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ネットプライバシー侵害で負傷した海軍将校の将来 (98/02/01)

1月26日、地方裁の判決が下りた海軍将校と海軍の間のネットプライバシー侵害事件。今後の個人情報保護規約改正に大きく影響しそうな今回の事件の経緯を、一般に報道された内容から追ってみたい。

原子力潜水艦USS Chicagoの上級士官Timothy McVeighは、クリスマス前の航海を前に、船員の世話役である民間人に電子メールを送った。クリスマスプレゼントを贈るため、仲間の船員の子供たちの名前と年齢が知りたかったのだ。メールを受け取った世話役は、差出人が明確でないため、送信元であるAOLで送付人のプロフィールを調べた。そこには「Tim」というユーザネームのもとに「軍隊勤務、ゲイ」という自己紹介がされていた。

世話役はこれを軍に報告。海軍の捜査官は身元を明かさずAOLに電話をし、受け取ったファックスの送付人の確認のため「Tim」というユーザーの本名と住所を知らせて欲しいと告げた。これを受けたAOLのあるサポート係は、躊躇なくそれらの情報を与えた。「ゲイ」という自己紹介をしているユーザがMcVeighであると判断した海軍は、彼に「同性愛者であることを公言した」という理由で除隊を勧告した。

この勧告を不当としたMcVeighは、海軍捜査官がElectronic Communication Privacy Act(ECPA)に違反するとして裁判を起こした。ECPAでは政府関係者がオンラインサービス利用者の個人情報を得る場合には、身元を明かすことと条令が必要である。今回の行為は、そのどちらにも違反していると主張した。

審議が進むにつれ、AOLは情報提供に対して「個人情報を公開しない」というポリシーに違反したことを認めた。今回の不正情報提供は人的誤りであり、今後一切起こらないよう措置を取ることを約束した。地方裁はMcVeighの主張を認め、海軍に対して除隊勧告を取り下げるよう命じた。

と、ここまでが事件の経緯だが、McVeighは本当に勝ったのだろうか? 米軍の体制の中では、クリントン大統領が提唱した「Don't ask, don't tell, don't pursue」ポリシーが今のところ同性愛者たちの唯一の拠り所となっている。個人の性志向については、聞かない、言わない、追及しない、という原則だ。それに従ってMcVeighは、勤務中自分の性志向について語ったことはなく、事件中も一貫してそのことには触れていない。しかし今回の事件が起こってすぐに、17年間かけて築いた上級士官職から左遷され、月740ドルの減給となった。裁判では勝っても、今後職場でどのような差別に会うか計り知れない。

McVeighを支持した団体の一つ、Electronic Privacy Information Center(EPIC)では、軍を相手にした今回の勝利は今後のネットプライバシー規約の強化へ大きく貢献するだろうと見ている。McVeighの傷は大きな目的のための一つの犠牲なのかもしれない。

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