信感を招くケースも多かった。その一例として、今までで最も高く販売されたイメージが、1996年に煙草会社にライセンスされた「水滴」の写真で、6万3,000ドルだったという。この写真はヨーロッパで煙草のパッケージやビルボード、雑誌やTV広告などに使用された。

 同社はその後、92ページの価格マニュアルを1ページのウェブサイトに変えた。これにより、ユーザーはサイトを通して使用目的や解像度など12項目の質問に答えるだけで、自動的に価格を算出できるようになった。この明確な売上モデルの導入により、Stoneの売上は業界成長率8%を大きく超えた30%を達成したという。また、あるイメージがライセンスされた後は、データベースが即時更新され、他のユーザーが同じイメージをライセンスできなくなる。

 新聞や雑誌向けには、特定のブランドのどの写真を使ってもいいという購読サービスを提供している。サービス料金は、使用する写真の種類や点数により変わってくる。たとえば、大学のフットボールチーム向けの機関誌ならば、使用する写真点数はさほど多くないので年間数千ドル、写真を多用する「Sports Illustlated」などの大手雑誌は年間で20万~30万ドルといった具合だ。Sports Illustlatedは、同誌で使用している写真の3分の1をGetty Imagesからライセンスしている。



●Idea Bank~草の根でアイデア発掘!

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オフィスの廊下には、同社の所有する
写真が飾られている
 Getty Imagesでは、新たなビジネスのアイデアを得るために、スタッフ10人から構成される「Idea Bank Committee」という委員会を毎月開いている。ここでは、社員3,000名から送られたさまざまなアイデアについて討論し、いいアイデアをビジネスに採り入れる。毎月60~80件のアイデアが寄せられ、その中には顧客が自分の好きなイメージをウェブで選んで、それらを集めたカスタムCDを作成するという、現在では同社のビジネスの一部になっているものもある。

 社員一人一人のアイデアを大事にする同社は、単なるイメージライブラリーに留まらない、さまざまな付加価値サービスを提供している。Klein氏は「我々は、我々の顧客がイメージの使用と同時に求めるものをすべて提供している。Gettyone.comは現在、フォントタイプ、AdobeやMacromediaのグラフィックソフト、オーディオやビデオ、市場リサーチ、さらにはCorbisなど競合他社の写真ライブラリーまでを提供している」と語る。

 オーディオファイルに関しては、同社は1999年11月、120社以上のレコードレーベルの60万件におよぶ楽曲ファイルを提供しているLicenseMusicに投資している。また、ビデオに関しては、The Image Bank FilmおよびEnergy Filmで歴史的なビデオを3万時間にわたり提供している。ビデオは現在のところ、ストリーミングでサイトから見られるが、購入はオフラインになる。

 さらに、もうじき始まるシドニーオリンピックでは36人の公式写真家を送って、ゲームの写真をウェブサイトから15分以内に提供する予定。このサービスには、たとえば、水泳競技の担当者には水泳競技の写真をトップページに持ってくるというように、それぞれの分野の担当者にパーソナリライズされたコンテンツを提供する。また、ある選手が記録を更新した際、それと同時に昔の記録更新の歴史的イメージや当時の記録データなども同時に提供するという。



●業界全体を大きく変えるビジネスを模索

Poster
StoneやPhotoDiscなど同社ブランドの
ポスターが壁一面に貼られている
 Klein氏はもともと南アフリカ出身だ。英国に17歳のときに引っ越して以来、1999年7月にシアトルに引っ越すまでロンドンに住んでいた。1983年から1993年まで働いていたインベストメントバンクのHambros Bank Limitedでは、主にメディア/コンテンツ/知的所有権ビジネスに関わっていた。同氏は当時から、自分で企業を設立したいと思っており「業界全体を大きく変えるような、話題になるビジネスを興したかった」と語る。

 その後、「100年以上まったく変化していない写真業界は、デジタル化の波により、大きく変化することになる」と考えた同氏は、当時の同僚のMark Getty氏とともに1993年、Getty Investments LLCを設立、1995年にはStoneを買収してイメージライブラリー市場に参入した。ちなみに、Getty氏の祖父は、1954年に7億5,000万ドルを寄贈してカリフォルニア州にJ. Paul Getty Museumを設立した有名な石油王のJ. Paul Getty(1892~1976)氏である。Getty氏は現在、ロンドンのオフィスを運営している。

 シアトルにオフィスを移転した理由は、インターネットの中心地が米国だったことと、同社の顧客の半分が米国にいたことから決定したという。同氏は「ハンドヘルドデバイスと携帯電話に関しては日本とヨーロッパが進んでいるが、インターネット技術に関してはシリコンバレーとシアトルが最高峰だ。現在は変わりつつあるものの、当時の英国はインターネットが生活の一部として定着していなかった。ここでは、生活の隅々にまでインターネットが浸透している」と語る。



●今年はオンライン売上1億ドルを目指す

 Getty Imagesは現在、多くの顧客からの依頼を受けて、ASPベースのデジタル資産管理サービスを提供するためにウェブアプリケーションの開発を行なっている。デジタル資産管理とは、管理に手間がかかる企業ロゴや写真、ブランドマニュアルなどの多数のビジュアル資産をデジタル化することにより、自社の知的財産を一括管理することである。多くの企業では、自社で使用するコンテンツが一括管理されておらず、同じイメージをGetty Imagesで奪い合っていることもあるという。同社は、自社のデジタル資産管理のノウハウを生かしたASPサービスにより、これらの問題を解決するとしている。サービス開始は来年を予定している。

 また、同社は1999年11月、ソフトバンクとの日本ベンチャー、ゲッティ・イメージズ株式会社を立ち上げたが、現在のところ同ベンチャーは本格的なビジネス展開を行なってはいないという。同氏は「ソフトバンクの強みはネットビジネスであり、オフラインでのビジネス展開は難しい。我々の関係は良好だが、同ベンチャーに関してはおそらく進展はないだろう」と語る。現在、日本市場に関しての本格的な参入は未定とのこと。

 同社の1999年の年間売上は2億4,780万ドルで、そのうちECによる売上は6,790万ドルであるのに対して、2000年は第1四半期だけで売上は1億480万ドルを達成、そのうちECによる売上は全体の30%の3,150万ドルにまで伸びている。同社は、今年のECによる売上は1億ドルを超えると予測する。将来的な展望として、同氏は「5年以内に、すべてのビジネスをオンライン化する。北米では3年以内にオンライン化を実現させる」と自信を見せた。

(2000/9/7)

[Reported by HIROKO NAGANO, Seattle]


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