[木曜コラム] ---------------------------------------------------------------------------- インターネット対応マンションの価値 ---------------------------------------------------------------------------- 今月の15日から、東京の浜松町で「インターネット対応」をキャッチフレーズに謳 ったマンションの販売が始まった 。販売は、プロバイダー業務も運営しているエム・ シー・コーポレーション( http://www.mcgroup.or.jp/ )である。今後はCATVや衛 星放送のように、最初からビルインフラとして設備される可能性があるので、その価 値を考察してみた。 今回販売された物件は、1Kから2LDKまでの全21戸の都市型タイプである。まず気に なるのが、どの程度の「インターネット対応」かということだが、スペックは以下の とおりだ。 接続形式:プロバイダーと専用線接続 回線能力:最大192Kbpsを全戸でシェア 管理形態:リモートメンテナンス ビル内ネットワーク形態:イーサネットによるLAN 部屋内設備:全住居に10BASE-Tコンセント装備(モデルルームでは寝室のみ) パソコンなどは各自用意する必要あり。 セキュリティ:ファイアウォールによるセキュリティ(部屋別に設定) 停電対策:蓄電池による5分間のバックアップ。その間に安全に停止させる サービス:電子メールやWWWなど一般のサービスと同等 コスト:管理費に込み。つまり見かけ上無料 電話取材に応じてくれた末永さんによると、グループ内でプロバイダー業務もやっ ているので、技術的な問題も対応できるとのことだった。たとえば、住民のホームペ ージを持ちたいという要望にはプロバイダー内のサーバーで対応するという。 上記のスペックを見る限り、現状の自宅でのインターネット環境としては評価でき るものだと思う。なにより、専門技術を持たない一般の人が、自宅で常時接続できる 環境を持つ方法は現状では他に考えられない。プロバイダーの専用線接続コストが、 64Kbpsで最低でも月額10万円以上になることを考えれば、それだけに価値を見い出す 人がいてもおかしくない。実際、販売担当の方の話では、インターネットに興味があ ってモデルルームに訪れる人が全体の3割くらいいるそうだ。 しかしそうは言っても、数十年は住むことになるビル--つまり不動産と、動きの 早いインターネットの組み合わせは判断がむずかしい。一般に、マンションのような 住居物件の広告表示には、公正取引のために定められた基準があるが(たとえば、距 離表示は80mを1分で計算するなど)、現状ではインターネットに関する品質基準が明 確になっているわけではない。当然、購入時には技術のわかる担当者によく聞き、自 分で判断しなけばならない。また今回のケースでは、インターネット設備はエレベー タなどと同じ案分されない共有物扱いになるとのこと。マンションの共有物の管理は 住民によって組織された管理組合が運営するのが通常だが、インターネットもその対 象になる。 予想される事態としては、回線の老朽化に伴う敷設し直しや、技術動向に合わせた 回線増強などである。このあたりは、現状では完全な対策をとってほしいと言っても 業者も判断しづらいと思われる。私見としては、ここ数年のインターネット利用の利 便性を買ったと理解する程度がいいと思う。あまり期待が大きすぎると、将来、管理 組合とトラブルを起すことになりかねない。たとえば専用線だからといっても、誰か がCU-SeeMeなどの画像転送を始めれば当然他の人は影響を受けることになる。これら の問題は、先の広告表示の問題と共に、ビルインフラとしてのインターネット運用の 今後の課題になるだろう。 マンションではないがインターネット対応オフィスビルの開発例として、森ビルが 進めているMII(Mori Building Information Infrastructure)がある。MII ( http://www.cyber66.or.jp/mori66-sj/MII/ )は、森ビルグループが所有してい る約60棟を1.5Mbpsの高速回線でつなぎ、ビジネス情報の共有はもちろん、災害時対 策にも利用するというプロジェクトである。運用管理という点では、ビジネスという 用途に特化できるオフィスビルの方がニーズが早く軌道に乗るかもしれない。どちら にしても本格的なインターネット(またはイントラネット)利用には、どうしても専 用線による常時接続がほしくなってくる。その意味では、今回のようなビル内設備と しての提案はうまく育っていってほしい。 (編集長 井芹:watch-info@impress.co.jp) (96年6月27日)