[木曜コラム]
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Network Computerの光と影
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 先日、オラクル社を筆頭に世界のハイテク企業約70社で、500ドルPC--つまり
Network Computer(NC)連合の旗揚げが行われた。
 NC構想については、その背景にマイクロソフト社への対抗意識があることなどが、
すでに各メディアで報じられている。私のまわりでも賛否両論それぞれだが、みんな
新しい話題に熱がこもった論争をしていることは確かだ。そこで今週は、私が感じた
印象を賛否両極端でご紹介したい。

・前向きな見方
 最近のパソコンは簡単になったとは言え、ユーザーがアプリケーションやデータを
入れてあげなければ結局なにもできない。NCなら必要なソフトや情報がネットワーク
からやってくる。たとえば、出先でワープロを使いたければ電話回線に接続するだけ
で、ワープロ本体と必要な文例集が流れてくる。また、突然の会合でも、近くのおす
すめレストランがすぐにわかる。「コンピュータはメディアになる」と言われて久し
いが、やっと待望のマシンができる。
 それに、NCの基本ソフトウェアであるJavaは機種やOSを選ばない。NCの通信相手で
あるサーバーは、たとえパソコンでも、ワークステーションでも、メインフレームで
もいいわけだ。これからは、メーカー主導じゃなくユーザー主導だ。
 一方、パソコンは汎用性を考えるあまり機能が大きくなりすぎている。ハードディ
スク1ギガ、メモリ16メガ、ディスプレイは一人では持てないほど重い。ちょっと前
のメインフレームのようではないか。たかだかワープロや表計算ソフトを使うだけな
のに、なんでこんなにおおげさで高いものを買わされなきゃいけなかったのか。NCな
ら、ハードディスクもメモリも大していらないから、小さくて軽い製品が期待できる。
 なにより、5万円くらいなら小遣いをためれば買えそうだ。

・後ろ向きな見方
 連合で規格統一すると言っても、製品イメージが業務用端末なのか、携帯情報機器
なのか、はたまたゲーム機なのかよくわからない。実際、生命保険の営業マンが持つ
機械と、自宅のテレビでゲームする機械はずいぶん違うと思うのだが。もし、すべて
に使える仕様を決めようとすると、かつてのTRONのように苦戦するんじゃないだろう
か。8ビットパソコンの統一規格であったMSXでさえも苦戦した事実があるように、複
数のメーカーで規格を統一するのはむずかしい。
 逆の見方をすれば、いろいろな用途に使えるように作ったのがパソコンだったわけ
で、こんなに多くの要望に応えようとすると、NCは結局もう1つのパソコン仕様にな
ってしまうのではないだろうか。
 もしそうだとすると、CPUに対してネイティブに動く今のパソコンと、中間コード
を翻訳しながら動くNCでは勝負は見えている。どの機種でも動くからといって、遅い
表計算ソフトを使う人がいるだろうか。
 それに、「ネットワークと情報をやりとりすることで、ハードディスクはいらない」
という謳い文句は、かつてのSUNのディスクレス・ワークステーションが普及しなか
ったことを思えば、そこまで身軽になれるのか疑わしい。さらに、今回はLANではな
くインターネットだ。電話回線とモデムでネットサーフィンをやったことがある人な
ら、実用に耐えるはずがないことは明らかだ。
 サーバーには柔軟なデータベースシステム(データウェアハウス)を持ち、イント
ラネットまたはインターネットを経由してNCで表示するという仕組みは、とてもエレ
ガントで最先端をイメージさせる。しかし、Smalltalk、TRON、Script-Xなどがそう
であったように、エレガントな技術が必ずしもそのままの形で実を結ぶとは限らない。
現実には、特定の用途に適応させるにも十分な時間と地道な努力が必要だった。
 それになにより、単なる端末に5万円は高い。

・どちらにしても・・・
 どちらにしても、この構想はまだ始まったばかりで、実際の製品ができたわけでは
ない。消費者は現実に商品の姿が見えてきてから十分考えればいい。間違っても、現
段階でパソコンを買い控える必要はないと思う。
(編集長 井芹:watch-info@impress.co.jp)

(96年5月23日)