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オンラインで見る「ピュリツァー賞」 (98/04/20)

 ほとんど便りのない日本の弟から、ゴトンと大きな封筒が届いた。開けてみると「20世紀の証言 ピュリツァー賞写真展」と題された1冊の分厚い本。添えられた手紙には、東京で大好評を博した写真展に出かけたが、入場2時間半待ちと聞いて諦めたこと、どうしても見たくて写真集を頼んだが、在庫切れで予約のみの受付と言われたことなどが書いてある。報道写真の素晴しさを語りあったことがある弟が、4週間待ちで届いた2冊のうちの1冊を送ってくれたのだ。ページをめくると飛び込んでくる衝撃的な瞬間の数々。米国人の主人も「こんな写真があったのか!」と食い入るように見ていた。

 偶然にもその日、1998年のピュリツァー賞が発表された。ジャーナリズムのアカデミー賞とも言われているこの賞の結果発表を、ジャーナリストたちが社内のテレタイプの前に座って今か今かと待つ…、という時代もあったようだ。しかし、オンラインメディアが普及してからというもの、ジャーナリストはもちろんのこと、一般人でも発表結果をリアルタイムで知ることができるようになったのだ。文学部門で受賞した文学や音楽作品は、受賞後に購入して作品そのものを楽しむことができたが、報道部門受賞作品は過去の新聞記事が対象であるため、これまでは入手が難しかった。ほとんどの新聞媒体がWWWサイトを持つ現在では、それらの現物記事を見ることができ、嬉しい限り。

 この便利さを楽しまずにはいられず、受賞発表後すぐにピュリツァー賞オフィシャルサイトを見た。しかし残念なことに結果が表示されているだけで、受賞新聞社のURLがない。新聞社の名前を頼りに1社ずつ訪ねてみると、どのサイトにも受賞の喜びを表わすスタッフの写真と、該当の受賞記事が掲載されていた。やはりオンライン慣れしている新聞サイトは準備万端だったようだ。オフィシャルサイトにURL集がないのなら自分で作ろうと各サイトをまわるうちに、New York Timesのサイトにたどり着いた。日系人Michiko Kakutaniの評論での受賞を含む3つの賞を受賞したNew York Timesは、自社の記事のみならず受賞記事全部のURLを掲載した特集を組んでいたのだ。発表後ほんの1時間ほどのことで、これには脱帽した。

 昨年、ピュリツァー賞にオンラインメディアを入れるかどうかが問題になったが、ピュリツァー協会では昨年11月、「1999年から公共活動賞に限って選考の対象にする」と発表している。1つの賞だけに限ったのは、オンラインメディアがまだ成長しきっていないことが理由だという。オンラインに力を注ぐ報道関係者からは不満の声もあるが、協会側では保守的な安全策をとったようだ。1917年に創設されたピュリツァー賞に写真が加わったのが1942年。新メディアを取り入れる試行錯誤は、その当時もあったに違いない。前述の写真集を見るような感覚で「ピュリツァー賞デジタル化の歴史」などという特集が組まれるのも、遠い将来ではないのかもしれない。

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