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米国では、“シリコンバレー”や“シリコンアレー”だけではなく、インターネット企業が集積したハイテク地区が次々と登場しています。IntelやFujitsuなどの工場があるオレゴン州北部のポートランド周辺と、MicrosoftやAmazon.comが本社を構えるワシントン州西部のシアトルやレドモンド周辺もまた、“シリコンフォレスト”と呼ばれ、インターネット企業の集積地になりつつあります。この連載では、シリコンフォレストから登場する注目の企業を紹介していきます。(本連載は隔週木曜日に掲載します。記事一覧はこちら)
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Aventailの創設者、Evan Kaplan社長兼CEO |
エクストラネット向けの技術インフラをアウトソーシング提供することで、これらの企業に低コストで短期間にアプリケーションを共有できるサービスを提供しているのが、シアトルに本社を構えるAventailである。1996年2月にEvan Kaplan社長兼CEOとChris Hopen CTOにより設立された同社は、もともとセキュリティソフトの開発を行なっており、同社のソフトはAT&T、Eastman Kodak、Hewlett-Packard、Sun Microsystemsなどの大手企業を含む300社以上の企業に利用されている。同社は、この技術インフラをベースにして、毎月のサービス料金を請求するエクストラネットサービス「Aventail.Net」を提供している。
エクストラネットのアウトソーシングは比較的新しい分野で、調査会社のMeta Groupでは「エクストラネットサービスプロバイダー(ESP)」、Forrester Researchでは「eXsourcer」と呼んでいるが、ForresterではB2Bマーケットプレイス市場が2003年までには1.3兆ドルに膨れ上がると予測している。今年2月に4,800万ドルの投資を受け、急速に規模を拡大しているAventailのEvan Kaplan社長兼CEOに、同社のビジネスモデルや今後の戦略を尋ねてみた。
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Aventailのホームページ(http://www.aventail.com/) |
同社のアウトソーシングサービス「Aventail.Net」は、企業が使用しているSAPやERP、または独自のアプリケーションに、顧客やビジネスパートナー、サプライヤー、取引提携先などが安全にアクセスできるエクストラネット構築を提供している。
同氏によると、数年後には、企業ネットワークにアクセスして情報やアプリケーションを利用するユーザーの95%までが社員以外の人々になり、エクストラネットの重要性は一層高まるという。しかし、アプリケーションに安全にアクセスできる強力なセキュリティ機能、新規ユーザーの設定をサポートするディレクトリ機能、複数のアプリケーションを統合するネットワーク技術など複雑な要素が組み合わさるため、企業のエクストラネットの導入には平均で1年以上がかかり、急速に変化するEビジネスの環境に対応できていない。
Aventail.Netは、エクストラネットに必要なセキュリティ、ディレクトリ、ネットワーク技術の導入プロセスを単純化することで、安全でスケーラブルなシステムの構築を低コストでしかも短期間に実現する。Kaplan氏は「我々は、SAPやSiebel、Oracleデータベース、販売注文ソフト、社内システム、そしてオーディオ/ビデオアプリケーションなど、企業のどんなアプリケーションでも、10週間でエクストラネットに対応させることができる」と語る。
具体的には、まずエクストラネットで使用されるアプリケーションと、顧客や提携企業、サプライヤーなどを把握し、次に小規模なエクストラネットを導入してテストを行なう。スケーラビリティやROI(Return On Investment)の分析を行なってから、ユーザー認証やルール決定、LDAPやデジタル認証の統合など、全体的なサービス導入を行なう。その後、アプリケーションの使用テストを再度行ない、テストに合格したらエクストラネットのユーザーに必要なツールをオンライン上で顧客や提携企業、サプライヤーなどに提供する。
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Chris Dukelow販売部門副社長 |
同社は、ハードウェアおよびソフトウェアのコストを一切請求せずに、最初の設定料金と毎月のサービス料金を請求しており、設定料金は10万ドル前後、毎月のサービス料金は5,000ユーザーで1人当たり30ドルである。
Aventailは、VPNプロトコルとしてIETFの標準規格「SOCKS V5」を採用している。SOCKS V5は、企業間で異なる種類のファイアウォールやVPNデバイスを使用してもデータ通信ができるため、大規模なエクストラネットのインフラとして適している。一方で、IPSecは企業イントラネットにモバイル機器からアクセスするなどの企業内ネットワークには適しているが、企業間のデータ通信ではプライベートIPアドレスの重複などの問題が残っており、高度なカスタマイズが必要になる。
企業のオフィスに設置されるハードウェアはSunのSPARC、F5 Networksのロードバランス機器「BIG/ip」、Ciscoのスイッチ機器であり、これらのハードウェアはリアルタイムでシアトルにあるデータセンターに接続されて管理される。インストールされるソフトウェアは、システムの中核部分を占める同社の独自技術による「ExtraNet Center」、IBMのディレクトリサーバー「SecureWay Directory Server」、デジタル認証サービスの「VeriSign OnSite」、RSA Securityの「SecurID」などで、同社はこの他にもトラフィック管理企業のInterNAPや、IBM Global Services、Hewlett-Packard、PricewaterhouseCoopers、iPlanetなどと戦略提携を結び、顧客のニーズに応じたサービスを提供している。
同社はまた、ユーザー認証の追加や変更を行なえるポータルサイトをはじめ、エクストラネットユーザーへの24時間体制のサポート提供、リモート管理など、システム管理者の時間とコストを節約できる機能を多数提供している。
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打ち合わせをするスタッフ |
同社は1999年11月に大きく方向転換し、ソフトウェアの販売モデルから、サービスベースの「Aventail.Net」に移行することを発表した。方向転換の理由は、顧客の導入時間と技術サポートを簡単にするためであり、顧客からのニーズもあったという。同氏は「我々にとってはより多くのサポートスタッフを雇う必要があるので出費になるが、顧客側にしてみれば、ソフトをインストールして他のシステムと統合するのは多大な時間とコストを要する複雑なプロセスなので、サービスモデルを求めていた」と語る。
Aventailは、アプリケーションを貸し出してサービス料金を請求するASPと類似しているが、ウェブアプリケーションの開発やホスティングは一切行なっていない。同氏は「我々は、CorioやUSInternetworkingのようなASP企業ではない。ほとんどの企業は、基幹業務アプリケーションを社内で管理しているので、我々が管理する必要はないと考えている。多くの企業が求めているのは、これらのアプリケーションに提携パートナーが安全にアクセスできるような企業間ネットワークのインフラだ。我々は、こうした技術インフラを提供している」と語る。
また、B2Bエクスチェンジとの違いに関しては、「B2Bエクスチェンジは取引を行なうのが主な目的だが、我々が提供するシステムでは取引は機能の一部であり、その他にもコラボレーション、データ交換など幅広い機能を提供する」と語る。例えば、保険会社が独立系のエージェントに対して売上データベースへのアクセスを提供したり、メーカー数社が製品を共同デザインする場合や、医療機関が医師、患者、保険会社と情報を共有する場合など、1社が多くのパートナーに対してネットベースでサービスを提供する時に必要になる。
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Esther Shin広報担当(左)とChris Dukelow販売部門副社長 |
Aventail.Netを採用したウェブコンサルティング企業のC-Bridgeは、短期間にエクストラネットを立ち上げることができ、大幅な時間とコストの節約を果たしたという。同社は、顧客企業のデータベースにアクセスできず、そのため画像を郵送したり、ファックスや電話で情報をやり取りすることが多く、非効率なプロセスによりプロジェクトが長期化するという問題を抱えていた。
しかし、Aventail.Netを使うことにより、C-Bridgeのプロジェクトチームと顧客はネットに接続できる環境ならどこからでもエクストラネットにアクセスでき、プロジェクトの更新事項を確認することができる。これにより、企業間のデータ通信が効率化され、無駄な時間が削減された。また、同社のシステム管理者は、エクストラネットのサポートをAventailに任せることにより、自社の主要ビジネスに集中することができるようになったという。
Aventailは1999年2月、Trinity Ventures、Hewlett-Packard、PS Capital、業界有力者から合計800万の投資、今年2月にはPivotal Asset Management、Morgan Stanley Dean Witter & Co、Fidelity Ventures、XMLFund、Madrona Venture Group、InterNAP Network Services、VeriSignなどから合計4,800万ドルの投資を受けている。エンジェル投資家には、CyberCashの設立者であるDan Lynch氏、Exodus CommunicationsとJamcrackerの設立者K.B.Chandrashekar氏、DataChannel設立者のDave Pool氏、元Microsoft幹部のGary Gigot氏などが名を連ねている。
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オフィス風景。古い工場があったスペースを借り、天井の電気などもそのまま使っている |
同氏は同社でプロジェクトマネージャーを担当、テクノロジーを学びながら休日には登山を続け、ペルーやヒマラヤにも挑戦したという。1989年にワシントン大学でEMBA(Executive MBA)を終了した後は、エベレスト近辺の山にも登った。
1990年代に入ると航空業界は落ち込みを見せ、同氏は急成長中のソフトウェア業界に入った。企業向けソフト会社のWRQで5年間働いた後、Chris Hopen氏と共に資金を出し合って企業を共同設立することを決心した。「最初は私のリビングルームでビジネスを始めた。少数のエンジニアと共にシステムを設計し、5~6カ月かけて最初のプロトタイプを完成させた。その後、75万ドルを獲得、ソフトを販売するため少人数のスタッフを雇い、1年後には200万ドルの投資を獲得してシアトルにオフィスを構えることができた。我々は、最初にTCP/IPを使用して企業システムを構築した企業の1社であり、当時はNECのプロキシーサーバーなどを構築していた」と語る。
同氏に社名の意味を尋ねると、興味深いエピソードを教えてくれた。「まだ社名がなかった頃、投資を集めるための東海岸への旅で、投資家達にアピールする社名を考えていた。機内の人々にもアイデアを募ったら、12歳の少年が“Aventail”と言った。少年は、ビデオゲームの『Lemmings』でプレイヤーがレベルを飛び越える裏コードとしてその言葉を知っていたのだが、もっとよく調べてみると、それは14世紀のフランスで喉を守る鎧のことを示していた。そこで、セキュリティを保護する企業に最適だと思った」。
また、その少年の父親は、1997年に出版され米国でベストセラーになった「Memoir of Geisha」の著者だったという。同氏は「少年の父親は当時、まだ本を出版していなかった。その後も彼らとコンタクトを取っていたのだが、ある日、父親から出版された著書が届いた。とてもいい本で、私が最初に日本に行ったときには、この本を丁度読み終えた時だったので、非常に興味深い旅になった」と語る。
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シアトルのダウンタウンにあるオフィス入り口 |
Aventailは、こうした追い風に乗り、国際市場への進出を積極的に行なっている。Kaplan氏は「我々は、国際部門を設置して市場開拓を始めたところだ。ヨーロッパ市場では支社を開設しており、日本市場へは6カ月以内に参入を考えている」と語る。
最近の株式市場の低迷に関して、同氏は「我々は、最近のドットコム企業の落ち込みにほとんど影響を受けていない。それは、我々のターゲットの大部分がドットコムではなく大手企業だからだ」と自信のほどを見せる。現在、ドットコム企業のレイオフが話題になっているが、それでも優秀な人材を採用するのは困難であるという。
最後に、将来的な展望として同氏は「我々は5年以内に、大手企業にエクストラネットサービスを提供する企業として優位な位置につき、ASPなどのサービスと提携することで多種多様なサービスを提供して、再販パートナーも増やし、顧客ディレクトリの管理をさらに強化する」と語った。
(2000/12/14)
[Reported by HIROKO NAGANO, Seattle]