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アメリカ人には難しい? 「長野」の発音 (98/02/16)
冬期オリンピックもたけなわ、テレビやラジオの放送での「NOG-gin-noh」と「ナ」に妙なアクセントのある「長野」にもようやく耳慣れしてきたこの頃、Examiner紙で興味深い記事が目に止まった。「聞くに耐えないオリンピック放送」という題で、米国のオリンピック報道での「長野」の発音に抗議する人々のことが書かれていた。
日系3世の映画監督Steven Okazakiは、この「NOG-gin-noh」を聞く度に泣きたくなるという。「番組制作者の中に日系の名前があるのに、彼らは何も言わないのか」という氏が主張するのは、「na-GAH-no」と「ガ」にアクセントがある発音。日系人の間では第2音節を強く発音するこの言い方が「長野」を意味するそうだ。指揮者Kent Naganoの妹Joan Naganoは「こう発音しなければ日系人同士や米国人の間では分からない」と主張している。中にはテレビ局に抗議の電話をした人もいるらしい。純日本人の私としては多少驚きだが、米国で英語を母国語として成り立つ日系人社会の中で確立された「長野」の独特の主張であるようだ。
英語の発音法則では、放っておくとこの「na-GAH-no」になる傾向がある。今までも米国での報道では、3音節の日本の地名や人名は第2音節が強調されて発音されてきたように思う。しかし今回は、「NOG-gin-noh」という日本語の発音に比べると「ナ」が強すぎる言い方ではあるが、それでも第2音節強調ではない発音に落ち着いている。多少でも日本語の発音を意識した気配りなのだろう。
しかし、これでもやはり正確ではないとし、異文化間での通信の正確性を目指す「日米ジャーナリスト協会(AAJA)」は、米国の報道機関に向けて書簡を配布している。オリンピックのような大きな国際行事では、各国文化の尊重が原則。報道での地名などの正しい発音は敬意を表する意味で大事とし、各報道機関が正しい「長野」の発音をするように呼びかけたのだ。書簡の中では、一般報道は「NOG-gin-noh」と発音しがちだが、本当は「Nah-gah-noh」と3音節とも均等に発音するのが正しい、と述べている。実際発音してみると、日本語の「長野」には英語特有のアクセントがないのが分かる。2月2日に配布されたこの書簡に従って、なるべくアクセントなしで発音しようとしている報道陣だが、やはり英語の癖に負けて「NOG-gin-noh」になってしまっているのが現状なのだろうか。
番組に日本領事館員を招いて発音させるラジオ局、社内に徹底通達を出すテレビ局など、発音が未だ徹底されない状態の中、Washington Post紙も面白いことを書いている。「分からない長野の発音」と題した内容には、長野駅のアナウンスでは「NAH-gah-no」と「ナ」を強め、県南部の住民は「Nah-GAH-no」と「ガ」を強め、NHKのアナウンサーは「Nah-Gah-No」と均等に発音する…。一体どれが本当? と、日本の方言の多様性も折混ぜて紹介されている。とりあえず「Nah-Gah-NO」と「ノ」を強めないことだけは確か、という結論だ。
東京や大阪など既に英語的な発音が定着した名前でなかったからこそ、これだけ初心にかえった疑問や解説がなされたのであろう。オリンピックがもたらした米国での日本への理解の思わぬ副産物のようで、純日本人の私としては、何とも嬉しいような、おかしいような…。それにしても「長野」一つでこれだけ論争となるとは、異文化相互理解の道はまだまだ先が長そうだ。
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