|
「繋ぐ」から「知識の共有」へ、教育のためのコンピュータ (98/01/14)
「我々の世代ができる最も大事なことは子供たちへの教育だ」。これは、Apple Mastersの1人であるDouglas Adams氏がホームページの巻頭で述べている言葉だ。「The Hitch Hiker's Guide to the Galaxy(銀河ヒッチハイク・ガイド)」のベストセラー作家であるとともに、オンラインコミュニティー「The Digital Village」の主要メンバーとして活躍する同氏。未来を探りつくした彼の口から出るこの言葉には、やはり強い説得力がある。コンピュータ技術が目覚ましく進歩する中、それを使う人間のモラルや使い方の是非が折に触れて問われているが、先のMACWORLD Expoでは教育に関した明るい場面にいくつか遭遇することができた。
創立当初から一貫して「教育」を軸のひとつとしているAppleは、Developer Centerの一角を大きく取って「Education」のコーナーを設置していた。購入したコンピュータ機器の収益の1割が地区の学校に寄付されるプログラム「Power Of 10」や、学生用小型ノートパソコン「eMate」など、教育者に的を絞った掛け値なしの製品が目立っていた。
教材用WWWページ作成の「Web Page Construction Kit」もその1つ。「Claris Home Page」「WebPainter」「Kaboom!」などのWWW作成ソフトのパッケージなのだが、分かりやすいオンラインマニュアルと膨大なサンプルライブラリも用意されており、はじめての利用者でもすぐにマルチメディア教材が作れるということを、プロダクトマネージャーのJack Podell氏が熱心に解説してくれた。デモに見入る人々も教師風の人が多く、各々の授業項目をいかにWWW化するか、などの具体的な会話が行なわれていた。Apple製品に限らず、教育関係者にはハードやソフトの割引があるという制度も心強い。
Appleはこのほかにも教育者相互のコミュニケーション活動の支援を行なっているが、中でも各々が作成した教育用Appletなどを共用するプロジェクト「EOE(Educational Object Economy)」などが目を引いた。ネチズンたちの間ではシェアウェアを分かち合うことでソフト文化が育ってきたが、「教育」に的を絞って同様にシェアウェア交換が活性化すれば、コンピュータを使った教育の用途の幅も一層の広がりを見せるはずだ。加えて、EOEではソフトだけでなく教育関連のアイデアや新情報の交換も行なわれていた。「学校にコンピュータを導入する」という段階から、「それらを使って教育者同志が知識を共有する」という段階に入ってきたことを痛切に感じた。
それから、LAMG(Los Angeles Macintosh Group)の店舗マネージャーを勤めたJeffrey君にも出会った。なんと彼は14歳で、今回の最年少Expo出展者。LAMGでは週に1回、インターネットの使用法やプログラムの仕方を子供だけでなく大人にも教えている。夢はやはりBill Gatesのように成功することで、「LAMGに入会してくれたら名前を教えてあげる」と、商売もなかなかうまい。ちょっと気になったのは彼が学校に行かずに自宅で家庭教師や両親から授業を受ける「Home Schooling」で学習しているということ。そんな彼にとって、インターネットはまさに貴重な教材源のはずだ。私にとっては、Jeffrey君のような子供が本当に活用できるインターネットづくり、そしてしっかりとしたモラル教育の早急な必要性を感じる瞬間だった。
Appleの教育プログラムはコンピュータを使った可能性のほんの一例だが、同時に有効な雛型の一つだと思う。プラットフォームや地域性に関わらず、こうした活動が活発に行なわれ、本当に子供に伝えるべき情報がインターネットの多くを占めるような環境が実現できたら…。と、夢見ている余裕も実はなさそう。なにしろ、子供たちは驚異的な吸収力で我々の世代をどんどん追い抜いているのだから。
バックナンバーリストへ戻る