[インタビュー]
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18:「Gooey」を開発したHypernix Technologies社CEOに聞く
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http://www.gooey.com/

 同じWebサイトを見ているユーザー同士がチャットできるというソフトが、今年6月
に発表された。「Gooey」というこのソフトは、イスラエルのHypernix Technologies
社によって開発されたもので、リリース以来、世界150カ国以上の34万人を超える
ユーザーに利用されているという。
 先日、本誌でも紹介したが、12月には日本語版もリリースされた。もう試してみた
方もいるかと思うが、特にWebチャット機能などが用意されていないサイトでも、
ユーザー同士でチャットが行なえるようになっている。Gooeyを起動し、WWWブラウ
ザーでどこかのサイトにアクセスした際、もし世界のどこかでGooeyユーザーが同時
にそのサイトにアクセスしていれば、リストにニックネームが表示され、リアルタイ
ムにコミュニケーションできる。まあ、ユーザーがまだまだ少ないせいもあり、日本
のサイトではめったに出会うことはないが、今後ユーザーが増えれば、楽しみなコ
ミュニケーションツールとなるはずだ。

 今回は、Hypernix社のCo-CEOであるShai Adler氏と、Co-CEO兼CTOのRan Shalom氏
に、Gooey開発の経緯などについてお話をうかがった。


●開発のきっかけは日本のWebサイト

 Gooeyを開発するきっかけとなったのは、1998年の11月に起こった出来事だった。
意外なことだが、それは、とある日本のWebサイトだった。Hypernix社の創設者のう
ちの2人は映画産業出身なのだが、彼らが「日本の芸術」というドキュメンタリー映
画を作るために日本のWebサイトをあちこち検索していたときのこと、東京にある
「Webcam」というサイトにたどり着いた。

Adler氏:そのサイトは、オンラインでスイッチをオン/オフすることによって、離
   れた場所にある照明をコントロールできるようになっていました。その機能を
   利用することで一定の構図を作れるのですが、自分のほかにもアクセスしてい
   る人がいるため、自分の思った構図で固定できません。同じサイトを見ている
   人がいるということはわかっても、「共同作業をしよう」とコミュニケーショ
   ンをとれないのが、もどかしく感じられました。

 この、アイディアの元になったWebサイトは今でも見ることができる。「Light on
the Net Project」( http://light.softopia.pref.gifu.jp/ )というもので、ある
場所に設置された縦7列/横7列、計49個のライトをネット上からオン/オフできる仕
掛けだ。アクセスした人のドメインが、リストで表示されるようになっている。

Shalom氏:このリストから、この人たちも今ここにアクセスしていて、照明をオン/
   オフしているということがわかります。この人たちとコミュニケーションでき
   たら、もっと面白いのではないかと思いました。

Adler氏:しかし、これはなにもこのサイトに限ったことではありません。同じWebサ
   イトにアクセスしていながら、今そこにアクセスしている人たちの間でコミュ
   ニケーションがとれないというのは、インターネット共通の問題です。

 そこで、同じWebサイトを見ている人同士がチャットするというアイディアが生ま
れ、もともと2人の友人だったAdler氏らとともに1999年1月にHypernix社を設立。
Gooeyの開発にとりかかった。イスラエルの中でも最も優秀なプログラマーをスカウ
トし、同年の6月には最初のバージョンのリリースにこぎつけた。
 ちなみに、Gooeyという名称は「GUI」が転じたものだという。まだ名前が決まって
いなかったころ、Graphical User Interfaceの略称としてGUIと呼ばれていたという。
それが、「使い始めると離れられなくなる」ソフトなので、「ぴったりくっつく」と
いう意味の単語「Gooey」がうってつけだったのだ。


●Gooeyは“人のネットワーク”を実現する

 Gooeyの特徴は、知らない人同士が集まってチャットできるということだだが、そ
うは言っても、まったく関係のない人というわけではない。ある一定のWebサイトに
アクセスするということは、その人がそのサイトに関心を持っているということだ。
ということはアクセスしている人同士でなにかしらの共通点があることになる。そう
いう共通の関心事項がある人たちの“橋渡し”をしようというのがGooeyの一つの考
え方なのだという。

Adler氏:Gooeyが出る前には、インターネットは、時空を超えて人々をつなぐことが
   できるという謳い文句を満たしてはいなかったと思います。実際は“コン
   ピュータのネットワーク”に過ぎず、“人のネットワーク”ではありませんで
   した。インターネットに接続しているといっても、その人とコンピュータが繋
   がっているだけで、人と人はつながっていませんでした。
    いろいろなWebサイトにアクセスできるということは、例えば、映画館に
   行ったり、サッカーの試合を見に行ったり、あるいはレストランに食事に行く
   ということに匹敵します。しかし、映画が面白くても、サッカーのゲームが面
   白くても、そこで出る食べ物がおいしくても、そこにいる他の共通の関心を
   持っている人たちとのつながりがなければ満足感は得られません。Gooeyには、
   それを解決しようという要素があるのです。
    もう一つの大きな要素としては、“ヒューマンサーチエンジン”という要素
   です。何かを探しているときや操作がわからないときなど、サイト上で出会っ
   た人から、人間を通じたアドバイスがもらえるようにしたいという意図もあり
   ました。
    また、消費者という視点で見た活用も要素の一つです。今までインターネッ
   トのサイトというものは、それを運営している側からの情報という一方通行に
   終わっていました。例えば、トヨタのサイトを開くと、トヨタがこの製品につ
   いて言いたいことは書いているわけですが、それを消費者がどう見ているかと
   いうことは、トヨタ側からの情報には載らないわけです。しかし、Gooeyを
   使ってもらえれば、実際にそれらの商品を使った消費者の声も聞くことができ
   ます。消費者同士で考えれば、より価値のある情報が得られるわけです。


●Eコマースアプリケーションも展開

 こうして見てくると、確かにWebサイトの視聴者側にとっては役立つツールと言え
る。しかし、一方でサイトの運営者側にとっても、自分のサイトを見にきてくれた人
たちが互いにコミュニケーションできるというのは魅力的だ。サイトの運営者が、
Gooeyを利用する方法はないのだろうか。

Adler氏:今のところは、サイト側がコミュニケーションの主導権を握るようなサー
   ビスは提供していません。視聴者側が、どこかのサイトに行ってチャットを始
   めるとことはもちろんできます。しかし、サイト側がイニシアティブをとるこ
   とができるようにすると、いわば押し付けという可能性も出てきます。ですか
   ら、今のところ、サイト側から行動を起こせるようにはなっていません。

 ただし、同社では近い将来、GooeyをベースにしたEコマース向けアプリケーション
も開発する計画があり、サイト側にとっても役立つツールとなるという。

Shalom氏:Eコマース向けアプリケーションでは、Javaを使って、そのWebサイトに来
   た人が、Gooeyをインストールしていない人も含めて、チャットに参加したり、
   Webの運営者とコミュニケーションできるようになります。また、セキュアプ
   ロトコルを使って、実際にそこで取引までできるようにしたいと思っています。
    これにより、現在のEコマースの姿をかなり人間同士のコミュニケーション
   に近づけることができると思います。現実では、コミュニケーションがあって
   はじめて取引が成り立つわけですが、オンラインのEコマースではコミュニケー
   ションなしでモノのやり取りだけがなされるという面があります。それをもっ
   とリアルライフのEコマースに近づける役割が果たせるのではないかと思いま
   す。

Adler氏:リアルタイムにコミュニケーションができることで、顧客満足度を上げら
   れ、アクセスを増やせるという利点があります。例えば、証券取引などの場合
   は非常にお金もかかり、リスクも高い。ユーザーとしてはその場でたずねたい
   のですが、今はリアルタイムで答えをもらうことができません。そういうとこ
   ろで、消費者側の欲求がより満たされることができれば、必然と企業の評判が
   上がると思います。
    もう一つ例を挙げれば、リアルライフでは、何かを買おうとお店に行った際、
   すすめ方のうまい店員がいて、買う予定ではなかったものを4つも5つも買って
   しまうことがあると思います。Gooeyなら、同じことがWebサイトでもできるの
   です。

●バージョンアップで検索ディレクトリとしての役割も

 6月にバージョン1がリリースされ、現在はさらに機能を拡張したバージョン2が配
布されている。追加された機能のうち代表的なものが「Hitwave」という機能だ。
Gooeyユーザーの間で人気のあるトップ100のWebサイトが常にリアルタイムで表示さ
れるようになった。これにより、今どこにGooeyユーザーが集まっているか把握でき、
そのサイトにクリック一つでアクセスできるわけだ。
 ただ欲を言えば、Hitwaveのサイトは純粋に人気によるリストなので、サイトの分
野などから検索できない。また、全世界のトップ100なので、国別のサイトもわかる
ようになると便利なのだが、そのあたりはどうなのだろうか。

Shalom氏:もちろん、バージョンアップする度に新しい機能を付けて製品のアップグ
   レードを図っていきます。例えば次のものでは、サーチ能力をさらに強化しま
   す。カテゴリーにしたがって、自分の探したいサイトを検索する能力や、今ア
   クセスしている人たちの中から自分の目的の人を探す機能が加わります。
    Hitwaveでは、トップ100一括のリストに加えて、カテゴリーごとのトップ10
   も表示できるようになります。例えばスポーツ、ニュース、金融関係などの
   トップ10がそれぞれリストアップされます。ユーザーにとっては、より利用価
   値が高くなるのではないでしょうか。
    また、ソフトウェアとしてだけではなく、GooeyのWebサイトでも、カテゴ
   リーごとの人気のあるサイトを見られるようにして、リアルタイムで動く検索
   ディレクトリのサービスも実現していきたいと思います。

Adler氏:(Gooeyの検索ディレクトリは)サーチエンジンという面でも有用だと思い
   ます。現在、Yahoo!などのポータルで、例えばエンターテイメントというカテ
   ゴリーを検索しようとすると1万件も答が返ってきてしまい、その中から自分
   の欲しいものを探すのに何時間もかかってしまうということがあります。
   Gooeyの検索ディレクトリでカテゴリーごとに人気のあるものをリストアップ
   すれば、探す人にとっても非常に効率がよくなるのではないでしょうか。
    また、国別のカテゴリーもHitwaveの中に設ける計画があります。

 このほか来年には、Windows以外のプラットフォームにも対応する予定だ。第1四半
期にはMacintosh版とUNIX版の開発を終え、第2四半期にはリリースする。また、1月
にはファイヤーウォール対応版を発表するほか、動画でチャットができるバージョン
もリリースするとしている。

[Reported by nagasawa@impress.co.jp]

(99年12月13日)