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Kai Krauseのインターネット論 (98/01/12)

1月7日のコラム「年頭の決心、今年は『社会のための』サイトを作るぞ!」に対して、多くの読者の方から同感のお便りをいただき、大変嬉しく思った。「インターネットの目的は何か」という基本的な課題を自分に問いなおすためにも、とても良い機会となった。そんな中、それに拍車をかけるように先駆者の前向きなインターネット論に接することができた。

斬新なグラフィックソフトの制作で有名なMetaTools社のKai Krause。先週開催されたMACWORLD Expoの基調講演でのことだ。時間が大幅に延びたSteve Jobsの講演の直後、さらに予定していた参加者が集まらなかったこともあって、講演自体は大変地味なものであった。が、常に人の才能の延長としてコンピュータやインターネットをとらえているKrauseの熱弁には、やはり引き込まれるものがあった。

Peter Gabrielが提唱している『Witness』を覚えているかい?」。このWitnessとは1992年に設立された世界人権保護団体。Peter Gabrielが代弁者となり、その活動はCD-ROM「Xplore」にも収録されている。独裁政権の下では他国に知られることなく人権や命を奪われている人々が大勢いるが、実態が判らなければ保護団体も動きようがない。しかし、もし拷問や虐殺の現場をカメラやビデオに収めることができれば、それが動かぬ証拠となり世界に報道することができる。実写記録には国家のどんな弁明をも覆えせない力がある。そんな第三世界にできるだけ情報記録機器を送って、世界中に多くの目撃者を作ろうというのがこの団体の活動だ。「今みんなが持っているような小型デジタルビデオを使えば、この活動はもっと簡単になる」。全くその通りだと感じた。

そんな話に刺激され、会場からも発言が起こる。「今アフリカにどのくらいインターネットが普及していると思いますか?」。たどたどしい英語を話す発言者は、おそらくヨーロッパからの参加者。ダイレクトな質問にKrauseは一瞬面喰らうが、発言者は続ける。「私が訪れた都市では、インターネットどころか役所に古いタイプライターが1つあっただけでした」。あまりに大きな問題提起に、すぐに結論の出ないKrause。そこに会場の反対側から発言があった。「スウェーデンから来ました。私の知り合いが古いMacを集めてアフリカに送る活動をしています」。降って湧いた思わぬ回答にKrauseもびっくり。この2人は講演終了後にお互いを紹介しあい、問題が一つ前進することになったのだろう。「この会場の人数だけでも、問題の回答を持った人を探すことができる。インターネットではこれがもっと大規模に行なえるんだ」と、持論を実証するような出来事にKrauseも大喜びだった。

「ここで僕の長年のメールフレンドのメリーを紹介するね」。締めくくり近く、客席の前方にスポットが当たった。Krauseは数年前からAOLで独自のチャット活動をしている。大勢の参加者の中から順番に質問者が選ばれるという形式だが、そのほとんどの国籍が違うくらい世界中からの参加があることに今でも感激するという。そんな中で頻繁にメールを交すようになった女性メリー。オンラインに芽生えた恋、と思いきや、なんとメリーは85歳の白髪女性だった。パソコンおばあちゃんと第一線デジタルデザイナーのメールでの会話に思いをはせて、またまたインターネットが好きになってしまった。

ところで、私の年頭の決心は意外にも早く実現しそうだ。ある慈善団体のクリスマスWishListに「Web Site」があったので、電子メールでボランティア希望を出しておいたのだが、新年早々その返事が届いた。貧困や犯罪が大きな問題となっているオークランド地区で小学生に野菜作りを教える「Edible Garden」という団体で、その趣旨も十分賛同できるものだ。まず身近なところから、という気持ちがこんなに早く具現化できるのもまたインターネットの力であると思う。

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