[木曜コラム]
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インターネット時代のスーパースター、坂本龍一
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 8月28日、坂本龍一氏のコンサートが渋谷のオーチャードホールで行われ、その模
様は同時にインターネットにも中継された。同氏のコンサートをインターネットで中
継するのは、昨年に続き今回が2度目の試みとなった。中継は、一般のインターネッ
ト回線のほか、通信衛星を利用した高速回線も用意され、サイベリア、オズシティの
都内インターネットカフェに配信された。私は、このすばらしいコンサートを、サイ
ベリアにて鑑賞することができた。

●それはテレビだった
 秒30フレームのなめらかなフルスクリーン動画、ハイファイの音質、それはテレビ
そのものだった。音声と映像の同期がとれなかったのは今後の課題だと思ったが、2
時間のコンサートをインターネット経由だということを忘れ、聞き入ってしまった。
 インターネットコンサートの試みは、ローリングストーンズをはじめいろいろなミ
ュージシャンが取り組んできたが、今回ほどその仕組みを忘れ堪能できたことはなか
った。もちろん、衛星を使っていることが大きく関与してはいるが、今回の仕組みは
受信装置さえあれば家庭でも利用可能な技術で構成されており、近い将来をイメージ
しているとのことだ。また、一般のインターネット経由でも、教授を見れたという多
数の報告が寄せられ、インターネットの進展を改めて知る結果となった。

●ネットワークを意識しながら演奏したミュージシャン
 坂本さんは、のっけからこのコンサートがインターネットでも配信されていること
を連呼した。「インターネットの人も聞こえてる?」と呼びかける声は、画面の前で
コンサートを楽しむ人に共感を与えた。コンサート後に、「3曲目くらいまで、ネッ
トワークのことが気になってしかたがなかった」と聞いたときは本当にびっくりした。
これは私見だが、坂本さんは、会場の観客とネットワークの観客を区別なく演奏され
たのではないだろうか。つまり、ネットワークはコンサートホールの延長だったので
はないだろうか。
 さらに、インターネットへの配信ではリハーサルや楽屋裏の風景まで公開された。
演奏終了後にミュージシャンと抱き合うシーンは、会場の観客には申し訳ない、イン
ターネット観客だけへのプレゼントだった。「これまでのスターは、情報を隠蔽しそ
のイメージを創ってきた。今回の坂本さんは、すべてを演出なしで見せてくれた新し
い時代のスターだ」。これは、今回の実験の技術を統括した村井助教授のコメントだ
った。

●拍手がしたかった
 今回の実験で個人的に思ったことは、おもいっきり拍手がしたいということだった。
すばらしい演奏を聴けば、誰でも拍手を送りたくなるものだと思う。私は会場から離
れたカフェで聴いていたわけだが、どうしても遠慮がちにしか拍手できなかった。見
ると、私の周りの人も小さく拍手している。感動はしているのだが、拍手しても、そ
れが演奏者に伝わらないと思うと素直になれないのである。もしマイクがあって、自
分の拍手が演奏者に伝わってくれたら、音でなくとも何らかのバロメーターでもいい、
何かを伝えることができたら、大きな拍手を送れると思った。そうしたら、ネットワ
ークは本当の意味でコンサートホールの延長になれると思う。
 双方向はインターネットの真骨頂である。近い将来に実現されることを期待したい。

●もう1つのライブ
 実は、今回のコンサートにはもう1つのライブがあった。8月25日から9月4日まで、
インターネット上にメーリングリストが作られていたのだ。参加者約600人、毎日、
ファンからの書き込みでメッセージがあふれた。コンサートで使った楽器のこと、
YMO時代の話、今後のこと。驚くべきことに、坂本さんは、ファンからの質問にコン
サートをはさみ返事を送り続けている。事務局の方に聞いたところ、その数は100通
を超えているとのことだった。
 「まさか、教授から返事をもらえるなんて」、ファンの感激のメッセージが印象的
だ。坂本龍一氏は、まさにインターネット時代を代表する等身大のスーパースターだ
と思った。

(編集長 井芹:internet-watch-info@impress.co.jp:1週間不在のため返事が遅れ
ます)

(96年9月5日)