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インターネットに刻まれる、カンボジアの大量虐殺「Killing Field」の記録 (97/06/23)

 英国映画「The Killing Field」を見たあとの絶望感は、今でも忘れることができない。この映画は、ベトナム戦争末期とカンボジアの大量虐殺の模様を、New York Timesの記者Sidney Schanbergの目を通して綴った、実話を元にした作品だ。報道されなかった歴史の細部を記録する大作として、数々の映画賞を受賞している。中心人物として描かれているのは、自分を犠牲にしてSchanbergの通訳を行なうカンボジア人Dith Pran。彼の存在は、独裁政権下で困惑するカンボジア人犠牲者の象徴として、見る人の心に焼き付いた。

 ポル・ポト率いるKhmer Rouge政権下の75年から79年までの4年間、200万人のカンボジア人が、拷問や過度の労働、飢餓などで死亡した。国民5人に1人の割合だ。Khmer Rouge政権活動に参加しないものは、年齢性別にかかわらず犠牲者となった。自分の家族を失い、現在写真報道家としてアメリカに住むDith Pran氏は、テレビ番組「The Site」のインタビューに答えていた。

 「自国の同胞を、それも子供、女性、老人まで無差別に殺すことができたKhmer Rouge政権の心理は、理解を超えるもの。公の審判の場で責任者たちからその理由を聞くこと、そして正しい判決が下されることからしか、虐殺の記憶を持った者の傷は癒えることはないだろう。」

 未だにその答えを聞くことができないカンボジア人たちに代わって、インターネット上で様々な活動が行なわれている。

 アメリカ政府が出資するYale大学の「The Cambodian Genocide Program」は、虐殺の記録をカンボジア外の安全圏に保管するという使命を得て、膨大な資料アーカイブを構築している。Khmer Rouge政権や人権法に関する情報は元より、オーストラリアのNew South Wales大学との協力で作成されたデータベースには、虐殺に関する文書、Khmer Rougeメンバー名簿、犠牲者名簿など、細部に渡る資料が保存・更新されている。中でも、Tuol Sleng刑務所で処刑される前に撮影された犠牲者の写真データベースは衝撃的。「身元不明」の文字とともに表示される写真の数々は、淡々とその瞬間の残虐さを訴えている。アメリカ在住のカンボジア人の中には、このデータベースで知人を探し当てることができた人もいるという。将来カンボジアでインターネットが普及した際には、さらに多くの「身元不明者」がリストに書き加えられることだろう。

 カリフォルニア州立大学ロングビーチ校がバックボーンとなり、在米カンボジア人のボランティア活動で構築されている「The Digital Archive Of Cambodian Holocaust Survivors」の活動も注目される。当初「革命軍」として歓迎されたKhmer Rouge軍を迎える市民の笑顔が、ページを繰るごとに悲劇の記録となる写真集は、直観的に虐殺の全体を理解するのに役立つ。体験者の書き込みによる「Survivors Stories」からは一人一人の叫びが聞こえてくるようだ。

 Microsoftの海外探訪サイト「Mungo Park」では、「Flash Back To Vietnam」と題して30年後のベトナムとカンボジア再訪の旅を報道中。当時ジャーナリストとして惨事を目撃したRobert Scheerが、過去の記憶を意識しながら綴る日記が、写真や音声ファイルと共に毎日アップデートされている。

 インターネット上のイベントとしても大きな行事。これによって、忘れられつつある当時への関心が高まることが期待される。

 折しも6月17日、Reuterが報じるところによると、現カンボジア政府はポル・ポトを主犯とした大量虐殺責任者たちの審判を、国連の力を借りて行なう決断を下したようだ。こうしたインターネット上での数々の情報が、正しい審判を導く助けとなることを祈らずにはいられない。

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