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IBMの「Deep Blue」、勝利の人気でひっぱりだこ (97/05/21)

テレビ画面は、San Antonio「Spurs」のDavid Robinsonを映し出す。巧みなドリブルでフープにアプローチをかけるRobinsonのアップの横、シュートを拒む何やら黒い壁がちらつく。そして、カメラはバスケットボールコートの全貌を映し出す。Robinsonと黒い物体の1 on 1。スコアボードには「Deep Blue」の名が…。

こんな具合にIBMのテレビコマーシャルの最新作は、Deep Blueをタレントとして採用。なかなかの仕上がりだ。

チェス世界チャンピオンGarry KasparovとIBMのコンピュータ「DeepBlue」の対戦が行われたのは、5月3日~11日のこと。昨年行なわれた初の対戦では、Kasparovが圧勝をおさめ、単純計算では太刀打ちできないKasparovの人間的な勝負の美学が世に知れわたった。しかし今年の対戦では、DeepBlueの読みはその美学をも計算要素として取り入れ、ゲームは緊迫の極限に達した。

タイスコアで迎えた最終日、疲れ切ったKasparovはなんと途中で負けを認め、Deep Blueの予想外の勝利となった。これまでトーナメントでは無敗を誇ってきたKasparovの落ち込み切った表情は、全米のテレビニュースで幾度となく放送され、「人類の危機到来」「コンピュータが人間を上回る時代が来たのか?」というような見出しがしつこいくらいに踊った。

「人類の危機到来論争」はさておき、とにかくDeep Blueは現在最もホットな存在であることは間違いない。今まで固いイメージで扱われていたIBMにとっては、画期的な新しいキャラクターの誕生だ。さらに、今こそDeep Blueへの挑戦の時、とばかりに名士(Grandmaster)たちが続々と挑戦状を叩き付けているという。中でも女性世界チャンピオンのSusan Polgarは、「女性の直感はコンピュータにも計算できないはず」と自信満々。IBMのDeep Blueチームは物言わぬ本人のため、スケジュール調整に忙しいとか。

敗北直後、もう立ち直れないのではないかとファンが心配するほどの落胆ぶりだったKasparov。さすがは世界チャンピオン、たくましい精神力で早くも復帰、こちらも再度挑戦状を叩き付けている。今年中に実現させたい再対戦の条件は、「あくまでも人間的なゲーム」。対戦前にDeep Blueと他の名士の試合を観戦させること、ゲームの間の休憩をたっぷりとらせることなど、敗北時の憤慨要因を列挙している。さらに、前回のように賞金の配分制(敗者のKasparovも対戦費として40万ドル受け取っている)などはやめて、「all or nothing」の勝者総取りを提案。ゲーム士のプライドを全面に出した挑戦となる模様。

これらの対戦は、今まで通りIBMのChessサイトInternet Chess Clubでリアルタイム観戦できるものと予想される。Computer vs. Human on Internet…。なぜか私は「人類の危機到来論争」よりも、そんなところでエキサイトしてしまう。

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