[ウォッチャー's レポート]
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衛星通信による個人向け双方向接続の可能性──SPACEWAYとTeledesic
                                                                   金丸雄一
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 昨年は日本に於ても、衛星を介したインターネット通信に関してイノベーションな
年となった。デジタル衛星放送「PerfecTV」が10月にスタートするとともに、衛星イ
ンターネットの商用接続サービスもいくつか立ち上がった事は、Watchなどでも何度
か取り上げられているので、皆さんも周知のことと思う。
 しかし、現状のサービスは、個人ユーザー向けというより企業やプロバイダーをタ
ーゲットにしたものがほとんどである。というのも、これらのサービスは高速データ
伝送(400K~2Mbps)を売り物にはしているが、いかんせん衛星回線使用料が高いこ
とと、高速化されているのがユーザーに対する下り回線だけという問題点があるから
だ。上り回線としてアナログ回線やISDNなどが別途必要となり、個人ユーザーにとっ
ては負担が大きくなると言える。
 そこで今回は、これらの個人ユーザー向けサービスに対する壁を乗り越えてくれる
と期待ができ、次の世代の衛星インターネット・インフラに成り得ると思われる、米
ヒューズ社の「SPACEWAY」と米テレデシック社の「Teledesic」システムを紹介した
い。「SPACEWAY」は、現在アメリカで展開中の衛星インターネット接続サービス
「DirecPC」(日本でも宇宙通信社が今月からスタート予定)の通信用途を拡張した
後継システムという意味合いが強く、「Teledesic」は、あの米マイクロソフト社が
資金や技術、そして人的なバックアップを行なっていることでも有名である。特に
「SPACEWAY」については、私が昨年の12月11日、パシフィコ横浜にて開催された
「1996Microwave Workshops&Exhibition」(MWE'96)のセミナーにて、ヒューズ社の
アジア-太平洋地域担当のベイツマン副社長の講演を直接聴き、その実現性の高さを
感じてきたので、詳しく紹介したい。
 まず両衛星システムとも、全世界を対象としたサービスである点が、現状の静止衛
星1個だけを使った特定地域向けのインターネット接続システムとは根本的に異なっ
ている部分である。また、初めから個人ユーザー向けの双方向データ通信を考慮して、
衛星の受信チャンネルの数も確保して設計されていることも新しいと言える。
 「SPACEWAY」は、静止衛星6個(地球の赤道上の静止軌道に2個づつ、3カ所に配置)
を使って全世界をカバーするシステムである。その特徴としては、送受信に関してバ
ンド・オン・デマンドと呼ばれる方式で、伝送速度(Low Data-rateの1.2kbps以下か
ら6Mbpsまで)をユーザーの通信用途により任意に選択可能としている事が挙られる。
ポケベルや電子メールなど伝送速度が遅くてもよい用途から、携帯電話のような音声
通信、ISDNやリアルタイムの映像放送に至るまでの幅広いユーザーを取り込むことが
出来るために、通信コストがインターネット接続のみを対象にした他の衛星システム
に比べて安価になることが想定されている。
 ユーザーが、例えばスタンダード・サービスを受ける場合に用意する装置は、パラ
ボラアンテナ(直径66cmと、PerfecTVなどのデジタル衛星放送用の45cmより大きめ)
と衛星通信の送受信装置、そしてパソコン等への接続装置など全て込みで700~900ド
ルを見込んでいる。通信コストも16kbpsの場合で1~2セント/分、384kbpsで12~24セ
ント/分、1.5Mbpsで0.5~1ドル/分を想定している。このような低価格を実現出来る
のは、6つの衛星を打ち上げるだけでシステム構築が済むことと、全世界サービスで
16kbps通信を行なった場合、100万チャンネル以上(384kbpsで4万チャンネル以上)
の通信容量が有り、電話やFAXからTV会議などの多様なユーザーを数多く確保できる
からである。先の講演では、今年から衛星の製作に入り、1999年末には一部地域でサ
ービスインし、2001年には全世界サービスに入る予定としている。
 もう一つの全世界向けシステムである「Teledesic」は、何と840個の低軌道移動衛
星で地球をすっぽり取り囲んで、16kbps~2Mbpsまでのデータ伝送を行なうもので、
2002年のサービスインを目指している。何故これほどの数の衛星が必要なのかと言え
ば、地上のインターネット網を宇宙にそのまま持って行こうという発想を実現するた
めであり、衛星自体が移動するアクセスポイントとなって、全世界のホームユーザー
から過不足無く接続できるようにする必要数が840個ということだ。地上約700kmの移
動軌道上に衛星があるので、静止衛星(軌道は地上約3万8千km)を使った場合に比べ
て、地上の送受信用のアンテナが小さくて済み、かつデータ伝送の遅延も起こりにく
いという利点がある。しかし、衛星の設計から打ち上げ計画まで、技術的及び政治的
にもクリアしなければならない点も多いのが実情で、コスト的な部分もまだハッキリ
としていない。だが、テレデシック社の後ろ盾となるマイクロソフト社による力技で
開発を押し進める可能性もあるので、実現不可能だ、夢物語だと笑ってばかりもいら
れなくなりそうだ。
 これらのシステムが実際に稼働し始めれば、地球上では「いつでも、どこでも、誰
とでも」インターネット接続が可能になり、アプリケーションの選択によってデータ
伝送速度を選べる、非常にフレキシブルな通信環境を享受することが出来るようにな
るだろう。
 しかし、これらのシステムが立ち上がる頃には、地上ではOCNやCATVインターネッ
トサービスが普及するネットワーク大競争時代に突入しているはずで、衛星通信シス
テムそのものが、その時代のコストや伝送速度に見合うものかどうかという問題も出
てくることも考えられ、決して明るい見通しばかりではないのも事実だ。またこうい
ったシステム構想というものも、衛星自体と同じく、”打ち(ぶち)上げ”てみてか
ら、周りの状況次第で用途等を再検討する場合も多いので、その動向には絶えず注意
が必要となろう。
 以上、近々未来システムを2つ紹介したわけだが、新世紀まであと3年となった今、
このように未来に想いを馳せている間にも、21世紀は着実に近付いて来ているという
ことだろう。

参照URL:
http://www.hcisat.com/SPACEWAY/SPACEWAY.html (SPACEWAY)
http://www.teledesic.com/ (Teledesic)
http://www.direcpc.com/ (米DirecPC)
http://www.iijnet.or.jp/JSAT/ (日本サテライトシステムズ)
http://www.imd.co.jp/service/sat/ (インターネット・メディアデザイン)
/article/961105/ (宇宙通信の記事)
[Reported by 次世代衛星通信・放送システム研究所 金丸雄一:kanamaru@asc.co.jp]

(97年1月9日)