被害事例に学ぶ、高齢者のためのデジタルリテラシー

それってネット詐欺ですよ!

架空のイケオジになりすましてビデオ通話も!? 「ロマンス詐欺」に悪用されるディープフェイク技術

 ここ数年でAI技術が爆発的に進歩し、人の顔や声を別の人物のものに偽装することが簡単にできるようになりました。リアルでは難しくとも、デジタルの世界では手軽に他人になりすませるのです。現在、このディープフェイク(AIを利用した偽の映像や音声など)の技術は、静止画だけでなく動画にも対応し、システムによってはリアルタイム動画を偽装することもできるようになっています。

 容易に想像できるように、この技術はサイバー犯罪者も利用するようになりました。海外では、社内のビデオ会議にディープフェイクで作られた人物を参加させ、経理担当をだまして多額の資金を送金させる事件が起きています。日本では、テレビ局のアナウンサーや岸田首相のディープフェイク動画が拡散され、物議を醸しました。

 これらのケースではあらかじめ動画ファイルを編集したものをネット詐欺に利用したのですが、最近はリアルタイムのディープフェイク技術を使い、ビデオ通話中の顔や声まで偽装する「ロマンス詐欺」事件が起きています。

ビデオ通話で話している顔を差し替えるディープフェイク技術が、ネット詐欺でも使われています(生成AIにより作成したイメージ)

 ロマンス詐欺とは、SNSや出会い系アプリなどで出会った相手とコミュニケーションを重ね、親密度を高めてから何らかの口実でまとまった金額のお金が必要だとして、金銭を詐取する、つまり「ロマンス」への期待を高めたうえでお金をだまし取るネット詐欺です。

 多くの場合、ロマンス詐欺は「WhatsApp」や「LINE」といったメッセンジャーアプリを利用してやり取りを行うのですが、これらは基本的にテキスト中心のやり取りなので、ネットで“拾った”他人の顔写真や、偽造したパスポートの写真を送ったりして、信用度を高めようとします。

 詐欺師は例えば、見た目もよく頼れそうな男性を装って、女性に結婚や同棲をしようと迫ります。その過程でターゲットがビデオ通話を求めたとき、従来なら、詐欺師としては応じることができません。忙しいと言い訳したり、わざと通話を失敗させて電波が悪いなどと言い訳したりと、あの手この手でビデオ通話を回避しようとし、それをきっかけにターゲットが詐欺に気付くこともできました。

 しかし、リアルタイムのディープフェイクが可能なツールを使えば、自分の顔を架空の人物の顔にリアルタイムに変換しながらビデオ通話ができるようになります。音声をリアルタイムに変換できるツールもあり、詐欺師の声を架空の人物の声に変換できてしまいます。こうなると、ロマンス詐欺を見抜けない人が増え、被害が拡大する可能性が高まります。

 現状だと、リアルタイムのディープフェイク動画は、横を向いたり後ろを向いたりしたときに、映像が破綻しやすくなります。また、素早く動いたときに処理が追い付かないこともあります。とはいえ、ディープフェイクの技術は向上を続けており、ビデオ通話上の映像や音声の違和感からロマンス詐欺に気付くことは、どんどん難しくなっていくでしょう。

 ロマンス詐欺は被害金額が大きくなる傾向があります。以前は、女性の被害者が多かったのですが、現在は投資詐欺も融合させることで男性の被害者も増えています。被害を避けるために、ロマンス詐欺のよくある手口を覚えておきましょう。

1.導入

  • SNSでいきなりダイレクトメッセージを送ってくる
  • SMSやメールで宛先の入力ミスで誤送信したとして近づいてくる
  • 出会い系アプリでマッチングする
  • 言語学習アプリでマッチングする

2.偽装する人物像

  • 男性(女性ターゲット):医者、軍人、パイロット、資産家、芸能人など
  • 女性(男性ターゲット):経営者、資産家、ヨガインストラクターなど
  • 見た目は、若い美男美女。女性ターゲットではシニア(いわば“イケオジ”)の場合もある
  • 日本語の不自然さや架空の人物の“設定”の雑さをごまかすため、外国人を装うこともある(外国人を装うケースは特に「国際ロマンス詐欺」と呼ばれる)

3.口説きのパターン

  • 頻繁にメッセージを送ってくる
  • つたない日本語で超積極的に愛情を伝えてくる
  • 親身になって悩みを聞いてくれる
  • 配偶者と死別したといった悲しい話をする
  • 自分だけに依存するように誘導する

4.お金を求める口実

  • 日本に行くための旅行費を求める
  • プレゼントを贈ったが税関で止められたと関税の立替えを求める
  • 戦地で大けがをしたとして医療費の立替えを求める
  • 結婚後の資産を作るために一緒に投資しようと勧誘する
  • 特別なファンクラブの会費を要求する

5.信じさせるための小技

  • 金持ちアピールの写真を送ってくる
  • パスポートなどの身分証明書の画像を送ってくる
  • 多額の残高のある投資サイトの画像を送ってくる
  • 投資の場合、初回の少額は勝たせて、次につなげる
  • ビデオ通話で直接会話する←New!

 以上が、よく知られているロマンス詐欺の手口です。ただし、ネット詐欺師は最新技術を積極的に取り入れており、ここに挙げていない手段を使ってくることもあるでしょう。それでも、彼らの本題である「お金」の話を切り出してきたときには、こうした詐欺のことを思い出し、特に注意してください。デジタル、および犯罪に対するリテラシーを身に着け、被害に遭わないようにしましょう。

あなたの両親も“ネット詐欺”の餌食になっているかもしれません――その最新の手口を広く知ってもらうことで高齢者のデジタルリテラシー向上を図り、ネット詐欺被害の撲滅を目指しましょう。この連載では、「DLIS(デジタルリテラシー向上機構)」に寄せられた情報をもとに、ネット詐欺の被害事例を紹介。対処方法なども解説していきます。

高齢者のデジタルリテラシー向上を支援するNPO法人です。媒体への寄稿をはじめ高齢者向けの施設や団体への情報提供、講演などを行っています。もし活動に興味を持っていただけたり、協力していただけそうな方は、「dlisjapan@gmail.com」までご連絡いただければ、最新情報をお送りするようにします。

※ネット詐欺に関する問い合わせが増えています。万が一ネット詐欺に遭ってしまった場合、まずは以下の記事を参考に対処してください
参考:ネット詐欺の被害に遭ってしまったときにやること、やってはいけないこと